中国オンラインゲームに道徳審査、版号再開への一歩か

目次

1. オンラインゲームの新たな管理組織が誕生

このほど中国で、オンラインゲームの指導を目的とする「オンラインゲーム道徳委員会(网络游戏道德委员会)」が設立された。オンラインゲームに関連する政府部門や企業のほか、大学や専門機関、メディア、業界団体、青少年問題の専門家など約 100 人で構成されているという。いずれかの政府部門に属しているかは明らかでないものの、新華社の報道によれば中国共産党中央宣伝部の指導下にあるという。

同委員会は、道徳的な争議を引き起こすか世論を動かす可能性がある、或いはすでに引き起こしているオンラインゲームや関連するサービスについて、道徳的観点から評議を行い、管轄部門に意見を申し入れて施策決定の参考にしてもらうことを役割としている。またオンラインゲーム企業に職業上の道徳と社会的責任の履行を順守するよう促し、産業の健全な成長と発展を推し進めることを目的としている。

もともとは 2018 年 5 月に開かれた青少年のオンラインゲーム依存症対策の研究討論会の中で、中国教育学会家庭教育専門委員会の王大龍副理事長が、オンラインゲームの調査、審査、評価、監督、管理に責任を負う組織として設立を提起したものだという。

2. 最初の道徳評議を実施

同委員会は 2018 年 12 月 7 日、オンラインゲームの評議結果を発表した。初回の対象は20 タイトルで、うち 11 タイトルに道徳上のリスクがあるとして「要修正」の意見が付けられた。残り 9 タイトルについては、ゲームの内容等を理由に「批准しない或いは市場から撤退」と厳しい判断をしている。

同委員会は、具体的なゲームタイトルとそれぞれの評議結果については公開していないが、インターネット上には 12 月 10 日ごろから今回の評議対象とされるリストが出回っている。例えば次のようなものだ。

リストの真偽は定かではないが、いずれのゲームも人気が高いだけにインターネット上ではキャラクターの衣装デザインへの指摘があったり、ゲームが暴力的で流血シーンが多いと批判が出たり、歴史上の事実を捻じ曲げていると意見が出たりしていた。

メディアの報道によれば、今回はおよそ 100 人いる委員の中からランダムに 20 人を選出して評議を実施したという。また現時点で道徳評議の基準は明らかにされていないが、近く詳細な基準が公開される見通しだといい、事実上の道徳“審査”が本格的にスタートすることになりそうだ。

3. 待たれる版号の発行再開

中国のゲーム業界では、版号の発行が再開されれば市場はまた回復するとの見方が強く、12 月 20 日から海南島で開かれる中国ゲーム産業年会で、版号の発行再開スケジュールが明らかにされるとの期待も高まっていた。実際、この期待からモバイルゲーム会社 IGG の株価が 12 月 12 日には一時 5.03%も上昇している。

しかし版号の発行が再開されたとしても、オンラインゲームを取り巻く環境は厳しさを増している。今年 8 月に発表された「児童青少年の総合的な近視予防・進行抑制の実施方案(综合防控儿童青少年近视实施方案)」では、オンラインゲームの総数管理に加えて、レーティング制度や未成年のプレイ時間制限策の導入を求めている。遠くない将来にこれらが新たな“規制”として、ゲーム産業にさらに重くのしかかることは確実だ。

尤も、これにいち早く対応したのは騰訊(テンセント)だ。同社は今年 11 月末、特に子供に人気のある「王者栄耀」について、未成年によるプレイが疑われるケースに限り、ログイン時に顔認証を導入した。通常は身分証による実名登録だけだが、祖父母と思われる 60歳以上で登録がされており、未成年によるプレイが疑われ、かつ 1 日のプレイ時間が長時間に及んでいるユーザーを対象にログイン時の顔認証を行っている。今後は中国国内で運営する全てのタイトルに顔認証システムを採用する計画があるといい、他社もこれに追随する可能性は高い。

またレーティング制度については、今年 3 月の両会(全国人民代表大会と全国政協会議)に素案が提出されている。これによると、年齢による区分(6 歳以上、12 歳以上、18歳以上、全年齢の 4 種類)とゲームの内容による区分(健全さ、時間制限、対戦度など)を掛け合わせ、グループごとに基準が設けられる強制性の標準規格となっている。もちろんユーザーの参考程度に表示されるものではなく、ゲーム会社はレーティングの区分に応じて年齢確認システム等の必要な対策をとる必要があり、厳格に実行しない場合は営業許可証の取り消しを含む厳しい処分が検討されていると伝えられる。

ここまで見てきたように、版号の新規発行がなかなか再開されない理由の一つには、本人確認やプレイ時間制限、レーティング制度、そして今回の道徳評議といった“ゲームから未成年を守る”ためのルールがまだ万全でないことがあるだろう。制度や仕組みがきちんと機能しない状況で新規タイトルのリリースを許可しても、中国政府のいう“不適切なゲーム”が増えるだけだからだ。

2018 年上半期の中国のゲーム市場の売上は約 1,050 億元で、前年同期比 5.2%の伸びだった。伸び幅が一桁に落ち込んだのは 2008 年以降では初めてだが、新規リリースが減少したにもかかわらずプラス成長を保った。市場が過度に縮小することを警戒しながらも、当局がルール整備の状況を待って版号の発行再開をするべくタイミングをはかっているのだとすれば、再開にはまだ少し時間がかかる可能性が高そうだ。

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