中国の対外直接投資の現状

目次

1. 中国の対外直接投資は年々増加

中国の対外直接投資は年々勢いを増しており、統計を取り始めた 2003 年以降 12 年 連続でプラス成長を遂げている。2014 年の直接投資総額は前年比 14.2%増の 1231.2 億 ドルに達し、過去最高を記録した。外資導入額との差も急速に縮小しており、2014 年 にはほぼバランスが取れた状態となった。

対外直接投資の投資先は、アジアが全体の 69.0%を占める 849.9 億ドルで、前年に比べ 12.4%増加した。このうち香港への投資が 83.4%にあたる 708.7 億ドルとなっている。2014 年は北米や欧州への投資が急増し、それぞれ同 88.0%と 82.2%の伸びとなった。欧州の国別投資額は、イギリスが 14.99 億ドル、ルクセンブルグが 45.78 億ドル、 ドイツが 14.39 億ドル、オランダが 10.3 億ドルで、主に製造業、卸売・小売業、科学 技術研究及び技術サービスといった分野への投資だった。ラテンアメリカは、英領バー ジン諸島が 45.7 億ドル、英領ケイマン諸島が 41.92 億ドルとなっている。

投資額の多いトップ 10 産業は次の図のとおりで、第一次産業が同 26.2%増の 15.9 億 ドル、第二次産業が同 14.4%減の 311.1 億ドル、第三次産業が同 28.7%増の 904.2 億 ドルとなっている。リース・BtoB サービス業は主に持ち株会社への投資が目的だが、 同 36.1%と大幅な増加となった。また流通・倉庫業が同 26.3%増、情報通信・IT 技術サ ービス業が同 126.4%増と好調だった。

2. 対外直接投資の主体は依然として国有企業

2014 年までの対外直接投資の累計額は 8826.4 億ドルで、このうち非金融投資が 7450.2 億ドルを占める。投資額からみた投資主体の割合は、2014 年も依然として国有 企業が過半数を占めているが、2006 年以降その割合は年々減少している。

また投資方法別にみると、2014 年は既存会社の株式取得を含む完全取得(いわゆる買 収)によるものが 324.8 億ドル、会社の新設あるいは既存会社への出資は 557.3 億ドル で、それぞれ全体の 26.4%と 45.3%を占めた。2014 年に中国企業が投資先国で納めた各種税金の総額は 192 億ドルに達し、現地での就業人数 186 万人のうち、現地住民の雇用は 83.3 万人に上っている。

特に既存会社の買収は世界 69 の国と地域で 595 件行われ、買収総額は 569 億ドル (うち直接投資が 324.8 億ドル、海外融資が 244.2 億ドル)だった。主な案件には、中国五鉱集団公司による南米ペルー・Las Bambas 銅山の買収(58.5 億ドル)、聯想集団(レノ ボ)によるモトローラの携帯電話事業や IBM の X86 サーバー事業の買収、東風汽車による PSA・プジョーシトロエングループの株式取得(14.1%、10 億ドル以上)、国家電網公 司によるイタリアの政府系エネルギー会社 CDP Reti の株式取得(35%、26.3 億ドル)、中糧集団による香港 Noble Group の農業子会社の株式取得(51%、15 億ドルで農業分野において過去最高額)などがある。

対外直接投資を行う中国企業を各指標別にみると、いずれも上位は国有企業が占めて いる。特に海外資産総額のトップ 100 では、不動産業の割合が減った一方で製造業の割合が増え、新たに三一重工、中国重型汽車集団、南車集団、中国航天科技集団といった企業がランクインしている。

3. アジアへの投資状況

アジアへの対外直接投資額は全体の 69%にあたる 849.9 億ドルに上る。国・地域別 では香港が 708.7 億ドルで、アジアへの投資総額の 83.4%を占めた。2014 年までの累 計投資額も香港が最も多く、全体の 84.8%にあたる 5099.2 億ドルに達している。

2014 年末までに中国がアジア各国に設立した企業はおよそ 1.7 万社で、このうち 9,000 社ほどが香港にある。投資先の業種は、リース・BtoB サービス業が 40.1%、卸 売・小売業が 13.5%、金融業が 13.5%、鉱業が 12.4%、流通業・倉庫業が 4.7%で、こ の 5 業種の累計投資額は 5056.9 億ドルで、全体の 84.2%を占める。

またアジアは建設工事等の対外請負プロジェクトが多いという特徴がある。2014 年 の新規契約額トップ 5 は、サウジアラビアが 94.7 億ドル、イランが 65.1 億ドル、イラ クが 63.8 億ドル、インドネシアが 51.9 億ドル、マレーシアが 43.3 億ドルで、上位 10 カ国の総額は 512.1 億ドルで、全体の 60.8%を占める。プロジェクトの内訳は、石油化 学が 20.5%、交通運輸が 20.1%、電力が 17.4%、建物建設が 14.2%となっている。

4. 分野別の投資状況

(1).通信分野
中国は世界の通信端末の 90%以上を生産しており、携帯電話メーカーの世界 10 強に中国企業 6 社が名を連ねる。2014 年は世界の 140 を超える国と地域に通信設備を輸出 し、その総額は 430 億ドルに上っている。 通信分野の対外直接投資の累計額は 147.8 億ドルで、海外に設立された通信関連企業 は 650 社に及ぶ。通信分野の対外請負プロジェクトは 2014 年に新規契約されたものだ けで 260 件、150.9 億ドルに達する。政府も通信企業の海外進出を後押ししており、三大キャリアの中国移動が積極的に海外の通信事業者に投資を行っているほか、華為 (HUAWEI)、中興(ZTE)、大唐といった大手通信設備メーカーの海外進出が加速している。

(2).鉄道
中国では 15 年ほど前から、車両本体を含めレールや信号機といった鉄道軌道設備の国産化に取り組んできた。現在は鉄道網の設計から施工、管理、運営の豊富な実績を武器に、海外で複数の鉄道建設プロジェクトを受注している。2014 年は前年実績を 113 件上回る 348 件の新規契約を獲得し、その受注額は前年に比べ 3 倍以上となる 247 億 ドルに達した。主な投資先はナイジェリア、アルゼンチン、スーダン、アルジェリア、 トルクメニスタンなどのアジア・アフリカ諸国となっている。 また同年の中国企業による各種軌道設備の輸出総額は同 19.5%増の 36 億ドルで、世界の 70 の国と地域で中国製のディーゼル機関車、電気機関車、都市鉄道、地下鉄車両が採用されている。

(3).自動車
中国の自動車生産台数は 6 年連続世界一で、2014 年は生産台数が同 7.3%増の 2372.29 万台、販売台数が同 6.9%増の 2349.19 万台に達した。輸出台数は同 0.1%減の 94.8 万台で、輸出金額は同 7%増の 138 億ドルだった。輸出先は発展途上国の低価格帯自動車市場が中心となっているが、輸出比率はわずか 5%ほどでドイツの 70%、韓国の 60%、日本の 50%、アメリカの20%に遠く及ばない水準にとどまっている。 一方で中国の自動車産業の対外直接投資の累計額は 40.1 億ドルで、海外に設立され た企業は約 230 社ある。政府は自動車産業の海外進出を支援しており、発展途上国の市場を積極的に開拓して、大型バス、大型トラック、小型バス、マイクロバスなどの輸出 を今後さらに増やす方針だ。あわせて中国の周辺諸国やアフリカに組み立て工場を建設 し、車両と自動車部品の現地生産を実現すると共に、販売店と修理工場のネットワーク を構築する計画も進められている。

(4).建設用機械
2014 年の中国製建設用機械の輸出額は 146 億ドルで、およそ 90%が中国メーカーのオリジナルブランド製品だった。しかしエンジンや油圧弁といった主要な部品は依然として輸入に頼っているのが現状だ。 2014 年までの対外直接投資の累計額は 23.1 億ドルで、海外に設立された企業は約 240 社ある。一部の企業は海外の大手建設機械メーカーを買収することに成功しており、例えば中聯重科は 2008 年に世界第三位のコンクリート機械メーカーであるイタリアの CIFA を買収した後、2013 年にはドイツのドライモルタル機械メーカーM-TEC を買収し て、コンクリート機械分野で世界一の企業となった。政府は自動車産業と同様に、建設 用機械産業に対しても海外工場の建設と販売・修理ネットワークの構築を支援する方針だ。重点市場は欧州、南米および東ヨーロッパ諸国といった比較的大きな需要を抱える 地域で、主に既存企業の買収を通じて現地に基幹部品の製造工場を設ける計画である。

(5).電力
中国の電力設備産業は、火力発電、水力発電、原子力発電のいずれにおいても既に十 分な競争力を備えており、電力設備の生産量は 10 年以上も世界トップとなっている。 発電所建設等の対外請負プロジェクトはこれまでに 2755 件あり、契約金額は 1,885 億 ドルに上る。海外に設立した電力会社は 340 社で、総投資額は 184 億元となっている。 また発電機やボイラーといった主要な電力設備の輸出額は、2009 年から 2014 年の 6 年間だけで 628.9 億ドルに上り、世界の電力設備輸出額の 45.6%を占めた。進出先はパ キスタン、インド、ザンビア、エチオピア、アルゼンチン、イタリア、ポルトガルなど 約 100 カ国で、発展途上国だけでなく先進国も多く含まれている。 これまでの対外直接投資の中心は火力発電と水力発電だったが、近年は風力発電や太陽光発電、バイオマスといった再生可能エネルギーの発電所建設が増えている。さらに設備を納入するだけでなく、発電所の設計から融資、建設、調達、運営までをワンストップで請負うケースも多い。政府は今後、資源が豊富で電力需要の多いアフリカ諸国へ の進出を強化し、各種基金の創設による資金援助にも力を入れる方針を示している。

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この記事を書いた人

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