アリババが目指す EC の未来

目次

1. EC の時代、間もなく終焉

EC サイトの天猫(Tmall)、淘宝網(Taobao)などの運営で知られる阿里巴巴集団(アリバ バグループ)が、全国に 3,600 を越えるスーパーマーケットを展開する上海聯華を買収 したことが、このほど明らかになった。

同集団の馬雲(ジャック・マー)会長は、2016 年秋に開かれた同社のテクノロジー・サ ミット「杭州雲棲大会」で、EC 時代の終焉と“新小売(新零售)”時代の訪れを予想する 発言をしており、今回のスーパーマーケットの買収も新小売時代の到来を見越した判断 だとコメントしている。

同集団は 2016 年だけでもかなりの数の小売事業者に、直接的あるいは間接的な投資 を行っている。投資対象はオンライン(ネットショップ)とオフライン(リアル店舗)様々だ が、ここから馬会長の考える新小売時代の様相が見えてくる。

2. 新小売時代とは

阿里巴巴集団の EC プラットフォームの売上は、すでに年間 3 兆元(約 48 兆円)を越え ている。世界最大の取引規模を誇り、中国の EC 市場の成長をけん引しているが、それ を支えるのはオンラインでの取扱い商品の種類の多さときめ細やかなサービス、そして オフラインでのサービス体験だ。これらが相互に補完することで、ユーザー満足度を最 大限に引き上げ、リピート購入を促してきた。

しかし中国の EC 業態の進化形は“EC2.0” でもなければ、“ネットショッピング 2.0”で もない。では、馬会長がいう“新小売”時代 とは一体どういったものなのか。

“新小売”の最大の特徴は、オンラインと オフライン、そして物流が一体化している 点にある。新小売では、商品が「工場を出 る前に自らがどこの誰に買われるのか知っ ている」状態となり、中間業者はおらず、在庫もなくなるという。さらに言えば、商品 はオンラインとオフラインで同時に更新され、値段も同じで、売れた分だけすぐに補充される。オフラインの店舗では現金とモバイル決済どちらで支払うこともでき、店頭で 買ったらそのまま持ち帰ってもいいし、ネットショッピングのように配送されるのを自 宅で待ってもよい。要するに、サプライチェーン、商品、価格、会員情報、利益、サー ビスが連結し、一体化した業態に進化するのだという。

また馬会長は、「オフラインとオンライン の企業の競争が不公平だという問題がしばしば取り上げられるが、それよりも大企業と 小企業の不公平の方が問題だ」と持論を述べ、 新小売時代には小企業がもっと活躍できる 市場環境が整うと強調する。例えばフランチャイズ開業には加盟金、物件の賃料、仕入れ といった初期投資がかかるが、新小売時代には、開業あたって加盟金はいらず、必要な商品が必要なだけ入荷するので在庫を抱えることもない。オーナーは店舗の賃料を負担するだけでいいため、地方の小規模都市にも店舗ネットワークが広がりやすくなる。さらに売上が好調ならば、店舗の賃料すら本部負担となり、小企業のビジネスチャンスは格段に増えると説明する。

馬会長は「10 年後、20 年後の未来に EC はなく、ただ新小売があるだけだ」と発言しているが、これは将来の EC 市場に対する予想や予測、ましてや希望などではない。 馬会長率いる阿里巴巴集団が、今後 10~20 年をかけて新小売の世界、新小売の時代を作りあげるという決意なのだ。

3. EC にまつわる五大革命

馬会長は EC とその周辺のビジネス領域について、10 年以内に以下のような五大革命が起きるとも発言している。

① EC が新小売に変わる 今後 5 年ほどは引き続き EC 市場が順調に成長を続けるが、10 年後にはオンラインのみでの発展は難しくなり、またオフラインだけの発展も期待できなくなる。モノを売るだけでなく、サービスも提供するよう変化する必要が生まれる。店舗運営の効率化、注文処理能力の向上、ニーズの察知、新たなユーザー体験の提供の全てが可能となる総合的なスマート化が求められる。

② 製造業が新製造業に変わる 消費者のニーズが個性化するのに伴って、製造業はこれまでの標準化・規模化からオーダーメード化・スマート化へと変化しなければならない。

③ 金融業が新金融業に変わる 今現在の金融業は、顧客の 20%を占める大企業や国有企業へのサービスを重視しており、残りの80%を占める一般消費者や中小企業へのサービスが不十分である。 しかし、新金融業の主役である支付宝(Alipay)や微信支付(WeChatPay)といった決済サービスは、今まで優先されてこなかった80%のユーザーを対象としたものであり、小規模事業者の資金難をも解決することができる。

④ テクノロジーが新テクノロジーに変わる パソコンやサーバーのスペックではなく、ビッグデータやモバイルネットワークが未来の核心技術となる。人工知能(AI)、スマート決済、IoT、物流技術、ビッグデータ等での成功事例をどんどん真似て、テクノロジーの価値を社会に広げていかなけ ればならない。

⑤ エネルギーが新エネルギーに変わるエネルギー源が石炭から石油へと移り変わったことをエネルギー革命というが、これからの社会のエネルギー源はデータにとって代わられる。

無論、これらの五大革命は自然に起きるのではなく、新小売時代と同様に阿里巴巴が率先して作り上げるつもりなのであろう。事実、冒頭で紹介した上海聯華への投資は、 傘下のスーパー各店舗を新小売時代にふさわしく改造するためだというし、今年 2 月に戦略的事業提携を発表した百聯集団は、大型スーパーからデパート、薬局、ショッピン グセンター、コンビニまで様々な業態の小売店舗を抱えており、現地メディアは馬会長 が「提携は巨大な実験をするためだ」とコメントしたと伝えている。

4. 現在の EC 市場とモバイル決済の規模

新小売時代の到来を前に、今後 5 年は成長が続くと予想されるオンライン小売市場だが、中国の大手 IT 調査会社、易観国際の予測によれば、その成長幅は年々縮小する見通 しだ。

2016 年のオンライン小売市場の規模は 4 兆 9687 億 5000 万元で、前年比 29.6%の 伸びを示していたが、今年は約 6 兆元で伸び幅は 21.5%、2 年後の 2019 年は約 8 兆元 で伸び幅は 14.4%にまで落ち込む見通しだ。

このうちモバイルショッピングの市場規模は、2016 年が 3 兆 6310 億 1000 万元で、 伸び幅は前年比 75.0%と好調だったが、今年は約 4.6 兆元で伸び幅は 25.8%、2019 年 は約 6.6 兆元で伸び幅は 18.5%に落ち込むと予想している。

モバイル端末からの購入比率は徐々に上昇し、2016 年時点で 73.1%だったものが今年は 75.6%に、2019 年には 80.9%にまで拡大する見通しとなっている。

EC市場全体の成長が鈍化する中、生鮮食品のオンライン販売は前年比 50%を越える 勢いで伸びると期待されている。2016 年の市場規模は 913.9 億元だったが、今年は 58.6%増の約 1,450 億元に、2019 年には約 3,500 億元まで拡大する予想だ。

生鮮食品のサプライチェーンやコールドチェーン(低温流通体系)の構築が進んだことで、大手 EC サイトが都市部で生鮮食品の取り扱いを始めたり、逆にスーパー等の小売事業者がいわゆるネットスーパー事業に参入したりするケースが目立っている。生鮮食品のオンライン販売においては、ビッグデータや AI の活用が始まっており、ユーザーの消費行動を追跡し、データを分析、需要を予測することで、産地への早めの注文、的 確な在庫管理、効率的な倉庫の利用、廃棄の削減のそれぞれを実現しつつある。また業界ナンバーツーの EC プラットフォームである京東(JD)が、自社で構築したコールドチェーンを他社にも開放したことで新規参入のハードルは確実に下がっている。

そして、新小売時代のカギを握り、五大革命の一つにもなっているモバイル決済サービスは、2017 年第 1 四半期(1-3 月)の取引規模が 18 兆 8091 億 2000 万元に上ってい る。モバイル決済はただ便利に支払いをするためのものではなく、誰がいつどこで何を買ったのかといったビッグデータの元となるデータの収集ツールでもある。

8 現時点での市場シェアは、阿里巴巴グループの決済サービス「支付宝(Alipay)」が 53.7%、 微信支付(WeChatPay)を運営し、京東も出資している騰訊(Tencent)グループの金融サー ビス「騰訊金融」が 39.51%となっている。

支付宝の実名登録ユーザーは 2016 年末時点で 4.5 億人に上り、毎日平均 200 億元の決済が行われている。世代別で最も利用が多いのは 1980 年代生まれで、平均して年間 12 万元以上を支付宝で支払っている。地域別では上海に住む人の利用が最も多く、平 均して年間 14.8 万元を支払っているという。

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この記事を書いた人

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