外出規制中の中国ECのトレンド

目次

1. 外出規制で毎日 3 万人が店主に

新型コロナウイルスの感染拡大によって、中国では 1 月末ごろから外出制限が始まり、ピーク時には全国の 50 を超える都市で外出禁止などの厳しい措置が取られた。感染が深刻な地域では 2 カ月半にも及ぶ自宅待機を強いられたわけだが、この間に中国では“オンライン創業ブーム”が起きている。

EC 最大手の阿里巴巴(アリババ)によると、外出規制期間中の2020 年 2 月には毎日 3 万人以上が同社の EC プラットフォームを利用してネットショップを新規出店し、さらに多くの人が再出店したり閉店状態だった店舗を再開させた。従来からあるC2C マーケットプレイスの「淘宝(Taobao)」だけでなく、2020 年 1 月に正式リリースされたばかりの S2B2C モデルを採用した EC プラットフォーム「淘小舗(Taoxiaopu)」やライブコマース「淘宝直播 (TaobaoLive)」への出店も相次いだ。

この時期にネットショップを開設した人の多くは、実店舗が営業できなくなった店主たちだ。店舗の家賃を払うために、従業員の賃金を払うために、そして自身の生活のために、なんとか収入を得ようと商売の場をオンライン上へ移したのだ。その後、外出規制が解かれても、従業員が田舎から戻ってこられなかったり、そのまま辞めてしまったりして人手が足りず店が開けられない状況に困った店主がネットショップを始めるようなケースもある。

ちなみに中国では、中小企業向けに各種税金の減免や納付期限の延期といった措置はあるものの、日本のように直接現金を支給するような補償はほぼ行われていない。

また百貨店やショッピングモールなどで働いていた販売員らが、店の休業で収入が減ったり仕事がなくなったりしたために、特技のセールストークを生かしてライブコマースを始めるケースもみられた。阿里巴巴グループの百貨店、銀泰百貨に勤めている 1,000 人あまりの販売員が 3 日間で 1,000 回以上ものライブ配信を行ったところ、売上額は 1,000 万元(約1.5 億円)近くに達した。なかには一度の配信で、店舗での 1 週間分の売上を軽く超えるような成果を上げる販売員もいたという。

アパレルや化粧品のみならず、書店のライブコマースも急増している。全国の 200 を超える大型書店がライブコマースに乗り出しており、北京だけでも北京新華書店や北京図書大厦、王府井書店といった大きな書店が配信をしている。営業できない店舗に代わって店員がおススメの本を紹介したり、複数の本の特売セールを行ったりする内容で、もちろんその場ですぐに購入することができる。片や小さな書店も、本好きの店主がぜひ読んでほしいと思う本をライブコマースで紹介したり、絵本の読み聞かせをしたりして、SNSでの発信と絡めて販売につなげる試みを行った。中国では 2019 年時点で本のオンライン購入率が 70%に達しているが、本の魅力を伝えるのにうってつけのライブコマースは、これからのオンライン書店の形として定着しそうだ。

一方で、突然の外出制限でヒマを持て余し、前から興味のあったネットショップやライブコマースを始めてみたという学生や年配者も多くいる。ネットショップを始めるとなると仕入れが必要になるが、S2B2C モデルの「淘小舗(Taoxiaopu)」では、阿里巴巴グループの B2C サイト「天猫(Tmall)」に出店するブランドや提携メーカー、提携農場などから仕入れする仕組みが用意されている。在庫を抱えたくなければ、天猫などにある商品をリンクで紹介して、売上に応じた歩合を得る方法を選ぶことも可能だ。主な顧客となるのは、すでに自身が抱えている顧客や SNS のフォロワー、友人などだ。自分が好きなモノだけを簡単に売ることができるとあって、サービス開始から 2 カ月あまりで 200 万人以上が淘小舗で創業しているという。

阿里巴巴側も危機のさなかに起きたオンライン創業ブームに応えるべく、様々な取り組みを行っている。グループの各 EC プラットフォームへの出店費用の免除や店舗運営ツールの無料提供、初心者のための手厚い運営サポートのほか、とりわけ苦境に陥っている小売店を支援するため、2 月 10日から全国すべての実店舗の店主向けにライブコマース「淘宝直播」への出店条件を撤廃し、出店費用も無料にした。感染が深刻だった湖北省に拠点を置く出店者には、店舗の運営代行サービスを一定期間無料で利用できるようにもしている。

2. EC で食品購入のニーズが増加

住んでいる地域によっては買い物のための外出も許されなかったり、そもそも外出が怖いという人も多く、2 月から 3 月にかけては生鮮食品のネット通販が好調に推移した。

生鮮 O2O の「毎日優鮮」は全国約 20 都市でサービスを展開しているが、春節(旧正月)以降の売上が前年同期の 3 倍以上に伸び、特に 2 月は累計で 2 億件を超える商品の注文を受けた。アプリとミニプログラムの月間アクティブユーザー数は 2,500 万人に上る。「美団売菜」や「京東生鮮」も北京、上海、深センといった大都市を中心に売上が大幅に増加。特に野菜、米、油、果物、肉、たまご、海鮮の需要が増えた。

どの生鮮 EC も通常ならば注文から 1 時間以内に配達されるが、外出制限期間中は売り切れる野菜があったり、配送スタッフが足りないために注文できないことも多かったとの声が聞かれる。阿里巴巴グループの生鮮 EC「盒馬鮮生」では、配送準備を行うスタッフやドライバーの不足を補うため、自宅待機となったレストラン従業員を“シェア”すると発表し、2月 10 日から雲海肴や西貝といった有名レストランの従業員1,800 人あまりを雇い入れた。

また、農産物の品切れは生産能力の不足ではなく、輸送が滞っているためだとして、「毎日優鮮」では輸送能力の増強を図った上で、内モンゴル、雲南、山東といった産地からの野菜の供給量を 1 日 2,000 トンにまで増やして、品切れを防止。さらに通常ならば注文から配達完了まで 30 分ほどだが、2 月のピーク時でも注文の 9 割以上で 2 時間以内の配達完了を達成して、消費者の不安解消に努めたという。

上海、無錫、蘇州でサービスを展開する「食行生鮮」も、配送数は通常の 3 倍近くに増えた。ピーク時の配送ドライバーは毎日 900 件もの配送で 15 時間以上も働いており、特に忙しい日には朝 4 時から夜 9 時過ぎまで働き詰めだったほどだとコメントしている。一方、蘇寧グループの「蘇寧菜場」では、配達よりも確実に注文が可能な“来店受け取り”による注文が通常の650%増になった。

さて野菜や魚、肉などの生鮮食品以外では、必要な食材が入っているミールキットも通常の 10 倍を超える売れ行きとなった。休業を余儀なくされた飲食店が新たにミールキットの販売を始めるケースが目立ち、日本にも店舗がある火鍋チェーンの「海底撈」でも 2 月末からミールキットの販売・配送を始めている。鍋スープから野菜や肉までがセットになった火鍋セットはもちろん、麻婆豆腐など 20 種類ほどのミールキットを 36~125 元で用意した。最初は北京市内限定だったが、サプライチェーンや従業員の回復具合に合わせて 3 月からは深セン、広州、上海、西安などでも販売・配送を始めている。

ミールキットは飲食店からの直販のほか、EC サイトでも購入できる。天猫(Tmall)の食品 EC サイト「天猫食品」でも、2 月の惣菜類やミールキットの販売数は前年同月に比べて 7 倍近くに増えたと発表している。

急拡大したミールキット市場だが、外出制限が解除されて以降も市場の成長が続くかには懐疑的な声が多い。通常の生活に戻れば、自分で材料を買ってきて作ったほうが安く済むし、店の味を食べたければデリバリーを頼めばよいからだ。食品産業のアナリストは、ミールキットは営業できなくなった飲食店が生き残りをかけて“発明”したものであって、今後は飲食店の副収入源の一つといったポジションに落ち着くのではないかとみている。

3. 生活用品の EC で売れたものは

インターネット上には、各社が様々な売れ筋トップ 10 商品を発表している。天猫が発表したデータによると、2020 年 1-3 月で特に売れた商品は首や腰用のマッサージ器で売上額は前年同期比1,930%増、多機能調理鍋が同 15,011%増、スタンドミキサーが同453%増、ホットサンドメーカーが同 3,353%増となっている。

共同購入が得意なソーシャル EC の「拼多多」は、1 月 24 日~2 月 14 日までの期間中で最も検索・購入・シェアされた商品として、1 位がバリカンなどの家庭用散髪器具、2 位が口紅、3 位がヨガマット、4 位が泡立て器、5 位がパジャマだったと発表した。家庭用散髪器具の検索数は前年同期比で410%増、販売数も同 290%増となっており、週の売上総額は 3,000 万元以上で、単純計算すれば全国で週に 100 万台ものバリカンが売れていることになる。片や外出制限期間中にも関わらず口紅の販売数は同 270%増となったが、これはライブ配信のために化粧をするという需要があるほか、家にいても化粧をして明るい気持ちになりたいから、単純に自分の物欲を満足させたいから、といった理由があるようだ。

このほか企業や工場の操業再開に伴って売れている商品では、マスクの内側に入れる使い捨てシート、マスクのゴムで耳が痛くなるのを防ぐ専用グッズ、防護メガネ、防護服、フェイスガード、使い捨てゴム手袋、消毒液、体温計、空気清浄機、紫外線消毒器、加熱式弁当箱、フリーズドライ食品、電動自転車などが挙げられている。

また子供や若者向けに売れた商品では、スマホゲームのための補助ツールが 10 万個以上売れており、手作りする方法を紹介する動画も出回っている。併せて Nintendo Switch 本体やPlayStation 本体、ゲーミング PC といった高額商品も拼多多では同 130%増の売れ行きとなった。家庭用プロジェクターも京東では春節期間中だけで同 200%増、小さな子供向けの積み木やパズルも 10 万件以上売れている。2 月に入ると多くの学校がインターネットを使った授業に切り替えたことから、拼多多では学習用のタブレットが 20 万台以上売れたほか、スタンドライト、USB メモリ、イヤホン、プリンターといった勉強に必要な商品が同 140%増と好調に推移した。

4. 車も無接触販売で

中国ではオンラインで売れないものはないと言われるが、自動車メーカーや中古車販売店がオンラインでの販売を強化したり、なかにはライブコマースを始めたディーラーもある。このところ販売が落ち込んでいた自動車市場だが、マイカーがあれば人との接触が避けられるとアピールしている。

有名どころでは米フォードの合弁会社、長安フォードが“無接触購入”を前面に押し出したサービスを展開している。フォードの Web サイト「福特商城」で購入申し込みをすると、最寄りの販売店とチャットや電話などで納車日の打ち合わせを行う。納車もオンラインでというわけにはいかないが、会話をしなくて済むよう操作方法や機能の説明は動画で済ませ、購入者の目の前で車の消毒を行ってから引き渡すという徹底ぶりだ。

このほか O2O 中古車販売のトップランナーである「瓜子二手車」が、2 月上旬から全ての手続きをオンライン上で行う“無接触購入”サービスを始めている。車を選ぶ際はライブ配信で説明を聞き、わからないことや確認したいことがあればチャットや電話を使う。契約手続きはオンラインで進めるが、国の補助金を申請するための資料などは郵便でやりとりし、納車の時はもちろん消毒してから引き渡すという。全国にある提携販売店では、店舗内は毎日複数回の消毒を行い、車は通常の洗車に加えてオゾンや紫外線での殺菌を行っている。

創業者の王暁宇副総裁は、外出制限が解除されるにつれて中古車の問い合わせが増えていると話す。ライブ配信ならば、一度にたくさんの顧客に車の説明をすることができる上、チャットでの問い合わせ対応は遠方の自宅で待機する従業員でも行えることから、店舗は人手不足であっても十分対応できているという。店は徐々に通常通りに戻っているが、当面はライブ配信による車の販売を続ける考えだという。

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この記事を書いた人

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