中国の映像コンテンツ市場の現状と周辺サービス

目次

1. テレビドラマ市場は制作費の高騰で赤字に

中国国内の映像制作会社は数千社に上り、ドラマを制作する会社だけでも 5,000 社を超える。大手制作会社として知られるのは、中央電視台、中影集団、華誼兄弟、海潤影視、華策影視、光線伝媒、博納影業、楽視影業などで、これらの会社は 1 社で年間に数百話を制作するが、小規模な制作会社では数年に 1 作品ということもある。

放送許可を取得するドラマは毎年 15 万話ほどだが、このうち放送されるのは年間約8,000 話、主要テレビ局で放送されるのは約 3,000 話となっている。大手の配給会社としては中央電視台、浙江華策、華録百納、海潤影視、小馬奔騰等が知られるが、年間 200話以上を制作する会社はすべて自身で配給を行っている。

中国電視劇産業調査報告によれば、2014 年のドラマ作品への総投資額は約 189.6 億元で、このうち放送許可取得済み作品の制作および広告宣伝費は合計で約 145.9 億元となっている。版権取引総額は約 174.8 億元で、テレビなど既存メディアの取引額が約134.8 億元、ニューメディアと呼ばれる動画配信サービスなどの取引額が約 38 億元、海外との取引額が約 2 億元だった。

新作ドラマの版権は 1 話につき 100 万元以下が相場だが、多くのテレビ局が独占放送を求めるようになると 1 話 90-150 万元に高騰。湖南省に拠点を置く衛星テレビ局・湖南衛視は、2013 年に金庸の武侠小説「笑傲江湖」の実写ドラマ(全 42 話)の最初の放映権を 1 話185万元で購入。2014 年には宮廷ドラマ「武媚娘伝奇」(全 96 話)を 1 話約 200 万元で購入している。

中国唯一の女帝、武則天が主人公の歴史ドラマ

話題性を高めるために有名俳優や有名監督を起用するなど、ドラマの制作にかかる費用は増大するばかりだが、当局がテレビ放送中に挿入するコマーシャルを制限したことで、2014 年は市場全体で 14.8 億元の赤字となった。費用をかけて制作したものの放送されないままの在庫も増加しており、在庫となっている作品と放送された作品の比率は10:1 ともいわれる。これら“お蔵入り”となった作品は、後述する動画配信サイトで配信されることもある。

2. 映画ブーム到来、制作本数も右肩上がりに

中国における映画の歴史は古く、1905 年に撮影された「定軍山」が最初の国産映画と言われる。それからおよそ 100 年が過ぎた今、全国には 4,545 の映画館があり、スクリーン数は 2 万 285 に上る(2014 年 4 月時点)。IMAX デジタルシアターも全国に 250 カ所以上あり、まるでニコニコ動画のように上映中の映画にリアルタイムでコメントできる「弾幕電影」という新しい試みも行われている。映画は都市住民の娯楽の一つとして広く定着し、興行収入はアメリカに次いで世界 2 位の規模にまで成長中だ。

エンターテイメント分野を専門とする芸恩数拠の調査によれば、2015 年 10 月単月の興行収入は 42.05 億元で、前年同期比 52.17%増加。上映回数は同 41.39%増の 515.78万回、観客数も同 52.7%増の 1 億 2,696 万 7,600 人と好調に伸びている。

今年 1-10 月の累計興行収入は約 370 億元で、約 60%の 222.88 億元が国産映画によるものだった。2 月と 7 月にピークがあるのは、2 月は春節(旧正月)の連休に合わせたいわゆる“お正月映画”が公開されるためで、7 月は当局が毎年 6 月 10 日から 7 月 10日までの 1 カ月間を「国産映画保護月間」と定めており、この期間中は海外映画の新作公開が事実上できないためとみられる。

では、中国では年間どれくらいの映画が作られているのだろうか。博恩数拠のまとめによれば、過去 10 年間はほぼ右肩上がりで増えており、2014 年は合計 618 本の劇映画が制作された。うち 38 本は共同制作だ。このほか 2014 年にはアニメ映画が 40 本、記録映画が 25 本、科学映画が 52 本、3D 等の特殊映画が 23 本制作されている。

また制作会社別にみると、2014 年に上映された本数は中影集団が 29 本で最も多く、2 位から 10 位までは電影頻道が 18 本、華夏が 15 本、光線影業が 11 本、博納影業が 8本、華誼兄弟、万達影視、峨眉電影、八一廠がそれぞれ 7 本、楽視影業が 6 本だった。香港の映画製作会社である英皇、寰亜、寰宇、銀河映像などとの共同制作も盛んで、2013年に当局から共同制作の許可を受けた 55 作品のうち、香港との共同制作はおよそ 6 割の 34 作品に上る。また 2014 年以降は中国の映画会社によるハリウッドへの投資が急増し、EC 大手の阿里巴巴や検索大手の百度(Baidu)といった異業種からの参入も目立つ。

広電総局電影局の張宏森局長は 2015 年初頭に行われたメディアのインタビューで、「毎日どこかで映画館が 3 館オープンし、毎日 15 ずつスクリーンが増えている。映画の経済効果はテレビ放映やゲーム化といった直接的なものだけでなく、レジャーや交通、飲食、ショッピングにまで波及する。市場にはまだ大きな伸び代が残されている」と語ったが、一方で「国産映画は発展途上にあり、制作技術の遅れや専門人材の不足が課題だ」と指摘。2014 年末までに同局が世界 10 カ国と共同制作に関する合意書を交わしたことに触れ、中国映画の更なる成長には海外への出資や共同制作による経験の蓄積が欠かせないとの考えを明らかにしている。

3. ニューメディアが市場を救う?

中国ではスマートフォンの普及によって、ニューメディアと呼ばれるインターネットを通じた動画配信サービスや SNS が急成長を遂げている。かつてネット上には海賊版が氾濫していたが、この数年は人気作品を独占配信するために大手動画配信サイトが率先して版権を購入し、自ら海賊版の撲滅に乗り出している。

動画配信サイトは今やドラマや映画の新たな収入源の一つとなっている。テレビ放送や劇場上映で全く相手にされなかった作品が、視聴者の口コミをきっかけに爆発的な人気を得ることもあり、国内外の話題の新作からマイナー作品まで幅広く揃う。2010 年初め頃は新作ドラマの独占配信権が 1 話あたり 1 万元もしなかったが、同年末には 1 話15 万元に高騰。2012 年には約 1 万話が売買され、1 話の価格は平均約 30 万元にまで膨らんだ。2013 年には 1 話 100 万元を超えた新作もあったが、2014 年後半からは 1 話40 万元程度に落ち着いている。

騰訊視頻は先日、2016 年の版権購入計画について、国内外の超有名 IP を中心に数十億元の予算を組んでいることを明かした。業界では、過去 20 年間の世界の有名 IP は今後 2-3 年で買い尽されるとの見方も出ており、IP 購入熱は当面冷めそうにない。

これに対し、自社で制作スタジオを設立し、より面白く、よりスポンサーを得やすい作品を低コストで制作する動きも目立つ。芸恩数拠の調査によれば、2013年に 1,000 話足らずだった自主制作作品は、2014 年に年間 1,700 話を超えた。従来のドラマに引けを取らないクオリティで高い人気を得ており、優酷、楽視、捜狐、騰訊、愛芸奇といったサイトが特に力を入れている。

愛奇芸の自主制作ページには、ドラマ、アニメ、バラエティ、音楽、語学教材など 155 作品が並ぶ。有料会員はいつでも全話を視聴できるが、無料会員は毎週 1 話ずつしか見ることができない。

4. 中小制作会社の“掘り出し物”が見つかる版権取引ビジネスも活況

ニューメディアの登場により、無数にある中小制作会社との版権取引を仲介するサービスが注目されている。売り手と買い手の間に立つ単なる仲介はもちろん、制作会社から買い取った版権をメディアに販売するビジネス、第三者の立場で作品の価値を算定して適正な売買をサポートするサービス、版権取引のプラットフォームを立ち上げて売り手と買い手のマッチングを行うサービスなど様々だ。大手とされる会社には、国家版権出版機構などによって設立された中録国際のほか、華視網聚、盛世驕陽、佳韻社、早点影視、飛揚視界、飛立新媒体などがある。

例えば、佳韻社(JY Entertainment、http://www.jiayunshe.com)は、中国で最も早い 2007年から動画コンテンツの管理・販売サービスを行っている。映画やドラマ、アニメなど2 万時間超える映像作品のネットワーク配信に関する独占的な権利を所有しており、日本アニメの版権取引にも参与するとしている。

なお 2015 年夏には、中国で初めての国産アニメに特化した海外向け版権取引プラットフォーム 、「 功夫漫世界 (KUNGFUWORLD)」(www.dmw365.com)がサービスを開始した。取り扱うのは中国の中小制作会社が制作したアニメ作品で、優秀な国産アニメの海外進出にいっそうの弾みがつくと期待されている。

5. 映像作品の急増でポストプロダクションの需要も増加

映像コンテンツの市場拡大に伴い、中国のポストプロダクション(中国語では后期制作)分野も大きな成長を遂げている。つい 5 年前まで国内で映像の視覚効果や特殊効果を得意とする人材を見つけるのは困難だったが、この数年で中小規模の専門スタジオが続々と誕生しており、2014 年の市場規模は前年比 10%増の 88.6 億元に達した2020年には 150 億元を超えるとの予測もあるが、現時点ではドラマや広告のポストプロダクションが中心で、高い技術力が必要な映画に対応できる会社はごくわずかだ。さらに人材不足も深刻で、需要を満たすには各種専門技術者が 20 万人ほど足りないと言われる。映像制作やデジタル制作を専攻した学生の就職率は 93%を超えており、美術・芸術や IT 分野を専攻した学生が専門学校や職業訓練学校等を経て就職を目指すケースも増えている。

中国でポストプロダクションを手掛けるのは、大きく分けて国有映画会社のグループ会社、民間の専門スタジオ、外資系スタジオの 3 つで、なかでも民間スタジオの躍進が目を引く。

● 华龙电影数字制作公司 http://www.hualong-digital.com

中国最大の国有映画会社である中国電影集団のグループ会社で、2000 年 3 月に設立された。国内唯一の“デジタル映画産業化モデル拠点”に指定されており、政府から手厚い資金援助を受けている。

国内の有名映画監督からの信頼は厚く、これまでに「天下无贼」、「天地英雄」、「孔雀」など 100 作品以上のポストプロダクションを手掛けている。近年はハリウッド映画や韓国映画でも手腕をふるう。

● 北京天工异彩影视科技有限公司 (Phenom Films) http://www.phenom-films.com

2013 年 6 月に天工映画、異彩影視、楽盛文化、異彩映画の 4 社が合併して誕生した総合ポストプロダクション会社。

従業員数は 150 人ほどだが国内最高の技術力を持つと評され、設立直後から中国映画のほとんどの大作でポストプロダクションを手掛ける。北京とロサンゼルスに拠点を持ち、代表作には「西游记之大闹天宫」、「大圣归来」、「敢死队 3」、「唐山大地震」、「一九四二」などがある。2014 年 2 月には楽視投資などが 5000 万元の投資を行っている。

● 中影集团北京影视后期制作分公司 (China Film Post) http://www.chinafilmpost.com

中国電影集団に属するポストプロダクション会社で、国家第 11 次 5 カ年計画(2006-10年)の文化産業推進プロジェクトとして建設された中影デジタル制作基地の完成に伴い設立された。

53 万平米の広大な敷地に、撮影スタジオや機材倉庫、編集センターなどが立ち並び、音声編集室 だけで 52 室、特殊効果編集室が 10室、CG 制作室や立体映像制作室が 10 室以上ある。手掛けた作品は 「云水谣」、「立春」、「一个人的奥林匹克」、「赤壁」など。

● 环球数码创意控股有限公司 (GDC) http://www.gdc-tech.com

2000 年に広東省深センで創業し、2003 年 8月に香港創業ボードに上場。香港本部のほか、深セン、北京、東京、北米などにも拠点を置く。

CG を得意としており、国内外の映画のポストプロダクションのほか、3D アニメ映画の制作やデジタルシネマソリューションの提供にも力を入れている。世界最大規模の CGプロフェッショナル育成機関としても有名で、深セン、広州、上海の 3 カ所にある専門学校からこれまでに 5000 人以上の人材を輩出している。

● 上海上影数码传播股份有限公司

上海電影集団(上影集団)傘下のポストプロダクション会社で、上影集団、洋浦新九洲実業公司、上海東方広播電視技術公司などの投資によって 2002 年 11 月に誕生した。前身は上影集団電脳特技制作中心。国内外の映画からドラマ、ゲーム、広告まで幅広く手掛けており、代表作には「紫蝴蝶」、「最后的爱,最初的爱」、「2046」などがある。

● 无锡灵动力量文化传媒有限公司 (SOULPOWER) http://www.soulpowerchina.com

2008 年に中国で最初の 3D アニメ映画「齐天大圣前传」を制作したスタジオで、3D 映像の撮影とポストプロダクションをワンストップで行う 3D 総合スタジオとして定評がある。設立は 2007 年で、300 人以上の専門人材を抱えており、北京とロサンゼルスにも拠点を持つ。

中国で大人気を博した「太极」シリーズのほか、「痞子英雄 2」、「画皮 2」など人気映画の 3D 化を数多く手掛ける。海外作品では、アメリカの「バイオハザードⅣ」、「コナン・ザ・バーバリアン 3D」、「ピラニア 3D」、「インモータルズ」などの 3D 化を担当した。

● 特艺集团 (Techinicolor) http://cn.technicolor.com

フランスに本社を置く家電・娯楽産業関連企業のテクニカラー社の中国拠点で、2004年 10 月に北京にラボを開設。

中国ではポストプロダクションのほか、映像技術開発、コンテンツ販売、知的財産権管理なども行っている。代表作には「夜宴」、「集结号」、「非诚勿扰」、「山楂树之恋」などがある。

● 上影特艺影视技术有限公司 (Technicolor SFG Film Technology Shanghai Co.,Ltd)

すでに中国でポストプロダクション事業を展開していた仏テクニカラー社と上海電影集団が合弁で設立した新会社。広告、動画、映画のポストプロダクションだけでなく、携わった作品の海外展開も行っている。

● Base FX http://www.base-fx.com

2005 年に北京で設立され、中国と北米を中心に 100 作品以上のポストプロダクションを手掛ける。2010 年にはアメリカ映画の「ザ・パシフィック」のポストプロダクションを担当し、エミー賞ミニシリーズ部門で中国初となる視覚効果賞を受賞している。

2015 年 4 月には、視点特芸、天工異彩など共に 20 社あまりが加盟するポストプロダクションの産業連盟、中国影视后期产业联盟を設立し、人材の育成と海外進出に注力している。

● PO 朝霆 (Post Production Office Limited) http://www.postproductionoffice.com

香港の人気俳優、謝霆鋒(ニコラス・ツェー)が 22 歳だった 2003 年 2 月に創設した香港を代表するポストプロダクション会社。香港を拠点に上海、北京、杭州、台湾にもスタジオを持つ。自身が出演する映画はもちろん、ミュージック・ビデオや広告のポストプロダクションを得意とする。映画では「全城热恋」、「财神客栈」、「逆战」など、映像広告では日産やフォード、ポルシェ、オリンパスなどの作品を手掛けている。

2013 年の売上は 8,000 万香港ドル(約 13 億円)に達し、毎年 50%のスピードで成長している。2015 年 9 月には香港の制作部門を解散し、受注が好調な上海と北京に軸を移すことが伝えられているが詳細は明らかでない。

● 天下一電影制作有限公司 (ONE COOL FILM) http://www.onecoolfilm.com

2013 年に設立された香港の映画制作・ポストプロダクション会社で、現在は香港の人気俳優、古天楽(ルイス・クー)が買収し、社長を務める。さらに 2014 年初頭には、数多くの受賞歴がある香港の CG 制作会社、FAT faceproduction(http://www.fatface.hk)の株式の半分を取得し、天下一グループの傘下に収めた。いずれも古天楽が出演する数多くの映画の特殊効果を手掛けており、天下一集団として 2017 年頃までに上場する計画が伝えられている。

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この記事を書いた人

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