1. 安定した経済成長で小売総額も右肩上がり続く
中国経済は 2010 年までに比べて成長のスピードは鈍化したものの、いわゆる「爆買い」現象に象徴されるように、その消費パワーは一向に衰えをみせない。住民の平均可処分所得は 2013 年の 1 万 8310.76 元から 2014 年は 2 万 167.12 元へと 10.1%増加。2015 年上半期(1-6 月)の速報値では、都市部が 1 万 5699 元、農村部が 5554 元となっており、通年ではそれぞれ 3 万 1000 元と 1 万 1000 元を突破するとの予想もある。
一方の消費市場も好調で、社会消費品(各業種が住民や社会集団に直接販売する消費財の総額)の小売総額は 2014 年が 27 兆 1896.1 億元、2015 年上半期の速報値では前年同期比 10.4%増の 14 兆 1577 億元に達し、通年では 30 兆元を超えるとみられる。このうち飲食を除いた商品の小売総額は同 10.3%増の 12 兆 6581 億元で、特にネット販売は同 39.1%増の 1 兆 6459 億元と大幅な伸びをみせている。
商品別では、日用品は 2015 年 8 月単月の小売総額が同 10.1%増の 391 億元、今年 1-8 月の累計で同 12.2%増の 3048 億元と好調だ。文具・オフィス・文化用品も 8 月単月が同 15.6%増の 242 億元、今年 1-8 月の累計で同 14.1%増の 1788 億元と伸びている。
2. 日本風 10 元ショップが急増
日用品はこれまで居住区の片隅にある雑貨店やスーパーで購入するのが一般的だったが、2012 年に 100 円ショップ大手のダイソーが広州に進出して以降、「10 元ショップ」のスタイルをとる店舗が増加している。日系ブランドのショップにみせかけたり、つたない日本語ラベルで日本製を偽る店もあるが、いずれも日本製品に対するイメージの良さを利用して集客している。ユニクロと無印良品とダイソーを足して割ったような・・・と言われる 10 元ショップ「メイソウ(名創優品)」がその代表格で、真相は明らかでないものの日本人有名デザイナーが手掛け、全て日本からの直輸入品であることをアピールし、「日本製品の店」としての認知を得て目下急拡大中だ。
メイソウはなんと高田馬場にもある。中国を中心に 1000 店舗を目指すとしている
日本風の 10 元ショップながら、ダイソーの進出よりも前の 2010 年に上海でスタートした均一価格ショップ「一伍一拾」は、実店舗のほかにネットショップも展開している。実店舗は大手スーパーへの出店が多く、直営店だけで全国に 150 店舗以上、加盟店も含めると約 400 店舗あるという。商品は 5 元、10 元、15 元からあり、日本の 100 円ショップで売られている商品が“日本でも販売されている商品”だというアピールなのかラベルや値札もそのままに販売されているのが特徴だ。
一伍一拾の店舗の様子 (同社ホームページより)
ネットショップは、最大手の天猫(Tmall)のほか、京東(JD)、アマゾンにもそれぞれ旗艦店を持つ。天猫では「一伍一拾」として出店しており、低価格の商品も扱うが均一価格は取っていない。京東やアマゾンでは「智造空間」として保存容器や魔法瓶といったキッチン用品のみを販売しており、こちらも均一価格ではない。
天猫 https://yiwuyishi. tmall.com 京東 http://zhizaokongjian.jd.com/
一方のダイソーは、中国で 34 店舗(台湾では 52 店舗、香港は 35 店舗、いずれも 2015年 10 月現在、同社ホームページによる)を展開しており、中国においてもリピート率を上げるため毎月新商品を 700 アイテム以上投入しているという。仕入れは世界中から行っているが、おおむね日本製が 40%、中国製が 40%、韓国・ベトナム製などが 20%。ワンストップで買い物ができるよう日本と同様に商品ラインナップは幅広く、店舗面積も基本的に 500 平米以上と大きい。中国人の日本製品、日本ブランドへの信頼は厚く、10 元均一でありながら品質の良さと実用性の高さが評価されている。
淘宝網(Taobao)には 5000 点以上の日本雑貨がある
しかし若者が好むいわゆるファッション雑貨やカワイイ小物類となると、品質やデザインはもとより、品ぞろえの面からもネットショップに頼らざるを得ない状況だ。前出のメイソウは統一された店舗づくりや商品デザインで注目を集めるものの、日本の本社住所が架空であることや商品が中国製であることなどがインターネット上で暴露されており、模倣やニセモノに嫌悪感を持つ若者層からのバ ッシングも多い。
また日本で流行するリメイクや DIY の情報も入ってきているが、中国の 10 元ショップの品ぞろえは実用品が中心で、日本のように 100 円ショップでカワイイ素材を調達することは難しい。10 元ショップがあちこちに誕生し、日用品や実用品ならば簡単に揃うようになったが、趣味の雑貨や素材となると今も市場にはぽっかりと穴があいている現状が浮かび上がる。
リメイクや手作り品の情報のポータルサイト肉丁網(http://www.rouding.com)
中国社会科学院や各商業協会の代表ら約 170 名で構成される中国商業連合会専門家工作委員会が発表した「2015 年中国商業十大ホットイシュー(2015 年中国商业十大热点展望) 」においても、消費は減速傾向にあるが安定した成長が続いており、これまでのような高級・ぜいたく志向から合理的で実用性を重視した消費へと転換し、「自分に合った商品」・「理性消費」がキーワードになると分析している。
また単なる商品販売からライフスタイル販売へと軸を移しており、店舗でのユーザー体験向上に加え、モバイルアプリでのトータルな情報提供、さらにはブランドの世界観を統一する PB 商品の開発に乗り出す動きも始まっているという。このような流れは 10 元ショップにも影響を与えているようで、以前より明るく洗練された印象の店舗が増えてきたように感じられる。
広州発の 10 元ショップ「好東西」は逆に「Made in China」をアピールする(http://www.hdxmy.com/)
3. 日本の日用品を中国に輸出するには
中国の貿易主管部門は商務部で、国家税務総局や海関総署のほか、一部製品には国家質量監督検験検疫総局や国家食品薬品監督管理局も関係する。輸入品目について規制があり、国務院の「貨物輸出入管理条例」に基づき、輸入自由品目、輸入禁止品目、輸入制限品目に分けられる。具体的な輸入禁止物品は「中国輸出入禁止物品表」や「輸入禁止貨物目録」などに明記されており、病原菌や薬物、有害廃棄物が主だ。
輸入制限品目は中国の産業育成に影響を与える製品や一部の技術が該当し、動植物や金属・プラスチックの廃物、さらには農業や食品加工、紡績といった分野の一部技術の輸入が制限される。また輸入は自由だが、輸入状況を監視するために「自動輸入許可証」を事前に取得する必要がある品目もある(「2015 年自動輸入許可管理貨物目録」を参照)。
輸出入に関する法律・法規は、「対外貿易法」や「外相投資企業輸入管理実施細則」のほか、品目に応じた通知や公告などが 100 以上あるため注意が必要だ。
対外貿易法:http://www.gov.cn/flfg/2005-06/27/content_9851.htm
輸入禁止貨物目録(第 6 回):http://www.mofcom.gov.cn/aarticle/b/c/200602/20060201575919.html
貨物輸出入管理条例:http://www.gov.cn/gongbao/content/2002/content_61769.htm
2015 年自動輸入許可管理貨物目録:http://wms.mofcom.gov.cn/article/zcfb/c/201412/20141200854848.shtml
http://www.mofcom.gov.cn/article/b/e/201508/20150801078101.shtml
中国への輸出にあたっては、現地企業や個人と自由に貿易を行うことはできず、必ず商務部に対外貿易経営者の届出登記をしている事業者を利用する必要がある。日本からの輸出時に必要な書類は、インボイス、パッキングリスト、原産地証明書(各地の商工会議所にある証明センターで取得可)、B/L(船荷証券)、無木質包装証明(木質パレットなど木材による梱包ではないことを証明するもので輸出代理店等が英文で作成)などで、食品の場合は賞味期限証明書(メーカーあるいは輸出代理店が英文で作成)、水産品の場合は衛生証明書があわせて求められる。
中国側では品目によって「輸出入商品検査法(进出口商品检验法)」で定められた法定検査(检验)が必要となる。主に商品の品質や規格などが契約内容に合っているかを確認するもので、検査が必要な商品は目録が公表されている。実務的には中国側の荷受人となる対外貿易許可を持つ事業者が、契約書、インボイス、パッキングリスト等の書類を持って通関地の出入国検査検疫機関にまず申告を行い、税関にて通関手続きが完了後、20日以内に検査を申告し検査が行われる。なお法定検査目録にない商品であっても「輸出入商品抜き取り検査管理弁法(进出口商品抽查检验管理办法)」の規定によりサンプル調査の対象となる可能性があることに留意したい。また商品によっては、事前に商標登録を行った方が安心だ。
具体例としては、100 円ショップでよく販売されている食品保存容器や食器を輸出する場合、上記の法定検査に加えて「食品安全法」およびその関連法規や食品安全基準に適合している必要がある。食品または食品添加物を包装したり、直接のせたりするのに使用する紙、竹、木、金属、ほうろう、陶器、プラスチック、ゴム、天然繊維、化学繊維、ガラスなどの製品および、食品または食品添加物に直接接触する塗料が対象で、衛生部が素材ごとに定めている衛生基準に適合していなければ販売することができない。なお食器類の関税率は、陶器製食器が 10%、磁器製食器が 8%または 10%、ラミン材(木材の一種)の食器および厨房用品 0%、その他木製食器および厨房用品 0%、増値税率は上記品目のいずれも 17%となっている。
また歯ブラシは法定検査の対象品目ではないため輸入貨物通関書や輸入許可証書などを取得する必要はなく、現地の輸入事業者が普通貨物の規定に沿って通関手続きを行うだけでよい。販売にあたっては「製品品質法(产品质量法)」や国家強制基準で定められた品質基準に合致していることが求められ、当局がサンプリング調査を行うとしている。さらに他の品目と同様に「製品品質法」や「製品標識標示規定(产品标识标注规定)」等に沿って、原産国、輸入業者の連絡先などを簡体字で表記したラベルを貼る必要がある。プラスチック製の玩具やぬいぐるみの場合、「輸出入玩具検査監督管理弁法(进出口玩具检验监督管理办法)」や「中国強制製品認証(CCC)」の規定が関係する。CCC の対象となる製品は目録で定められており、該当する場合は現地パートナーと協力し日本からの輸出に先駆けてこの強制製品認証を取得する必要がある。
製品に CCC マークを貼付けなければ通関はもちろん販売することもできないためだ。また玩具の使用説明について、材料の名称や説明書のフォントまでが強制規定として定められており、対象年齢を明示する必要がある。強制製品認証は一般財団法人電気安全研究研究所(http://www.jet.or.jp)でも申請代行を行っている。
なお 2015 年 6 月 1 日から、税関総署は一部の日用消費財について輸入関税を引き下げている(「关于调整部分日用消费品进口关税的通知」)。これは近年の海外旅行ブームで大量の消費が海外に流出していることから、需要の多い日用品を中心に関税を引き下げることで内需を拡大し国内経済を活性化する狙いがある。今回対象となったのはスキンケア化粧品、ウール製品、スポーツシューズなどの靴類、紙おむつなどで、スキンケア化粧品はこれまでの暫定税率 5%から2%へ、ウール製スーツは 17.5%から 10%へ、靴類は 24%から 12%へ、紙おむつは 7.5%から 2%へとそれぞれ引き下げられた。対象品目は今後順次拡大される見通しで、粉ミルクや化粧品、食器のような一般消費者が日常的に利用する品目については将来税率がゼロになる可能性もあると報じられており、動向が注目される。
中国の輸入通関には関連する法規や規則が多く、また地域により税関が求める書類が異なることもある。また中国側の輸入者が該当商品を輸入できる資格を有しているか、輸入・国内流通に関わる許可証が取得できているか、強制製品認証など事前に認証を取得する必要があるか等、なによりも中国側パートナーとの連携・協力が重要だ。優良な現地パートナーを見つけるには各地で開催される交易会や展示会への参加が一般的だが、言語や商習慣の面で不安がある場合は、日本で付き合いのある取引先に紹介してもらったり、中国ビジネスの知見が豊富な企業との共同事業としてスタートすることも考えられる。