テスラモーターズの中国戦略、クチコミ利用に商機

目次

1. 電気自動車業界の Apple?テスラモーターズ

テスラモーターズ(Tesla Motors)は、電気自動車(EV)メーカーとして米シリコンバレーで 2003 年に創業した。同社を率いるイーロン・マスク CEO(最高経営責任者)は、PayPalや宇宙ロケットを開発する SpaceX を創業したことでも知られる人物だ。人工知能(AI)のリスクを警告する発言で世界から注目を集めたことも記憶に新しい。

テスラモーターズは 2008 年に最初の量産車「テスラ・ロードスター」を発売。EV の可能性を最大限に引き出したスポーツカーとして話題になり、ハリウッド俳優らがこぞって購入した。その後も加速力の改善やバッテリーの性能向上に努め、2012 年にはプレミアム EV セダン「Model S」、2014 年には「Model S」の四輪駆動モデルを発表。現在は 2016 年初頭の発売を目指して EV クロスオーバー「Model X」の開発を進めている。また 2014 年 6 月には EV の普及促進のため、同社が保有する 500 を超える特許技術を公開することを発表した。

なお 2014 年度の総生産台数は約 3.5 万台で、日本を含む世界 30 カ国以上への出荷台数は約 3.3 万台に上る。日本では東京、横浜、大阪のショールームで試乗することができ、「Model S」の車両本体価格は 871 万円~1289.5 万円となっている。

日本向け公式サイト(http://www.teslamotors.com/jp/models)

2. 富裕層狙い中国市場にも進出

テスラモーターズは 2012 年 11 月に中国総代理として拓速楽汽車銷售服務有限公司、2013 年 10 月に販売会社として路徳思汽車銷售服務有限公司を設立しており、現在までに北京、上海、杭州、深セン、成都、西安、香港の 7 都市にショールームを計 11 カ所設けている。

中国向け公式サイト(http://www.tesla.cn/)

中国向け「Model S」の車両本体価格は 68.5 万元(約 1330 万円)~95.3 万元(約 1850万円)で、2014 年の目標販売台数 1 万台に対し、実販売台数は 4000 台あまりにとどまる。この状況について同社の中国代表は、充電施設の不足を理由の一つに挙げており、購入者の懸念を払しょくするため、購入に際し家庭用充電器を無料で設置するキャンペーンを展開中だ。

さらに中国聯通(チャイナユニコム)、招商銀行、民生銀行などと提携して充電スポットを増やす取り組みを進めており、同社独自の急速充電施設「スーパーチャージャー」を全国 17 都市に 59 カ所、合計 228 台設置したほか、充電スポットも全国 70 都市以上に 1000 カ所ほど新設した。家庭用充電器も購入者の 90%以上が設置済みだという。このほか、ナンバー登録を抽選制にしている北京市政府などに対して、「Model S」が新エネルギー車優遇抽選枠の対象となるよう積極的な働きかけも行っている。

スーパーチャージャー

2015 年 3 月末時点のスーパーチャージャー設置個所 上海周辺だけで 21 カ所 78 台ある

同社は「スマートフォンも発売当初はとても高価だった」と例を挙げ、EV も 2017 年には 30-40 万元まで値下げできるとの考えを明らかにしている。また充電スタンドが都市部に集中している現状を逆手に取り、「長距離を移動するためではなく、毎日の通勤の足とすることでドライバーの環境保護意識の高さが伝わる」とアピールする。最近では、ハイヤー手配サービスの「易到用車」と協力した宣伝プロモーションが話題になっており、ショールームより気軽に体験できると好評だ。易到用車での利用をきっかけに「Model S」に興味を持つ富裕層が後を絶たないという。

3. 易到用車で「Model S」に乗る!

「易到用車」は、北京東方車雲信息技術有限公司が手掛けるハイヤー・レンタカーの予約アプリで、車両と運転手をそれぞれリース会社と労務サービス会社に提供してもらう形で全国 74 都市にサービスを拡大している。

ハイヤーはタクシーに比べ運賃が高くつくが、安全な運転とサービスの良さが評判だ。ひとつ上のサービスを求める中間層が、タクシー配車アプリのブームをきっかけにハイヤーを利用する例が急増していることから、超高級車で話題づくりをしたい易到用車と実際に乗車してもらい購入へとつなげたいテスラモーターズ、双方の思惑が一致。現在は北京や上海で「Model S」を指定することができ、料金は運転手と燃料代、保険代を含めて[1 元/1 分+5 元/km]で計算され、最低利用料金は 30 元となっている(北京の場合)。これは同じ距離を走るタクシーのおよそ 3 倍の値段だ。

予約はモバイルアプリと Web サイトのほか、電話でも行うことができる。モバイルアプリの場合、アプリをダウンロードした後、まず携帯電話の番号で会員登録を行う必要がある。その後トップページから「马上用车(すぐに利用)」をタップし、まずは車両クラスを選択する。もちろん配車予約や空港・駅への送迎依頼もできる。

ここでは Tesla にチェックする。ほかの車両クラスでもよい場合は複数にチェックを付ける。続いて利用日と時間を選択する。タクシーと同じように今すぐに利用したい場合は「現在」を選べばよい。

次に出発地と行き先を入力する。地図から直接選択したり検索もできる。

出発地と目的地を入力後、右上の「确认(確認)」をタップするとおおよその目安となる料金が表示される。確認後、一番下の「选车(車を選択)」をタップすると、付近を走行中のテスラ車両が表示され、配車のリクエストが送信される。しばらくすると、配車に応じられる運転手がリスト表示されるので、詳細情報を確認して運転手を選ぶ。

運転手の詳細ページでは、最近の営業日数、運転年数、利用者からの評価、この運転手を“お気に入り“に登録している利用者数、車の写真とナンバーを確認することができる。この運転手に依頼する場合は一番下の「选 TA(選択)」をタップした後、次に表示される確認ページで「确认(確認)」をタップすればよい。すると、すぐに微信(Weixin)で配車完了のお知らせが届く。後は「Model S」が迎えに来るのを待つだけだ。

4. さらなる市場開拓狙い、現地工場も検討か

中国市場の開拓に思いがけず手こずっていたテスラモーターズだが、中国における2015 年 3 月の販売台数は前月に比べ 130-150%増となる見通しで、2 月単月のナンバー登録数は 200 台を超えた。トップの度重なる交代劇が伝えられるが、中国戦略の要となる超高級車としてのイメージ作りはおおむね順調で、易到用車での“試乗体験”も狙い通りクチコミで感想が広がっている。一方、地方の富裕層には民生銀行の資産運用イベント「財富中国行」を通じてリーチしており、内陸市場の開拓が待たれる。

また先日行われた最新モデル「Model S P85D」の納車式典では、テスラ中国区の朱曉彤総経理が本格的なローカル化に着手する意向を明らかにし、その第一歩として国内で部品調達を行うことを明らかにした。なお 3 月には中国での販売が目標を下回っていることから、事業再編の一環として人員整理を実施。詳細は明らかでないが、一部メディアは従業員のおよそ 30%にあたる 180 人を削減したと報じている。さらに中国で合弁工場を検討しているとして、富士康、上海汽車、江淮汽車、福田汽車、力帆汽車、長安汽車の 6 社が候補として報道されている。世界の市場で成功した同社の手腕が今、中国で試されている。

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