1. コロナ禍で迎えた国慶節
2020 年 10 月 1 日から 10 月 8 日までは、中国の建国記念日にあたる国慶節の連休だ。例年は 7 日間だが、今年は中秋節の連休と重なったため 1 日長い 8 日間となった。 ただし、毎年のように連休の前後の週末が振替出勤日となる。
今年は例年よりも長めの休みとなったにもかかわらず、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、海外旅行は実質的に不可能であった。外交部から海外渡航自粛の通知が 出されていた上、ほとんどの国が観光ビザの新規発給を中止しているからだ。国際線の便数も少なく、航空券は高額で、観光目的での往来はほぼ禁止の状態が続いている。さらに渡航先によっては現地到着後に隔離期間があり、中国に帰国後にも隔離期間が設けられているような状況だ。
国内旅行も感染を懸念して自ら自粛する人、あるいは学校などの指示で自粛せざるを 得ない人がおり、国内旅行も前年比ではマイナスとなった。文化旅游部の発表によれば、 2020 年の国慶節期間中の 8 日間に国内旅行に出かけた人は延べ 6 億 3700 万人で、前 年比 21%の減少となった。観光収入は同 30%減の 4,665 億 6,000 万元(約 7 兆 4,650 億 円)だった。
都市別では、上海市を訪れた旅行客は延べ 883 万人で、前年同期比では 25%の減少となり、観光収入は 135 億元で同 20%減となった。また国内で感染者が最も多く発生した湖北省武漢市を訪れた旅行客は延べ 1,817 万 5,300 人で、観光収入は 89 億 8,400 万元といずれも前年同期比 20%減となった。逆に言えば、長らく不自由な状況を強いられてきたにもかかわらず、前年実績の約 8 割まで回復したことになる。一方で、北京市を訪れた旅行客は前年比 8.4%増の延べ 998 万 2,000 人、観光収入は同 2.9%増の 115 億元と好調だった。
2. 上海の国慶節の様子
前章で紹介したとおり上海市を訪れた旅行客数は 883 万人で、前年を下回りはした ものの、主要観光スポットである外灘(ワイタン)や豫園(よえん)、繁華街の南京東路など は例年と変わらず人の海であった。
以前は南京東路だけだった歩行者天国が、新たに外灘まで延長されて整備されたこともあってか地元上海人も観光に訪れていたようで、上海語で話す声も多く聞こえてきた。 また外灘では今年も国慶節限定のイルミネーションショーが行われたこともあり、例年と変わらない賑わいだった。
同様に、上海で人気の老舗菓子店や今もなお観光客からの人気が衰えないスターバックスリザーブロースタリー(星巴克臻选烘焙工坊)、インターネットや SNS で話題となっ ている飲食店などは、いつもの週末よりも長い行列となっており、概ね近年の国慶節期 間中の上海の様子と変わりなかったように感じた。
上海の観光スポットは例年同様の混雑ぶりだったが、その一方で上海市民の多くは市 内から出なかった。なぜならば、学校や幼稚園からの通知で子供を上海市外へ連れ出す ことを禁止していたからだ。
実際に子供をローカルの幼稚園に通わせている友人に話を聞いたところ、国慶節が始まる 1 週間ほど前に Wechat(微信)の幼稚園のクラスのグループチャットで、旅行自粛を求めるお知らせが回ってきたとのことだった。内容は、上海市が発表した小中学校お よび幼稚園を対象とする新型肺炎の感染予防に関する規定を根拠に、連休中に上海を離れるべきではないといったもので、ほとんどの家庭はこの通知に従って上海を離れなかった。ちなみにもし上海から出た場合、14 日間の自宅隔離や PCR 検査の陰性証明書の提出が必要となっている。
同様の通知は上海市内の小中学校でも出されており、学生は基本的に上海市を離れて はならず、もし離れる場合は事前に学校へ申告しなければならないことなどが書かれている。実際に上海のローカルニュース番組では、親戚の結婚式があって上海を離れた親子が、連休明けに学校へ戻るため PCR 検査を受けている様子を紹介していた。なお大学生も同じように連休中の行動を管理されており、ネット上には不満の声が多くあふれていた。
例年であれば、子供は祖父母に預けて両親だけで旅行に行くような家庭も多いが、今年は学校からの通知に従って家族で上海に留まったという人が多かった。遠出をして旅行先で感染者が出たり、自分自身が感染してしまったりすることを心配している印象が強く、実際に知人や同僚に聞いても、面倒なことになるのが嫌なので行かないと話していた。またお金にシビアな上海人らしく、「出かけられない今はお金を貯めるのよ」というコメントも印象深かった。
その一方で、上海出身ではない人の中には、感染拡大の真っただ中であった春節(旧正 月)の連休に実家へ帰ることができなかったので、国慶節の連休を使って帰省するという人もいた。帰省できるのは幼稚園や学校に通う子供のいない家庭に限られるわけだが、 それでも鉄道切符は例年通りの争奪戦で、切符が手に入らないという友人もいたほどだ。
3. 今までの国慶節との違い
今までの国慶節との違いここ数年は、国慶節の前後に有給を取って 2 週間ほどの長期休暇にし、海外旅行に出かける人も多くいた。もちろん航空券の値段は高騰するが、ここぞとばかりに長期休暇を取って出かけていた。文化旅游部の発表によると、2019 年の国慶節の連休(7 日間)には、延べ 700 万人を超える人が海外旅行に出かけている。
2020 年の国慶節は、この700 万人を超える海外旅行客がほぼゼロとなり、更に国内旅行も前年実績の80%程度の水準にとどまった。今年はかなりの人が遠方へ移動せず、 地元で過ごしていたことが伺えるが、上海の人々は地元の観光地を改めて訪れたり、つい最近営業が再開したばかりの映画館へ映画を見に行ったりして過ごしたようだ。コロナ禍で閉店に追い込まれた店も多い一方、感染拡大が落ち着いたことで工事が一気に進 み、国慶節にあわせて新しくオープンしたショッピングモールが複数あったことから、 市内に留まっていても出かける場所には事欠かなかったように感じた。そのほか、市内 の博物館や動物園などもにぎわっていたことがニュースで報じられている。実際、筆者が訪れた外灘はものすごい人出だったが、かなり上海語が飛び交っており、3 世代で外灘を訪れている上海人家族も多く見受けられた。
連休中は観光地や施設側もコロナ対策をいっそう強化しており、入り口での検温はも ちろん、アプリを使った「健康コード」の提示が求められ、施設によっては事前予約で入場者数をコントロールしていた。これらの対応のおかげか、国慶節が終わって 2 週間 が過ぎた今も上海で新型コロナウイルスの新規感染者は出ていない。