1. 新エネルギー車市場概況
中国自動車工業協会によると、2019年1~8月の自動車の生産台数は1593.9万台で、前年同期に比べて 12.1%の減少となった。一方で新エネルギー車に限ってみると生産台数は 79.9 万台と、同 31.6%増加した。販売台数は 79.3 万台でこちらも同 32.0%の増加となっている。
低迷するガソリン車に対して好調に推移していた新エネルギー車だが、7 月からの補助金削減が影響し、最新のデータでは 9 月の販売台数は前年同期比 34.2%減の 8 万台にとどまった。内訳は EV が同 33.1%減の 6 万 3,000 台、プラグインハイブリッド車が同 38.4%増の 1 万 7,000 台となっている。同協会は 2019 年の新エネルギー車の販売目標台数を当初は 200 万台としていたが、目標値の引き下げを繰り返し、10 月 16 日に140 万台に下方修正することを改めて発表したばかりだ。
2. 生産許可をもつ新興 EV
メーカーは少数新エネルギー車産業の発展は、2009 年に発表された「自動車産業調整振興計画」に始まる。これまでの 10 年間で、新エネルギー車に関する政策は中央からだけで 60 以上も出ている。さらに地方政府がそれぞれの地域に合わせた独自の政策を出しており、例えば上海では販売促進方案など 25 以上の政策が出されている。
これら政策的な支援や市場からの投資によって、新エネルギー車産業、とりわけ EV車産業は急速な成長を遂げてきた。これまでガソリン車・ディーゼル車を生産してきた“老舗”自動車メーカーが新エネルギー車の生産に乗り出しているほか、他業種から参入した新興 EV メーカーが 455 社あるといわれる。ただし、発展改革委員会から工場建設・生産ライセンスを取得し、さらに工業情報部から完成車の販売ライセンスを取得している、いわゆる「双資質」企業は 455 社のうち 13 社しかない。「双資質」ではない新興 EV メーカーは、自社モデルを製造販売することができないため、ライセンス所有企業を買収したり、代理生産を行ったりしている。
「双資質」だからといって安泰ではない。これら 13 社のうち、“老舗”自動車メーカーを母体とする国有の北京新能源汽車、奇瑞新能源汽車、江鈴集団新能源汽車は 2018年の EV 販売台数がそれぞれ 15.8 万台、9 万台、5 万台と比較的順調であるが、吉利が出資する知豆汽車の販売台数は目標 8 万台に対して実際は 1.5 万台にとどまり、さらに資金がショートして再編を余儀なくされている。
新規参入した雲度新能源汽車、浙江合衆新能源汽車、前途汽車の 3 社は、販売台数がそれぞれ 7,000 台、1,100 台、前途の K50 に至ってはわずか 59 台にとどまっている。さらに杭州長江汽車、重慶金康新能源汽車、江蘇敏安電動汽車はライセンス取得から 2年が過ぎるが、まだ自社モデルの生産を始めていない。
威馬汽車で主席データ分析官を務めるアナリストの梅松林氏は、新興 EV メーカーが積極的に生産を進められない原因について、新興メーカーであるがゆえに開発に時間がかかっている、部品のサプライチェーンが出来上がっていない、技術や人材が不足しているといった理由を挙げている。新興メーカーによる特許侵害事件が頻発しているのも技術力不足を自認しているからだと指摘する。
3. 力をつける部品メーカー
工業情報化部が公表している「道路機動車車両を生産する自動車メーカーおよび製品の公告」によれば、上海市では 2018 年時点でガソリン車を生産してきた自動車メーカーを中心に 12 社が新エネルギー車の生産許可を取得している。
このうち乗用車を製造する上汽通用五菱汽車、上汽大通汽車、上海万象汽車製造の 3社は、モーターとバッテリーを主に近隣地域に拠点を持つ部品サプライヤーから調達している。
新エネルギー車に関しては、今もなお電気駆動系や EV 用バッテリーといった基幹部品の研究開発能力の低さが産業成長のボトルネックになっていると指摘されるが、地場の部品メーカーの中には、海外メーカーに負けない技術力をもつ企業も出てきている。ここでは今年大きな動きがあった 2 社を紹介しよう。
●四川永貴科技有限公司 http://www.yonggui-sc.com
鉄道用の各種コネクタを製造する浙江永貴電器の子会社で、2008 年に設立された。主に EV 用コネクタや通信機器用コネクタなどの部品を生産しており、コネクタ分野ではトップクラスのメーカー。
北汽、吉利、東風などの主要な新エネルギー車メーカーはもちろん、新興 EV メーカーにも部品を供給しており、2019 年 7 月にホンダ中国と正式にサプライヤー契約を結んだことは記憶に新しい。2018 年の売上は 6.3 億元、従業員数は約 1,200 人で専門知識を持つエンジニアは 206人いる。親会社の永貴電器は 2012 年に深センに上場。
●寧徳時代新能源科技股フェン有限公司 http://www.catlbattery.com
EV 用電池メーカーの寧徳時代は、創業 8 年目ながらパナソニックや LG とシェアを競うまでに成長している。2017 年に当局の認可を受けた EV 車 3,233モデルのうち、実に約 2 割にあたる 622 モデルが同社の EV 用電池を採用している。
2018 年 7 月には BMW の合弁会社である華晨宝馬と長期戦略的パートナーシップを結び、独占的に EV 用電池を提供しているほか、2019年 7 月にはトヨタ自動車と EV 用バッテリーの安定的供給とリサイクルに関するパートナーシップを結んでいる。
2019 年 5 月時点の寧徳時代の国内市場シェアは 42%に上り、すでにドイツに EV 電池工場を設立して、BMW や VW、ダイムラー、ジャガーランドローバー、PSA グループ等への部品提供を計画中と伝えられる。2018 年の売上は 296.1 億元、従業員数は約 1 万 5,000 人で、専門知識を持つエンジニアは全体の 2 割強にあたる約 3,400 人いる。2018 年に深センに上場。
4. 海外部品メーカーにチャンスはあるか
結論から言えば、新興 EV メーカーを含めた中国のローカル自動車メーカーは今後も当面、海外部品メーカーの協力を求めるものと思われる。
地場の部品メーカーが力をつけているとはいえ、まだ十分成熟してはいない。「中国は“製造大国”であるが“製造強国”ではない」と言われているように、技術的な課題はクリアできても、生産管理などソフト面でのノウハウが不足している点は、他の製造業と同様だ。
政府が海外からの技術移転を奨励していることからもわかるように、時間をかけてノウハウを蓄積していくよりも、いっそ外国企業の力を借りた方が早いとの判断がある。実際にこの数年、大手自動車メーカーや新興 EV メーカーと海外部品メーカーとの提携が数多く行われている。とりわけ基幹部品については海外部品メーカーへの依存が続くと思われるが、新興 EV メーカーへの直接の部品供給のみならず、地場の部品メーカーとの協業にも大きな可能性があるだろう。
また「ダブルクレジット政策」の影響も大きい。これは 2018 年 4 月に施行された「乗用車企業平均燃費と新エネルギー車クレジット並行管理弁法」で、乗用車に燃費規制を設ける(燃費クレジット)とともに、一定比率以上の新エネルギー車の生産販売をメーカーに義務付ける(NEV クレジット)ものだ。
自動車の生産・輸入台数に占める新エネルギー車の比率は 2019 年が 10%、2020 年が 12%となっており、この比率は毎年 2%ずつ増えていく。新興 EV メーカーは、基準を満たせなかった自動車メーカーからの余剰クレジットの購入需要や OEM 生産の受託が期待できるとされる。
さらに同弁法は改正が進められており、つい数日前にパブリックコメントの募集が締め切られたところだ。改正法の施行は 2021 年 1 月 1 日が予定されている。原案通りに改正されれば、NEV クレジットの価値が見直され、NEV クレジットの購入需要や OEM委託の機運は一層高まることが予想される。
なお EV 向けの基幹部品は、外商投資産業指導目録(2019 年版)でも引き続き奨励リストに挙げられている。これらに該当する部品ならば、税制優遇などの優遇措置を受けることができる。
新エネルギー車の販売が一時減少しているのは確かだが、消費者にとってはガソリン車の所有が不利になる方向に進んでおり、長い目で見れば新エネルギー車へのシフトは確実に進んでいくものと思われる。中国の新興 EV メーカーや地場の部品メーカーとの提携を検討する場合、これまでと同様に技術流出リスクに注意するとともに、現地の“ソフト不足”に起因する人材流出にも留意したい。また、バッテリー産業のように国内メーカーの優遇政策が出されたり、逆に伸びると判断して新規参入が相次いだ分野で政府の管理が厳しくなったりするリスクも押さえておく必要がある。