中国の成長支えるインターネット業界、規制強化へ転換か

インターネット業界の集中取り締まりスタート

工業情報化部は2021年7月26日、今後半年間に渡ってインターネット業界の集中取り締まりを行うと発表した。オープンで相互運用可能な、安全で秩序ある市場環境の構築を目指し、健全で質の高い発展を促進することが目的だとしている。

https://www.miit.gov.cn/xwdt/gxdt/ldhd/art/2021/art_942c35d37345442eb10cbce9852dddad.html

今回の取り締まりの重点は、市場秩序の混乱、ユーザーの権利・利益の侵害、データの安全性に対する脅威、企業のリソース・資格面での管理規定違反という4分野8項目に渡る。

工業情報部は取り締まり対象となる具体的なケースにも言及しており、例えば市場秩序の混乱については、悪意をもって他のWEBサイトへのリンクのアクセスを制限する、差別的なブロッキングを行うといった、他の企業の製品・サービスの運営に対する妨害行為を是正するとしている。またデータの安全性に対する脅威については、企業によるデータの収集・送信・保管・対外提供について、データ送信時に機密情報を暗号化していない、データを第三者に提供する前にユーザーの同意を得ていない等、必要な管理・技術的措置を講じていない問題の是正に重点を置くとしている。

管理規定違反については、これまでも定期的に検査が行われてきたが、今回もWEBサイトの開設に必要な届出登録が行われているか、届出登録の内容が適切に更新されているか、ネットワークの又貸し等が行われていないかが取り締まりの対象となる。

今回の取り締まりに関連したものかどうか正式なコメントは出ていないが、翌日の7月27日には騰訊(テンセント)が運営するチャットサービス「微信(WeChat)」が、個人アカウントと公衆アカウント(公式アカウントに相当)の新規登録を一時停止した。同社は公式アカウントを通じて「関連する法律に基づき、セキュリティ技術のアップグレードを進めているため、アカウントの新規登録を一時停止している」と説明しており、8月初めには再開する予定だとしている。

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1706495589474271623&wfr=spider&for=pc

独占禁止法違反の取り締まりも

中国政府が2020年11月、少数のIT企業が独占的な影響力を有する状況を問題視し規制する方針を明らかにして以降、国内のインターネット関連サービスが独占禁止法違反で処分されるケースも増えている。

2021年4月には、EC最大手の阿里巴巴集団(アリババ)に対して、EC市場での独占行為があったとして182億2800万元(約3,000億円)の罰金を科した。アリババは出店者に対して、競合するECサービスに出店しないよう強制していたという。

さらに2021年7月7日には、アリババが関わっていた22件のM&A案件について、必要な申請が行われていなかったことが独占禁止法違反にあたるとして、またもや50万元(約850万円)の罰金を科されている。

また2021年7月24日には、テンセントが2016年7月に行った中国音楽集団(CMC)の買収案件について、独占禁止法違反にあたるとの判断が下された。テンセントと関連会社には、音楽著作権の独占的権利の解除、正当な理由なく著作権者に競合よりも有利な条件での契約を求めることの禁止等の処分が行われたばかりだ。

オンライン学習サービスは許認可制へ、学習塾は上場禁止に


中国共産党中央委員会と国務院は2021年7月24日、「義務教育段階の学生の宿題負担・校外学習塾による負担の更なる軽減に関する意見(关于进一步减轻义务教育阶段学生作业负担和校外培训负担的意见)」』を発表した。

オンラインサービスを含む学習塾の規範化と子供たちの宿題や学習塾の負担軽減を目的とする内容となっているが、オンライン教育サービスへの規制強化がうたわれている。

http://www.moe.gov.cn/jyb_xxgk/moe_1777/moe_1778/202107/t20210724_546576.html

具体的には、オンライン学習塾がこれまでの届出制から審査承認制に変更される。すでに届出を行い運営中のサービスについては改めて審査を行い、不合格の場合は届出とICPライセンスが取り消しとなる。スイミングや体操、ピアノ、絵画といったいわゆる習い事についても同様に審査承認制となる。

さらに学習塾は上場による資金調達を一律禁止し、上場企業による学習塾への投資も禁止された。外資によるM&Aやフランチャイズなどによる学習塾の保有や運営への参加も禁じている。 ちなみにこの「意見」では、宿題の問題を写真に撮ると一瞬で回答が表示される“宿題お助けアプリ”を禁じている。このようなアプリは複数あり、のべ1億人を超える子供たちが使っているが、近いうちに市場から一掃されることになるのか注目される。

海外上場企業の足を引っ張る動きも

日本でも配車サービスを展開している滴滴出行(ディディ)は、2021年6月末に米ニューヨーク証券取引所に上場したが、IPOからわずか数日後の7月4日に中国国内での新規ユーザー登録が中止され、アプリのダウンロードが停止された。その後7月9日には、滴滴グループ傘下の25のアプリも同様にダウンロードが停止されている。中国当局は、アプリのダウンロード停止は違法に個人情報を収集していたためと説明しており、7月16日にはネットワークのセキュリティ審査のため同社への立ち入り調査を行っていることを明らかにしている。

滴滴は中国の配車サービス最大手で、移動に関する膨大な量の個人情報を有するにもかかわらず、米国で上場し、さらに大株主が日本のソフトバンクグループと米Uberであることから、中国当局が米国へのデータ流出を懸念したためとの見方が強い。

http://www.cac.gov.cn/2021-07/16/c_1628023601191804.htm

国家インターネット情報弁公室は2021年7月5日、6月に米ナスダックに上場したばかりのオンライン求人サービス「BOSS直聘」とニューヨーク証券取引所に上場したトラック配車サービスの満幇集団(Full Truck Alliance)の2社について、サイバーセキュリティ法等への違反が疑われるとして、両社のアプリの新規ユーザー登録を中止し、検査を行うと発表した。両社ともすぐさま当局に協力するコメントを発表しており、現在も検査中とみられる。なお、BOSS直聘にはテンセントが、満幇集団にはテンセントとソフトバンクが投資している。

直近では、シェアサイクルの「Hellobike」が2021年7月27日に米ナスダック市場への上場申請を取り下げたことが明らかになった。理由は明らかにされていないが、同社はアリババの投資を受けており、アクティブユーザー数が1億人を超えていることから、申請の取り下げに踏み切ったものとみられる。

なお、2021年7月10日に国家インターネット情報弁公室が発表した「サイバーセキュリティ審査弁法(修正草案意見募集稿)」では、100万人以上のユーザーの個人情報を有する運営会社が海外上場をする際には必ず当局に申請しサイバーセキュリティ審査を受けなければならないとの規定がある。まだ意見募集稿の段階で正式施行されてはいないが、この規定が影響している可能性がある。

経済成長より政治的な安定重視へと転換か

アリババやテンセントを代表とする中国のIT大手は、膨大な個人情報のデータを抱え、資金力はもちろん、テクノロジーの面でも、国民への影響力の面でも大きな力を持っている。海外の株式市場に上場しているか、あるいは海外からの投資を受けている企業がほとんどだ。

中国政府はこの数年、法令違反を理由としてIT企業の規制を強化している。とりわけ2017年にサイバーセキュリティ法が成立し、関連法規の整備が進むにつれてその傾向は特に強まったという印象は強い。また独占禁止法は2008年の施行以降、外資企業に巨額の制裁金をかしたという報道が多かったことから、「外資たたきの道具」と言われることすらあったが、このところは国内企業が厳しい処分を受けるケースが目立つ。

関係悪化が著しい米国へのデータ流出を懸念しているとの見方もあるが、一方でもっと単純に、政権内部の問題であったり、あるいは力を持った国内企業に対して政権不安にも通じる脅威を感じ、何とか理由を付けて勢力を弱めようとしているとも映る。経済成長がなにより優先だった時代から、政治的な安定を重視する時代へと、十四五(第14次5カ年計画、2021-25年)は中国の新たな転換期となりそうだ。

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