米国が危ぶむファーウェイ(華為)とは

目次

1. 世界で最も成功した中国企業、ファーウェイ

米中貿易戦争に絡んで注目を集めているファーウェイ(華為、HUAWEI)。幹部がカナダ で逮捕されたり、ファーウェイ製スマートフォンは危険だとメディアが取り上げたり、 最新モデルの販売が延期されたりと、このところ世間をにぎわしている。

そんなファーウェイだが、どのような会社 で、どのような事業を展開しているか、ご存 じだろうか。日本では単なる中国の格安スマ ートフォンメーカーと思われがちだが、実は 通信分野において世界でも大きなシェアを 持つ巨大企業だ。

ファーウェイの創立は 1987 年。現在までに世界の 170 を超える国と地域に進出して おり、世界の通信企業上位 50 社のうち 45 社に製品やサービスを提供しているほか、 スマートフォンメーカーとしても韓サムスン電子に次いで世界 2 位の規模を誇る。

2018 年の売上高は 1,051 億 9,100 万米ド ル(約 11.27 兆円)に達し、利益率は 10.2%だ った。グループの社員数は 18.8 万人で、この うち研究開発者は 8 万人に上る。過去 10 年 間に投入した研究開発費は 3,940 億元(約 6.2 兆円)を超えており、2018 年だけで 1 兆円以 上を投入している。2017 年末までに取得した 特許数は 7 万 4,307 件、このうち 90%以上が 発明特許となっている。

ファーウェイは「情報を移転させ、交換させ、蓄積する企業」であることに集中し、 このポリシーから外れる事業には決して手を出さない。決算情報は公開しているが上場 はしておらず、社員 9 万 6,768 人がほぼ全株を保有している。これは外部からの影響を 受けることなく経営目標に集中して取り組むためで、今後も上場する計画はないという。

ユニークな経営スタイルを貫くファーウェイは、研究開発とともに人材への投資を惜 しまない。日本でも初任給 40 万円の求人が話題となったことを覚えている人も多いだ ろう。社員の平均年収は 68.9 万元(約 1,070 万円)と国内でも突出した好待遇だが、長時 間労働と徹底した実力主義をとっていることでも知られる。

中国で最も残業する会社は、30 年前の中国でどのようにして生まれたのだろうか。

2. ファーウェイの成長物語

いくつか出版されているファーウェイに関する書籍によれば、同社は 1987 年 9 月、 本格的な発展が始まって間もない広東省深セン市で創業した。創業者の任正非は、当時 43 歳だった。

現在ファーウェイの総裁を務める任正非は、1944 年に貴州省で教師をしていた両親 のもとに生まれた。家庭は貧しく、7 人兄弟がおなか一杯にご飯を食べられたことは一 度もなかった、と当時を振り返っている。

苦学して重慶建築工程学院(現在の重慶大学)を卒業した 後、1974 年に人民解放軍で国家重点建設プロジェクトや国 防プロジェクトなどを担う基本建設工程兵として従軍。建設 工として肉体労働に明け暮れた。1982 年に人民解放軍の改 革が行われると、任正非は深センにある南油集団の電子製品 メーカーの副総経理に異動となった。

平均月収が 100 元ほどだった当時、取引で騙され 200 万 元もの損失を負った任正非は会社を除名となり、妻とも離 婚。1 男 1 女を抱える“シングルファザー”は、年老いた両 親や兄弟 6 人の面倒も見なければならない状況だった。ちなみにこの“1 女”が、2018 年末にカナダで逮捕された娘の孟晩舟副会長で、孟は離婚した妻の姓だ。

安定した生活を手に入れなければならなかった任正非は、1987 年 9 月に 2.1 万元の 資金を集めて 6 人でファーウェイを設立。香港の康力電子公司が製造する交換機の代理 販売を始めた。社名のファーウェイ(華為)は、「中華有為(中国には前途がある)」という 言葉から取ったもので、転じて「中国の台頭」という願いも込められているという。

創業からしばらく経った頃、任正非は国内で需要が増えているデジタル交換機が全て 輸入に頼っていることに気づく。国内市場がぽっかり空いていることに目をつけた彼は、 代理店から国産交換機メーカーへの転身を決意した。1991 年 9 月頃には、深センで古 い工場やアパートを借りてデジタル交換機の研究開発に明け暮れた。当時 50 人を超え る従業員が作業場で寝泊まりもしていたという。

その年の 12 月、最初に開発した 3 台の交換機が売れると経営も安定し、翌 1992 年 には本格的な生産体制を整えた。まず農村市場を押さえ、それから低価格を武器に都市 市場の海外メーカーを打ち負かす「先易後難」戦略をとった。海外進出を考え始めたの もこの頃からで、1994 年には「10 年後には世界の通信業界のトップ 3 に入る」と豪語 していたと伝えられる。

ファーウェイは 1996 年に海外市場に打って出たが、この時も「先易後難」戦略をと っている。最初から欧米市場でグローバルメーカーとシェアを奪い合うのは避け、まず はアフリカやアジアの発展途上国を足掛かりに海外展開を進めていった。1999 年には ベトナムとラオスで入札による受注を初めて獲得したが、海外事業の売上高は全体の 4%にも満たなかった。2000 年から海外事業に本腰を入れ始め、タイ、シンガポール、 マレーシア、中東、アフリカ諸国に進出。特に華人・華僑の多いタイでは、モバイルネ ットワークの大口契約を複数獲得することに成功している。

発展途上国で自信を得たファーウェイは、2001 年に光ファイバーネットワーク用製 品でドイツを起点にヨーロッパに進出。現地の代理店を通じて、ドイツ、フランス、ス ペイン、イギリスへと販路を広げ、その後、最も難しいと考えていた北米市場へも進出 している。

2003 年 7 月に携帯電話の開発製造部門を設置。2005 年から 2010 年 にかけてファーウェイは単なる通信設備サプライヤーから、通信ソリュ ーションのサプライヤーへと転身を遂げる。2009 年に WCDMA に関連 する通信設備の受注で、国内ライバルの中興(ZTE)の 20%を上回る 31% の受注を獲得すると、ファーウェイは世界の通信設備市場で、ついにア ルカテル、ノキアシーメンスを抜き、エリクソンに次ぐ世界 2 位になっ た。2009 年の売上高はおよそ 220 億米ドルで、海外からの売上が 60.4% を占めた。

翌 2010 年はファーウェイにとって大きな転換の年となった。4 月にインドでファー ウェイ製品の輸入が禁止されると、6 月には EU がファーウェイ製ルーターの反ダンピ ング調査を開始。7 月には世界 500 強企業に初めてランクインするも、海外での買収計 画で失敗が続いた。海外市場のリスクに直面した任正非は 12 月、幹部会議でコンシュ ーマービジネス(個人消費者向け事業)、キャリアビジネス(通信会社向け事業)、エンター プライズビジネス(企業向け事業)を三大基幹事業とすることを宣言した。

2013 年には売上高が 395 億米ドルに達し、海外からの売上が 66%を占めるまでに拡 大。ここで初めてエリクソンを抜いて世界の通信設備市場で最も大きな企業となった。 2016 年には、売上高が 750 億米ドルを突破し、世界 500 強企業で 83 位にランクイン した。ライバルのエリクソンは 260 億米ドルで 419 位だった。

昨年の 2018 年には売上高が 1,051 億 9,100 万米ドルとなり、初めて 1,000 億米ドル を突破。通信設備市場では、2 位のエリクソンと 3 位のノキアの売上高を足した額を上 回るダントツの 1 位にまで駆け上がり、スマートフォン市場では Apple、サムスンに続 く 3 位につけた。中国国内でも、IT 三大巨頭の BAT(百度、阿里巴巴、テンセント)の売 上の合計をも上回る規模に成長している。

3. ビジネス領域と市場シェア

現在のファーウェイの三大基幹事業であるコンシューマービジネス、キャリアビジネ ス、エンタープライズビジネスでは、それぞれ次のような製品やサービスを扱っている。

まず個人向けのコンシューマービジネス事業では、電子製品 の販売が中心で、日本でもユーザーの多いスマートフォンやタ ブレット PC、ノートパソコンのほか、スマートウォッチ、ス マートスピーカー、ワイヤレスイヤホン、家庭用ルーター、ポ ケット WiFi といった製品を展開している。2019 年は 1~5 月ま での 5 カ月で世界各国へのスマートフォン出荷台数が 1 億台を 突破しており、これは 2018 年より 49 日早く、2017 年よりお よそ 100 日も早い記録だ。米中貿易摩擦の影響は今年後半に 出てくるとの見通しだが、スマートフォンの販売はこれまで好調に推移している。

このほか個人ユーザー向けのクラウドストレージサービス「華為雲」、アプリストア の「華為応用市場」、電子財布の「華為銭包」、動画視聴サービスの「華為視頻」、音楽 配信サービスの「華為音楽」、電子書籍アプリの「華為閲読」等、数多くのサービスが ある。ちなみにファーウェイ製品のファンには「花粉」という愛称があり、「花粉倶楽 部」なるユーザーコミュニティもある。粉は中国語でファンの意味だ。

通信業界向けのキャリアビジネス事業は、顧客がモ バイル通信キャリアをはじめとする通信事業者である ため一般に馴染みが無いが、欧米各国で採用の是非が 検討されている 5G 通信基地局に関連する設備は、こ の事業領域に含まれる。

アンテナや無線機等の通信基地局用設備といった主力製品のほか、サーバーやルーターなどのデータセンター関連設備、ネットワークのク ラウド化ソリューション、システムインテグレーションサービス、コンサルティングサ ービス、技術支援や専門研修も行っている。

企業向けのエンタープライズビジネス事業では、スイッチやル ーターといったネットワーク機器のほか、データセキュリティや エッジコンピューティングのソリューション提供、IoT プラット フォーム、クラウドサービスなどを展開している。

ファーウェイのソリューションは、公共交通機関の運営管理、 モバイルバンキング、オンライン教育、遠隔医療サービス、物流 管理などあらゆる分野で応用されており、特に業務やサービスの クラウド化には定評がある。

2018 年のアニュアルレポートによれば、各事業の売上比率は、キャリアビジネスが 40.8%、エンタープライズビジネスが 10.3%、コンシューマービジネスが 48.4%となっ ており、およそ半分をスマートフォンなどの電子端末の売上が支える状況となっている。売上の発生地では、中国が全体の 51.6%を占めており、次いで欧州・中東・アフリカ が 28.4%、アジア太平洋が 11.4%、北米・南米が 6.6%となっている。

4. 禁輸措置の影響は

トランプ大統領は 2019 年 5 月、自国の安全保障に脅威をもたらしうる外国企業の通 信機器の使用を禁じ、ファーウェイを禁輸措置対象とした。これによりインテル等の米 半導体大手がファーウェイへの部品供給を停止したほか、Google もファーウェイ端末 に対する Android OS のアップデートを制限すると発表している。

任正非総裁は 6 月 17 日に行った公開対話で、米国政府による圧力の強さについて想 定を上回るものであったと漏らしており、海外市場におけるスマートフォンの売上は最 も悪い時で 40%落ち込んだと明かしている。

さらに今後 2 年間は減産により売上高が 300 億米ドル減少する見通しだとした。今 年の売上目標は 1,250 億米ドルだったが、最終的には前年と同程度の 1,000 億米ドルほ どになると予測しており、メディアが騒ぎ立てているほど業績に影響はないと強気の姿 勢を示した。そして、この 2 年間を使ってサプライチェーンの再構築と使用する部品や OS の見直しを進める計画を明らかにし、2 年後の 2021 年にはさらに強くなって市場 に舞い戻るとコメントしている。

一方、5G 設備の受注は順調で、6 月には中国移動(チャイナモバイル)から大型受注を 獲得したばかりだ。ファーウェイは、コアネットワーク「SAE」設備の受注で全体の 54.2%、端末の位置管理を行う「MME」設備では同 48.7%をそれぞれ獲得したほか、試 験用の 5G 対応スマートフォンでは「Mate20 X」が受注全体の 49.5%を占めたことを明 らかにしている。海外市場ではカンボジア、インドネシア、タイをはじめとする東南ア ジア諸国やロシア、南アフリカ等で 5G ネットワークの構築を受注している。

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この記事を書いた人

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