中国(上海)自由貿易試験区の開設によるITサービス・ゲーム産業への影響

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概要

中国国務院は2013年9月29日付けで、「中国(上海)自由贸易试验区总体方案的通知」(上海市の自由貿易試験区開設に関する通知)を発表した。上海自由貿易試験区(FTZ)における外資参入制限が部分的に撤廃される。併せて上海市は「中国(上海)自由贸易试验区外商投资准入特别管理措施(负面清单)」(中国(上海)自由貿易試験区の外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト))を発表し、外資参入の管理措置を明らかにした。

対象となる地域は上海高橋保税区、上海外高発保税物流園区、洋山保税港区、上海浦東飛行場総合保税区で、今回の試験運用が成功すれば今後対象地域を拡大するとしている。

政府は試験区を設置した理由として、TPP等による世界貿易の変化、改革開放政策からの更なる経済の発展、人民元の国際化の3点を挙げている。特にTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が大きく関係しているものとみられ、将来中国がTPPへの参加を決めた場合に貿易試験区を最初の対外開放窓口とし、その後全国に範囲を広げる考えがあるとも伝えられる。いずれにせよ、経済のグローバル化に合わせて自由貿易を推進しようという政府の意思の表れと見てよいだろう。

具体的には下記の6分野18業種に対する規制緩和が行われる。すでに第1陣として中国工商銀行や米シティバンク、独高級車大手のポルシェの販売子会社など計36社の進出が発表されているが、日系企業は含まれていない。

1.金融サービス:銀行、医療保険、租借融資
2.航空サービス:遠洋貨物輸送、国際船舶管理
3.商業貿易サービス:増値電信、ゲーム機などの販売
4.専門サービス:弁護士、調査、旅行、人材、投資管理、工学  設計、建設
5.文化サービス:プロダクション仲介、娯楽施設
6.社会サービス:教育や職業技能の養成、医療

「中国(上海)自由貿易試験区総体法案に関する通知」参考訳(一部抜粋)   

本通知からITサービス・ゲーム産業に関係すると思われる「商業貿易サービス」の部分を抜粋し、原文および参考訳を掲載する。

商業貿易サービス領域

●増値電信サービス(国民経済業務分類:Ⅰ情報通信、ソフトウェアおよび情報技術サービス業-6319その他電信業務、6420インターネット情報サービス、6540データ処理および保管サービス、6592コールセンター)

開放措置:インターネット情報の安全を保障した上で、外資企業に対し特定の形式による一部の増値電信業務を許可する。行政法規に抵触する場合は、必ず国務院の同意が必要となる。

●ゲーム機、娯楽機の販売およびサービス(国民経済業務分類:F卸売業および小売業-5179その他機械及び電子製品の卸売)

開放措置:外資企業によるゲーム機や娯楽設備の生産および販売を許可し、文化主管部門のコンテンツ審査を通過した製品に限り国内市場での販売ができるものとする。

上海市の「ネガティブリスト」参考訳(一部抜粋) 

上海市が併せて発表した「中国(上海)自由贸易试验区外商投资准入特别管理措施(负面清单)」(中国(上海)自由貿易試験区の外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト))からITサービス・ゲーム産業に関係する部分を抜粋し、原文および参考訳を掲載する。

●インターネットおよび関連業務
1.アプリストアを除く、その他の情報サービス業務に対する外資の投資比率は50%を超えてはならない。
2.国内のインターネットバーチャル専用ネットワーク(VPN)業務に対する外資の投資比率は50%を越えてはならない。
3.ニュースメディア、インターネット動画サービス、インターネットカフェ、インターネット文化経営(音楽を除く)に対する外資の投資は禁止する。
4外資が直接または間接的にオンライゲームの運営サービスに携わることを禁止する。

●ソフトウェアおよび情報サービス業務
1.経営性ECの外資の投資比率が55%を越えてはならない。その他のオンラインデータ 処理および取引処理業務の外資の投資比率は50%を超えてはならない。
2.外資がインターネットデータセンター業務に投資することを禁止する。 

ITサービス・ゲーム産業への影響 

本通知の発表により、試験区においてITサービス・ゲーム関連の分野で影響があると思われる事項を検証する。

●外資企業が自由に増値電信サービスを行えるのか
本通知では増値電信業務について「外資企業に対し特定の形式による一部の増値電信業務を許可する」としているが、上海市が併せて発表したネガティブリストによると、試験区内であっても外資独資での参入は認められず、必ず合弁という形態をとる必要があることがわかる。さらにインターネット経営性ライセンス(互联网信息服务)は、実際には合弁企業にも発行されていない状況だ。

専門家らは実際の運用面で大きな変化はないため外資企業に及ぼす影響は少ないと見ているが、本通知であえて外資企業に対する許可を明言したことには何らかの意味があるものと思われる。

●ゲーム機類の販売解禁で市場は広がるか
中国国内におけるゲーム機類の生産・販売は、国務院が2000年6月に発表した「关于开展电子游戏经营场所专项治理的意见」(電子ゲーム経営場所の管理統制プロジェクトの展開に関する意見)によって、法人・個人を問わず認められていなかった。

今回の通知では試験区内の外資企業に限って生産・販売が許可され、米マイクロソフトとIPTV分野で国内最大手の百視通新媒体による合弁会社が第1陣として参入している。易観国際のアナリストは、順調ならば中国全土での生産・販売が解禁されると期待するが、最終的にはMicrosoft、SONY、任天堂といった世界で人気のゲームメーカーが中国市場を席巻すると予想する。

また本通知では、文化主管部門のコンテンツ審査に合格することが販売の条件となっているが、すでに中国国内には様々な手段で持ち込まれた大手ゲームメーカーの機器や模造品、安価な海賊版ソフトが数多く出回っている。正規のルートを通じて販売されるゲーム機やソフトの価格が、最終的に消費者の受け入れ可能な水準に収まるかどうかが、成功のカギを握る物と思われる。

●海外のインターネットサービスは試験区内で解禁されるのか
本通知が発表される直前の9月24日には、Facebookが試験区内で解禁される見通しとの報道がなされた。一方で、本通知の内容からみてFacebookの解禁は厳しいとする専門家もいる。本通知の中に「インターネット情報の安全を保障した上で」という一文があることから、現在当局が利用を禁止しているFacebookをはじめとする海外のインターネットサービスが、部分的にとはいえ解禁されることは考えにくく、引き続き規制されると考えるのが自然だ。また同試験区管理委員会の関係者も、「たとえ試験区内であっても法に基づいて管理する」、「試験区内が特殊だということはない」と述べており、やはりFacebookのような海外のインターネットサービスの例外的措置は取られないものと考えるのが妥当だろう。

●外資がECをコントロールできるようになるのか
ネガティブリストでは、ECサイトへの外資投資比率について過半数を上回る「55%を超えない範囲」と定めている。実質的に外資側でコントロールできるようなりそうだが、ECサイトの運営には工信局が発行する経営性ICPライセンス(信息服务业务经营)が必要だ。規定上は外資比率50%以下の合弁企業であれば許可するとされているものの、今まで外資の入った企業に対しライセンスが発行された例は無い。急成長するEC分野に海外からの投資を呼び込みたいとの思惑を感じるが、まずは合弁企業に対しライセンス発行が行われるか否かを見守る必要がある。

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