子供向けオンラインサービスを規制する未成年者ネットワーク保護条例(意見募集稿)

2022年3月14日、国家インターネット情報弁公室は「未成年者ネットワーク保護条例(意見募集稿)」を公表し、2022年4月13日までパブリックコメントを募集した。本稿執筆時点までに本条例は正式公布されていない。

未成年者を対象とした同様の条例は、2016年9月に最初の草案が公表されたが、正式施行には至らなかった。その後、2017年にサイバーセキュリティ法が、2021年には個人情報保護法がそれぞれ施行されており、本意見募集稿はこれらの規定が反映された内容となっている。

本意見募集稿では、未成年者を保護するために政府、企業、学校、家庭のそれぞれが行うべき事項が示されている。本稿では主に企業に向けた条文について、日本語訳をつけて要点を抜粋整理し、最後に日系企業への影響についてまとめている。

目次

◆主な内容

インターネットリテラシーの育成

未成年者のユーザーが多く、未成年者のコミュニティにおいて大きな影響力を持つ重要なインターネットプラットフォームサービス提供者は、次の義務を果たすものとする。(20条)

(一)インターネットプラットフォームサービスの設計、開発、運用等の段階において、未成年者の心身の発達の特性を十分に考慮し、定期的に未成年者のネットワーク保護の影響評価を実施すること。

(二)未成年者が心身の健康に有益な商品・サービスを便利に利用できるよう青少年モードや未成年者専用エリアなどを提供すること。

(三)国家の規定に基づいて未成年者のネットワーク保護のコンプライアンス体制を確立し、主に外部メンバーから成る独立組織を設置して、未成年者のネットワーク保護状況を監視すること。

(四)プラットフォーム規則を策定し、プラットフォーム内の製品またはサービス提供者の未成年者のネットワーク保護に関する義務を明確にするとともに、目立つ方法で未成年者のユーザーが法律に基づいて有するネットワーク保護権利とオンライン侵害の救済手段を表示すること。

(五)未成年者の心身の健康を害すか、またはその他の未成年者の正当な権益を侵害する重大な法律、行政法規違反があるプラットフォーム内の製品・サービス提供者はサービス提供を停止すること。

(六)未成年者のネットワーク保護への社会的責任に関する報告書を毎年公表し、パブリックコメント等の方法を通じて社会的な監督を受けること。

ネットワーク情報コンテンツの規範

ネットワーク製品・サービスに、未成年者が危険な行為を模倣し、社会道徳に反する行為を行い、悪い感情が生じ、悪い習慣を身につけることを誘発する等、未成年者の心身の健康に影響を及ぼす可能性のある情報が含まれる場合、当該情報を作成、複製、公開、拡散する組織及び個人は、情報を表示する前にその旨を目立つように表示しなければならない。(24条)

ネットワーク製品・サービス提供者は、本条例24条に定める未成年者の心身の健康に影響を及ぼす可能性のある情報を、トップページのポップアップ、ホットサーチ等、製品・サービスの目立つ位置に表示してユーザーの注意を引くことをしてはならない。(26条2項)

ネットいじめを受けた未成年者とその保護者は、オンライン製品・サービス提供者に対して、削除、ブロック、リンクの切断、アカウント機能の制限、アカウントの閉鎖などの必要な措置を取るよう通知する権利を有する。オンライン製品・サービス提供者は、通知を受けた後、速やかに必要な措置を講じて情報の拡散を防止、制止しなければならない。(27条2項抜粋)

未成年者を対象としたオンライン教育製品・サービスの提供者は、オンラインゲームへのリンクや広告等の教育とは無関係の情報を配信してはならない。(29条2項抜粋)

ネット依存の防止対策

ネットワーク製品・サービス提供者は、依存症予防制度を整備・改善し、未成年者に依存を誘発する製品・サービスを提供してはならず、依存症対策の状況を定期的に社会に公表しなければならない。(49条)

オンラインゲーム、オンラインライブストリーミング、オンラインオーディオ・ビデオ、オンラインソーシャルネットワーキング等のネットワークサービス提供者は、未成年者がサービスを利用するための青少年モードを設定し、国家の関連する規定及び基準に従ってサービスを提供し、保護者が後見義務を果たすために時間管理、権限管理、決済管理などの機能を備えなければならない。(50条)

オンラインゲーム、オンラインライブストリーミング、オンラインオーディオ・ビデオ、オンラインソーシャルネットワーキング等のネットワークサービス提供者は、未成年者のネットワーク製品・サービスの利用において、1回の決済金額及び1日の累計決済金額を合理的に制限し、未成年者に対し彼らの民事行為能力にそぐわない有料サービスを提供してはならない。(51条)

オンラインゲームサービス提供者は、未成年者がゲーム中毒にならないように、また未成年者が心身の健康に影響を与える可能性のあるゲーム内容や機能に触れることを防ぐために、ゲームルールを策定・改善しなければならない。(54条)

本意見募集稿に対する見解

今回公表された意見募集稿は、2017年以降に新規施行あるいは改正されたサイバーセキュリティ法、個人情報保護法、さらに未成年者保護法、児童個人情報ネットワーク保護規定等の規定が反映されたものとなっている。

未成年者の保護は、国家や企業、社会、そして成年者が共同で責任を負うものであるとの原則に基づいて、学校や家庭に対しては子供へのインターネットリテラシー教育の強化を、企業にはオンラインゲームを含む各種インターネットサービスの規範化や個人情報保護の徹底等を求める内容となっている。

特にネット依存対策では、政府と学校、企業、家庭のそれぞれに具体的な対応を求め、依存防止に一体となって取り組む方針が示された。また違反には100万元以下の過料を含む厳しい罰則が定められている。

本意見募集稿の規定の多くは、すでに施行されている上位法を反映したものである。ただし正式に施行されれば、IT領域での未成年者保護に厳しい監視の目が向けられることになる。とりわけ未成年者の利用が多い教育サービスやオンラインゲームの領域に携わる事業者においては、管轄当局や同業他社の動向を把握したうえで、従来通り慎重な態度で事業展開を行うことが望まれる。

なお、中国インターネット情報センターのまとめによれば、2021年末時点でインターネットを利用する中国国内の未成年者は1.83億人で、利用率は94.9%に達する。未成年者が自分のインターネット接続端末を保有する割合は82.9%に上るとされている。

公式リンク(中国語) http://www.cac.gov.cn/2022-03/14/c_1648865100662480.htm


本レポートはクララが発行する「中国法令アラート 2022 年 4 月号」の内容を一部抜粋、編集したものです。「中国法令アラート」では、最新の法令・制度変更に関する詳細および予想される日系企業への影響、実務で得た動向変化に関する情報等を毎月 PDF でお届けしています。

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この記事を書いた人

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