中国のオンライン医療サービス市場の現状

オンライン医療サービス市場は2000億元に成長

中国のオンライン医療サービスの市場規模は、コロナ禍の2020年に1960.9億元に達したと見られ、前年に比べて46.7%の増加となった。新型コロナウイルスの完全拡大で外出を控える人が増え、さらに医療関連政策の後押しもあったことから、2021年6月時点の各種オンライン医療サービスのアクティブユーザー数は、インターネットを介して医師の診察が受けられるオンライン診療が1583.9万人、病院の診察予約サービスは958.3万人に上った(易観調べ)。

都市部の若い男性の利用が最多、地方や高齢者への浸透に期待

日本では、体調が悪くなればまずは身近なかかりつけ医を受診し、必要があれば地域の大きな総合病院を受診する。しかし中国では、大都市であっても個人経営のクリニックが少ない上、大きな病院の方が良い医者がいると思っている人が多いため、最初から公立の大きな総合病院を受診するのが一般的だ。

さらに中国の病院は医師のランクによって診察料に差が付けられている。多くの人は著名な医師に診てもらおうとするため、有名な病院や大きな病院であるほど、診察の予約が取れない、予約が取れても診察まで何時間も待たされるといった問題が発生し、社会問題と化していた。

このように受診すること自体が大変であるがゆえに、仕事のある人は体調が悪くても病院に行かずに済ませたり、薬局の薬で治そうとしたりすることが多かった。

中国政府系の統計報告(第48次中国インターネット発展状況統計報告)によれば、2021年6月末時点のインターネット利用者の男女比は、男性が51.2%、女性が48.8%とほぼ半々となっているが、オンライン医療サービスの利用者は2021年5月時点で、全体の63.3%が男性で、女性は36.7%と明らかに男性の利用が多くなっている。

年代別で見ると、前出の統計報告ではインターネットユーザーの比率は20-29歳、30-39歳、40-49歳がいずれも20%程度であるのに対し、オンライン医療サービスの利用者は24-30歳が60.2%と圧倒的に多くなっているという特徴がある。24-40歳までのユーザーが全体の80%以上を占めており、働き盛りの若い年代が病院に行く代わりに、オンライン医療サービスを利用している様子が伺える。

またオンライン医療サービスのユーザーの居住地を見ると、上海や北京のような超1級都市が19.1%、省都のような1級都市が49.3%を占めている。さらに個人の消費水準別にユーザーを見ると、高消費群が47.0%、中消費群が41.1%と全体のおよそ9割を占めている。

オンライン診療サービスは、どこに住んでいても医療サービスが受けられるものであり、オンラインでの診察や薬の処方にかかる費用も実際に病院へ行った場合とそれほどの大差はない。しかし現在は大都市に住む、比較的収入の多い人たちの利用に偏っている状況にある。

インターネットで医師の診察が受けられる「オンライン診療」

中国政府はオンライン医療サービスの中でも特に、インターネットを通じて医師が遠隔で診察を行うオンライン診療の拡大に取り組んできた。コロナ禍の2020年2月以降、感染予防を目的にオンライン診療を普及しようと様々な政策を矢継ぎ早に発表している。

まずは、日本の健康保険に相当する中国の公的医療保険制度で、オンライン診療を保険対象とすることを明確にした。これによりオンライン診療を選択する人が増えたが、従来のように直接医師が対面で診察するわけではないオンライン診療について、診断の正確さや安全性を懸念する声が出ていたことから、次にオンライン診療の監督管理を強化する方針を明らかにする通知を発表している。

その後、オンライン診療をさらに一歩進めた「スマート医院」の建設を支援して、医療分野でもオンラインとオフラインが融合したサービスの模索も始まっている。当初はオンライン診療を受けた後は、処方箋を持って病院や提携の薬局に薬を買いに行かなければいけなかったが、処方薬のインターネット販売が許可されたことで、オンライン診療を終えたらすぐに処方薬が自宅へ届くサービスが始まった。

2パターンのオンライン診療

中国のオンライン診療には、既存の病院がインターネットを活用する「医院+インターネット」とインターネットサービスに病院や医師が協力する「インターネット+医院」の2つのパターンがある。

<医院+インターネット>

病院がインターネットを活用する「医院+インターネット」のパターンでは、規模の大きな病院がインターネットを活用することで、提供可能な医療サービスの範囲を拡大するようなイメージだ。上海市第六人民医院が開設したインターネット医院や福建省立医院のインターネット医院が知られているが、2020年1-9月だけで244もの病院が新たにインターネット医院を開設している。全国のインターネット医院は現在1,000を超える。

<インターネット+医院 >

逆にインターネットサービスに病院や医師が協力する「インターネット+医院」では、保険会社の平安集団が運営するアプリ「平安好医生」、大手ECサービスの京東が運営する「京東健康(JD Health)」、同じく大手ECサービスのアリババが運営する「阿里健康(Ali Health)」、2010年から病院のオンライン予約サービスの提供を始めた「微医(WeDoctor)」が四大サービスと言われている。いずれのサービスでも医師が対応する健康相談、オンライン診療、最寄りの病院の診察予約、病院紹介、病歴管理、処方箋の発行、処方薬の販売と配送、慢性病の管理、公的医療保険や民間の医療保険の利用等が利用できる。

なかでも微医は医療分野の新興企業として注目されており、これまでに約2,000億元もの資金調達に成功している。自ら全国に27軒の病院を運営して医療相談やオンライン診療に対応しており、提携する病院は全国におよそ1万軒、登録する医師は24万人を超える。ユーザー数は2.2億人以上で、このうち有料会員は毎月平均2,500万人おり、2020年の売上は18.3億元に上っている。

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この記事を書いた人

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