毎年6月1日から18日までの期間は、中国最大級のECセールの一つである「618」(リュウヤオバー)が開催される。中国のデータ会社SYNTUNの調査によると、2021年の618商戦は、EC全体のGMV(流通取引総額)が約5,785億人民元(約10兆円)に達し、前年比26.5%増となった。中国ECサイト市場にとって、極めて影響力の大きな注目すべき商戦期間となっている。
下図を見てみよう。これは2017年以降の618期間中の中国全ECサイトのGMV変動を表したものである。
増加率こそ変動が大きいものの、GMV額は増長を続けている。
そもそも「618」というネーミングの由来は、6月18日の日付から来ている。この日はECサイト大手の京東(JD.com)が成立された日で、元々は同社が創業を祝い、この日に大々的なプロモーションを行っていたことから始まる。
近年になり、天猫(Tmall)、蘇寧(Suning)といった大手プラットフォームだけでなく、中国版 TikTok の抖音(Douyin)や、快手(Kuaishou)などの新興ライブ配信チャネルも次々と参入し、今では中国EC各社が一同に集う、中国最大級のEC商戦となっている。
■ 主要ECサイトの618期間中の売上高
天猫(T mall)
販売額は2,156億元に達した。25万ものブランドが参加しており、これは2020年の2.5倍である。販売アイテム数は1,300万に上る。ブランドショップは新規会員だけで6,000万人を抱えており、一部のブランドでは50%超が会員による購入となっている。
京東(JD.COM)
GMVが3,438億元、前年同期比27.7%増となった。成長幅は2020年を下回ったが、これは2020年の618は新型コロナウイルスの感染拡大後初めてのEC商戦であったことから、消費者の購買熱、出店者の販売熱が共に高かったためである。前年の2019年との比較では、大きな成長となっている。
■売上ランキング
品目別の売上ランキングでは、家電がトップで824億元。続いて携帯通信が2位で742億元、3位はファッション雑貨で680億元となっている。4位から10位は、コスメ美容、靴・カバン、家具建材、パソコン・オフィス、食品飲料、ベビーマタニティ玩具、アウトドアスポーツと並んでいる。
■転換点
中国監管部は、ECサイトに対する独占禁止法に基づく調査を行った。これによると、現在は出店者が 天猫と京東の大手二社による「二社択一」を迫られている違法な状態にあることが判明している。各ECサイトは、出店者に対するサポート強化に乗り出しており、自社への囲い込みが始まっている。とりわけ618期間前後には以下3つのサポート施策を掲げている。
- 出店手続きの利便性向上:天猫、京東ともに「まず開店し、審査は試運営中に行う」という出店手続きの簡易化を掲げている。
- 運営コストの削減:出店者が負担する保険や技術サポート費等の各種費用を軽減し、融資も行う。
- アクセス数の増加支援:運営ツールを出店者に提供し、アクセス数の増加をサポートする。
■見解
ECサイトは618期間中、各出店者のキャンペーン内容やキャンペーン期間の足並みを揃えるようにしている。キャンペーンの一連の流れとしては、5月中旬に集客を開始し、5月下旬に予約販売を開始。6月初めにキャンペーン第一弾がスタートし、6月上旬に次の予約販売を行うことで、618期間中は消費者の購買意欲を常に刺激している。
集客の手法としては、各大手ECサイトは、微博(Weibo)、微信(WeChat)、小紅書、短編動画チャネルを通して宣伝活動を行なっている。
特に注目に値するのが、短編動画チャネルの存在だ。消費者に向けて精度の高い内容を紹介できるため、ECサイトのアクセス数増加につながっており、今ではECサイトと出店ブランドにとって主要な販促チャネルになっている。
2021年の618期間は、抖音などの短編動画チャネルがライブコマースに参入し、出店者は前年2020年の2.9倍に増加した。総ライブ配信時間は2,852万時間、ライブ上のコメント数は40億件に達した。大手ECサイトが「二社択一」を迫っていたこれまでの負の側面から脱却を図る中で、抖音などの短編動画チャネルの618商戦への参入は、出店者にとってはライブコマースという新しい施策を導入するチャンスとなった。次回の618商戦では、ライブコマースが主戦場となる可能性を秘めている。