1. 支付宝(Alipay)とは
中国最大の EC 事業者、阿里巴巴グループ傘下の決済サービスとして 2004 年 12 月 8日に誕生した。当初は同社が運営する CtoC マーケット「淘宝網(Taobao)」向けのエスクローサービス(第三者が決済を仲介することで取引の安全性を保証するサービス)として始まったが、今ではネットショッピングの決済以外にも、公共料金の支払い、クレジットカードの返済、送金、金融投資など様々な機能を備えている。
支付宝の公式サイト https://www.alipay.com/
現在の支付宝のユーザー数は 8 億人ともいわれ、アクティブユーザーは 3 億人を超えている。同社の発表によれば、2014年の財務年度(2013.4.1~2014.3.31)の総支払い額は 3 兆 8720 億元(約 73 兆円)に達した。毎日 8000 万件を超える取引を処理しており、1 日平均 100 億元(約 1900 億円)以上の支払いを行っている。
スマートフォンの普及に伴ってモバイルからの利用も増え、2013 年 11 月にはモバイルアプリ「Alipay Wallet」をリリース。2014 年 10 月にはアプリのアクティブユーザーが 1.9 億人に達し、モバイルからの取引が全体の 50%を超えるまでになった。近年はアプリを使ったオフラインでの決済サービスにも力を入れており、タクシーやバスの運賃、コンビニ、ドラッグストア、駐車場、一部の自動販売機にも利用が広がっている。また海外展開にも積極的で、香港、台湾、シンガポール、韓国などでも利用できる店舗が広がっている。
2. 「10 年支出明細」で利用総額にびっくり
支付宝は 2014 年 12 月 8 日に過去 10 年間の利用履歴がわかる「10 年支出明細」を発行した。これまでも毎年年末になると 1 年間の利用明細を発行していたが、2014 年はサービス開始から 10 年の節目にあたることから、過去 10 年間の利用総額はもちろん、支払い内容の分析、金融商品でいくら稼いだのか、利用総額は友人の中で何番目かといったデータが提供された。ユーザーの中には SNS 上で自身の明細を公開する人も現れ、その金額が大きな話題となっている。
北京に住むある支付宝ユーザーの明細を見てみよう。スマートフォンのアプリを開き、真ん中の「开启十年账单」をクリックすれば明細を確認することができる。この日は支付宝を初めて利用してから第 3088 日目にあたるようだ。すぐ下にある「去 2024(2024年に Go)」をクリックすると、現在のペースでいけば 10 年後に財産がどのくらいになるのか、友人の中で何位なのかが表示される。
このユーザーの場合、2024 年の財産予測は 7300 万元で「いつでもパリに行ってハトにエサをあげることができる」というイラストが表示された。2024 年の「土豪榜(成金ランキング)」は友人の中で第 2 位となっている。
また過去 10 年間にこのユーザーが支付宝を使って支払った総額は 21 万 6939.72 元(約 410 万円)だった。2013 年から急に支払い額が増えているのは、仕事で立て替えることが増えたためだ。中国では会社の経営者や経理担当者が個人のアカウントを利用して支払いをしていることも多いため一概に個人の消費額とみなすことはできないが、インターネット上に公開されている明細には驚くほど高額なものもある。
さらに支払いの内訳を見ると、振込の利用が全体の 47%で、ショッピングが 19%、ファッションが 13%、交通が 8%、美容が 2%だったことがわかる。
このほか、支付宝の MMF(マネー・マネジメント・ファンド)商品である「余額宝」でいくら稼いだかも一目でわかる。余額宝は支付宝のアカウント内にある残高を使った金融商品で、残高を移すだけで手軽に始められる上、利回りも良く、投資したお金をいつでも買い物に使うことができるとあって一気にブームが広がった。2013 年 6 月のスタートから 1 年足らずの 2014 年 3 月末には余額宝の残高が 5413 億元にまで膨れ上がっている。このユーザーの場合、これまでに 1291.6 元を余額宝で稼いだことがわかる。
また過去に支付宝を通じてお金のやり取りをした友人もわかるようになっており、アイコンの大きさでどれだけ“親密”かがわかる。このユーザーはこれまでに 24 人の友人とお金をやりとりしていた。
もちろん過去にどのサイトでいつ何を買ったのか、取引ごとの詳細情報を確認することもできる。この「10 年支出明細」を見たユーザーのほとんどが「いつこんなに買い物をしたのか全く覚えていない」、「何に使ったのかわからない」、「これだけお金があれば XX できたのに」といった感想を持つようで、微信(WeChat)をはじめとする SNS 上には後悔のコメントが溢れている。その一方で「こんなに使ったもんね!」という成金自慢も数多く見られ、利用額を元にした友人グループ内での順位付けには「さらに支付宝を利用してもらおう」という戦略が見え隠れする。
379 万元(約 7000 万円)もあれば別荘が買えたのに・・・http://house.baidu.com/bj/scan/0/5947982541108851193/
3. 全国の過去 10 年間の利用状況は?
支付宝が「10 年支出明細」と同時に発表した 2014 年 10 月末時点の全国の利用データによれば、過去 10 年間の総利用額からみたトップ 5 は広東省、浙江省、上海市、北京市、江蘇省で、全体に占める割合はそれぞれ 15.5%、12.5%、9.3%、9%、8.8%だった。いずれもインターネットの普及率が高い地域で、ネット上では「中国インターネット経済の成金 5 省」と揶揄されているほどだ。
一方、総利用回数に占めるモバイルからの利用比率(モバイルアプリ「Alipay Wallet」の利用を含む)で見た場合、上位はチベット自治区、陝西省、寧夏回族自治区、内蒙古自治区の西部地域が占め、それぞれ 62.2%、59.6%、58.3%、57.6%だった。利用額で上位の北京市は 29 位、上海市は 24 位、広東省は 27 位となっており、モバイル決済の利用においては明らかに西高東低となっていることがわかった。これは内陸部で固定インターネット回線の普及がまだ十分に進んでいないことが大きく関係しているものとみられ、なかでもチベット自治区は 3 年連続でモバイルからの利用比率が全国 1 位となっている。
また 2014 年(1 月 1 日~10.月 31 日)の一人当たり平均利用額では、上海市が 3 万 8561元(約 73 万円)で 2 位を 5000 元あまりも引き離した。しかし上海市を省レベルの行政区としてではなく、一つの都市としてみると全国 4 位にとどまった。都市別の一人当たり平均利用額は 1 位が浙江省杭州市で 4 万 4197 元、2 位は浙江省金華市で 3 万 9965 元、3 位は安徽省黄山市で 3 万 9029 元だった。
さらに小さい行政区である県単位でみると、一人当たり平均利用額が 2 万元(約 40 万円)を超える県は全国に 66 あり、トップ 10 のうち 9 県が浙江省に属している。トップ100 にランクインしたのは浙江省から 5 県、江蘇省から 26 県、福建省から 14 県で、この 3 省で全体の 7 割を占めている。
同社によれば、過去 10 年間の支付宝の総利用回数は 423 億回で、このうちネットショッピングの支払いを除いた水道光熱費、クレジットカードの返済、携帯電話の通話料チャージ、振込の四大便利決済機能の利用回数は約 60 億回に上っている。
モバイル版の支付宝 Web 版支付宝の水道光熱費支払い画面
これらは今まで銀行やそれぞれの支払い窓口に長時間並んで支払うのが一般的だったもので、近年は時間と交通費の節約になるとして支付宝をはじめとする決済サービスでの支払いが急増している。
このほか、残高を利用した MMF 商品「余額宝」の利用者は、2014 年 9 月末時点で1.49 億人に達し、預かり資金規模は 2014 年末時点で 5789.36 億元となった。サービス開始から 1 年で利子の総額は 200 億元を超え、一人当たりにして 133 元となった。
余額宝の利用者を年齢別にみると 1980 年代生まれが 43.9%、続いて 1990 年代生まれが 33.2%を占め、平均年齢は 29 歳となっている。省別では江蘇省が 804.9 万人で最も多く、2 位は広東省、3 位は山東省と続く。
預かり資金規模を世代別にみると 1990 年代生まれは全体のわずか 6.38%を保有するに過ぎないが、1980 年代生まれがおよそ半分の 49.76%、1970 年代生まれが 28.31%を保有していることがわかった。
余額宝の 1/26 時点の 7 日間平均利回りは 4.37%
なお余額宝に移した資金はいつでも引き出して利用することができる。そのため投資資金および利子をネットショッピングの支払いに充てている利用者が全体の 61%を占めたほか、クレジットカードの返済に使っている者が 31%、光熱費の支払いにまわしている者も 8%いた。2014 年 11 月 11 日の「双十一」の大セールでは、当日の売上 350億元のうち 17.4%が余額宝からだったほどだ。余額宝の利用は直轄市や省都のような1・2 級都市から、3・4 級レベルの地方都市や農村部へと拡大しており、2014 年第 3 四半期(7-9 月)の利用者増加率は 1・2 級都市が 14%だったのに対して、3・4 級都市では21%に達している。
内陸や農村部に住んでいてもスマートフォンさえあれば、支付宝を通じて支払いから投資、各種生活サービスまで何でも手軽に行える時代になった。今回発表された「10 年支出明細」では消費の主力がやはり沿海部に集まっていることが明らかになったが、さらに 10 年後の 2025 年にはどうなっているだろうか。支払い総額や利用傾向が今とは全く違うものになっている可能性は大きく、特に内陸部や地方都市の潜在的な消費能力に期待が高まっている。