<概要>
2001年、中国が WTOに加盟して以来、中国自動車市場の年間新車販売台数は、2001年の200万台未満から、近年では2,500万台を突破し、生産販売量・保有台数共に世界トップの成長を続けている。
一方で、昨今環境問題への対策が世界的潮流となり、中国政府も国内で環境汚染対策や経済政策を着々と進めている。その中の一つが、従来のガソリン車から新エネルギー車への転換だ。自動車がもたらす都市部の大気汚染問題や石炭・石油に依存するエネルギー問題への対策として、中国政府は2020年10月、「新エネルギー車業界発展計画(2021-2035)」を発表。2035年までに、新エネルギー車が新車販売の主流となる目標を掲げている。
政府による強力な政策支援がある中国自動車業界。今回の記事では、中国自動車業界の政策環境からマクロ経済の推移、さらには将来の主役となる新エネルギー車をリードする中国新興メーカーの特徴や戦略まで、近年の業界事情を紹介する。
中国新エネルギー車業界 政策環境
中央と地方 政策で連携 成長後押し
新エネルギー車産業は、後戻りできない国家重点発展戦略となっている。2020年、中国政府は新エネルギー車業界への新規参入を促進、品質向上から法規制の整備、補助金政策延長など、多くの販売刺激策を発表した。同年10月には、国務院が「新エネルギー車業界発展計画(2021−2035)」を発表し、今後15年の発展戦略の骨子が固まった。これを受け、各地方政府も続々と独自規約を発表し追随、新エネルギー車業界発展が社会的主流となっている。
<国家政策>
- 2020.07 中国工業情報化部「新エネルギー車生産企業及び製品参入管理規定」改正の決定
―生産企業参入に関する“設計開発能力”の規則を削除、生産停止期間を12カ月から24カ月に修正、新エネルギー車生産企業の申請参入の過渡期臨時条約を削除 - 2020.06 「自動車企業平均燃費と新エネルギー車ポイント管理弁法」改定
―新エネルギー車のポイント制度活性化措置を改定し、ポイント不足による需要と供給の不均衡是正を行い、ポイント価値を保証 - 2020.05 「電気自動車強制性国家標準に関する通知」
―「電気自動車安全規約」「電気バス安全規約」「電気自動車用バッテリー安全規約」の3つの国家規約を発表 - 2020.04 「新エネルギー車普及応用財政支援政策実施の通知」
―新エネルギー車推進および財政支援策を2022年末まで延長、自動車エネルギー効率と電気自動車航続距離向上を目指す - 2020.02 「AI搭載スマート車発展戦略」
―2025年までに自動運転AI搭載スマート車の量産化を目指す - 2020.01 新エネルギー車バッテリーリサイクル総合利用業界規範条件(2019年本)
―技術・設備・工芸の全体規約を制定
<地方政策>
- 北京市:「新エネルギー乗用車指標配置の臨時追加通告」
―2020年度に2万個の新エネルギー車指標の臨時追加配置を行い、全て家庭用配置を条件とする - 四川省:「新エネルギー車及びAI搭載車産業の発展支援に関する若干の政策措置(意見募集稿)」
―国家レベル製造業イノベーションセンターを新たに承認、国家支援建設資金の比率に従い特別ボーナスを付与 - 天津市:「天津市自動車消費促進の一部措通知」
―北京河北籍者以外の非天津市民にも乗用車個人増量指標入札条件を適用し、新エネルギー車の充電補助も付与 - 上海市:「消費者の新エネルギー車購入に際する充電補助実施細則」
―申請条件をクリアした消費者に、1人5000元の充電補助金を適用 - 江西省:「江西省新エネルギーバス推進応用実施方案(2020−2022年)」
―2022年末までに、全省内でバスの増設・交換を行い、新エネルギーバス比率を92%にまで引き上げる - 海南省:「海南省クリーンエネルギー車推進2020年行動計画」
―2020年内に、全省内各政府機関・国有企業において、特殊用途車を除く公用車を増設・交換し、新エネルギー車使用率100%を目指す
新エネルギー車業界のマクロ経済状況
<経済環境>直近2年の住民消費増加率は大幅上昇、交通通信支出額も堅調に増加
2017年、市民の債務高と宅地高騰によって著しく降下した平均消費支出額だが、2019年には正常化し、消費者意欲も回復してきている。同時に、消費が安定したことで、交通と通信の支出額も堅調で、2018年からは増加率も横ばいとなっている。コロナ禍等の不確定要素を除けば、中国の消費は小幅増加傾向にある。
<エネルギー環境>中国原油対外依存度70%超 日増しに高まる代替エネルギーへの転換
近年、中国国内の原油の需要が増加し、自給自足の供給パターンに変化が現れた。2019年の原油生産量は依然増加しているものの、原油輸入量は5億トンを超えている。石油経済技術研究院の発表によると、2019年の国内原油対外依存度は70%超え、50%の国際警戒ラインを遥かに上回っている。そのため国家戦略として、電気やリチウムエネルギー等の代替エネルギー資源への転換は、その重要度が増している。
世界におけるエネルギー資源の競争力を高め、国際的な情勢不安によるマイナス局面を軽減したい考えだ。多くの国が、燃油車の販売禁止法案を承認し、対石油依存度を軽減させている。中国国内では海南省が2030年に、燃油車販売禁止とする目標を掲げている。
各国の燃料車販売禁止計画一覧
国家 | 販売禁止計画 |
オランダ | 2025年までに燃料車販売禁止 |
ノルウェー | 2025年までに燃料車販売禁止 |
インド | 2030年までに燃料車全面販売禁止 |
ドイツ | 2030年までに伝統内燃料車全面販売禁止 |
フランス | 2040年までに燃料車全面販売禁止 |
イギリス | 2040年までにディーゼル車全面販売禁止 |
2019年、海南省が「海南省クリーンエネルギー車発展計画」を正式に発表した。2020年から段階的な目標を設け、2030年には省全域内で燃料自動車の販売を禁止する。
- 2020 公共サービスでクリーンエネルギー化を実現
- 2025 社会事業でクリーンエネルギー化を実現
- 2030 燃料自動車の販売全面禁止へ
成長戦略事例
企業事例―蔚来
ハイエンドAI知能車市場が狙い目、バッテリー交換型モデルと車体・電池の分離販売型モデルの受注倍増
2014年11月創業の新興自動車メーカー蔚来汽車(NIO)は、ハイエンド市場をターゲットとし、販売価格は約35−56万元(約600−960万円)、人工智能システム(NOMI)や自動補助運転システム(NIO pilot)を搭載している。同社は主力製品として、バッテリー交換型車を販売、ユーザーに利便性の高いエネルギー供給サービスを提供している。
また、BaaS(Battery as a Service)と呼ばれるモデルは、車本体とバッテリーを分離販売し、バッテリーはサブスクリプションするサービスも提供している。これにより、ユーザーの車体購入費や維持費を抑え、バッテリー残量や寿命を気にすることなく利用できる。
一方で、蔚来汽車、北汽新能源、中汽中心社(中国自動車技術研究センター:CATARC)の3社が中心となって起案した「電動自動車バッテリー交換の安全要件」が審査を通過し、蔚来はハイエンド市場をリードする企業の一つとなっている。
蔚来汽車主要商品
NIO Power:エネルギー補給サービス
家庭用充電スタンド | バッテリー交換ステーション | ドアツードア 充電車 | 公共充電スタンド |
自動授権 遠隔操作 定期予約 | 全自動交換システム 生涯無料保証 | 90KW急速充電 10分充電で100キロ航続可能 | 自社建設のスーパーステーション 全国網拡大中 |
企業事例―比亜迪
新エネルギー車ラインナップ豊富、ブレードバッテリーで技術革新を先導
中国自動車メーカーの比亜迪(BYD)は1995年2月創業、長沙や西安等中国国内に多くの生産拠点を持つ。業界内で創設時期が早かったこともあり、経験や技術面でも業界の先導役。展開する事業も、従来燃料車から新エネルギー自動車の開発、また携帯電話の部品や組立、バッテリーや太陽光発電の生産、さらには都市部の鉄道交通設備まで、幅広く網羅している。
特に、BYDブランドの王朝シリーズ車ラインナッップは豊富で、新エネルギー車のセグメント市場もほぼ網羅している。2020年3月にはブレードバッテリー(中国名:刀片電池)を発表。リン酸鉄リチウムイオン電池を搭載し、航続距離能力を向上させ、さらには業界公認で最も厳しいとされている、バッテリー安全性能を測る「釘刺実験」もクリアし、充電、環境、安全性能の高さが実証されている。
王朝シリーズ製品ラインナップ(一部)
左からコンパクト型SUV、中型SUV、中型セダン、コンパクト乗用車、コンパクト型SUV
BYD王朝シリーズは、コンパクトカーから中型大型車の乗用車、SUVやミニバンと幅広いラインナップを揃えており、同時に価格帯も幅広い層のユーザーに対応できるようになっている。その中でも、世界で初めて新エネルギー車に「ブレードバッテリー」を搭載し、NEDCの続航距離を605キロまで可能にした。
- ブレードバッテリー(刀片電池)とは:高い安全性、長寿命、長い航続距離が特徴
リン酸鉄リチウムイオン電池を搭載し、バッテリーの厚みを軽減、長さを伸ばし、体積搭載率を50パーセント以上向上させている。体積量密度は三元電池と変わらないが、安全性能では大きく上回っている。
関連資料:上海艾瑞市场咨询有限公司 (上海アイリサーチコンサルティング有限公司)より引用、翻訳加筆クララ