中国の宅配便市場と最新法令事情

目次

1. 宅配便市場の概況

宅配便(快逓)事業を管轄する国家郵政局のまとめによれば、全国の宅配便サービス企業(郵便事業を行う中国郵政を含む)の2015 年の売上高は 4039.3 億元で、前年同期に比べ 26.1%増加した。このうち民間の宅配便事業者の売上高は同 35.4%増の 2769.6 億元 だった。

取扱荷物数は中国郵政 (いわゆる小包)が 4243.4 万個で前年同期比 29.6%減少した一方、民間の宅配便事業者は 206.7 億個で同 48.0%の増加となった。

なお、中国では小包 (包裹)は受取人が最寄りの拠点郵便局まで受け取りに行くのが一般的で、宅配便(快逓)には含まれない。EMS(郵便局が扱う)や民間の宅配便事業者ならば、日本と同様に宛先まで配達される。

配送先別にみると、同一市内が同 50.7%増の 400.8 億元、市外が同 33.8%増の 1512.9 億元、国際(以下全て香港・マカオ・台湾含む)が同 17.0%増の 369.6 億元となっている。

売上高の内訳は市内が 14.5%、市外が 54.6%、国際が 13.3%、その他が17.6%だが、 取扱荷物数の内訳は市内が 26.1%、市外が 71.8%、国際が 2.1%となっている。また宅配便市場では、売上高と荷物数の約 82%を東部地域が占めている。

宅配便事業者の営業拠点数は 2015 年末時点で全国に 18.3 万カ所あり、このうち直営営業拠点は 9.8 万カ所、合作営業拠点は 8.5 万カ所となっている。

郵便局を含めた営業所 1 拠点あたりのサービス面積は 51 平方キロメートルで、サービス人口は 0.7 万人となっている。宅配便の 1 人あたりの差出個数は年間15 個で、平均して 201.5 元を運賃等として支払っていることになる。

また物流の面では、宅配便専用貨物機が 71 機あり、2014 年に比べ 4 機増えている。 大型トラックなどの各種物流車両は前年比 6.1%増の 24.4 万台で、地域への配達を行う 配達サービス用車両が 19 万台を占める。宅配便のサービスネットワークは距離にして 2370.5 万キロメートル(地球約 590 周分)に及ぶという。

2. 宅配便の苦情件数

郵便や宅配便に関する苦情は、全国統一の宅配便苦情相談ホットライン「12305」や WEB サイトで受け付けている。2016 年 3 月単月の苦情受理件数は 10 万 2408 件で、このうち中国郵政に関するものが 5615 件(全体の 5.5%)、民間の宅配便事業者に関する ものが 9 万 6793 件(同 94.5%)だった。

受理した苦情のうち、企業側の責任が明らかな有効苦情件数は 3 万 443 件で、このうち中国郵政に関するものは 1893 件、宅配便事業者に関するものは 2 万 8550 件だった。

2016 年 1-3 月の宅配便の有効苦情件数は前年同期に比べ大幅に増加しており、3 月 のクレーム率は荷物100 万個あたり 12.05 件だった。苦情の内容は、配達時の対応をはじめとする配達サービスが全体の 36.7%を占めて最も多く、配達の遅延、荷物の紛失・抜き取り、破損と続く。前年同期に比べ破損や集荷サービスに関する苦情が大幅に増えているが、配達の遅延はわずか 0.8%と大きく改善していることがわかる。

事業者別では、UPS や FedEx、DHL といった海外事業者は押し並べて苦情が少なく、 サービス向上の一環として自社配送に力を入れている京東、卓越亜馬遜(Amazon)、蘇 寧易購なども苦情件数は荷物 100 万個あたり 1 件以下と極端に少ない。

3. 急ピッチで整備が進む関連規定

宅配便の取扱荷物数が急増し、新たに宅配便事業に参入する企業が増えていることか ら、政府は 2012 年頃から様々な管理規定の整備に取り組んでいる。最近特に多く発表 されているのは“物流産業の安全性”にかかわる規定だ。すでにパブリックコメントの募集を終えているものもあるが、直近公表されたものをいくつか紹介する。

1:差出人・受取人の実名制度を規定した「邮件、快件实名收寄实施办法(征求意见稿)」 http://www.spb.gov.cn/yjzj/201512/W020151231513923683187.pdf

意見募集原稿(2016 年 1 月 29 日に募集締切)として発表されたもので、郵便物や宅配 便の配送過程における安全対策をさらに確実なものとするため、実名によるサービスの利用を徹底するとしている。

具体的には、「郵便局や宅配便事業者などは、普通郵便以外の郵便物や宅配便の発送依頼を受けた際に、差出人の身分証を確認し登録すること」 と規定しており、法人の場合は責任者の身分証あるいは営業許可証等の提示を求め、登録するよう求めている(第三条)。

また宅配便事業者は送付状の控えを 1 年以上保存する よう規定しており(第二十条)、郵政管理部門による定期的な検査で身分証の確認や登録 作業を行っていない等の違反があれば法に基づいて処分するとしている(第二十三条)。

2:輸送禁止物品を定めた「禁寄物品管理规定及指导目录」 http://www.spb.gov.cn/yjzj/201512/W020151221525602755297.pdf

こちらも意見募集原稿(2016 年 1 月 19 日に募集締切)として発表されたもので、「郵便物や宅配荷物の安全管理を強化し、発送禁止物品が物流過程に混入することを防ぐことで、市場の健康な発展を促進すること」を目的に、具体的な禁止物品名と運送会社の責任、禁止物品の処理方法を示している。

禁止物品は(1)国家の安全に危害を与えたり、 社会の秩序を乱したり、社会の安定を破壊する各種禁止物品、(2)物流過程に危険が及ぶ 爆発物や可燃性、腐食性、毒性、感染性、放射性等を持つ各種危険物品、(3)法律、行政 法規および国務院や関連部門の規定により発送が禁じられているその他の物品、と記載されており (第三条)、具体的な品物名が列挙された指導目録が別にある。

また利用者に禁止物品の発送をしないよう求める一方で(第五条)、宅配事業者側には集荷の際に目視による中身の確認を行うよう定めた(第八条)。配送の過程で禁止物品に気付いた場合の対応についても言及しており、おおむね公安と当局の管理部門への通報を求めている(第十一条)。

違反した場合、宅配便事業者には相応の行政処分、差出人に は治安管理処罰法等に基づいた処罰と経済損失への賠償責任を科し、犯罪につながるも のは刑事責任を追及するとしている(第十五条、第十六条)。

3: X 線装置による検査を規定する「邮件快件微剂量X射线安检设备配置管理规范」 http://www.spb.gov.cn/yjzj/201604/W020160412527724582326.pdf

意見募集原稿(2016 年 5 月 11 日に募集締切)として発表されたもので、郵政事業者と 宅配便事業者に対し X 線装置による検査を行うよう求めている。

具体的には、航空機や 高鉄(高速鉄道)に搭載する全ての郵便物と宅配荷物(国内宛だけでなく香港・台湾・マカ オおよび海外宛も含む)については必ず全量検査を行うとし、他省宛については原則として全量検査、重点地域や重大なイベントの開催地宛は重点的に、省内や市内宛につい ては必要に応じてそれぞれ検査を行うことと定めている(第六条)。

また検査は自社で X 線装置を用意して行うほか、他社と共同で実施したり、専門業者などの第三者に委託してもよいとしている(第七条)。X 線装置の機能についても言及しており、画像データの保存期間は少なくとも 30 日と定め (第十条)、使用する X 線装置の型番や台数、検査担 当従業員等の詳細を郵政管理部門に届出登録するよう求めている(第二十四条)。

4:宅配ボックスへの配達を規定する「智能快件箱投递服务管理规定(暂行)」 http://www.spb.gov.cn/zcfg/flfgjzc/201602/t20160219_722770.html

2016 年 3 月 1 日に施行された本暫定規定は、宅配便事業者が宅配ボックスを利用して荷物を受け渡すサービスに適用されるもので、対象となる宅配ボックスは商業区、 居住区、オフィスエリア、学校内、工場敷地内などに設置されたものとしている(第二条)。

第三者企業が運営する宅配ボックスを利用する場合、宅配事業者はその運営企業と事前に書面で契約を結ぶよう求めているほか(第四条)、差出人が宅配ボックスを指定している場合を除き、宅配ボックスへの配達には受取人の同意が必要で、壊れ物と伝票に記載されている荷物や梱包が破損している荷物は宅配ボックスを利用できないとしている(第七条)。

5:送付状の電子化に関する「《快递电子运单》邮政行业标准(YZ/T0148-2015)」 http://www.spb.gov.cn/zcfg/ghjbz/201508/W020160127359605748182.pdf

物流情報の管理効率化と処理の高速化を目的として 2016 年 3 月 1 日に施行された標準で、宛先等の内容を電子化してシステムに保存し、統一した規格に基づいて印刷したシール 状の送付状を利用することが定められている。

EC 事業者用の二連式送付状と一般個人用の三連式送付状 の 2 種類が用意されており、使用する紙質から文字の大きさ、 粘着部分の耐寒温度、有害物質の含有量に至るまで様々な項目の標準を規定している。大量の荷物を発送する EC 事業者 にとっては、電子化によって送付状の印刷コストや作業時間 の削減につながるという。利用者にとっても荷物の追跡サー ビスが確実に行えるという利点がある。

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