1. 双 11 に並ぶ大型 EC イベント「618 セール」
毎年 11 月 11 日の独身の日に行われる EC セール「双 11」では、阿里巴巴(アリババ) グループの EC サイト「天猫(Tmall)」の売上が 2019 年は 4,101 億元(約 6 兆円)に達し、 過去最高記録を更新したため日本でも報道された。中国では、この双 11 と並ぶ EC の 大型イベントとして「618 セール」が消費者の大きな注目を集めている。
618 セールは、EC 大手の京東(JD)が 6 月 18 日の創業日にちなんで始めたイベントで、今年は 6 月 1 日から 6 月 18 日にかけて行われた。双 11 よりセール期間が長いという特徴があり、京東以外にも天猫、家電 EC の SUNING(蘇寧)といった EC 事業者が一斉にセールを開催している。近年は共同購入に強みをもつ「拼多多(ピンドゥドゥ)」、阿里巴巴グループの越境 EC「考拉海購(Kaola)」などの新規プラットフォームも 618 期間中にイベントを行っており、618 セールは大規模商戦に発展してきている。
さらに今年は春に新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため外出が制限されて いたことから、そのストレスの反動で消費者の購買意欲は高く、企業も大きな期待をしていた。618 セールの期間は例年 6 月 1 日~6 月 20 日だが、京東は 1 週間早い 5 月 21 日からセールで使える商品券やクーポン券の配布を始めた。一方、天猫のセールスタート時期は一週間遅い 5 月 29 日からとなった。
また一部の店舗は、限定価格の目玉商品について予約購入サービスを行った。消費者は予約時に頭金を支払い、指定された期間内に残金を払えば購入となり、商品が発送される仕組みだ。予約購入は、消費者にとっては商品を安い値段で確実に購入できるとい うメリットがあり、メーカーと販売代理店にとっては事前に予約数を把握できるため、 地域ごとに事前に在庫を確保することで、セール中に物流を混乱させることなく確実に 商品を発送できるというメリットがある。京東の予約購入の対象商品は、家電、スマー トフォン、パソコンといった電化製品が主だった。天猫は短期間に消費者の購入意欲を 刺激する狙いから、セール期間中に 2 回の予約購入を行っている。
2. 618 セールの売上記録
今年の 618 セールのサイト別の売上トップ 3 は、天猫、京東、拼多多の順で、天猫は 6,982 億元(約 10 兆 5821 億円)、京東は 2,692 億元(約 4 兆 804 億円)と、両社とも自社のセール売上最高記録を更新した。
調査会社の欧特欧咨詢のまとめによれば、今年の 618 セールに参加したブランドは合わせて 32.1 万に上り、このうちセール期間中の売上が 1 億元(約 15 億円)を超えたブランドは 283 あった。さらに 10 億元(約 150 億円)を超えたブランドは 14、50 億元(約 766 億円)を超えたのは Apple、華為(Huawei)、美的(Midea)の 3 社だった。Apple は天猫のセール開始からわずか 5 秒で売上が 1 億元を超え、5 分後には iPhone の販売台数が 3 万台を突破。初日だけで売上が 15 億元を超えるという記録をたたき出している。
セール全体では、家電製品、携帯・通信製品、美容・化粧品の売上が好調だった。
サイト別では、家電製品の売上は京東の方が多く、美容・化粧品の売上は天猫の方が多い結果となった。これは京東はもともと PC、家電製品の EC としてスタートしたことから、自社で仕入れ販売をする直販形式となった今でも「デジタル製品や家電製品に強い EC サイト」として広く認識されていることが理由に挙げられる。また男性はデジタル製品・家電製品への関心が高いという傾向があるが、京東は男性ユーザーの比率が 高いことから、家電製品の売上増加につながった可能性は高い。売上ランキング外では、 男性の関心が高いカー用品の売上も京東の方が多かった。
一方の天猫は、スキンケアやメイクアップ用品の売上が京東の数倍に上った。天猫は 各ブランドがショップを出すモール形式であるため取り扱い商品の幅が広く、化粧品、 家庭用品、食品といろいろな商品を購入したい消費者にとっては、京東よりも天猫の方が利便性が高いようだ。
3. 京東と天猫の 618 セールの比較
今回の 618 セールで、京東と天猫がどのような企画を打ち出したのかまとめたのが次の表である。
京東は 122 億元分、天猫は 140 億元分もの商品券をそれぞれ配布し、さらに両社とも商品券と兼用可能なクーポンや紅包という名目の電子マネーを配布した。
またいずれも自社の物流網を保有しており、消費者の購入体験の満足度を高める狙いから、配送にかかる時間を最大限に短縮している。特に京東は 3 級以下の小規模な都市や農村部にも 24 時間以内の商品の到着を約束している。地方都市や農村に住む人は中国の総人口の 70%占めるが、地方の小規模都市は商業施設も少なく、品揃えも十分ではない。京東は全国の隅々にまで物流網を巡らせることで、買い物が不便な地域に住む消費者を取り込もうとしていることが伺える。
近年人気のあるライブコマースでは、京東と天猫はいずれも特別配信を実施している。 京東は、地元地域を知り尽くした県長による特産品のライブ販売、品質に自信を持つ社 長による自社製品のライブ販売、とにかく集客を狙った網紅(ネット上の有名人・キーオピニオンリーダー)や芸能人を使ったライブ販売の 3 タイプの番組を配信した。
京東で特別チャンネルが設けられた県長のライブ販売では、米や果物といった農産物の販売がメインで行われた。今春は新型肺炎の感染拡大の影響で物流が滞り、農民の収入減少にも影響が出ていることから、農村地域の県長や村長が自ら宣伝に乗り出した形だ。武漢市のある湖北省では各地の首長がライブ販売に力を入れた結果、618 セールの売上が合計 11 億元を突破。特に黄桃、ジャガイモ、キクラゲといった特産品の販売が 好調だったという(欧特欧咨詢調べ)。
一方の天猫も、社長による自社製品のライブ販売、網紅や芸能人を使ったライブ販売に加え、天猫 Club ライブ販売を配信した。この天猫 Club ライブ販売とは、天猫に出店する 100 社と提携して実施するオンラインとオフラインを連動したライブ販売で、実店舗での臨場感あるセールストークが消費者の購入意欲を刺激すると話題になった。
4. 越境 EC も前年実績を上回る売上に
天猫の越境 EC サイト「天猫国際」は、618 セールがスタートしてわずか 3 分で売上が 1 億元を超え、9 時間で 2019 年の売上実績 を突破した。具体的な金額はまだ公式発表されていないが、6 月 1 日~18 日の売上は前年同期比 43%増で、海外倉庫からの直送商品 に限れば同 199%もの増加となった。
天猫国際における国別の初日売上は、日本が前年比 42%増、韓国が同 45%増、フランスが同 67%増、ニュージーランドが同 48% 増となっており、海外旅行先としても人気の国が好調に推移した。 商品別ではヘルスケアと美容関連商品が好調だった。
京東もセール初日から越境 EC の売上が好調で、前年同期比 150%増となった。セー ル開始から 10 分で化粧品の売上が前年実績の 14 倍となり、2 時間後にはスキンケア用品が同 800%増、サプリメントが同 650%増となった。
越境 EC 商品の多くは、中国各地にある保税倉庫から発送されている。安徽省合肥税関によると、618 セール期間中に扱った越境 EC 商品の注文数は 10.7 万件、金額にし て 2,543 万元分で、前年同期に比べそれぞれ 12.4 倍と 13.7 倍に伸びたという。また天津港保税区によると、618 セール期間中の越境 EC 注文数は 190.5 万件で同 54.4%の増加となり、商品別トップ 3 は化粧品、ヘルスケア商品、粉ミルクで、人気商品の傾向は 今年も変わらないという。