中国で急増する新形態の映画鑑賞スタイル「点播影院」

目次

1. 中国に広がる新しい映画シアター「点播影院」

日本で映画館といえば大型のシネマコンプレックスが主流となっており、新作映画を上映するロードショー館、独立系のミニシアター、旧作映画を中心に上映する名画座に分けられる。多くは、東宝系、松竹系、東映系などの大手興行会社、あるいは比較的小規模な映画館運営会社が運営しており、個人運営の映画館はごくわずかだ。

中国でもこの数年で一気にシネマコンプ レックスが増え、都市部に住む人にとって映画を見に行くことはすっかり娯楽の一つと なった。

映画スクリーン数は 2016 年 11 月 に 4 万を越え、米国を抜いて世界最多となっ たニュースは記憶に新しい。そればかりか、 映画会社系列や興行会社による経営ではな い、個人経営の映画館が 2016 年時点で 5,000 カ所を越え、スクリーン数は 7 万以上あるという。

中国にこうした個人経営の映画館が登場したのは 2013 年ごろからで、一般的には「点播影院」、あるいは「私人影院」、「影吧」などと呼ばれている。日本人が想像する地方 の小さな映画館やミニシアターとは全く違うもので、実際はちょっと豪華なシアタールームといった感じだろうか。ネットカフェの映画鑑賞ルームのように小さな個室だったり、逆に広々としたパーティルームであったりと部屋の内装は様々だ。

機材も大型スクリーンに、プロジェクター、本格的な音響設備を用意しているものから、白い壁にプロジェクターで上映したり、大画面の高画質テレビとパソコンの組み合わせだったりと多種多様で、点播影院の専用上映システムを提供する企業や全国規模でチェーン展開する点播影院ブランドもある。

全国に広がる点播影院の最大の特徴は、客が見たい映画をいつでも好きな時に見られることだ。いわゆるビデオ・オン・デマンド(VOD)のコンテンツを使っているため、現在公開中の最新作でなければ、新旧様々な作品が揃っている。しかも事前にチケットを買ったり、並んだりしなくていい上、値段も安く、食べ物の持ち込みもできるため、友達同士やカップルでの利用が多いという。共同購入クーポンサイトの百度糯米に掲載されている店舗だけでも、北京には 60 店以上、上海にも 140 店以上ある。料金は 2~3 時間の貸し切りで 1 部屋 100 元ほどからで、中には 1,000 元を越える豪華な部屋も用意されている。もちろん写真で紹介したようなきれいな店ばかりではなく、もっと簡素な造りの安い店もある。

点播影院の開業について紹介するあるブログによれば、都市部で若者をターゲットに 開業するならば 200 平米ほどの店舗を借りて、フロア全体の 80%を大小10 室ほどのシ アタールームにし、残りをフロントや待合所を兼ねたエントランス、スタッフ用のバックエンドにするのが一般的だという。シアタールームの内装費は、中程度としても防音・ 吸音壁の設置を含めて全体で 30 万元程度はかかる。設備費として、専用上映システム が 10 万元前後、プロジェクターやスクリーン、スピーカー等で 30 万元、さらにソファ や家具類にも数万元かかり、スタッフの人件費も見ておかなければならない。初期投資だけでざっと 70 万元かかる計算だ。賃料が月 3 万元として、全部で毎月 5 万元ほどのコストがかかるが、月に 15 万元前後の売上が見込めるため、1 年も経たずに投資は回収できるという。ただし高級路線を目指す場合、内装や機材だけで数百万元から 1,000 万元以上かかるそうだ。

2. 増え続ける点播影院を規制へ

中国独自の娯楽スタイルとして発展している点播影院は、これから 2020 年にかけて爆発的に増える見通しで、現在の 13 倍となる 7.2 万店まで増えるとの予測もある。

しかし点播影院には課題も多い。専用上映システムであっても映画の著作権にまつわる許諾を取っていなかったり、あるいは店が勝手に海賊版コンテンツを利用していたり、 当局が許可しない海外の過度に暴力的な作品等を上映したりする店が後を絶たない。他 にも、マンションの空き部屋などで違法に営業している、飲食業など実態とは違う許可証で営業している、必要な消防設備がない、店舗を違法に改修している、衛生基準が守られていない、といった問題も深刻だという。

このような状況であることから、映画産業を管轄する国家新聞出版広電総局は 2017 年 4 月 21 日、「点播影院、点播院線の経営管理の規範化作業に関する通知 (关于规范点播影院、点播院线经营管理工作的通知)」を発表し、無秩序に発展する市場の整理に着手した。

同通知では点播影院について、「インターネットまた は映画技術システムを通じてビデオ・オン・デマンド、 リピート放送、ダウンロード等の形式によって営利性の映画上映サービスを提供する固定の場所」と定義している。管轄は国務院の映画主管部門で、点播影院とその上映および配給の監督管理を行うとした。開業にあたっては、工商登記のほか、映画放映経営許可証の取得、 消防の認可などが必要で、許可証は店舗所在地の県レベル以上の広電局が発行すると定 めている。

また「点播院線(点播影院のシアターチェーン)」を組織する場合、省内にある店舗のみであれば加盟店が 30 店舗を下回ってはならず、当該チェーンを運営するチェーンマスターは省レベルの広電局の認可を受けた上で「映画配給経営許可証」を取得するこ と、全国範囲など複数の省にある店舗が加盟する場合は 60 店舗を下回ってはならず、同様にチェーンマスターが広電総局の認可を 受けた上で「映画配給経営許可証」を取得することが定められた。

上映する作品についても、映画管理条例に基づいて「公映許可証」を取得した国内外 の映画およびテレビ局や動画サイトが輸入した映画等に限るとし、いずれも点播影院での上映に関するライセンス契約を結んでいることが条件となっている。

さらに本通知では、営業にあたって必ずシアターチェーンに所属し、料金精算システムや上映システムも広電総局の認可を受けたものを導入するよう求めており、開業申請の際にそれぞれの情報を申告するよう定めている。

この通知によって点播影院への参入ハードルは一気に上がった形だが、国務院は 6 月 12 日、さらに「点播影院、点播院線の管理暫定規定[意見募集稿](点播影院、点播院线管 理暂行规定[征求意见稿])」を発表し、6 月 27 日までパブリックコメントの募集を行っている。

内容は 4 月に出された通知におおむね沿ったもので、管轄当局が国務院の映画主管部門、つまり国家新聞出版広電総局であること、開業には工商登記が必要であり実質的には企業または個体工商戸に限られること、必ずシアターチェーンに属すこと等が改めて示されている。またスクリーンの幅が 6 メートルを越えてはいけないことや 1 部屋の 観客席が 20 席を越えてはいけないといった細かいルールも定められている。

あわせて映画産業への配慮もなされており、店舗ごとに国産映画の上映時間が年間の総上映時間の 3 分の 2 を下回らないようにコントロールするよう求めているほか、映画の著作権者に対し点播影院で一定期間上映できないよう保護期間を設けるよう勧告しているともとれる条項や通常の映画館で新作映画が上映されている間は同じ映画を 点播影院で上映してはならないとする条項もある。

3. シアターチェーンが続々誕生

私たちがカラオケに行く時に、あの店の機械はXXXだから新曲が早いとか、XXX は外国語曲がたくさん入っているから、 などといって店を選ぶことがあるように、点播影院の人気も料金や店のきれいさだけでなく、映画の本数に左右されるのではないだろうか。点播影院は必ずど こかのシアターチェーンに加盟しなければならなくなったため、どのような映画がどれだけ見られるのかは、店が加盟するシアターチェーンによって決まることになる。

版権獲得に強い動画サイトの「愛奇芸」は、9,000 を越える正規版権を持つ同社のシアターチェーンをアピールしており、開業準備から専用システムの導入、日々の運営ま でをサポートするトータルソリューションを提供している。

つい先日誕生したばかりの 「楽映点播院線」は、中国最大規模のシアターチェーンとして中国映画著作権協会などを背景に持つ。

また 6 月 15 日には、全国的な業界団体の中国点播影院連盟が誕生した。発足式では 「数年以内に加盟するうちの数社が上場するだろう」と市場の可能性を示す発言も飛び 出しており、発起人の沐電影集団も「娯楽の少ない地方都市を中心に今後 4 年で今の 25 店舗から 2,000 店舗へと拡大する」と宣言したほどだ。

点播影院に関する法令が整備される 2017 年は「映画産業の新紀元」とも言われてい る。大きなスクリーンでただ映画を見るだけでは飽き足らず、カラオケ、レストラン、 バーなどと融合した施設作りの提案も始まっており、3D や VR などを取り入れながら、 中国のこれからの新しい娯楽スタイルとして定着することが期待される。

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