中国でニーズ高まる代替肉(植物肉)とは?

<概要>

中国には宗教や民族的な理由から肉、魚、卵、乳製品、五葷を食べない「素食」という文化があり、健康を目的に普段から素食を習慣としている人もいる。

近年は健康だけでなく、環境保護や動物愛護等の観点から素食が見直されており、なかでも大豆などの植物を原料とした代替肉の人気が高まりつつある。中国では代替肉を「植物肉」といい、国内メーカーでは斎善食品、鴻昶食品、米国のBeyond Meat社、Impossible Foods社がよく知られている。

植物肉を使った料理の中でもハンバーガーや中華料理は種類が多く、素食主義ではない人も、一つの食材として植物肉の料理を楽しんでいる様子が伺える。北京の植物肉メーカーでは、中国人の好みに合った製品の開発と併せてサプライチェーンの工夫でコストを削減し、米国メーカーの植物肉と差別化を図っている。


中国の素食文化と代替肉市場

中国にはもともと宗教や民族的な理由から「素食」という文化がある。素食とは日本でいう精進料理のように、肉、魚、卵、乳製品に加えて、五葷(「ごくん」と読み、一般的にニンニク、ねぎ、玉ねぎ、らっきょう、ニラといった野菜)を使用していない料理のことを指す。

宗教的な理由からではなく、健康を目的に普段から素食を習慣にしている人もおり、「肉を食べすぎた次の日は素食」、「週末は素食」というように体調に合わせて素食を選ぶ習慣もある。現在中国には5,000万人以上の素食者がいるとされるが、この数字は中国の全人口の約5%にあたり、世界のヴィーガン・ベジタリアン人口に占める割合は12%に上る。

中国の「素食」文化で肉の代わりに使われているのが、大豆などを原料とした代替肉だ。中国では植物性たんぱく質から作られる肉という意味から「植物肉」と呼ばれ、20年以上前から植物肉を製造する食品メーカーがある。フランスの市場調査会社IPSOSの調査によると、中国国民の9割が「植物肉」という言葉を聞いたことがあるという。

植物肉を使った冷凍食品 (筆者撮影)

素食レストランで出された植物肉を使った中華料理(筆者撮影)

中国の植物肉市場の規模は年々拡大しており、2019年は2014年実績の2倍にあたる70億元となった。植物肉を好む消費者層は、北京や上海、直轄市レベルの大都市に住む人々で、収入が高く、環境への配慮や動物保護の意識が高い人、低脂肪・低コレステロールといった健康的な食事を好む人とされる。

中国の植物肉市場で一定のシェアを握るのは、国内メーカーでは広東省深セン市に拠点を置く「斎善食品」と江蘇省に拠点を置く「鴻昶食品」、さらに米国の「Beyond Meat」と「Impossible Foods」だ。2019年5月にBeyond Meatが米ナスダック市場に上場したのを機に、中国でも植物肉事業に新規参入するメーカーが2,000社ほど増え、現在は主要4社をこれらの新興メーカーが追う構図となっている。

身近な素食「植物肉ハンバーガー」

植物肉を使用したメニューで一番多いのはハンバーガーだろうか。北京市内で植物肉ハンバーガーを提供する飲食店は、レストラン予約・評価サイトに掲載されている店だけでも37店ほどある。その多くは、若者や外国人が集まる三里屯エリアや世界各国のレストランが立ち並ぶ望京、亮馬橋エリアに集中している。

大手レストランやハンバーガーチェーンでは、早くも2019年10月に老舗ハムメーカーの「金字火腿」が、中国初の植物肉を使ったハンバーガーパティの販売を開始している。2019年11月にはティースタンドチェーンの「奈雪の茶」が、国内の植物肉メーカー「星期零STARFIELD」とコラボした植物肉ハンバーガーを発売し、さらに2020年4月には、KFCやスターバックスもBeyond Meatとコラボする形で植物肉を使用したメニューを販売している。

KFCの植物肉を使ったハンバーガーとナゲット。植物肉商品のパッケージはグリーンのイメージから全て緑色だ。(筆者撮影)

軽食を販売する店では、植物肉ハンバーガーのほかにも様々な素食メニューが用意されている。なかには完全に素食に特化しておらず、肉や卵・乳製品を使ったメニューを揃えている店もあり、およそ半分以上の店がデリバリーにも対応している。このような肉を使ったメニューのある店では、素食者が「鶏」や「猪」という文字すら目にしたくないという声を考慮して、「鶏排(チキンカツ)」を「吉派」、「猪扒(ポークチョップ)」を「株扒」と同じ発音の別の漢字に置き換えて表示していることもある。

北京市内の金融街にある植物肉ハンバーガー店の様子。「Vegan」や「素」の文字が目立つ。(筆者撮影)

筆者も素食レストランに行ったり、植物肉を使ったハンバーガーを食べたりすることがあるが、味はとてもおいしい。ただどうしても見た目や食感が本物の肉とは異なるため、素食者ではない人が普段から肉の代わりに食べるのは、物足りないと感じるだろう。

ランチタイムはデリバリーの注文が多いという。チキンバーガー、ビーフバーガー、ホットドック、ナゲットを持ち帰りした。(筆者撮影)

コラボ中華料理で植物肉は食材として定着へ

ハンバーガーの次に植物肉の取り扱いが多いのは中華料理店だ。1993年創業の中華レストラン「金鼎軒」は、おいしい広東料理が楽しめることで30年に渡って人気のお店だ。最近はSNSで、Beyond Meatの植物肉を使った“奶蛋素(卵や乳製品を使用する素食)”の中華料理が食べられるとして話題になっており、素食者とそうではない人が一緒に食事を楽しめるレストランとして人気を集めている。

店内のあちこちにBeyongMeatの植物肉の宣伝があった。(筆者撮影)

実際に金鼎軒を訪れてみると、店内のエレベーターやメニューに「Beyond Meat」やその中国語名の「別様肉客」、「100%植物由来」、「大豆不使用」、「グルテンフリー」といった言葉が大きく書かれていた。植物肉メニューは1品10元~80元くらいで、通常のメニューと同じか少し割高な設定となっている。

金鼎軒は5階建てのレストラン。1階の持ち帰り食品コーナーではBeyond Meatの植物肉も販売されていた。(筆者撮影)

定期的に期間限定の素食メニューを出しており、2021年1月8日からはBeyond Meatの植物肉ミンチを使用した水餃子や野菜炒め、サラダ、混ぜそばなどが登場した。店員の話によると、筆者が訪れた店舗で一番人気のインゲン炒めは、コラボ開始から1カ月で1万2,000食ほどの注文があったという。持ち帰り用の食品販売コーナーにはBeyond Meatの植物肉パティも並んでいた。

まわりの席でもBeyond Meatとのコラボメニューを注文している客は多いように見受けられた。隣のテーブルにいたグループ客に話を聞いてみると、彼らはコラボメニューと一緒に名物の鶏足や豚肉を使ったメニューも注文しており、「肉の代替として食べているのではなく、一つの食材として植物肉の料理を楽しんでいる」ということだった。

Beyond Meatの植物肉を使用したインゲン炒め、サラダ、餃子などを注文してみた。(筆者撮影)

北京の植物肉メーカー「珍肉」

北京に拠点を置く植物肉メーカーの「珍肉」の担当者に伺ったところ、中国の消費者が植物肉を選ぶ理由は、主に環境保護、動物保護、低脂肪の3つだという。珍肉がターゲットとするのは、あくまで「肉を食べるすべての人類」だが、特に健康意識の高い若者や女性からの支持は厚く、とりわけ高収入ないわゆるホワイトカラーの消費者層に人気があるとのことだ。

現在の主力商品は、植物肉を使ったパティ、肉団子、ミンチで、北京市内の火鍋店やレストラン、ファストフード店に卸しているという。商品開発では、中国人の好みにより合ったものを求めて、中国人が大好きな豚ヒレ唐揚げ風の植物肉やザリガニ肉風の植物肉の試作を行っていると明かしてくれた。本物の肉と同じ食感を再現するために、製造技術の向上にも努めているそうだ。さらに珍肉では、サプライチェーンをうまく行ってコスト削減に努めることで、価格の高い米国メーカーの植物肉との差別化を図っているという。

珍肉の植物肉パティ、肉団子、ミンチ(筆者撮影)

clara

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