1. ふくらむ越境 EC の需要
中国の IT 調査会社、易観国際のまとめによると、2015 年の越境 EC 取引額(輸入分)は2063.8 億元(約 3.3 兆円)で、2018 年には 6118.4 億元(約 9.8 兆円)にまで拡大すると予測している。
また経済産業省がまとめた「平成 26 年度 電子商取引に関する市場調査(平成 27 年 5月)」によれば、 2014 年の日本から中国向けの越境 EC 取引規模は 6,064 億元で、前年比 115.4%増。2018 年には 1 兆 3,943 億円にまで拡大すると予測している。
越境 EC の利用者は、男女ともに 1980 年代から 90 年代生まれの若者で、男女比は32:68 と女性が多い。大学卒あるいは大学院卒が全体の 83%を占めており、都市部に住む比較的高収入の層が中心となっている。これまで購入した商品は「衣類・靴・かばん」が最も多く、化粧品、ベビー用品、デジタル機器も人気となっている(易観国際「2015-2016 年京東全球購消費白皮書」)。
2. 現地法人がなくても出店可能に
中国で EC 事業を始める際、まず出店を検討するのが二大 BtoC モールの「天猫(TMALL)」と「京東(JD)」だろう。どちらも少し前までは中国企業しか出店できなかったが、新たに誕生した越境 EC 専門の姉妹モール「天猫国際」「京東全球購」ならば、外資企業が直接出店することができる。出店条件自体が“海外に企業実体があること”とされており、越境 EC モールに店舗を持つことがそのまま“海外ブランド製品の直送販売”を意味する。興味のある消費者ならば、直接こちらの越境 EC モールにアクセスして、目当ての商品を探すだろう。
注文に応じて日本から EMS や国際宅配便などで商品を直送する「直送モデル」ならば現地法人は不要だ。いったん越境 EC 向け保税区の物流倉庫に商品を納め、注文があれば保税区から発送する「保税区モデル」という選択肢もあるが、こちらは保税区のある自由貿易試験区内に会社の設立が必要となる。しかし保税区モデルは、国内配送であるため消費者の送料負担が軽く、配送時間も短い上、返品対応も容易だ。どちらの方法を採用するかは、商品の種類や取り扱いアイテム数などをもとに総合的に判断する必要があるだろう。
3. 越境 EC モールの特徴と出店手続き
● 天猫国際 (TMALL.HK) https://www.tmall.hk
阿里巴巴(アリババ)グループの BtoC モール「天猫(TMALL)」が 2014 年 2 月に開設した越境 EC 専門モール。化粧品や食品といった分類別のナビゲーションのほか、国別のページが用意されており、日本の商品を集めた「日本館」には、マツモトキヨシ、花王、LAOX、爽快ドラッグ、イオン、カルビーなどが出店している。
日本館のトップページには、アイテムごとにおすすめ商品が掲載されており、クリックすると掲載商品の詳細ページが表示される。ページ構成は本家天猫と同様に縦に長く、利用者からの店舗評価や商品へのコメントもある。天猫に慣れ親しんだ利用者にとってわかりやすく、違和感なくショッピングができる作りになっている。
<出店について>
出店条件は、①海外に法人があること ②ブランド所有企業、ブランド所有企業から代理販売権を授与されている企業、ブランド所有企業が発行した仕入れルートに関する証明書を提出できる企業のいずれかであること の 2 点のみとなっている。ただし、海外で有名な実店舗やネットショップ(BtoC)がある場合、あるいは中国市場に参入していない有名ブランドの場合は優先して出店を認めるとしている。
出店形態には、売り場型旗艦店・ブランド旗艦店・専営店の 3 種類がある。
出店申請時に提出が必要な書類は、①法人登記書類(商業登記証・経営許可証・営業ライセンス等) ②授権代表人声明書 ③授権代表人の身分証(身分証・パスポート・海外運転免許証) ④税務登記書類あるいは直近の納税証明書 ⑤海外銀行の口座開設証明書となっており、さらに出店形態によって⑥販売する商品すべての商標登録証、商標所有者や権利人が発行した出店授権書 ⑦正規ルートでの仕入れを証明するもの、ブランド所有企業が発行した仕入れルートに関する証明書が必要だ。
商品とサービスに対する要求事項も記されている。返品用拠点を中国大陸に設置しなければならないため、専門業者を利用することも選択肢の一つだ。
出店にかかる費用には本家天猫と同様に、大きく分けて保証金、技術サービス費、販売手数料の 3 つがある。いずれも人民元で納める必要がある。
― 保証金:規定違反があった場合に、天猫国際あるいは消費者へ賠償するための預かり金で、開店前に一括納付する。販売品目が、医療・ヘルスケア、アダルトグッズ、OTC薬品・医療機器、健康食品、粉ミルク・栄養補助食品・菓子、マタニティ用品に該当する場合は 30 万元。品目を問わず 2 つ以上の国や地域に発送する場合は 30 万元。どちらの条件に該当しない場合は 15 万元。
― 技術サービス費:販売品目によって違うが、年間 3 万元あるいは 6 万元のいずれか。例えば婦人服は 6 万元、化粧品は 3 万元、粉ミルクは 3 万元、玩具は 6 万元。返金はされない。
― 販売手数料:送料を含む商品代金に対して取引 1 件ごとにかかるもので、品目によって 0.5~5%。例えば婦人服は 5%、金製品は 0.5%、スキンケア用品は 4%、子供服は5%、粉ミルクは 2%など。
なお保証金の支払いや売上金の受け取りには、海外版の支付宝(Alipay)を利用する。中国国内向けの支付宝は利用できないため注意が必要だ。取引通貨は出店契約時に指定することができ、顧客が注文したタイミングの為替を用いて精算するとしている。
● 京東全球購 (JD Worldwide) https://www.jd.hk
大手 BtoC モール「京東(JD)」が運営する越境 EC 専門モールで、2015 年 4 月にサービス開始。取り扱いアイテム数は 15 万以上で、世界から 450 社以上が 1200 ものブランドの商品を販売している。国別ページの「日本館」には、楽天市場や健康食品のオリヒロなどが出店している。
京東は自社販売とモールを組み合わせた、いわば amazon のような運営形態をとっている。京東全球購においても自社で仕入れた商品を保税区から発送する仕組みを整えており、自社販売の商品のみを集めたページを用意している。保税区からの配送も自社の物流網を使っており、注文から受け取りまでは 5~20 営業日だ。まずはこのサプライヤーとして越境 EC に参入するのも一考に値するだろう。
<出店について>
出店条件は、①海外に法人があること ②海外の小売商あるいは貿易商であること③ブランド所有企業、ブランド所有企業から代理販売権や小売権を授与されている企業、ブランド所有企業が発行した仕入れに関する証明書を提出できる企業のいずれかとなっている。また、メーカー自身や著名な小売業者、海外の有名ブランド、有名な小売店やネットショップ(BtoB・BtoC)、中国市場に参入していない海外の有名ブランドのいずれかに該当する場合や、ベビー用品、服飾品、化粧品、保健品、食品、かばん・時計を扱う店舗が優先される。
出店形態は、旗艦店(売り場型旗艦店・メーカー直営旗艦店)・専営店(複数ブランドを扱う)・専売店(特定のブランドを扱う)の 3 種類がある。出店申請時に必要な書類は天猫国際と同様で、商品とサービスに対する要求事項では 72 時間以内の発送が求められる。
出店にかかる費用は、保証金、プラットフォーム使用料、販売手数料の 3 つで、保証金は品目によって 1 万米ドルまたは 1.5 万米ドル。プラットフォーム使用料は毎月 83.3米ドル、販売手数料は品目によって 1~10%で、例えば婦人服は 5%、スキンケア用品は 4%、照明器具は 7%、小型家電は 3%、粉ミルクは 2%などとなっている。売上は月単位で精算され、グループ傘下の決済会社である網銀在線(Chinabank payments)を通じて米ドルに換金した後振り込まれる。