インバウンド・越境 EC のターゲット「80 後・90 後」

目次

1. 80 後 90 後とは

中国語で「80 後(バーリンボウ)」、「90 後(ジョーリンホウ)」とは、1980 年代生まれ、1990 年代生まれの中国の若者のことを指す。日本では「団塊の世代」や「バブル世代」、「ミレニアル世代」のように世代の特徴を表した呼び名がついているが、中国では単純に生まれた年代でざっくりと分けられている。 2000 年代生まれは「00 後」だし、1950 年代生まれの年配世代は「50 後」という。

80 後・90 後は現在 20 代から 30 代の若者たちで、およそ 4 億人いる。彼らは中国の消費を支える中心的存在で、中国企業もマーケティングや PR のターゲットにしている。そんな 80 後・90 後は、1979 年から始まった「一人っ子政策」のために、ほとんどの人が一人っ子だ。改革開放政策が始まった後に生まれているため、80 後は高度成長期の勢いの中で子供時代を過ごし、20 代の 2010 年には中国の GDP が世界 2 位になった。一方の 90 後は物心ついたときには携帯電話やパソコンが身近にあり、自分で買い物をするようになった時にはネットショッピングが一般的になっていた、豊かな中国しか知らない世代だ。

マーケティング対象としての彼らは、一般的にお金を持っており、消費意欲が大いにあるとされる。デジタルネイティブで、テレビはあまり見ず、スマートフォンで娯楽も勉強も買い物も何でも済ます。愛国教育のシャワーを浴びて育ってきたと揶揄されることもあるが、特に都市部で生まれ育った人たちは視野が広く、外国や外国人への抵抗感はない。海外旅行にも慣れており、外国語ができる人も多い。健康志向で、健康や美容のための出費は惜しまない。買い物も好きでショッピングローンの利用にも抵抗がない一方、誰でも知っているような有名ブランド品への興味は薄く、個性を求めて値の張る限定品を手に入れたり、中国ではまだ知られていないブランドを先取りすることの方に価値を置いている。子育て世代でもある 80 後は、上の世代と同様に子供を大切にする気持ちが強く、子供への投資は惜しまない、といった傾向があるとされる。

2. 訪日中国人観光客の過半数を占めるのが 80 後・90 後

日本を訪れる中国人観光客は年々増えており、2019 年は前年比 14.5%増の 959 万人に達した。訪日外国人旅行客が年間で 3,188 万人であるから、およそ 3 分の1が中国人ということになる。(日本政府観光局 JNTO 調べ)

2019 年の中国人観光客の日本での消費額は、速報値で 1 兆 7,718 億円に上り、全体の 36.8%を占めた。この 1 兆 7,718 億円の内訳は、宿泊費が 3,627 億円、飲食費が 2,955億円、交通費が 1,225 億円、娯楽・サービス費が 542 億円、ショッピング費が 9,366 億円となっている。なお前年の消費額は 1 兆 5,450 億円で、全体の 34.2%だった。

中国人観光客の 1 人あたりの旅行支出は 212,981 円で、韓国の約 3 倍、台湾の約 2倍にあたるが、ショッピング費だけを比べると韓国の約 6 倍、台湾の約 2.5 倍に上る。全国籍・地域の平均 158,458 円と比べて 54,523 万円も多いが、多い分はそのままショッピング代に充てられている。数年前には「爆買い」という言葉が流行ったが、中国人観光客は今でも日本で「爆買い」していることがデータからも見て取れる。

そんな中国人観光客と言えば、1~2 月の春節(旧正月)にこぞってやって来ると思いがちだが、実は夏休みの 7 月や 8 月がピークとなっており、他の月に比べて 2 割から 3 割も多い。中国の大型連休は春節以外にも 5 月初めに労働節、10 月初めに国慶節があるが、いずれも連休ゆえに航空券やツアーの値段は高い。そのため、連休よりは料金が安く、子供も夏休みに入る 7 月や 8 月に日本を訪れる人が多いと考えられる。

中国からの旅行客については、2016 年に個人手配旅行(FIT)が団体旅行を抜き、今では全体の 6 割ほどが個人旅行となっている。中国の大手旅行サイト「携程(Ctrip)」のまとめによると、Ctrip の訪日ビザ申請代行サービス利用者は 80 後と 90 後で全体の約半分を占めている。00 後も含めれば全体の約 70%となり、来日しているのは 40 歳以下の若い人たちが大半であることがわかる。

また中国には「親子旅(親子游)」というジャンルがあるほど、親子での旅行やレジャーの人気があるが、日本へ親子旅をする人も 33%に上っている。観光庁の調査でも訪日旅行の同行者を「家族・親戚」と答えた人は 47.8%に上っており、親子(33%)と両親(9%)を合わせた 42%と近い数字となっている(観光庁訪日外国人消費動向調査 2019 年7-9 月期速報値より)。

以前から日本は人気の旅行先の一つだが、飛行機で 2~3 時間で来られる上、ディズニーランドのような遊園地を含め子供が楽しめる施設が多く、治安も食べ物も安心安全なイメージのある日本が、親子旅行の旅先に選ばれるのも納得できるのではないだろうか。

中国人観光客といえば、どうしても“大声でしゃべるマナーの悪いオバちゃんたち”のイメージが強いが、今日本を訪れているのは“子育て世代も多い 40 歳以下の若い人たち”だという認識に改めなければならないだろう。そして子育て世代は、子供が夏休みの時期に個人旅行で日本を訪れる傾向があることも、インバウンド対策のヒントになりそうだ。

3. 若いのになぜそんなにお金があるのか

訪日中国人旅行客の主力は 80 後や 90 後の若い世代であり、彼らが日本に来てショッピングにお金を費やしていることも分かったが、若いのになぜそんなにお金に余裕があるのだろうか。これにはどうやら大きく 4 つの理由があるようだ。

まずは「親がお金持ち」派。彼らの親世代は 1950~1960 年代生まれの 50 後、60 後だが、中国で最初の起業ブームが訪れた 1980 年代、あるいは鄧小平の南巡講話(1992年)の影響を受けて 1990 年代に起業して成功している。そんな富裕層を親に持つ人たちが該当する。いわゆる放蕩息子も存在する一方で、高い学歴や教養を備えており自身もまたビジネスで成功している本当の“富裕層”も少なくない。このほか、まだ賄賂が横行していた時代に、両親が職業上の立場を利用して様々な方法で私腹を肥やしたが故のお金持ちというパターンもある。

次に「不動産バブルの恩恵」派。両親が目利き?で、1990 年代の早い時期に複数の物件を購入しており、今ではどれも買値の 10 倍以上に値上がりしていたり、両親が若いころに国から安く購入した住宅が値上がりしている、あるいは都市開発で立ち退きにあい高額な立退料をもらったりした、いわゆる“成金”の人たちだ。上海や北京の物件ならば、日本円で 1 億円を超えるような価格で売却できることも少なくない。逆に売却せず、複数の物件から賃貸収入を得ている人も多い。仮に両親が今住んでいる家とは別に 2軒のマンションを持っている場合、結婚すれば双方の親が所有する 4 軒のマンションの賃貸収入が得られることになる。派生パターンで、少し前のバブル相場で一儲けした「株バブルの恩恵」派も存在する。

そして「自分で働いて稼いでいる」派。若くして起業し成功した人や、IT 企業やベンチャー企業に勤めていて高い給与をもらっている人たちが該当する。例えば EC 大手の阿里巴巴(アリババ)の大卒 1 年目の年収は約 20 万元(約 300 万円)で、これは中国の大卒1 年目の平均年収である 6 万元の 3 倍を上回る金額だ。数年勤めればさらに数百万円分にもなる自社株がもらえると聞く。微信(WeChat)等を運営する騰訊(テンセント)の場合、2019 年の平均給与は 84 万元(約 1,300 万円)で、毎月の給与が 7 万元(約 100 万円)だ。中国は基本的に夫婦共働きだから、双方とも高収入という家庭も少なくない。このほか、副業で稼いでいるパターンもある。CtoC ショッピングモールの淘宝網(Taobao)でネットショップを運営していたり、化粧品等のネットワークビジネスをしていたりと、何らかの副業をしている人は多い。

最後に「色々あきらめた」派。彼らの多くは地方出身者で、両親の財力にも頼れず、自身も相応にしか稼いでいない。大都市ではすでにマンションが高騰し、マイホームを買うのは夢のまた夢ですっかりあきらめてしまい、代わりに毎日の生活を豊かにしたいと遠慮なく消費するタイプの人たちだ。そもそもお金持ちではないのだが、住宅ローンの負担がない分、旅行や食事、買い物と楽しいことにどんどんお金を使い、ちょっと高価なものはショッピングローンを気軽に利用して手に入れているので、はた目からは「お金あるなあ」と思われている。何度も海外に行くほどの余裕はないが、友人が海外に行けば自分も行きたくなり、少し貯金したかと思えば限定品を買ったりアニメ聖地巡礼をしたりして一気に散財してしまうようなタイプが該当する。

4. 80 後・90 後へのおもてなしは子供から

ショッピングへの関心は引き続き高いものの、この数年は爆買いも落ち着き、中国人観光客の間でも大きな流れはモノ消費からコト消費へと変化している。中国でも「猫途鷹」としてサービスを展開するTripAdvisorによると、日本での文化体験やガイドのついたプライベートツアーの人気が高まっている。具体的には、少人数での自転車散策ツアーや人力車ツアー、サムライ体験、酒蔵見学、茶道体験などが人気だ。

すでに日本各地で様々なインバウンド向けのサービスや体験プランが打ち出されているが、中国人のインバウンド客を増やしたいならば、SNS 映えも高級志向も大切だが、親子旅をターゲットに“子供が喜ぶ”という視点でひと工夫してはどうだろうか。子連れでの旅行はいろいろと大変なものだが、それでも親子旅が多いのは子供に様々な体験をして、喜んでほしいと願う気持ちが強いからだ。我々日本人は、お金を持っているのは年配者だと思い込んでいるが、中国人でお金を持っているのは若いパパママ世代なのだ。中国ではできない体験をして子供が喜ぶならば、少々割高であっても構わない。子供が楽しく過ごして満足した店や場所には親も満足しているから、クチコミでの拡散にも期待できる。

大人向けのサービスは様々あっても、意外に子供への配慮が欠けていることは多い。例えば食事ならば、SNS 映えする盛り付けで出すのも大切だが、子供が喜ぶ内容に工夫したキッズプレートを用意する。ファミリーレストランでは当たり前にあるお子様ランチだが、名物料理や高級レストランで子供向けの用意がないことは多い。親が注文した料理を分けるのもいいが、子供にもきちんとひと皿出してあげたほうが喜ぶはずだ。

他にも自転車ツアーならば、子供も一緒に参加できるコースを考えたり、子供を乗せられる自転車を用意する。ホテルや旅館では浴衣の代わりに子供でも簡単に着られて歩きやすく、和服っぽいイメージもある甚平を用意する。スキー場やビーチに面したリゾートならば、庭を囲って雪遊びや砂遊びができるようにし、小さなスコップやバケツを貸し出すのもよい。お菓子作り体験のような地方のお土産と結び付けたコト消費ならば、子供の思い出作りになる上、お土産としてその商品を買ってもらうというモノ消費にも結び付く。

お店でインバウンド対策を考える時、SNS 映えするアイデアは難しくても、子供が喜びそう、子連れならこんなサービスが欲しいという視点からならアイデアも出しやすいだろう。直接大人をターゲットにせず、「おもてなしは子供から」と思い切ってしまうのも、インバンド対策のヒントになるはずだ。

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この記事を書いた人

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