急速に発展する中国の EV(電気)自動車 市場

目次

1. 中国の自動車市場

中国の自動車メーカー139 社が加盟する乗用車市場信息聯席会のまとめによれば、2018 年の中国の新車販売台数は 2235 万 562 台に上り、前年に比べて 5.8%減少した。

新車販売台数はこれまで 28 年連続で伸びていたが、初めて前年割れした。原因は様々指摘されているが、国内経済の減速で消費者の購入意欲が衰えていること、新車購入の補助金など優遇政策がなくなったこと、市場が飽和状態に近づいていること、中古車市場が拡大していること等が挙げられる。

ジャンル別にみた販売台数は、セダンが 1117 万 3044 台、ミニバンが 166 万 4356 台、SUV が 951 万 3162 台となっている。

メーカー別の販売台数は、上汽大衆が最も多い 201 万 9430台で、全体の 9.0%を占めた。2 位は一汽大衆の 199 万 1788 台、 3 位は上汽通用の 174 万 9496 台だった。販売台数上位 15 社が市場の 72.6%を占めている。

2. 好調な新エネルギー車

落ち込み始めた自動車市場で、依然として好調なのが新エネルギー車(NEV)だ。2018 年の新車販売台数のうち、新エネルギー車は 105.3 万台で、前年に比べ 82%の大幅な伸びを見せた。このうち電気自動車(EV)が前年同期比 68.4%増の78.8 万台、プラグインハイブリッド車(PHV)が同 139.6%増の26.5 万台だった。

なお、中国における「新エネルギー車」とは、EV、PHV に加えて、燃料電池車(FCV)、水素自動車などを指す。「プリウス」のようなハイブリッド車は含まれないので注意が必要だ。

このほか、バスをはじめとする新エネルギー商用車の新車販売台数は 20.3 万台で、前年に比べ 2.6%増加した。このうち EV は同 6.3%増の 19.6 万台、PHV は同 58%増の0.6 万台に達した。

メーカー別の新車販売台数では、北汽新能源が 15.8 万台で、前年に比べ 53.11%増加した。12 月単月では販売台数トップ 10 に 3 モデルがランクインし、合わせて 2 万 7000台以上が売れている。比亜迪は 24.78 万台で、うち乗用車が 22 万 7152 台、商用車が2 万 659 台だった。奇瑞は 9.05 万台で、同 146%の増加だった。江淮汽車は同 125.3%増の 6 万 3671 台だった。

中国政府は 2000 年代末ごろから新エネルギー車の普及を推進する方針をとっている。マイカー購入者や公共バス・タクシー事業者向けに補助金などの優遇政策が用意されており、公共バスやタクシーの EV への切り替えが進んでいる。新エネルギー車の保有台数は 2019 年 6 月時点で 344 万台に上るが、保有自動車総数から見れば、わずか 1.37%にすぎない。このうち EV の保有台数は 281 万台で、新エネルギー車の 81.74%を占めている。

2019 年は、自動車メーカーに一定比率以上の新エネルギー車の生産販売を義務付ける、いわゆる「NEV 規制」の初年度にあたる。7 月からは自動車の排ガス規制が強化され、「国 6」基準の適用がスタートすることもあり、新エネルギー車市場にはさらなる追い風が吹くとも予想されている。

3. EV の環境は整いつつある

新エネルギー車のなかでも特に EV は、ガソリン車やハイブリッド車のように高度な技術開発力が必要とされないことから、中国では新規参入が相次いでいる。政府が EV メーカーと認めた企業は今年 4 月までに 486 社に上るが、2 年前にはわずか 150 社程度しかなかった。合弁メーカーが席巻しているガソリン車市場とは対照的に、EV 市場は中国メーカーが台頭している状況だ。

また EV の購入にあたってネックとなるのが充電器の数だが、国家能源局によれば、2019 年 6 月末時点で全国に設置された充電器は 100.2 万基に達したという。このうち公共充電器がおよそ 41 万基、EV を所有する個人が設置した充電器がおよそ 59 万基で、EV3.5 台につき充電器が 1 基ある計算になる。

省別では北京や上海で 3 万基以上が設置されている。この公共充電器とはガソリンスタンドのように誰でも利用可能な充電器を指し、専用充電器とは公共バスやタクシー、物流トラックなどが利用する充電器をいう。

充電器がようやく 100 万基を超えたところだが、政府は 2020 年までに全国に充電ステーションを 1.2 万カ所、充電器を 480 万基まで増やす計画を明らかにしている。

また中国 EV 充電インフラ施設促進聯盟によると、公共充電器の運営管理は大企業に集中している状況で、上位 10 社が全国にある公共充電器の 94.5%の運営管理を担っている。

4. 楽しみな EV のスタートアップ企業

新規参入と莫大な投資が目を引く EV のスタートアップ界隈で、ひときわ目を引いているのが 2014 年に創業した「蔚来(NIO)」だ。本部は上海にあるが、アメリカ、イギリス、ドイツにも研究センターを持つ。2018 年 9 月には NY 証券取引所に上場し、18 億米ドルを調達している。

NIO は「中国のテスラ」と呼ばれており、最新モデルの「ES6」も 49.8 万元(約 780 万円)からとテスラの「Model3」と変わらない価格帯だ。先行モデルの「ES8」はすでに 1 万 5000 台以上を販売しているといい、より低価格で機能が充実した「ES6」の人気は高く、通常モデルの納車予定は 2019 年冬になるという。

EV は充電にかかる時間がネックだが、NIO は電動バイクのように EV のバッテリーを丸ごと交換するシステム「NIO Power」を開発している。車庫のような交換所に車を入れると、リフトが車体を持ち上げて下からバッテリーを交換する。

所要時間はわずか 3 分ほどだ。すでに北京、上海の両市内や高速道路の SA など 120 カ所以上で利用できるという。このほか、急なガス欠ならぬ電池切れの際には NIO の充電車両が充電のために駆けつけてくれたり、自宅や出先まで車を取りに来て充電を代行してくれるサービスも用意されている。

またライフスタイルブランドとしてのイメージも確立しようと試みている。現在はイギリスのファッションブランド、フセイン・チャラヤンとのコラボ商品を展開し、上海にはコンセプトショップもオープンしている。

もう少し下の価格帯ならば、威馬汽車(Weltmeister) も注目のスタートアップだ。創業者は吉利汽車やボルボ中国で幹部を務めた人物で、2015 年に創業している。2019 年 4月にはシリーズ C ラウンドで百度(Baidu)などから 30 億元(約 490 億円)を調達したことでも知られる。

最新モデルの「EX5」は、補助金分を差し引いて最も安いグレードならば 13.98万元(約 220 万円)から手に入る。今年 1 月に約 2000 台を納車しているという。

同社は自動運転技術の研究にも積極的で、四川省綿陽市に自動運転技術センターを建設している。百度の自動運転オープンプラットフォーム「Apollo」にもパートナーとして参加しており、レベル 2 の自動運転アシストシステム「Living Pilot」は「EX5」の 2019 年モデルに標準装備されている。現在はレベル 3~4 の自動運転技術の開発に取り組んでおり、2021 年には自動運転車の量産を始める計画もある。

EV スタートアップの多くは工場を持たず、製造はパートナーを組んだサプライヤーに委託してしまうが、威馬汽車は浙江省温州に自社工場を持つ。また今年 7 月には、充電器の運営管理大手の特来電と提携し、自社ブランドの充電ステーションの建設、運営を行うことが発表されたばかりだ。

5. EV 移行への支援策

政府は 2018 年の「青空防衛三年行動計画」で、新エネルギー車産業の成長計画を発表した。主な目標には、2020 年に新エネルギー車の販売台数 200 万台達成、2020 年までに直轄市や省都の公共交通機関を全て新エネルギー車に転換といったものがある。新エネルギー車の普及が大気汚染の改善につながるといったアピールは、誰にとってもわかりやすいものだが、実際には買い替え需要の掘り起こし、関連するハイテク産業の成長と雇用の確保、原油の輸入量削減といった期待も含まれている。

都市ごとにも行動計画が発表されており、例えば北京の青空防衛計画では、2020 年までに市内の新エネルギー車保有台数を 40 万台程度まで引き上げる、新たに購入する公共バス・タクシー・物流トラック・ごみ収集車等は基本的に新エネルギー車を採用する、2020 年までに郵便や宅配用トラックを EV にする、といった内容を定めている。2020 年を目前に控え、北京ではタクシーの EV 移行を促進するための奨励制度を今年 7月までに発表した。対象は 2020 年までに廃車期限を迎えるタクシーで、1 台につき最大 7 万 3800 元(約 116 万円)を補助する。これにより 2020 年までに EV タクシーをさらに 2 万台増やす計画だ。広東省深センでは 2018 年末までにタクシーの 100%EV 化を達成しており、市内を走る 2 万台以上の EV タクシー全てが比亜迪(BYD)製だという。

一方でマイカー用の EV については 2019 年から補助金が大幅に削減され、補助金を受けるためのハードルも引き上げられた。特に地方政府からの補助金が無くなったことは大きいが、これは予算を公共充電器の設置費用に充てたためだという。補助金目当ての駆け込み需要も業界が期待していたほどではなかったといい、NEV 規制による追い風はあれど、EV のマイカー需要は先行きが定まらない状況となっている。

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この記事を書いた人

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