中国の ICO 規制について

目次

1. 中国人民銀行が ICO 禁止を通達

中国人民銀行など 7 部門は 9 月 4 日、「ICO 融資リスク予防に関する公告」を発表した。仮想通貨を独自に発行して資金調達をおこなう ICO (新規仮想通貨公開)を禁止する内容となっており、公告の冒頭では「投機的な動きが盛んで、違法な金融活動に関与しており、経済と金融の秩序を著しく乱している」と指摘している。

今回発表された公告は、人民銀行法や証券法といった金融分野の法令に加え、サイバーセキュリティ法や電信条例にも基づくとされる。文中では「ビットコインやイーサ(ETH)等のいわゆる仮想通貨を用いた資金集めは、本質的には許可のない違法な資金調達行為である」と断言し、金融詐欺やマルチ商法といった犯罪につながると強調している。また「いかなる組織や個人も ICO を行ってはならない」として、資金調達行為の即日停止と調達した資金の速やかな返金を求めた。さらに全ての ICO 関連サービスに対し、法定通貨と仮想通貨の兌換やその仲介を禁じる内容となっている。

2. 過熱しすぎた中国の ICO 市場

国家インターネット緊急センター(CNCERT)のまとめによれば、国内にある主な 43 のICO サービスによる 2017 年上半期の資金調達規模は 26.16 億元で、このうち 9 割以上でビットコインとイーサが用いられていた。投資家はのべ 10.5 万人に上り、およそ 8割が男性だ。年代別では 20 代が全体の 32.1%、30 代が 31.2%を占めており、居住地別では広東省、浙江省、北京市、江蘇省、山東省の上位 5 省市が約半数を占めている。

カネがカネを呼ぶ盛り上がりをみせる ICO について、徹底して取り締まるのか、はたまた正式に許可する方向で法令を見直すのか、中国人民銀行や中国証券監督管理委員会の担当者らは 8 月までに繰り返し議論を重ねたようだ。結局、発表から即日有効という形で ICO は全面禁止となったわけだが、ICO のリスクについてはこれまでも散々注意喚起がなされていた。

中国の ICO 市場は、参入障壁がない、法令や規範がない、管轄当局がないの「三ない」状態で、取引の記録がきちんと残されていないため、金融詐欺の温床となっているだけでなく、個人資産の隠し場所となっていたり、資金洗浄の場となっていたり、テロを含むその他の犯罪の資金調達手段になっていると批判されてきた。法律の専門家からは、違法に大衆から資金を集めていることから「非法吸收公共存款罪」、マルチ商法にあたることから「组织和领导传销活动罪」、適切な経営許可等を受けていない「非法经营罪」といった罪にあたる可能性が挙げられていた。

これに対し、多くの ICO プラットフォームの運営者やプロジェクト発起人らは、ICOは違法な資金集めに該当するものではなく、逆に社会や経済の成長を推し進めていると事あるごとにアピールしてきた。わずか 5 日間で 1.85 億米ドルの資金を集め、後にその価値が 50 億米ドルにまで上昇したことで一躍有名になった ICO 発起人・李笑来氏もメディアのインタビューに対し「ICO を取り締まることなんて不可能だ。プロジェクト発起人が ICO を悪用しなければ済むことだ」と強気の発言を繰り返していた。

3. プラットフォームは閉鎖、投資家は海外へ?

当局が公告を発表したのは 9 月 4 日午後 3 時頃だったが、わずか 6 時間後の午後 9時までに 15 の ICO プラットフォームが運営停止、あるいは取引の一時中断を発表した。

これを受けてビットコインの相場は大幅に下落。4 日午後 4 時時点の下落幅は 7%を越え、5 日も 10%あまり下落した。そのほかの仮想通貨も 5 日にかけて軒並み下落したのは日本でも報じられた通りだ。

“ビットコインの申し子”とさえ呼ばれた李笑来氏は、公告の発表から 2 日後にコメントを発表し、当局の指示に従って速やかに返金することを約束した。その上で、自身が関与する複数の企業は常に法令を順守し、ICO 市場の健全化に尽力してきたことを強調。業界関係者に対し規律を守るよう求めると共に、業界の自主ルール策定を呼び掛けた。また、エンジェル投資家として知られ、18 件もの ICO プロジェクトに投資していた薛蛮子氏も、今回の取り締まりに賛同するとのコメントを発表。本当に価値のある正当なプロジェクトと詐欺プロジェクトを分けて考えてほしいと当局に訴え、投資教育等で協力できることがあれば進んで行う意向を示した。

公告の指示に基づき、すでに多くのプロジェクトが返金を進めている模様だが、インターネット上には「返金されない」、「業者と連絡が取れない」といったトラブルの報告が散見される。一方で、投資家たちは海外の ICO プロジェクトに投資する動きを見せており、蜜の味が忘れられない発起人も海外 ICO 市場で再起をかける心づもりのようだ。中国政府はかねてより海外への資金流出に頭を悩ませており、今後、海外 ICO 市場への投資が増加する事態となれば、さらなる規制が行われるとの懸念もでている。

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