中国内陸都市のIT事情(陝西省西安市)

黄河の中流に位置し、古くから都が置かれてきた陝西省西安市。今では沿岸部に代わって経済成長をけん引する西北地域の中心都市として、特に科学技術分野での成長が著しい。近年は沿岸部からの産業移転も進んでおり、日本をはじめとする海外企業の進出も盛んだ。急速な発展を遂げる西安市を2年ぶりに訪れてみた。

西安市ではこの2年の間に地下鉄が開通し、片道2車線だった幹線道路が5車線に拡張されたことからも自動車の急激な増加が伺えた。また近頃の物価上昇に伴って給与水準も上昇しており、スマートフォンを手にする人々からは生活の豊かさが感じられた。スマートフォンの販売店が活気づく一方で、コピー商品などを扱うデジタル製品のヤミ市場は鳴りをひそめ、高価なスマートフォンは大手家電チェーンや百貨店で、ローエンドのスマートフォンやフィーチャーフォンはヤミ市場で、タブレットPCは電脳街でという住み分けが一層明確化したように感じられた。

また街中には、これまで北京や上海でしか見られなかったデジタルサイネージがあちこちに設置され、新しい広告手法の一つとして文字通り街をにぎわせていた。コンビニの決済端末「拉卡拉(Lakala)」や2次元コードを利用したサービスも広まっており、沿岸部の大都市と変わらない環境が整いつつあるように感じられた。
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西部大開発で地下鉄が開通

陝西省西安市は、西北地域の中心都市として発展しており、国務院が進める西部大開発におけるハイテク産業の重点地域だ。人口は約850万人で、市内の西南端にある高新区には西安軟件園(西安ソフトウェアパーク)を中心とした国家レベルの科学技術研究拠点が広がり、安くて豊富なIT人材を抱える。日本では、唐の都「長安」が置かれたシルクロードの起点、あるいは世界遺産の「秦の始皇帝陵(兵馬俑)」がある観光地と言えば、ご存じの方も多いのではないだろうか。


沿岸部に比べ発展の遅れていた内陸都市の西安だが、現在は地下鉄の敷設工事が急ピッチで進められている。2011年9月には、市内北部の北客駅から中心部の繁華街を通って市内南部の会展中心駅まで約20キロを結ぶ2号線が開通したばかりだ。滞在中何度か地下鉄を利用したが、比較的若者の利用が多いように感じられた。Suicaのような公共交通ICカード「長安通」は地下鉄でも利用できるが、広告などは貼りだされておらず、ほとんどの人は券売機で切符を購入していた。

地下鉄内では多くの人がスマートフォンを手にしており、ニュースや小説を読んだり、微信(中国版LINE)をしている様子が見受けられたが、タブレットPCや電子ブックリーダーを使っている人は見かけなかった。このほかスマートフォンから音楽を聞いている人も目立ったが、確認できた範囲では車内でゲームをしている人はいないようであった。なお駅構内や電車内にもゲームの広告はなく、インターネットカフェや電脳街(パソコンショップ)を除けば、街中でゲーム関連の広告を見かけることは一度もなかった。

街中のスマートフォン売り場へ

街中では圧倒的にスマートフォンを使う人が多かったが、市内のケータイ売り場はどうなのだろうか。市内中心部にある大型電化製品売り場と偽物商品を多く扱うヤミ市場に行ってみた。大型店舗では、取り扱い端末のほとんどがスマートフォンで、特にWindows8を搭載した端末が多く見かけられた。感覚的にはAndroidが3に対し、Windowsが7くらいの割合だ。店員に話を聞いてみたところ、Windows8はインターフェイスが華やかで高級感があるため人気があるとのこと。最近良く売れているのは有名メーカーの1500元から2000元の商品で、SAMSUNGのGALAXY Noteのような5000元を超えるハイエンド端末は企業経営者や大学生に人気があるという。SONYのXperia は3000元台の値札が付いていたが、あまり売れていないとのことだった。

携帯電話販売店といえば、以前はモックアップまで全てショーケースの中に入っており、わざわざ店員に声をかけて出してもらう必要があったが、今回訪れたいくつかの販売店ではいずれも最新機種の体験コーナーを設けており、WiFiにつながれた端末を操作しながら店員と相談する様子をよく目にした。またどの販売店もタブレットPCを数多く展示していたが、スマートフォンに比べると足を止める人は少ないように感じられた。タブレットPCについては繁華街の大型電化製品売り場よりも、電脳街の方が種類も豊富で安いという事情もあるようだ。

一方のヤミ市場は、個人経営の小さな店が集まる場所で、新品だけでなく中古品や部品を販売する店、脱獄(root化)の専門店、改造・修理屋などバラエティに富んでいる。ここでは新品のフィーチャーフォンが300元程度から手に入るほか、無名ブランドのスマートフォンが1000元以下で数多く並んでいる。しかしこういった市場では偽物や劣悪商品を掴まされると知られているためか、休日の昼間でも客はまばらだった。


Appleの専売店もあちこちにオープンしていたが、いずれも直営店ではない。店舗は高収入層が多く住むエリアより市内中心部の繁華街に収集しており、いずれも店構えやインテリアは直営店を真似ているようだ。どの店も実機がたくさん並んでおり、店員が付きまとってくることもないあたりは社員教育の効果か。店員は「どちらかと言えばiPhoneよりiPadのほうが売れている」と話すが、こちらも休日の昼間にもかかわらず客足は少なかった。

また3Gが普及する以前は、こうした販売店のまわりに電話番号を売る人、中古端末の買い取りをする人、通話料のチャージ用カードを売る人、液晶画面に保護フィルムを貼る人などが集まり路上で商売を行っていたものだが、スマートフォンが普及した今となっては、買い取りとフィルム貼りくらいしか見かけなくなっている。スマートフォンのフィルム貼りは5元から50元が相場で、フィルムの生産地や機能(指紋が目立たない、反射しない)で値段が変わるようだ。

西安にも「拉卡拉」が普及

「拉卡拉(Lakala)」とは、スーパーやコンビニに設置されている決済端末で、PC製造大手の聯想(レノボ)グループが運営している。従来は窓口に並んで払っていたクレジットカードの返済、携帯電話のチャージ、光熱費の支払いなどをこの端末で済ますことができる。支払いは、端末に銀聯カード(ほとんどの銀行キャッシュカードが対応)をスライドするだけだ。

市内にあるローカルのスーパーでは、出入り口に近い場所に1台設置されていた。サービスごとの手数料も明記されており、実際に携帯電話のチャージを行ってみたが、スムーズに支払いを済ますことができた。またこの1~2年の間にあちこちにできたローカルのコンビニの多くで簡易型の端末を見かけた。利用者の数までは分からないが、北京や上海同様に端末自体は普及しているようだ。

デジタルサイネージが登場

この1年ほどのうちに、高新区を中心に大型のフルカラーディスプレイを使った屋外広告が設置された。多くは交差点の角にあり、国の発展スローガンやマナー向上を呼び掛ける内容のほか、不動産や酒類の広告が繰り返し流れていた。特に観光地や商業施設の集まるエリアでは、音声の出るものが設置されており、イベントの告知や店舗紹介の広告が多く流れていた。

また西安でも北京や上海と同様に、小型ディスプレイを使ったデジタルサイネージがエレベーターホールやバス・タクシーの車内に設置されており様々な広告が表示されていたが、ついにタクシーの屋根についている天井灯(ぼんぼり)までもがLEDの電光掲示板になっていた。天井灯の両面がLEDになっており、賃走中の場合は正面側に「有客」と表示される。後方側には、後ろを走るドライバーに向けて現在時刻のほか、様々な広告やマナー向上を呼び掛けるスローガンが表示される仕組みで、大手タクシー 会社は皆このLED天井灯をつけているようだった。

“チャイニーズ・ドリーム”を実現する人も

現地の友人たちはこの数年間に続々とマンションを買い、マイカーを手に入れている。物価の上昇とともに賃金も増えていることから、できるだけ長い期間でローンを組んだほうが得だと言い切り、繰り上げ返済などしないと豪語する人も。

今回会った友人の中には“チャイニーズ・ドリーム”を叶えたと誇らしげに話してくれる者もいた。上海大衆のディーラー修理工場で働く彼は、出会った当初はまだ青い作業着で働く修理工の一人だったが、わずか5年ほどで工場内で最も職位の高い技術経理に昇進。今では毎日スーツを着て、工場の隅には自分の執務室を持つ。給料も増え、この春にはマンションも買ったという。今は後進を指導する立場になりプレッシャーも大きいというが、「専門学校しか出ていない自分が、ついにブルーカラーからホワイトカラーになったんだ」と話すその顔は嬉しそうだった。

2次元コードの利用広がる

QRコードを代表とする2次元コードがあちこちで見かけられるようになった。バス停の広告パネルをよく見ると、不動産広告の片隅に「詳細はこちらを」という一言とともに2次元バーコードが。レストランでは、キャンペーンを紹介する卓上の三角POPに2次元コードが印刷されており、スマートフォンのメッセンジャーアプリ「微信」で読み取ってアクセスすれば、割引などが受けられると紹介されている。

また省政府が統一管理する領収書(発票)にも2次元コードが採用されていた。このコードを読み取ると、当該領収書の発行に関する情報が表示され、真偽を確認することができる。これまで西安では100元、50元など定額が印刷された領収書を支払った金額の分だけ渡されることが一般的だったが、2013年2月からようやく大きなホテルや飲食店を中心に専用システムとプリンターで印字するタイプの領収書が導入されたという。

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この記事を書いた人

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