中国シェアバイク最新事情

目次

1. シェアバイク市場の現状

中国で最初のシェアバイクは 2008 年に杭州で始まったと聞くが、今のようなサービスが登場したのはわずか 2 年前のことだ。今ではある程度の規模で展開しているものだけで全国におよそ 25、小さなものまで含めれば70ものシェアバイクサービスがあるといわれる。2017 年 6 月末までの自転車投入台数は累計 1,600 万台以上、利用者数は民間調査会社やメディアの調べでは 5,000 万人以上、国家情報センターは 1.06 億人と伝えている。2018 年には約 3 億人、2019 年には約 4 億人まで利用者が拡大するとのデータもあり、今後数年は利用者の増加が続くと見込まれる。

サービスが利用できる都市は、東部や中部を中心に 50 都市を越える。当初は直轄市や省都といった大都市が中心だったが、今では地方の中規模都市にも広がりを見せており、利用者の居住地の比率は 1 級都市が 55.1%、2 級都市が 26.8%、3 級都市が 12.3%となっている。2017 年 4 月時点の主要 3 サービスの展開都市は次の図のとおりだ。

市場は ofo と mobike の二強が制しており、比達咨詢によれば 2017 年第 1 四半期(1-3 月)の市場シェアはそれぞれ 51.9%と 40.7%となっている。特に ofo は 2017 年中に100 都市に進出するとの目標を掲げており、今年第 1 四半期だけで 250 万台の車両を新規投入した。同様に mobike は 100 万台、bluegogo は 35 万台を新規投入している。

利用時間帯のピークは、出勤時間帯の朝 7 時から 9 時と退社後の 18 時から 20 時となっている。利用者は男性が 52.8%、女性が 47.2%でやや男性が多い。年齢別では 35歳以下が約 65%を占めている。

1 回の利用時間は 10-30 分が全体の 68.2%を占めており、10 分以内のちょっとした移動での利用も 12.1%に上る。また毎日 2 回以上利用する人が 8.1%、週に 7-14 回の人が 41.2%おり、日ごろから通勤の足として利用されていることが伺える。

主な利用目的を見ると、やはり通勤の補助として自宅から最寄りの地下鉄駅やバス停まで利用する人が 65.9%を占めている。続いて、歩くには少し遠い場合、あるいは地下鉄駅まで行くよりも自転車で直接行った方が早いような場合の短距離移動での利用が57.8%、広い大学キャンパス内での移動にも 37.6%の人が利用している。休日のレジャーの足として、なかにはダイエットのために利用しているという人もいる。

2. ヒットの理由は

シェアバイクサービスが、なぜこれほどまで一気に広がったのか。様々な要因が相重なっているわけだが、まず中国的なビジネスのやり方が挙げられる。今の中国では、今までにない新しいサービスを提供することで資金を調達し、それが弾みとなって事業が拡大すれば、その勢いに注目した投資家からさらに資金を調達でき、ますます事業が拡大する、というサイクルが生まれている。

もちろん全てが上手くいくわけではないが、シェアバイクの領域においては、利用者のニーズをつかんだことや、後述する政府の後押しを得たことで、順調に資金調達を重ね、次々とサービスエリアを広げていくことができた。シェアサービスはある程度の規模が無ければ利用者の利便性につながらないものだが、中国的なやり方ゆえに、その高いハードルを軽々とクリアできたと言える。後追いで参入する事業者が増えたことで、街に一気に自転車があふれ、自然とサービスの認知度が上がったこともプラスになったのだろう。

また利用者側には、自動車の購入制限政策や収入等の理由でマイカーを手に入れにくく、自宅からバス停や地下鉄駅までが遠かったり、ようやくタクシーをつかまえても渋滞がひどかったり、バスは常に大混雑だったりと、都市が発展すればするほど外出が不便になっていくという不満があった。しかしシェアバイクの登場で、気軽にさっと出かけられるようになり、会社の行き帰りにタクシーがつかまらなくてイライラしたり、渋滞で気をもんだりすることも減った。今まで使っていた決済アプリや微信(WeChat)がそのまま使えるので、利用手続きや支払いに手間もかからない。新しいモノを受け入れることに抵抗がない都市の人々にとって、移動のストレスがなくなるシェアバイクは、この上なく便利な新しい交通手段だったのだ。

そして政府にとっても、シェアバイクの普及は福音だったに違いない。都市部の大気汚染対策は急務となっていたが、シェアバイクの普及で北京の大気汚染濃度は過去 5 年で最低水準にまで改善したとニュースが報じている。中心部のひどい交通渋滞も頭の痛い問題だったが、こちらもシェアバイクを利用する人が増えたことで、多少なりとも緩和されてきていると聞く。さらにシェアバイクの普及は無許可の三輪タクシーやバイクタクシーの一掃にも役立っている。mobike によれば、mobike 会員の違法三輪タクシー利用率は 53%減少したといい、北京のある地下鉄駅にいる三輪タクシーは以前の 4 分の 1 に減ったそうだ。また北京ではシェアバイクの走行データを都市計画に活用しており、自転車の通行が多い道路に自転車専用レーンを設けたり、バスの新規路線を開設したり、タクシーが多く走るよう指示したりするための材料として利用しているという。

その上シェアバイクの普及は、関連する雇用も増やしている。国家情報センターのまとめによれば、シェアバイク事業者に約 8,000 人、自転車メーカーに約 4.25 万人、スマートロックメーカーに約 1 万人、関連する物流会社に約 5,000 人、自転車のメンテナンスや車両の移動調整に約 3.5 万人の雇用が生まれている。なかでもメンテナンスや移動調整スタッフの実に 7 割が 40 歳以下で、若者の雇用創出に大いに貢献している。

もとより中国政府は、国の全体計画である「十三五(第 13 次 5 カ年計画、2016-20 年)」において、“シェアリングエコノミー”の発展を国家政策の一つとして提唱していた。さらに 2016 年 3 月に発表された「グリーンコンシューマリズムの促進に関する指導意見」においても、環境にやさしいライフスタイルとして、自動車ではなく徒歩や自転車、あるいは公共交通機関を利用する外出を奨励していたという背景から、今年 2 月には交通部もシェアバイクサービスを積極的に支援すると発言していた。シェアバイクにまつわる問題やトラブルは次の章で詳しく触れるが、当局側はこれらの課題解決と合わせて、サービスの秩序ある発展を支援するとの方針を出している。

最後にテクノロジーの面から言えば、利用者の誰もがスマートフォンを持っていること、そのスマートフォンを使ったモバイル決済が普及していること、GPS で自転車の位置を特定し走行データが取得できること、膨大な利用データをビックデータとして活用できること、実名登録や信用情報管理が行われていること等の条件が整ったことが、今あるようなシェアバイクサービスの誕生とその普及を支えたのは想像に難くない。

3. 利用マナーの悪さに辟易、増えすぎた自転車は規制へ

あっという間に普及したシェアバイクだが、今度はあまりに増えすぎた自転車が問題視されるようになった。朝の通勤時間帯には、地下鉄駅周辺に自転車があふれて歩道が通れなくなるほどで、車道にはみ出して置かれた自転車にデリバリースタッフの電動バイクがひっかかって転んだり、車とぶつかったりする事故も伝えられている。各社の整理スタッフが自転車をきれいに並べたり、電動三輪車やトラックで他の場所に移動させたりもしているが、作業が全く追い付かない状況だ。

利用者のマナーやモラルの低さも指摘されており、辺鄙な場所に行った人が帰りもその自転車を使うために勝手に「利用不可」とメモを貼っていたり、他人が使えないよう自分で鍵を持ってきて自転車をロックしておいたりするのだという。なかには乱暴に扱われたのかペダルが曲がっているものや、タイヤやチェーン、ベルまでがなくなっている車両を見かけることもある。電動自転車からはバッテリーの盗難が絶えないし、公共物という認識なのか、蓋のないマンホールに人が落ちないよう穴の上に置いてあったり、ゴミ捨て場を囲う柵として勝手に使われていたりする。また ofo のダイヤル鍵タイプの自転車は、子供が延々とダイヤルを回して鍵を開け、勝手に乗り回して遊んでいたり、郊外に行くと市内から勝手に持ち出されたのであろう自転車を見かけたりもする。そして日本でもメディアが伝えているように、使えなくなった自転車が山と積まれてゴミとなっている。

このような状況を受け、8 月には交通運輸部等 10 部門がシェアバイクの発展奨励と規範化に関する指導意見を発表し、事業者に対し自転車の管理徹底と利用者の駐輪マナー改善施策を求めた。同様の規定は都市ごとにあり、9 月 15 日までに北京、鄭州、南京、南寧など少なくとも 12 の都市が自転車の新規投入禁止を含む規定を発表している。

例えば北京で 9 月 15 日に発表された「シェアバイクの規範的発展の奨励に関する指導意見(試行)」では、事業者に自転車のメンテナンスや回収作業を義務付け、利用者から預かったデポジットは専用口座で管理するよう定めたほか、撤退する場合にはデポジットの返却と全ての自転車の回収を義務付けた。さらに利用者を 12 歳以上に限定し、駐輪マナーの悪い利用者のブラックリスト管理や自転車保険への加入にも言及している。北京では現在 15 社が 235 万台の自転車を投入しているが、市交通委員会は需要を上回る自転車があるとして、9 月 7 日に車両の新規投入を一時禁止した。

また 42 万台の自転車がある杭州では、放置自転車のべ 2.3 万台の回収に半年で 22 万元を費やすほど利用マナーが悪化。市側はシェアバイク事業者と 67 回に渡る協議を重ねたが、7 月 10 日に新規投入が禁止され、地下鉄駅入り口から 50 米以内とバス停の両側 30 米以内を駐輪禁止とした。西安でも 4 社の自転車 70 万台について、杭州同様に8 つの駐輪禁止エリアを設けた上で、放置自転車があれば管理当局に通報するよう市民に呼び掛けた。事業者は通報から 2 時間以内に回収しなければならず、繁華街では 4 時間または 6 時間以内に駐輪台数の調整を行うよう定められている。

このように課題は山積みであるものの、当局は概ねシェアバイクの普及を好意的にとらえていることから、当面は必要な規制を行いながら市場の発展を見守るものと思われる。シェアバイク各社は次々と地方都市への進出を進めており、海外進出に積極的なmobike はすでに札幌でもサービスを始めている。

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この記事を書いた人

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