2013年10月24~25日 杭州阿里雲創業創新基地
中国初のクラウド産業特区が会場に
阿里巴巴(アリババグループ)傘下のクラウドサービス企業、阿里雲公司が主催する中国最大規模のクラウドサービス・カンファレンス「阿里雲開発者大会」が、2013年10月24-25日に開かれた。会場は浙江省杭州市に設置されたクラウドサービス産業の特別誘致地区「杭州転塘クラウドコンピューティングパーク」にある阿里雲創業創新基地で、屋外の主会場と屋内の分会場でそれぞれイベントや講演などが行われた。
本大会の入場券は、事前に阿里雲のホームページから申請して入手する。参加者の大半はIT関係者で、有名企業の幹部、クラウドサービスの専門家、IT企業のエンジニアなどを中心に約5000人が来場した。
熱気あふれる開発者大会
初日の24日は第2回阿里雲開発者大会の決勝が行われた。これは2013年5月から阿里雲が自社のクラウドサーバーやオープンストレージサービスを無償で提供して新しいビジネスアイデアを募っていたもので、優勝すれば創業資金として100万元(約1600万円)が授与される。今年は参加人数と応募作品数ともに前年を上回り、ゲーム、生活サービス、旅行、電子ビジネス、企業支援ソフト、サーバ管理ツールなど様々な分野の作品が集まった。当日は約127万人によるWeb投票と専門家による審査チームによって選ばれた上位100作品が会場に展示されたほか、最も優秀な20作品の発表、表彰が行われた。
会場では選ばれた20作品について1日がかりで最終選考が行われた。各作品の作成者が舞台上でプレゼンテーションを行い、審査員からの質問にその場で回答して点数を争うもので、審査に参加した国内の有名ベンチャーキャピタルが投資を約束する場面もあり大変な盛り上がりとなった。
今回は支持率が50%を超える作品がなかったため、優勝にあたる「飛天賞」を獲得するものはなかったが、近くにいる配達員を呼ぶためのアプリ、子供を持つ親を支援する管理ソフト、クラウドサーバとオープンストレージを管理するためのWEBツール、データ収集ツールなどの個性的な作品から、以下の4作品が入賞を勝ち取った。
優勝賞金の100万元は次回の大会に持ち越しとなったことから、来年はさらに優秀な作品が集まることが期待される。
また展示コーナーでは上位100作品の展示と共に、作品の説明やテスト用に利用できるパソコンやスマートフォンが用意され、自由に体験することができた。作成者の多くが来場しており、その場で質問したり、エンジニア同士で交流したり、技術討論で盛り上がる姿もみられた。
大会テーマは「クラウドコンピューティングのバタフライ効果」
翌日の25日には、主会場で「云的蝴蝶效应(クラウドコンピューティングのバタフライ効果)」をテーマに、有名IT企業のトップが講演を行ったほか、ゲームやモバイルインターネット、金融サービスなどのテーマ別に分かれて分会場でカンファレンスが開かれた。
最初に舞台に上がった阿里巴巴の王堅最高技術責任者(CTO)は、「クラウドコンピューティングがインターネットに与える影響と阿里雲の発展について」と題して、クラウドサービスが様々な業務形態の企業に革新を起こすと断言し、これからのインターネットの発展を支えるとともに、人々の生活に大きな影響を与える可能性について語った。
隣接する建物で開かれた分野別のカンファレンスでは、阿里雲ゲームの今後の発展見通し、人気ゲームの基盤構築における経験の共有、ゲームデータの分析システムの構築方法、クラウドが電子政府にもたらす影響、クラウドサーバとAPPの関連性、従来のERPからクラウドへの移行について、SaaS発展の道、威鋒網のゲームリリースに関する発表など、様々なテーマが設けられており、いずれの会場も終日満席となる盛況ぶりだった。
筆者が参加した中でとりわけ刺激を受けたのは、人気ゲーム会社、北京玩蟹科技有限公司のCEOが阿里雲クラウドサーバを利用する中で発生した障害をどのように乗り越えたかを語るもので、クラウドサーバを安定稼働させ、サービスを軌道に乗せるまでの経験談は大変興味深かった。阿里雲は「技術」を強みにした会社から「サービス」を強みにする会社への転換期を迎えているが、このようなトラブルを真摯に受け止め、いかにサービスの品質改善につなげていくか期待したいと感じた。
またモバイルインターネット分会では、高徳地図(Autonavi)と阿里雲による「LBS(位置情報サービス)クラウド戦略」が発表された。高徳地図は阿里巴巴が筆頭株主を務める地図情報サービス会社で、阿里雲を使ったLBSクラウドプラットフォームにはすでに30万を超えるアプリケーションが公開されているそうだ。今後両社はクラウドとモバイルを組み合わせたプラットフォームを開発する計画で、身近なサービスから業務系サービスまで幅広く対応できるプラットフォームに進化させることで、今までプラットフォーム別に開発していたアプリケーションを1つに集約し、開発コストの削減に貢献するという。さらにLBS開発者向けにアプリ開発、位置検索データストレージ、
ビッグデータ連携をワンストップで提供する考えも明らかにした。
雲OS分会では、阿里巴巴が独自に開発したスマートフォン用OS「雲OS(阿里雲OS)」に特化した講演や展示が行われていた。雲OSはクラウドアプリとの連携を得意としており、決済サービス「支付宝」の担当者によるモバイル決済機能の解説があったほか、雲OSを搭載したスマートフォン「HIKe X1」や「青橙」の発表会が行われた。
「HIKe X1」は同時開催の開発者大会でも指定機種となっていたもので、製造する珠海市行者云计算技术有限公司(HIKe Mobile)の杜副総裁は、高い生産技術を持つ工場で作られた精度の高い製品で、阿里雲と協力して国内市場に積極的に売り込む考えをアピールしていた。
また「青橙」は自由にカスタマイズできるスマートフォンとして注目を集めていた。ハード、アプリ、ケースまで全てのカスタマイズが可能で、展示コーナーのミニ工場では参加者のリクエストに応じてその場でケースを作成するサービスが人気だった。
各分会の展示コーナーでビジネスマッチングも
各分会の会場ではそれぞれのテーマに関したアプリやゲームなどが数多く展示されていた。クラウドサーバを利用すれば、少ない初期投資でサービスの提供を始めることができ、ユーザ数の増減にあわせて柔軟にリソースの変更ができるため、中小規模の開発会社でも利用しやすいと感じた。展示コーナーにいる各製品の担当者からは、パンフレットを受取って詳しい説明を聞くことができた。名刺交換だけでなく熱心に商談を行う姿もあちこちで見られ、どこの会場も終日活気にあふれていた。
なかでも特に盛り上がっていたのはゲーム分会の展示コーナーで、新作ゲームをいち早く試せるとあって行列ができていた。PC向けゲームよりもクラウドサービスと連携するスマートフォン向けゲームの比率が圧倒的に多いことが印象的だった。会場ではゲーム大会も開催され、優勝者には商品が授与されていた。
コミュニティツール「来往」のこれからに期待
今大会では、阿里巴巴が開発したコミュニティツール「来往」が公式ツールとして利用された。各種イベントへの参加も全てこのツールを使って行われ、一部の講演では参加者が「扎堆」というグループチャット機能を使って討論を行う試験的取り組みも行われた。閲覧したらすぐに削除できる機能や二次元コードのデコードなどの機能を評価する声が聞かれた一方で、動作の一部が機能しないといった問題も見受けられた。また今大会の参加者を除けば阿里巴巴の社員らによる利用が大半で、関係者以外にはまだあまり普及していない様子だった。今後は阿里巴巴が運営する「淘宝網」などの既存サービスと連携して、「微信」をはじめとするチャットツールに代わる新たなコミュニケーション手段となることに期待したい。
阿里雲を支えるデータセンターを見学
当日会場でデータセンターの見学を申し込むことができた。阿里雲のデータセンター「華通雲数据」は会場から100米あまり離れた場所にあり、サーバーラック、電力システム、空調システムを見学することができた。阿里雲は国内メーカーの華為(HUAWEI)のサーバを採用しており、ラックの配線などもきれいに行われていることが確認できた。
また近くでは「飛天5K」と名付けられた記念碑を見ることもできた。これは阿里雲が飛天システムを使って国内初の単一サーバークラスタとして5000台のサーバを稼働することに成功したことを記念して建てられたものだ。その計算能力は10万コア、ストレージは100PB、同時処理能力は15万アクセスで、億単位のファイル保存能力を持つという。2013年8月15日から杭州転塘クラウドコンピューティングパーク内で阿里巴巴の業務データを取り扱うオープンデータ処理サービスのサーバ群が正式稼働しているそうだ。
本大会では、現時点における阿里雲の最先端の取り組みを数多く見て学ぶことができた。阿里雲のクラウドサービスはまだAWSのような世界の一流クラウドサービスには及ばないが、「クラウドのバタフライ効果」でこれから中国のクラウドサービスが飛躍的な発展を遂げる予感を感じさせる経験となった。