浙江托普雲農科技股フェン有限公司(托普雲農)は、農業や漁業といった第一次産業のデジタル化を推進するテクノロジー企業で、2008年4月に浙江省杭州市に設立された。近年は自社開発のIoTソリューションの販売に加えて、産官学連携モデルによるビッグデータを用いた応用研究にも取り組んでいる。2021年4月には、「2020スマート農業トップ30」に選ばれた。
- 浙江托普雲農科技股フェン有限公司
- 所在地:浙江省杭州市拱墅区祥园路88号3幢1101室
- 法定代表人:陳渝陽
- 設立:2008年4月7日
- 登録資本金:6396万元
- 従業員数:266人
- グループ企業:100%子会社6社(センサー製造等)
- http://www.tpwlw.com
現在の主力事業はICTを活用した一次産業向けのソリューションサービスで、農業や・漁業向けのスマート野菜や果物等の大規模な温室栽培向けの農業監視制御システム、水田や温室、果樹園等向けに水と肥料の状況を管理する水肥一体化監視制御システム、害虫や病気の発生等を監視する植保情報化監視制御アラートシステム、水産養殖業向けの管理システム、畜産業向けの畜禽養殖管理システム、農業者向けのERPシステム、農産品の品質安全トレーサビリティシステム、農産品向けのECシステムなどがある。政府調達ではこれまでに150件超を落札した実績を持つ。
すでに登録が済んでいるものだけで国内特許が105件、ソフトウェア著作権が95件あり、独自開発したスマートデバイスは138種類に上る。
また産官学連携モデルでは、国家レベルの研究機関である中国工程院、中国科学院のほか、浙江大学、浙江農林大学、中国農業大学、中国計量大学等10校と提携して研究開発に取り組んでいる。
なお2015年10月にベンチャー企業を対象とした店頭株式市場「新三板」に上場したが、2019年3月に上海証券取引所の科創板への上場を目指すことを理由に上場廃止した。上場中の2018年度の売上は7558万元、純利益は1929万元、1株当たり利益は0.32元だった。
2021年10月には農業分野の展示会に出展、スマート農業分野でも高い評価を受けている(同社公式サイトより引用 http://www.tpynkj.net/news/detail/817.html)
新たな水産養殖業を推進するスマートソリューション
水産養殖では、養殖池の水温、光、溶存酸素、PH、水質を左右するアンモニア、窒素、硫化物等のコントロールが重要になるが、これまでは生産者の経験と勘によるところが大きく、天候の変化や病気の発生で大きな損失が出ることが多かった。また養殖魚に与えるエサ(水産飼料)は、成長効率を左右するだけでなく、養殖魚の味にも大きく影響するが、エサの量や与えるタイミングも経験によって判断され、エサの栄養価まで考えている生産者は多くなかった。
托普雲農の水産養殖管理システムは、水産養殖業の成長の足かせとなっていたこれらの生産管理にまつわる課題をIoTで解決することで、養殖魚の生存率や成長率を大幅に向上させ、生産性と経済性を高めることにつなげている。
同社のシステムは、水質センサーなどを含むスマート監視観測システム、魚の成長に応じたエサの量を管理するスマート管理システム、養殖場の様子を遠隔で確認できるビデオモニタリングシステム、管理スタッフがスマートフォンで各種データや設備の稼働状況を確認することができるモバイル遠隔管理システム、養殖場の環境を総合的に制御するスマート制御システムなどから成っている。
導入にかかる費用は養殖施設の規模によるが、各種センサーが1種類につき1台数千元、オンライン水質観測機は1台約15万元、気象観測装置が小型のもので5万元~、高機能な全自動タイプであれば10万元以上、ろ過装置や汚水処理装置が処理能力の大きさに応じて1台数万元~となっており、比較的大規模な投資が必要となる。
托普雲農の観測機器の一例(いずれも同社公式サイトより画像引用)
導入事例
上海蟹の養殖事業
野生の上海蟹は長江流域を中心に生息しており、生息数は1ムー(約666平米)あたり100匹ほどと言われる。中国では上海蟹の養殖が盛んに行われているが、一般的な養殖施設では、同じ1ムーの広さで600匹以上を育てている。そのため、恒常的に水槽内の酸素が不足し、エサも十分に行き渡らないことから、蟹の成長に影響が生じるという課題を抱えていた。
江蘇省にある上海蟹の養殖施設では、養殖池に托普雲農のセンサーを設置して、水温、溶存酸素、PH、アンモニア、窒素、硫化物、亜硝酸等の詳細なデータを時々刻々と収集している。いずれかの数値が事前に設定した基準値を外れた場合には、システムが自動で対処するよう設定されている。人による対応が必要な問題が生じた場合は、すぐにSMSで管理担当者にアラートが発せられる仕組みだ。
現時点のデータを収集して養殖池の状態を判断するだけでなく、過去のデータから、「天候が悪く水温が低下した日には、エサの食いつきが悪い」と判断した日には、自動で適切なエサの量を決めて給餌するといったことも行う。これらのデータは事務所内のパソコンにある水生環境監視ソフトやスマートフォンからも確認できるため、頻繁に現地に赴く必要がなくなり、必要最低限の人数で管理が行えるようになった。
また事業規模が比較的大きく、複数の場所に養殖施設を持っている生産者は、毎日のように養殖施設を巡回して養殖池の様子を確認し、担当者に指示を出すのが常であった。同社のシステムを導入後は、給餌や水質管理が自動化され、施設内の各所や養殖池に設置されたビデオモニターで現場の様子を確認することができるようになったため、管理負担の大幅な軽減にもつながっている。
湖州南太湖農業モデル基地での淡水魚養殖
浙江省湖州市は中国屈指の水産養殖の生産地で、かつては「桑基魚塘(そうきぎょとう)」と呼ばれる中国の伝統的な養殖法が用いられていた。桑基魚塘とは自然循環農法の一種で、養殖池として堀った池の周りに桑の木を植え、桑の葉で養蚕をしながら、廃棄する蚕をエサとして魚に与え、池の底に沈んだヘドロを桑の木に肥料として与えれば、桑が良く茂って池にほどよい日陰を作るようになり、魚も蚕も良く育つというものだ。現在はシルクの生産が減ったことや配合飼料が手に入るようになったことで、桑基魚塘を行う養殖業者は少なくなっている。
歴史的にも水産養殖が盛んな湖州市に設置された南太湖農業モデル基地は、2011年に最初に国から指定を受けた76ある農業産業化モデル基地の一つで、農業用ハウス200棟以上、養殖池1500ムー(100万平米)がある。托普雲農は2012年から同基地のIoT実験プロジェクトに参加し、スマート水産養殖の実証実験を行っている。