急成長する中国の宅配便市場

目次

宅配便市場の概況

中国ではネットショッピングの利用増加に伴い、宅配便市場が大きく成長している。2012年末時点で、全国規模の宅配便事業ライセンスを持つ企業が49社、省・自治区・直轄市限定のライセンスを持つ企業が8358社あるほか、多くの無登録業者が地域で末端の配達を担っている。

全国にある宅配事業者の営業所は前年比18.3%増の9.6万カ所、事業用に登記されている各種トラックは同26.1%増の12.1万台で、国内の90%以上の地域をカバーしている。従事者は70万人以上で、無登録業者を含めると100万人を超えると言われる。

荷物の取扱個数は、2013年上半期(1-6月)だけで同60.6%増の38.4億個、売上高(送料・保険料含む)は同34.5%増の629.8億元に達した。このうち、同一市内への配送が9.8億個で売上71.3億元、市外への配送が27.5億個で355.7億元、海外・香港・台湾・マカオへの配送が1.1億件で128.4億元だった。

都市別では、上海と北京に続いて浙江省から4都市、広東省から3都市、江蘇省と福建省から2都市ずつがランクインしており、上位15都市だけで全体の61.1%を占めた。

主要な宅配便事業者

中国では、EMS(中国郵政速逓物流)を代表とする国有企業、「四通一順」と呼ばれる民営企業、FedExやDHLといった外資企業が宅配便事業に参入しており、以下の表に示す主要10社と呼ばれる企業の多くはフランチャイズ展開による成長戦略を進めている。

なお2012年の取扱量をみると国有企業が前年同期比19.8%増の13億個、民営企業が同72.7%増の42.9億個、外資企業が同7.3%減の1億個となっており、民営業者の利用が大きく伸びていることがわかる。

売上高では、国有企業が同10.3%増の299.1億元だったのに対し、民営企業は同70.6%増の638.7億元、外資企業が同4.5%増の117.5億元で、民営企業の取扱数が全体の60.5%を占めた。

宅配便の料金比較

宅配業者の乱立や取扱荷物の増加で、宅配便の料金は年々値下がりする傾向にある。日本で宅配便を送る場合には、荷物の大きさ(縦・横・高さの3辺の合計)と宛先地までの距離で料金が決まるが、中国では個人宛の宅配便でも貨物輸送に使われる容積重量(Volume Weight)による料金計算が行われることが多い。計算方法は、「縦(cm)×横(cm)×高さ(cm)÷6000(業者によっては5000)」が用いられる。

以下では、ゆうパック(中)サイズと同じ大きさの箱(縦26cm×横32cm×高18cm)で5Kgの荷物を送る場合を想定し、北京から上海および重慶宛ての料金を調べた。

また多くの宅配業者ではEC向けの料金体系がある。EMSのEC向けサービス「経済快逓」の場合、料金は通常の3分の1から2分の1程度に設定されているが、配達には通常の倍にあたる3-6日ほどかかる。

宅配便にまつわる苦情

全国の郵政管理部門が2012年に受理した宅配便に関する苦情は17.2万件で、このうち有効件数は前年同期比177.7%増の13.7万件に上った。苦情の内容は、配達の遅延が全体の46%、配達員のサービス態度が27.3%、荷物の紛失が16%、荷物の破損が6%となっている。

企業別にみると、苦情は民営企業に集中しており、外資企業に対するものはごくわずかにとどまる。地域別では取扱量の多い都市部より内陸部で苦情が多い。内陸部は配送ネットワークが十分でない上、荷物の輸送状況をきちんと追跡管理できなかったり、配達員への教育が行き届かなかったりするためと考えられる。

一般的に何か問題があった場合、消費者はまず宅配便業者の営業所や苦情窓口に連絡する。万が一そこでの対応に納得がいかなければ次に当局の苦情窓口に訴える、という段階を踏む。つまり当局が把握する苦情数は氷山の一角に過ぎないということだ。

インターネット上には、宅配業者の営業所に荷物が山積みになっている写真や荷物を放り投げる様子を収めた動画などが無数に出回っている。特にECサイトのセール期間中は荷物の数が急増するため、必然的に苦情につながる遅配や紛失が増えるようだ。

宅配便市場の課題

ネットショッピングの急成長で宅配便のニーズは増加する一方だが、サービスの供給が追い付かない状況が続いている。業界がバランスよく発展しておらず、取扱量の多い東部地域が売上全体の80%を占めている。さらに企業間の格差も広がっており、大型倉庫やトラック、物流管理システムといったインフラ面はもちろん、従業員やサービスの質にも大きな差が生まれており、優良業者とそうでない業者が明確になりつつある。

また宅配便の利用が増えたことで、安全に関する懸念が聞かれるようになった。伝票やデータの管理が不十分で利用者の個人情報が流出した、配達した荷物が爆発した、大型トラックが事故を起して荷物が全て燃えた、過積載で摘発されたため配送が大幅に遅れた、といったニュースをしばしば耳にする。各社とも社内ルールを設けたり、従業員教育を充実させるなどの取り組みを始めているが、業界自体の制度が整っておらず、関連する法律法規も十分でない状況だ。今後は新たに見直されたばかりの「郵政法」や「快逓市場管理弁法」を元に様々な政策が実行され、省や都市単位でさらなる管理強化と市場環境の整備が行われるものと思われる。

EC業界と宅配便業界の相互参入

ネットショッピングの苦情で最も多い「配送」にまつわる問題を解消するため、大手ECサイトが新会社の設立や資本参加を通して宅配便事業に参入している。自社で配送網を持てば高いサービス水準が保てる上、時間指定配達や即日配達といった様々な付加価値サービスが他社との差別化にもなるからだ。

また逆に宅配便業者がネットショッピングの運営を始めた例もある。丁寧な配達で評価の高い順豊速運は、2012年5月に総合ECサイト「順豊優選」を開設。送料無料はもちろん、今では北京、天津、上海など11都市で生鮮食品の配送も行っている。

このほか、宅急送は2010年に「E購宅急送」、中国郵政も同年に中文メディアのTOMグループと共同で「郵楽網」を開設している。申通快逓も5000万元を投じて2012年8月に「愛買網超」を開設したが、わずか2カ月で閉鎖の憂き目にあっており、異業種への進出は一筋縄ではいかないことを業界に印象付けた。

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この記事を書いた人

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