中国の外資ブラックリスト規定、判断基準と制裁内容とは

目次

1. 即日適用された外資ブラックリスト規定

商務部は 2020 年 9 月 19 日、いわゆる「外資ブラックリスト規定」を発表した。本規定の正式名称は「不可靠実体清単規定」といい、直訳すれば“信頼できない実体(外国企業・組織・個人)のリスト”に関する規定である。

本規定は、中国の主権や安全に危害を及ぼすか、あるいは中国企業に対して差別的な行為を行う“信頼できない”外国企業等をブラックリスト化し、輸出入や投資、関係者の入国の制限又は禁止などを行うと定めている。9 月 19 日の公表日から即日適用が始まっている。

2. 規定の概要

まず本規定の対象は、タイトルの通り外国の企業、その他組織、個人となっている。ブラックリスト入りの基準は、国際的な経済や貿易、これに関連する活動において次の行為を行う場合となっている。(2 条)

・中国の主権、国家の安全、発展に向けた利益に危害を及ぼす場合

・市場取引ルールに反し、中国企業、その他組織、個人との正常な取引を中断するか差別的な措置を取ることで、中国側企業等の合法的な権益に重大な損害を与える場合実際にブラックリスト入りすると、当該の外国企業等には次の制裁措置が行われる。(10 条)

・中国との輸出入の制限又は禁止

・ 中国国内への投資の制限又は禁止

・関係者の入国の制限又は禁止、交通運輸機器等の輸入の制限又は禁止

・関係者の就労許可、滞在資格、居留資格の制限又は取消

・状況の深刻度に応じた金額の過料

・その他の必要な措置

なお本規定の主管は国務院商務主管部門で、本規定の適用にあたって専門の作業部門を設置するとしている。(4 条)

3. 調査ステップ

ブラックリストへの収載にあたっては、まず商務部の作業部門が自らの判断や中国企業などからの通報を元に、候補となる外国企業等の事前審査を行い、調査実施の可否を判断する。調査の実施は公告される。 (5 条)

調査では、当事者からの聞き取り、関連文書・資料等の閲覧および複製などを行う。調査対象の外国企業等にも陳述や弁論の機会が与えられる。(6 条)

ブラックリスト入りの判断基準は次の通りである。(7 条)

・ 国家の主権・安全・発展に向けた利益に対する危害の程度

・ 中国企業、その他組織、個人の合法的権益に与える損害の程度

・経済や貿易の国際的ルールに沿うか

・その他の考慮すべき要素

調査の結果、ブラックリスト入りが決定した場合、当該外国企業等との取引リスクを公告し、併せて問題行為の改善期限を設けるとしている。(9 条)

いったんブラックリスト入りしたものの、改善期限内に問題行為を解消した場合は、当該外国企業等はブラックリストから削除される。削除の公告から即日、10 条で定める制裁措置を解除するとしている。(13 条)

なお、ブラックリスト入りし、輸出入が制限又は禁止された外国企業等との取引が不可欠な中国企業等には特例措置が設けられており、作業部門に申請し同意を得られれば、当該外国企業等との取引を継続できることとなっている。(12 条)

4. 過度な心配は不要とアピール

本規定は突然発表された感があるが、商務部は 2019 年 5 月に米政府が華為(ファーウェイ、HUAWEI)に対する禁輸措置を出した際、対抗策として外国企業のブラックリスト制度を導入する方針を発表していた。

その後 1 年以上に渡って進展は見られなかったが、米商務省が中国企業が運営するアプリ「TikTok」と「WeChat」の米国におけるダウンロードおよびアップデートを 9 月20 日より禁止すると発表したことを受け、その対抗措置として今回のタイミングで本規定を発表したとの見方が強い。なお、米商務省は、TikTok のダウンロード禁止措置を9 月 27 日からに延期すると発表しており、WeChat については 9 月 20 日の当日に大統領令が差し止められている。

本規定について商務部は、立法プロセスに沿って 2019 年 5 月から 1 年以上の時間をかけて制定したもので、特定の国家や企業をターゲットにした規定ではないと重ねて発言しており、中国の法令を順守し、市場ルールを守ってビジネスを行う外資企業ならば、なんら心配はいらないと説明している。

また最初のブラックリストの発表時期と収載される企業名については、現時点で未定だという。商務部の担当者は、現時点ですでにリストがあるわけではなく、違反があり、調査を行って制裁措置の実施が決まれば、その都度公告すると説明している。事実、ブラックリスト入りの最初のステップである調査実施の公告は、現在までに出されていない。

米中関係が悪化して以降も、中国政府は中国に進出する米国企業に対して個別に報復措置を取ってはいない。米系自動車メーカーから、アパレルブランドに iPhone、果てはハリウッド映画まで、中国の消費者の米国ブランドへの信頼は厚く、また米国ブランドは中国市場に莫大な経済的利益とイノベーション資源をもたらしてきたことも理由の一つだろう。

ただし本規定の適用が始まったことで、外資企業への制裁が可能となる法的な根拠が一つ整ったといえる。現状において日系企業が直接のターゲットとなる可能性は高くないが、米中関係がこの先さらに悪化し、仮に米国企業が本規定に従って制裁を受ければ、対象となった米国企業と関係の深い日系企業に影響が及ぶことも考えられる。また将来、日中関係が危うくなった場合にも、本規定に基づいて日系企業が制裁を受ける可能性が考えられる。

本規定によれば、まずは調査実施が公告されることになっており、突然ブラックリスト入りして制裁が始まることはない。中国ビジネスを行う日系企業においては、差し当たり商務部の公式発表に注意したい。

本規定の全文は、商務部の公式サイトで閲覧することができる。
http://www.mofcom.gov.cn/article/b/c/202009/20200903002593.shtml

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