オンラインゲームの権利侵害訴訟に下された異例の判決とは

日本企業が海外進出後、悪質な知的財産権侵害行為に遭う事例は少なくない。これらの行為は主に知的財産権に関する法律で規制されるが、中国では不正競争防止法の保護下に置かれている場合もある。

中国のゲーム業界では、とりわけ著作権や不正競争に関する案件が数多く発生している。今回は、ネットイース(網易、NetEase)が中国本土での独占運営権を所有するゲーム「 Minecraft 」 が侵害された事例について取り上げる。一般的にゲームの著作権侵害が認められた場合、裁判所は被告に対して高額な補償金ともにサービスの停止を命じる場合が多い。 しかし、今回の事例では、裁判所は異例の判決を下した。

目次

1. Minecraft とミニワールド の権利侵害訴訟

「 Minecraft 」は、2009年にスウェーデンのMojang社が開発した世界的に有名なサンドボックスゲームである。2016年5月、ネットイースはMojangと契約を締結し、中国本土における「 Minecraft 」の独占運営権を取得した。

もう一方の当事者である深圳迷你玩公司(ミニプレイ)は、2015年に中国で設立されたゲーム会社で、自主開発したゲーム「迷你世界(ミニワールド)」を同じく2016年5月にサービス開始した。

2017年11月、ネットイース はミニプレイが開発した「ミニワールド」が著作権侵害と不正競争行為にあたるのではないかとして、ミニプレイを提訴した。

広東省高級人民法院は2022年11月に、「ミニワールド」が不正競争防止法違反にあたるとする最終判決を下した。判決によると、裁判所はミニプレイに対し盗作と判断された230ヶ所のゲーム要素を削除し、ネットイースに5000万元(約10億円、1元=約20円)を補償するよう命じた。 これは、中国本土でのゲーム不正競争案件における最高額の賠償金である。

ミニワールドの公式サイト https://www.mini1.cn/

2. 本事例に関するいくつかの問題点

①なぜサービス停止の判決ではないのか

過去に判決が下された他の事例の結果を踏まえ、一般的にゲームは全体として著作物として保護されないと考えられている。

裁判官は通常、ゲーム全体が著作物を構成しないことを想定し、ゲームモーショングラフィックス、ゲーム要素とそのデザイン、アート要素、音楽要素、テキスト要素などに分解して、著作権侵害の有無を個別に分析する。

しかし、今回の著作権侵害の有無の問題点は、ゲームシステム上のルールにあった。したがって、ゲームのルールはアイデアのレベルに属するが、著作権法が保護するのは、ゲームのルールそのものではなく、ゲームのルールを具体的に表現した内容そのものである。 今回の事例では、ゲーム要素とゲーム要素を組み合わせたデザインが、オリジナリティになっている部分と言う。 

その結果、「ミニワールド」は「 Minecraft 」のグラフィックの著作権を侵害していないため、サービス停止ではなく、盗作と認定された230ヶ所のゲーム要素をゲームから削除する、という判決が下された。

②補償金額が高額になる理由

補償金の額は、大きく2つのステップで算出される。

まず、ゲーム内の全要素に対する盗作要素の割合を算出する。公正証書によると、「ミニワールド」の作成モードの「バックパック」には713個の基本要素があり、そのうち221個が「Minecraft」の基本要素の盗作であることが判明した。つまり、「ミニワールド」のバックパックに含まれる盗作要素の割合は30.9%である。 

次に、「ミニワールド」運営期間中の利益額を算出する。判決文によると、裁判所は被告であるミニプレイに対し、iOSとAndroidにおけるゲーム収益に関する証拠の提出を命じた。しかし、ミニプレイは「証拠は企業秘密に関わる」として「ミニワールド」の具体的な収益額の開示を拒んだため、裁判所は米アプリ調査会社「App Annie」のモバイルアプリ市場分析データを基に収益を算出した。

2016年11月から2019年6月までの「ミニワールド」のサーバー費用約5261万元を差し引いた後、「ミニワールド」の全体の利益は約3億1585万2300元と算出した。

上記データに基づき、2019年7月末までにミニプレイが著作権侵害によって得た利益は約9760万元(3億1585万2300元×30.9%)と判断されたため、ネットイーストの損害賠償請求額5000万元が支持された。

今回の裁判の様子(広東省高級人民法院の微信公式アカウントより画像引用)

③なぜ不正競争に該当するのか

本件では、広東省高級人民法院は、「ミニワールド」と「 Minecraft 」は、ゲームシステムが酷似しており、ゲーム要素の細部に至るまで重複していて、合理的な模倣の範囲を越えたと判断した。被告人は、ゲーム要素の設計を盗作することで、他人の知的財産の重要かつ核心的な商業価値を直接侵害し、他人のビジネス利益を不正に取得する手段で商機を獲得しており、これは不正競争に該当すると判断した。

今回は、不正競争防止法第2条第1、2項「事業者は、生産・経営活動において、自由意思、平等、公平、信義誠実の原則を遵守し、法律及び商業道徳を遵守しなければならない。本法において不正競争行為とは、事業者が生産・経営活動において、本法の規定に違反し、市場の競争秩序を撹乱し、その他の事業者又は消費者の合法的な権益を害する行為をいう」に該当する。

司法解釈では、「市場の競争秩序を乱し、競争関係にある他の事業者又は消費者の合法的権益に損害を与える行為でありながら、不正競争防止法の第2章に規定された各種の不正競争行為や、専利法・商標法・著作権法等の規制対象となる行為の類型に当てはまらない場合に、上記の一般規定を適用できることが改めて規定された」(解釈第1、2条)となっている。

これにより、不正競争防止法第2条の適用場面、及び、競争関係のある場合にのみ適用されるという性質が、明確になったと考えられる。この条項は、近年、人民法院が不正競争行為について判断する根拠条文の一つとして活用されている。

この判決から、不正競争防止法の一般的な適用には、以下の条件を満たすことが必要であると判断できる。

  • 侵害されたものの知的財産権上の重要性、革新性及び独自性
  • 不当な競争行為により他者に不当な損害を与えること
  • 合理性の限界をはるかに超えた模倣行為

以上の条件をすべて満たした場合、不正競争と判断される可能性が高い。

3.まとめと考察

現在、中国における不当競争に対する法的な保護制度は徐々に確立されており、関連する侵害に遭遇した場合は、速やかに法的支援を求める必要がある。 また、当該侵害が知的財産権の保護の範囲に属さない場合でも、不正競争防止法の範囲内で救済を受けることが可能である。

例えば2022年9月、株式会社ポケモンは、ポケモンの盗作ゲームを運営する中国企業6社を著作権侵害と不正競争行為で提訴した。賠償請求額は5億人民元(約100億円、1元=約20円)に上り、現在も訴訟中である。

そして、最近中国国家市場監督管理総局は不正競争防止法の改正に向けて意見募集を行っている。今回の改正では、新しい経済、業態、商業モデルなどが出現し、データ、アルゴリズムなどを利用した新しいタイプの不正競争行為を規制する必要性があるとしている。

今回の改正草案意見募集稿の主な変更点は以下の通り。

  • デジタル経済の不正競争防止規則を整備し、新しい商業モデルの発展に応じて現れた競争秩序を乱す行為の規範化と管理、特に、デジタル経済関連での各種不正競争行為の規制やネットワーク事業者の管理責任を追加した。
  • 法律の執行に伴う問題点に対する補充、特に、優良誤認、混同、商業賄賂、虚偽宣伝、営業秘密保護の強化。優位な地位の事業者からの中小企業の合法的権益の保護、悪意のある取引行為の禁止も追加された。
  • 他者による不正競争を幇助する行為も不正競争防止法の規制対象とした。
  • 不正競争防止の強化による法的責任の整備、特に、新たな違法行為に対する処罰規定及び過料額を調整した。

このように規制行為の対象を拡大し、過料の金額の引き上げが行われる見通しとなっている。改正草案の意見募集から法律の公布までは時間がかかるが、中国現地に子会社等を持つ日本企業としては、より一層注意を払う必要がある。

特に、インターネット上の規制行為等、改正草案において新たに規制対象とされた行為については、子会社に違反行為がないよう十分に留意するべきであると考える。

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この記事を書いた人

西南政法大学卒業、早稲田大学アジア太平洋研究科修了。
中国上海の法律事務所にて政府部門、国営企業・一般企業向けに民事、商事訴訟、契約合規、企業顧問等々の民商事法律業務に2年以上従事した後、クララ入社。
日中間の法務手続き、中国法律調査業務に強みを持つ。

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