1. 中国の EC 市場は引き続き拡大
中国インターネット発展情報統計(中国互聯網絡発展状況統計報告)によれば、2015年 12 月末時点の中国のインターネット利用者数は 6.88 億人で、前年末より 3951 万人増加した。インターネットの普及率は 50.3%で、初めて 50%を上回った。
モバイル端末からのインターネット利用者は全体の 90.1%に達し、デスクトップ PCの 67.6%、ノート PC の 38.7%を大きく引き離した。ただしモバイル端末のみを利用する人は 18.5%しかおらず、多くの人は外出先ではスマートフォン、自宅では PC と使い分けているようだ。
またネットショッピングの利用者は 4.13 億人で、インターネット利用者全体のおよそ 60%にあたる。このうちモバイルからの利用者は 3.40 億人で、前年末に比べ 43.9%増加した。2015 年のネットショッピング市場規模は前年実績を 30%以上も上回る 3.9兆元に迫る見通しで、第 3 四半期(7-9 月)の売上は 9451.0 億元だった。
2015 年第 3 四半期(7-9 月)の BtoC ネットショッピング市場のシェアは、阿里巴巴(アリババ)グループが運営する天猫が 54.0%で引き続きトップを維持した。モバイルショッピングの分野でも、阿里巴巴グループの手機淘宝+天猫が 82.1%の圧倒的なシェアを持つ。市場はすでに成熟期に突入しており、今後も安定した成長が続くと見込まれる。
ネットショッピングの成長に伴い、宅配便市場も急成長している。国家郵政局のまとめによれば、2015 年の全国の宅配便取扱数は前年比 48%増の 206.7 億個で、売上は同35.4%増の 2769.6 億元だった。取扱数を配送先別にみると、同一市内が全体の 26.1%、市外が 71.8%、香港・台湾・マカオを含む海外が 2.1%で、売上はそれぞれ同 50.7%増の 400.8 億元、同 33.8%増の 1512.9 億元、同 17%増の 369.6 億元となっている。売上に占める配送地域ごとの割合は、東部が 81.9%、中部が 10.3%、西部が 7.8%で、取扱数も東部地域だけで全体の 82%を占める状況となっている。
2. EC 生態圏が市場をけん引
中国のネットショッピング分野は、1999 年に中国初の EC サイト「8848.net」が開設されたのを皮切りに飛躍的な発展を遂げてきた。現在は淘宝網(Taobao)や天猫(Tmall)といった総合 EC サイトを中心に、ベビー用品や酒類のみを扱う専門 EC サイトや海外から商品を購入できる越境 EC サイトが登場し、サプライチェーンや運営代行、物流、決済、セキュリティサービスなどの関連サービスが市場の成長を支えている。
● 淘宝網(Taobao)・天猫(Tmall) https://www.taobao.com/ https://www.tmall.com/
阿里巴巴グループの二大サービスで、総合 EC サイトの中でも日本の楽天のようにモール形式をとっている。淘宝網は CtoC、天猫は BtoC で、グループの決済サービス「支付宝(Alipay)」で支払うのが一般的だ。すでにモバイルからのアクセスが半数以上を占めており、手機淘宝のアクティブユーザー数は 3.2 億人に上る。
毎年恒例となった 11 月11 日の巨大セール「双十一」では、当日の売上が 912 億元を超え、過去最高を記録した。同社は 2016 年の三大核心戦略として、グローバル化、農村、ビッグデータおよびクラウドコンピューティングを挙げており、これまでの実物商品だけにとどまらず体験やサービスへと取扱商品の拡大を進めている。
● 京東(JD) http://www.jd.com/
携帯電話やパソコンなどの小型デジタル製品に強いブランドイメージを確立しており、2015 年 9 月末時点のアクティブユーザー数は 1.32 億人。クレームが集中する配送を完全自社化することで、サービス品質の向上に努めている。2015 年 5 月からはエリア内の配送を一般個人に委託する「京東衆包」をスタートさせ、配送請負登録者は全国21 都市で 50 万人を超えている。
十三五(第 13 次 5 カ年計画、2016-20 年)期間中は、国務院との協定に基づき、農村部を中心とした貧困地域の支援事業に取り組む。地域の特産物を販売するネットショップの開設支援や農村部における物流網の整備、雇用の確保などにより 200 万人の貧困脱却を目指すとしている。
● 唯品会(vip.com) http://www.vip.com/
唯品会は 2008 年にサービスを開始し、後発ながら「100%本物保証」をうたうことでシェアを伸ばしている。契約するメーカーや小売業者は 1.3 万社以上で、2014 年の売上は約 236 億元、2015 年は 9 月までに 260 億元に達している。セールやキャンペーンが多いことから女性に人気が高く、リピート率は 92.5%に達する(2015Q3、同社調べ)。
3. モバイル化の流れが一層強く
モバイルショッピングの利用者は、2014 年は 2 億 3609 万人だったが、2015 年には 3 億 3967 万人に達し、インターネット利用者の 54.8%がモバイル端末を使ってなんらかの買い物をした経験をもつ(2016.1 CNNIC 調べ)。ショッピングアプリの 1 日当たりの平均利用者数は、手機淘宝が 6679 万人、手機京東が 602 万人、手機天猫が 495 万人で、阿里巴巴グループの手機淘宝と天猫があわせて 82.1%ものシェアを握る(「手機」は携帯電話の意味)。
モバイルショッピング市場は、総合 EC サイトのモバイルアプリを中心に、セール情報アプリや価格比較アプリなどの関連サービスが成長を支えており、アパレル製品や化粧品といった比較的単価の安い商品が購入されている。スマートフォンを振ったり、画面をスワイプするといった動作でクーポンが飛び出るなど、スマートフォンならではのユーザー体験も好評だ。
モバイルショッピング市場は、伸び幅こそ縮小するものの当面はゆるやかな成長が続きそうだ。易観国際の予測によれば、2018 年の売上は前年比 26.3%増の 4.87 兆元になる見通しで、ネットショッピング全体に占めるモバイルショッピングの割合も 75%にまで拡大するとしている。
最大の成長阻害要因は、スマートフォンの普及による新規インターネット人口の減少だが、地方の小規模都市や農村住民の収入増加に加え、高速ブロードバンド・4G ネットワークのエリア拡大、モバイル通信料金の引き下げ、宅配便の配送網拡大などが大きくプラスに働くと期待される。
特に農村部は“買い手”としても“売り手”としても今後の成長のカギを握るとされており、阿里巴巴は今後 3-5 年間に 100 億元を投じて全国の県に 1000 カ所、村に 10万カ所のサービス拠点を設ける計画を発表し、「農村淘宝」と名付けたプラットフォームを通じて農村住民が特産品や農産物を販売する仕組みを整えた。これまで販路がなく現金収入に乏しかった農村住民は、農村淘宝を通じて売り手となることで収入を増やし、今度は買い手となって村のサービス拠点でネットショッピングを楽しんでいる。農村淘宝の売上は、2015 円 11 月 11 日の開業からわずか 2 カ月で 300 万元を突破し、2016年の春節(旧正月)に向けて年越し用品の販売が好調だという。京東など他の大手 EC 運営会社も農村戦略を打ち出しており、中国独自の展開に注目したい。