<要約と結論>
国家インターネット情報弁公室は2021年1月8日、「インターネット情報サービス管理規則(修正草案意見募集稿)」を公開し、パブリックコメントの募集を行った。
本意見募集稿では新たに域外適用が盛り込まれた。中国国外にサーバを置いて中国 向けにインターネット情報サービスを提供する方法をとる事業者は多いが、本意見募集稿ではこの方法が規制の対象となりそうだ。
また現行規定ではあいまいであったICP登録・ICPライセンスの取得が必要となる事業者について見直し、明確にサービス名を挙げて規定している。さらに違反時の処罰も厳格化されており、サービス停止命令に加えて、違法所得の没収や50万元以下の罰金などが定められている。
制定の背景
中国国家インターネット情報弁公室は2021年1月8日、「インターネット情報サービス管理規則(修正草案意見募集稿( 互联网信息服务管理办法(修订草案征求意见稿))」を公開し、パブリックコメントの募集を行った。現行のインターネット情報サービス管理規則は2010年に公布されたもので、それ以降実質的な改正はされていない。
ここ20年間、インターネット技術や新興ビジネスの発展により各種アプリケーション、WeChatミニプログラム等の新たな情報サービスの形式が現れている。所管当局にとって、これらをどのように管理・規制すればよいかという課題が出おり、本意見募集稿はこういった問題に対し、明確な回答を打ち出している。
なお本意見募集稿は、パブリックコメント募集の結果を反映して、正式施行にあたり 内容が変更される可能性がある。
主な変更点:域外適用
現行規則では、中国国内にてインターネット情報サービスに従事する場合のみが規制の対象とされているが、本意見募集稿の2条には「中国国内のいかなる組織及び個人が域内外ネットワーク資源を利用して国内ユーザーにインターネット情報サービスを提供する場合、本規則の規定を遵守しなければならない」という域外適用に関する規定が盛り込まれた。
現在は、現行規制を回避するために中国国外にサーバを構築し、中国国内向けにインターネット情報サービスを提供しているケースがしばしば見受けられる。同様に日系企業では、本社が利用する日本のサーバ上で、中国現地法人が中国国内向けのインターネ ット情報サービスを運営しているケースもよく見られる。今後はこのような運用も規制の対象になる可能性が高い。
ただし域外適用が行われる場合、ICPライセンスの外資制限及びICP登録の手続き等の関連規程も見直す必要が生じる。
主な変更点:インターネット情報サービス種類の再定義
現行規則では3条と4条において、インターネット情報サービスを営利性と非営利性の二つに分け、営利性の情報サービスに対し許可制度、非営利性の情報サービスに対し届出制度をそれぞれ実施している。さらに6 条で、営利性のサービスは電信条例の要求を満たす必要があると規定していることから、営利性の許可は電信業務許可の一種と解される。この電信業務許可について定義しているのが、電信業務分類目録(2015年版) のB25項である。
<電信条例とインターネット情報サービス管理規則の関係性>
一見するとわかりやすく見える分類だが、実はこの営利性と非営利性の判断基準が非 常に曖昧で整合性がとれておらず、当局と企業で実務上の対応が異なっているという状況がある。
例えば、自社製品を販売するECサイトは、Web サイト上で販売し収益を得ているが、自社製品の販売には、ICPライセンスは必要ないと判断しているケースがある。イ ンターネット情報サービス管理規則に照らして考えると、Webサイト上で収益を上げていることから営利性と判断し、ICP ライセンスの取得が必要であると考えてしまうが、インターネット情報サービス管理規則の上位法として優先される電信条例に付随する電信業務分類目録 B25項を参照すると対象ではないことが分かる。そのため自社製品を販売する ECサイトでは、ICPライセンスが不要という判断がされている。
逆に Webサイトを訪問したユーザーから直接収益を得ていなくても、Webサイト内に掲載している広告で収益を得ている場合に営利性と判断されるケースもある。これは前述した事例とは逆に、インターネット情報サービス管理規則においては対象外となるが、電信業務分類目録 B25項では対象であるために営利性と判断されている。
このように曖昧かつ定義の整合性がとれていない現行規制に対し、本意見募集稿では、営利性及び非営利性の判断基準を撤廃し、インターネット情報サービスに従事する場合は、その業務内容が電信業務に該当するか否かにより、ICPライセンスの取得もしくは ICP登録を求めている。電信業務に該当するかは、電信条例及び電信業務分類目録に照らして判断することになる。
ICPライセンスが必要となるインターネット情報サービス
上記の表の通り本意見募集稿 52条では、インターネット情報サービスについて具体的なサービス名を列挙しており、両者の内容には整合性が取れない点がある。
主な変更点:法律責任の強化
本意見募集稿では 16の条項に渡って法律責任を記述しており、現行規定に比べてより厳しい処罰内容となっている。
① インターネット情報サービス提供者に対する処罰
端的に言えば、日本企業が中国向けに Webサイトの開設を含むインターネット情報サービスを提供する場合の違反に対する処罰が定められている。ICP登録、ICPライセ ンス、特別審査のそれぞれの現行規則と本意見募集稿における処罰規定は次の通りとなっている。なお、特別審査とは、新聞報道、出版、教育、医療保険、薬品および医療機 器などのインターネット情報サービス業務に従事する際に必要な審査のことである。
② インターネット接続サービス提供者に対する処罰
本意見募集稿では、インターネット接続サービス提供者(いわゆる ISP事業者)に対し、 細かい罰則が新たに規定されている。例えば 40条では「インターネット接続サービス提供者が関連条項に違反した場合、 主管部門は期限を定めて是正するよう命じ、不法所得を没収する。是正を拒否した、又は情状が重い場合、10 万元以上 50 万元以下の罰金に処し、さらに関連業務の停止を命 じ、ICP ライセンス又は営業許可を取り上げる。担当者及び、直接の責任者個人に対しても 1 万元以上 10 万元以下の罰金に処する」と定めている。
③ その他
本意見募集稿では、上記のほかドメインの登録と解析に従事するサービス提供者や主 管部門への責任及び罰則をも厳しく、明確に規定している。