1. 中国のデータセンター市場概況
来たる 5G 時代に向けて、中国でデータセンター(DC)の需要がいっそう旺盛になっている。これまでもクラウドコンピューティング、ビッグデータ、AI、VR といった最先端テクノロジーのために DC 需要は好調だったが、2017 年 6 月に施行されたサイバーセキュリティ法で、国内のサービスで生成されたデータ等を国内に保存することが義務付けられたことから、国内の DC 需要が急増した。さらに 5G の「高速で大容量」、「多拠点通信」、「低遅延」というメリットを生かした IoT、自動運転、遠隔医療、交通システム等の大規模な実用化を間近に控え、DC を新規建設する動きが加速している。
工業情報化部が 2018 年 3 月に発表したデータによれば、2016 年末時点で稼働中のDC は全国に 1,641 カ所あり、サーバー収容数は 995.2 万台に上る。さらに建設中の DCは 437 カ所で、サーバーの収容計画台数は合計 1,000 万台程度となっている。
平均実搭載率は全体で 50.69%となっているが、超大型 DC では 29.01%、大型 DC では 50.16%、小中型 DC では 54.67%だった。地域別でみると北京・上海・広東・深センは 60~70%となっている一方、西部地域では 30%を下回るところもある。また DC の電力使用効率を表す指標「PUE」は、超大型 DC では平均 1.5、大型 DC では平均 1.69で、最も良い DC で 1.2 程度である(PUE は1に近いほど効率が良い)。
なお工業情報化部の基準によると、DC の規模は収容ラック数(2.5kW/ラックで計算)によって、10,000 以上は超大型 DC、3,000~10,000 は大型 DC、3,000 以下は小中型DC と呼ばれる。
2. 地方に広がる DC 建設
DC はこれまで広東や上海、北京といった大都市に建設されることがほとんどだった。しかし都市部では建設用地そのものが不足しているか、あるいは土地はあっても賃貸料や人件費などの運営コストがかさんだり、電力がひっ迫していたりする。そのため近年は国務院の指導意見も踏まえて、北京に近い河北、内蒙古、天津といった地域や、よりコストの安い中西部地域が選ばれることが増えている。
例えば 2016 年末時点の北京にある稼働中の DC のラック数は 14.6 万で、建設中のDC の分をあわせても 18.6 万しかない。2018 年の北京エリアにおけるラックの需要は30 万を越える見通しで、大幅な供給不足が予想されるが、一方で近隣地域の DC のラック数は稼働中と建設中あわせて 49.2 万とニーズを満たす十分な量がある。しかもこれら近隣地域の DC は大部分が基幹網に直接接続しており、その半数以上が複数のネットワークと接続している上、法令で定められたセキュリティ等級基準にも準拠した施設となっている。
また気候が冷涼で、電力や人件費が安い南西部の貴州では、政府が DC の誘致を積極的に推し進めている。省内の開発区では、Apple が 10 億ドルを投じて iCloud を提供するための DC を建設したほか、中国移動(チャイナモバイル)、中国聯通(チャイナユニコム)、中国電信(チャイナテレコム)の三大通信キャリアはもちろん、騰訊(テンセント)、阿里巴巴(アリババ)、華為(HUAWEI)等の大手 IT 企業らが続々と DC の新規建設を進めている。
DC の大型化も特徴の一つで、2018 年 6 月には、天津開発区に位置するテンセントの騰訊天津 DC が、単独の DC としては中国で初めてサーバー収容台数 10 万台を突破している。同 DC は 2010 年 11 月に運用が始められ、総面積は 9 万平米。主にインスタントメッセンジャーアプリの「微信(WeChat)」やクラウドサービスの「騰訊雲」等のサービスで利用されている。
工業情報化部のデータによると、ラック数が 3,000 を越える大規模 DC(大型 DC および超大型 DC)は広東、上海、北京にそれぞれ 20.8%、12.8%、9.6%あり、全体の 4 割強を占める。さらに北京近郊の内モンゴルが 8.0%、河北が 3.2%、上海近郊の浙江が 7.2%、江蘇が 6.4%で、これらを合わせると大都市とその周辺におよそ 7 割が集まっている。
3. 中国 DC 市場の規模
中国の IDC 市場を専門とする中国 IDC 圏研究センターの予測では、これから 2020 年にかけて国内の DC 市場規模は増加の一途をたどり、2018 年には 1,200 億元を突破、2020 年には 2,000 億元を上回る規模になるとみている。
これは EC やオンラインゲームを中心とする IT 企業からの需要増加に加え、政府の後押しによってその他の産業でも業務のクラウド化が進んでいること、とりわけ政府が打ち出した「中国製造 2025」政策で製造業の IT 化・情報化が一気に進む見込みであること、さらに 2020 年には 5G の商用化によって加速度的に需要が膨らむ見通しであることが大きな要因だと分析している。
4. 大型・超大型 DC の例
● 朝亜(Chayora)の天津 DC
DC の設計・運営を手掛ける香港の朝亜グループの超大型 DC で、2018 年 1 月に天津市北辰区で第 1 期計画が着工。32 ヘクタールの敷地内に 3,000 ラックを収容する DC棟を 6 棟、1,000 ラックを収容する高性能コンピューティング DC を 3 棟の計 9 棟で構成される。
完成後の総床面積は東京ドーム約 7 個分の広さに相当する。稼働は 2018 年末を予定。主に北京に向けたサービスを提供する計画が伝えられている。
● 中国移動の浙中 DC
中国移動が浙江省(浙中)情報通信産業パークに総工費 40 億元を投じて建設する超大型 DC で、2018 年 6 月 20 日にオープンしたばかり。敷地面積は約 19 ヘクタールで、華東地域で最大規模となるサーバー20 万台を収容する。DC 棟のほか、ビッグデータクラウドコンピューティングセンター、イノベーション研究開発センター、付加価値サービス研究開発センター、物流倉庫なども併設されている。
すでに検索大手の百度(Baidu)、華為のクラウドサービス「華為雲」、ニュースキュレーションサービスの「今日頭条」といった大手 IT サービスが契約している。
● 中国電信の内モンゴル DC
内モンゴル自治区フフホト市南部のホリンゴル県にある産業パーク内に位置し、2012 年 5 月から 2 期に分けて建設が進められている。総投資予定額は 173 億元で、敷地面積は 100 ヘクタール。最終的に 42 の DC 棟に 10 万以上のラックを収容する計画で、完成すればアジア最大規模の DC となる。
2015 年までに 6 棟が完成し、14,000 ラック、サーバー約 30 万台が収容されている。T4レベルの DC として、百度、捜狗(Sougo)、騰訊、阿里巴巴等の大手 IT 企業のほか、国家教育部や各地の市政府、金融機関等の 50 社以上が契約している。
2018 年 6 月からは 2.4 億元を投じて新たに 2 棟が着工しており、完成後のラック収容数は 4,000 余りを予定している。
● 国家(福州)健康医療ビッグデータセンター
福建省福州市の福州濱海新城産業パーク内に位置し、敷地面積は 4 へクタール、総投資額は約 30 億元。DC 棟は 4 棟で、このうち 2 棟は東南健康医療ビッグデータセンター、1 棟は先端コンピューティングセンター、残り 1 棟は映像レンダリングセンターとなっている。
2018 年 6 月末に着工したばかりで、2019 年第 3 四半期(7-9 月)に第 1 期分として5,000 ラックの稼働を予定する。最終的なラック収容数は 15,000 で、のべ数兆人分の詳細な医療データを保存し、電子カルテや遠隔医療サービスのほか、臨床研究、新薬開発、ヘルスケア管理等のビッグデータ解析で利用される予定だ。