中国越境 EC のブロックチェーン導入

目次

1. 越境 EC でブロックチェーンの利用始まる

2018 年 2 月 27 日、阿里巴巴(アリババ)グループは、グループ傘下で物流事業を手掛ける菜鳥(CAINIAO)と同じくグループ傘下で越境 EC 大手の天猫国際(TMALL)が、ブロックチェーンを用いたトレーサビリティシステムの運用を始めたと発表した。これは越境EC で最も大きな課題となっている物流情報の書き換え・偽装を防ぐための取り組みの一つで、天猫国際における取引の信頼性を高めることにつながるという。

天猫国際のトレーサビリティシステムでは、商品ごとに原産国、出荷地、船積港・出発地空港、輸送方法、仕向港・到達地空港、保税倉庫、通関書類情報(検験検疫単番号、税関申告書番号)等を記録しており、消費者は商品ページにあるリンクから自由に閲覧することができる。

例えば右の画像は、ニュージーランド産のシリアルのトレーサビリティ情報だ。物流情報(物流信息)は上から、原産国:ニュージーランド、出荷地:中国香港、船積港:香港、輸送方法:海上輸送、仕向港:広州税関南沙保税、保税倉庫:菜鳥広州保税 5 号倉庫、と書かれており、その下の監督管理情報(監管信息)には、検疫申請書の番号と税関申告書の番号が記載されている。

現時点で同様の情報が閲覧できるのは上海、深セン、広州、杭州、天津、寧波、重慶、福州、鄭州等にある菜鳥の保税倉庫を通過する世界 50 カ国以上の 3万種類の商品で、今後さらに対象商品を拡大する計画だという。

一方、天猫国際のライバルである京東(JD)は、2017 年 7 月から同様のトレーサビリティシステムの試験運用を始めており、すでにウォルマートや楽天、ebay 等が利用している。今年 1 月 31 日には中国の事業者としては初めて、輸送業者向けブロックチェーン同盟(BiTA、Blockchain in Transport Alliance)への加盟を発表した。BiTA には FedEXや UPS など世界の 200 社以上の物流企業や IT 企業が加盟している。

また 3 月 22 日に発表した「京東ブロックチェーン技術実践ホワイトブック」では、これまでにサプライチェーン、金融、政務、公共サービス、保険、ビッグデータの各領域で得られたブロックチェーンに関する技術的な知見を全面的に公開している。同社では今後、動産査定、各種取引の決済、中古品売買、各種届出手続き、公益ボランティア、取引契約、電子領収書といった分野でブロックチェーンを活用していく方針だという。

2. ブロックチェーンとは

ビットコイン投資がきっかけで、広く知られるようになった「ブロックチェーン」。一般的に分散型台帳技術と呼ばれるもので、従来のようにデータを 1 カ所に集約して保持するのではなく、同一のデータを複数のデータベースに分散して保持しているため、どこか 1 カ所でトラブルがあってもシステム全体への影響はない。

またデータは「ブロック」と呼ばれるひと固まりで扱われ、ブロックを時系列に並べてチェーン(鎖)状に保存していく。データを改ざんするには、ブロックチェーンに参加する全てのコンピューターの監視をくぐり抜けた上で、過去のブロックも含めた全てのブロックのデータを書き換えなければならないため、データの改ざんは実質不可能という特徴がある。

ブロックチェーンは元々ビットコインのために作られた技術だが、高い信頼性が確保でき、分散してデータを保存することからゼロダウンタイム(システムの故障やアクセスの集中によるシステムの停止がない)が実現できる点などが評価され、金融サービス以外の様々な分野での応用が期待されている。

3. 中国の越境 EC 市場規模

中国の 2017 年通年の越境 EC 取引高は約 3,603 億元に達し、第 4 四半期(10-12 月)には初めて 1,000 億元を突破して、前年同期比 28.9%増の 1051.8 億元となった。2016 年以降の取引高の推移を見ると、季節的な要因から前期比でマイナスの伸びにとどまることはあるが、輸入関税の見直しや保税区・特区の設置など越境 EC をとりまく環境が整備されたこともあり、取引規模は概ね好調に推移している。

またサービス別のシェアトップは天猫国際の 27.6%で、近年は上位サービスの顔触れに大きな変化はない。

越境 EC では全国にある保税区を利用することが多いが、浙江省の寧波保税区が発表した「寧波保税区越境 EC 苦情相談分析報告(2014-2017)」によれば、この 4 年間に同保税区が受理した越境 EC に関する苦情は773 件で、概ね 10 万件の注文に対し 1 件の苦情が発生している状況だ。最も苦情が多いのは粉ミルク(牛乳を含む)の 189 件で全体の 24.5%を占めており、続いて食品、紙おむつ、健康食品、化粧品の順となる。2018 年 3 月時点で、寧波保税区には越境EC 企業 541 社が入居しており、中国全土に約 3,600 万人の消費者がいる。

なお全国からの越境 EC を含む EC 全体への苦情件数は、2017 年は前年比 184.4%増の 68.57 万件に上っており、EC ショップが集中する浙江省、広東省、北京市、上海市、江蘇省だけで苦情総数の 86.3%を占めている(国家工商総局まとめ)。

4. 今後の応用分野

EC の分野では、トレーサビリティのほかにも、決済、保険、徴税、信用管理といった分野でブロックチェーンの応用が始まっている。

例えば決済分野では、クレジットカード大手の Visa が、プライベート型ブロックチェーン・ネットワークを用いた国際間決済ソリューション「Visa B2B Connect」を開発しており、2018 年中にも正式にサービスを始める見通しだと伝えられるが、中国では招商銀行がブロックチェーンを使った独自の国際間決済ソリューションの開発を進めている。

2017 年末には中国で初めて、映画館の運営等を手掛ける南海グループの企業間決済において、香港・永隆銀行へのブロックチェーンを用いた国際送金に成功している。一方で阿里巴巴グループの金融サービス会社、螞蟻金服(ANT FINANCIAL)は、ブロックチェーンを用いた決済は自社にとって直接価値を生み出さないと判断し、もっぱら公益事前領域やトレーサビリティ方面で活用するとの意向を示している。

また徴税に関しては政府がすでに取り組みを始めており、民間企業との提携が進んでいる。中国では税務上効力を持つ領収書(発票)は、税務機関から専用用紙を入手し、当局の税務システムに専用プリンタを接続して発行する。EC でも発票を出す必要があるが、脱税目的で故意に発票を発行しなかったり、偽造領収書が出回っていたりするため、ブロックチェーンを利用した電子発票システムを導入して、自動的に販売データを取り込み、発票を発行する仕組みに切り替えることが検討されている。

信用管理の分野では、すでに国家企業信用情報公示システムが稼働しており、個人の信用スコアも様々な場面で利用されるようになってきた。今後ブロックチェーンの応用が進めば、過去の融資記録や取引状況について真実の情報が永久に保存されるため、今よりももっと信用情報への信頼性が高まる「信用2.0」の時代を迎えるとされる。

米情報会社トムソン・ロイターによれば、2017 年に国連の世界知的所有権機関(WIPO)に提出されたブロックチェーンに関する 406 件の特許申請のうち、中国からの申請が最も多い 225 件で、2 位は米国の 91 件だった。2012 年から 2017 年にかけてブロックチェーンに関する特許を申請した 9 社のうち 6 社が中国企業で、中国のブロックチェーン技術への関心の高さが伺える。政府は不正防止、透明性の向上といった理由からブロックチェーンの応用に積極的で、工業情報化部は関連する国家標準を制定する意向だ。

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この記事を書いた人

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