1. 韓国モバイルゲーム市場、秘めたる潜在力
2013 年の韓国ゲーム市場は、前年より 9.9%成長した 10 兆 7,183 億ウォン規模になると予想される。オンラインゲーム市場が前年と比べ 8.1%の成長が見込まれることに対し、モバイルゲーム市場は同 51.4%成長し、1 兆 2,125 億ウォン(約 1,130 億円)規模まで拡大すると見込まれる。今後もオンラインゲームとモバイルゲームの成長が市場をけん引することが予想される。
オンラインゲーム市場全体の規模と比べ、まだまだモバイル市場の規模は小さいものの、①最近発売されるゲーム用の開発エンジンは、PC ゲーム、コンソルゲーム、モバイルゲームといったプラットフォームの区分なしに使われている②今後モバイルゲームにおいても、DirectX 11 及びシェーディング(shading)などハイエンド技術の使用が可能となると見込まれている③音声認識、クラウドコンピューティングを利用したハードコアジャンルのゲームもモバイルデバイスでも具現される可能性が高まるなど、モバイルゲーム市場の成長に対する期待も大きい。
2013 年 3 月に韓国コンテンツ振興院が実施したアンケート調査によると、ゲームユーザ全体の 57.5%、特に 20 歳以上のユーザでは半数以上が韓国ゲーム市場をモバイルゲームがリードするだろうと回答している。
2. 「カカオゲーム(카카오게임하기)」のオープンから 1 年を振り返る
(1)「カカオゲーム」の実績
2012 年 7 月にプラットフォームをオープンし、ソーシャルゲームの全盛期を引き起こした「カカオゲーム」は、爆発的な人気となったパズルゲーム「ANIPANG forKakao」をはじめ、「カカオゲーム」にリリースしたゲームの数は、オープン当時の10 個から、2013 年 7 月現在 180 個まで達している。パートナー企業も徐々に増え、現在は 100 社を超えるパートナーと連携しゲームを提供していると言われる。
「カカオゲーム」に加入している累計ユーザ数は 3 億人に達し、「カカオゲーム」のプラットフォームからゲームアプリをインストールしたことがある人は 3000 万人を超える。2012 年下半期の「カカオゲーム」の売上は約 1182 億ウォン(約 110 億円)、2013 年上半期には 3480 億ウォン(約 325 億円)に達し、194%の成長をみせている。
(2)「カカオゲーム」の儲かる仕組み
「カカオゲーム」の登場によりゲームアプリの流通ルートを変えてしまった。「カカオゲーム」へのリリースを果たせば、そのゲームのユーザになった友達からメッセージが送られ広告をしてくれる仕込みになっているからである。国内では圧倒的シェアを誇るメッセンジャーアプリを利用するため、アクティブユーザ数が多いのも一因と考えられる。
「カカオゲーム」のユーザが友人に招待メッセージを送る際の画面
韓国国内で「カカオゲーム」ほど、規模が大きいユーザプールを有しているプラットフォームは存在しないため、「カカオゲーム」へのリリースを果たせば、容易に大衆ユーザへアクセスができるという。プラットフォームをリリースした当時は、カジュアルゲームが主だったが、次第にゲームのジャンルが多様化している。
また、「カカオゲーム」が自社のプラットフォームへリリースするゲームに対する審査を強化してからは、ユーザの間でも信頼性が高まるようになった。App Store やGoogle Play の人気無料ゲームの上位 10 位のうち、それぞれ 6 つ、8 つが「カカオゲーム」にリリースされたゲームである。
※「for Kakao」という表記が、「カカオゲーム」のプラットフォームを意味する
韓国モバイルゲームの成功を占う方法としては、まさしく「カカオゲーム」へリリースしたか否かである。一日に数十個ずつ、モバイルゲームアプリがゲームマーケットに流れ出る状況の中、売上のランキングによって、上位にランクされる GooglePlay や App Store ではユーザの目を引き付けることは容易ではないからである。
(3)「カカオゲーム」のプラットフォームへリリースするまで
※無審査とは、一定の条件をクリアした1つのゲームにつき 1 回、通常のゲーム審査なしにプラットフォームへリリースできることをいう。「一般無審査対象」:既存のカカオゲームのうち売上高が 1 億ウォン未満のゲームの場合、1 億ウォンを超えた時点から新規ゲームリリースの際に付与(1 年間)「特別無審査対象」:既存の他マーケット(Google Play/App Store)で、ダウロード回数(無料)または売上高のうち Top20 までにランキングされたゲームの場合は、該当ゲームの契約主体に付与(ただし、韓国、アメリカ、日本エリアの場合、2012.7.30 以降、7 日以上にわたってランクインされたこと(連続しなくてもよい)が条件)
その他に「カカオゲーム」は、ゲーム物等級委員会により、4 段階のレイティング表記のうち、「全年齢対象」~「15 歳未満提供禁止」のレイティング表示が付くゲームまでリリースが可能である。そのため、「カカオゲーム」へリリースを希望するゲームはリリース前にゲーム物等級委員会からのゲーム物等級分類決定を受け、それを証する書面を提出しなければならない(但し、「全対象年齢」のレイティングが付くゲームの提出義務は免除)。
(4) カカオゲームの短いライフサイクル
「カカオゲーム」へリリースしようとするプレイヤーの増加に伴い、ゲームアプリ間の競争が激しくなってきている。「カカオゲーム」には、2013 年 7 月現在、180個のゲームがリリースされ、その後も毎週火曜日と金曜日に新規のゲームがリリースされている。韓国 Google Play の売上ランキングで 1 位のゲームは、2~3 ヶ月毎に入れ替わり、ゲームアプリのライフサイクルが短くなっていることが分かる。そのため、モバイルゲームに対してユーザが集うのではなく、馴染みやすいプラットフォームへユーザがアクセスしているのではないかという懸念の声もある。
(5) 今後のカカオゲームの課題
幅広いユーザプールは、カカオの足止めになるともいえる。カカオゲームプラットフォームを提供している“カカオ”がまだ海外では、それほど知られていないため、モバイルメッセンジャーサービスである“カカオトーク”も、海外でのビジネス展開がそれほど容易ではないためである。カカオは、ユーザの増加傾向にあるインドネシアとベトナムのみゲームのプラットフォームをオープンしている。
特に、NHN 日本法人「LINE」が日本のモバイル市場で先頭に走り、近々の上場説を賑わせている中、カカオがグロバールプラットフォームとして拡大するためのハードルがまだ高く感じる。カカオの関係者からも、「東南アジアの一部の国以外はまだゲームユーザが多くないため、ゲームプラットフォームのサービスを展開するより、“カカオトーク”という名前を知らせることに力を入れている」という。
「カカオゲーム」が、老若男女を問わずゲームをしなかったユーザを囲い込み、韓国内でゲームブームを引き起こした点は肯定的な評価に値する。モバイルゲームの群雄割拠時代に、ゲームのクオリティが懸念される中、ゲーム開発メーカーの規模の大小に捉われず、公正な立場をとり続けられるか、「カカオゲーム」の帰趨が注目される。
3. 韓国モバイルゲーム市場における新たな動き
(1) カジュアルゲームからミドルコア・ハードコアゲームへ
モバイルゲームの主流となったパズルやカジュアルゲームジャンルは、プレイできる操作が簡単で、かつライトボリュームのコンテンツをもって、多数のユーザを確保できる一方、長期間にわたってユーザが、そのゲームに留まる要素は少ない。開発にそれほど時間を要しないため、他社に容易に模倣されやすいリスクもある。
そのため、パズルやカジュアルゲームより、MMORPG(大規模多人数同時参加型オンライン RPG)やアクションゲームをモバイルユーザ同士がオンライン上で楽しめるミドルコア・ハードコアゲームが注目を集めている。
今年 8 月には、今後の韓国モバイルゲーム市場のトレンドを見据えて、北米、欧州、中国など海外でモバイルやタブレット端末向けのミドル・ハードコアゲームを制作・パブリッシングしてきた「GlueMobile」が、韓国に支社を設立し動き出した。開発段階から、韓国内の優秀なゲームコンテンツを発掘し、既存のネットワークを利用した海外市場への狙いも伺える。
「Glue Mobile Korea」がリリース予定のハードコアモバイル RPG「Eternity Warriors 3」
(2) モバイルゲーム流通構造の変化
ゲームのトレンドが、オンラインからモバイルに集中するにつれ、鼻高々だったパブリッシャーが、モバイルゲームの後作を開発してくれるデベロッパーを探し求めるようになったことは、韓国ゲーム業界の版図の変化を実感させる。モバイルゲームにおいても、ミドルコアやハードコアを求める声が上がっている中、パブリッシャーにとっても、新しい役割が求められるようになった。
大型パブリッシャーだけが、自らカスタマーサービスセンター(CS)を運用することができた韓国ゲーム業界の実情から、従来は中小のゲーム開発メーカーは、大型パブリッシャーと手を組まないとカスタマーサービスの提供が不可能であったが、最近その隙間市場を狙って、「カスタマーサービス専門会社」が登場するに至った。韓国ではまだまだモバイルゲームの「カスタマーサービス専門会社」に対し、なじみが薄いが、CS パタンを分析し、ゲームアップデートへの方向性提示、ゲーム品質の検証作業まで引き受けてくれるため、中小のゲーム開発メーカーは、もっぱら開発に専念できるようになる。開発に専念できる環境が整った中小のゲーム開発メーカーは、ゲームのCS 運用実績が豊富な日本など海外への進出がしやすくなるとみられる。
(3) 女性のゲームへの関心、高まる
韓国では、従来からゲームをする人は主に男性であるという認識が根強かったが、スマートフォンなどの普及により、だれでも気軽にゲームが楽しめるようになったモバイルゲーム市場で、そのような認識が、少しずつ崩れつつある。
韓国コンテンツ振興院が男性 700 人と女性 700 人を対象に行った調査によると、オンラインゲームより、モバイルゲームにおける男女ユーザの支出費用の差額が少なかった。一般的に男性ユーザ数より、女性ユーザ数が少ないことからすると、オンラインゲームと比べ、モバイルゲームに対する女性ユーザの購買力は、男性ユーザに匹敵することと予想できるであろう。
【ゲームに対する支出費用(性別)】 (単位:韓国ウォン)オンラインゲーム モバイルゲーム男 性 18,410 男 性 7,886女 性 16,432 女 性 7,735差 額 1,978 差 額 151Source : 2013 ゲームユーザ調査報告書(韓国コンテンツ振興院)「女心」をつかむために、ゲーム開発メーカーの動きも活発になり、女性モバイルゲームが次から次へと登場した。ソーシャルネットワークゲームブームを引き起こした「Rule the Sky」を制作した「innospark」は、新作「Dragon Friends」で、グローバル向けの女性ユーザをターゲットするという計画を打ち立てた。モバイルゲーム開発メーカーである「NeoAlice」は、韓国古代小説「九雲夢」をベースとした恋愛アドベンチャーゲームを、PC オンライン向けにリリースした後、モバイルゲームへの転向を予定している。恋愛シュミュレーションゲームを手掛けてきた Atoonz や、日本で女性ゲームをリリースし認知度を上げてきた Andamul も、新作ゲームの開発に拍車をかけている。
また、女性ゲームのジャンルについても、現在まで、「女心」を掴んできたパズルやSNG(ソーシャルネットワークゲーム)に限らず、最近では恋愛シュミュレーションやTCG(トレーディングカードゲーム)までそのジャンルも拡大していることとみられる。
「innospark」の新作「DRAGON FRIENDS」(左)と「NeoAlice」の「九雲夢」(右)
(4) インディーズゲームの役割
法人でない個人、又は一定の集団が制作するコンピュータゲームを「インディーズゲーム」(略して、インディーゲーム)と呼ぶが、韓国でも、App Store や Steam など流通チャンネルが多様化したこと、国や地方自治体からベンチャー起業のプロジェクトとして支援を受けられるようになったことなどから、スマートフォンマーケットを通じてその販路を模索している。 Facebook など多数のコミュニティーが存在しており、今後、斬新なゲームコンテンツを求めるパブリッシャーにとって重要な供給源になるであろう。