1. 規模は急拡大
中商産業研究院によると、中国の VR 市場規模は 2015 年にわずか 15.8 億元だったが、2019 年は 225.6 億元、2020 年には 300.9 億元に拡大する見通しだ。
2015 年は市場の大半が VR ゴーグルをはじめとするハードウェアで占められていたが、ソフトウェアの市場規模は年々拡大しており、2020 年にはソフトウェアが市場の3 割を占めるとの予測もある。
ユーザー数は 2015 年の 52 万人から一気に増えて、2019 年には 1879.3 万人となり、2020 年には 2000 万人を突破すると予想されている。
VR および AR の商用領域は多岐に渡るが、このうち最も活用されるのが消費者サービスで、特に VR/AR ゲームの市場は 2023 年に 95.9 億米ドルに達する見通しだ。さらに教育・トレーニングの分野では 27.5 億米ドル、小売では 21.4 億米ドル、工業・メンテナンスでは 16.2 億米ドルの市場が生まれると期待される。
2. 中国の VR 応用例
● VR ゲーム
中国では 2016 年 10 月に PlayStation VR の中国版が発売されたことを機に、様々なゲームメーカーが専用ヘッドセットや VR ゲームを発表している。現在はスマートフォンを使った VR ゲームはもちろん、VR ゲーム専門の体験施設も各地にでき、身近な娯楽の一つになっている。VR ゲームの体験施設は、大きな躯体のゲーム機が複数ある大型施設から、学校そばの小さな商店が数個の VR ゴーグルを用意してやっているようなものまで様々ある。
● 医療
欧米では医師の外科トレーニングのほか、患者の心理ケア、ペインマネジメント、リハビリ、遠隔医療等に活用されているが、中国では外科トレーニングと心理ケアでの活用が多く、特に投資が集まるのは精神疾患治療に関する VR ソリューションだ。医師向け VR トレーニング教材を手掛ける天堰科技(TELLYES)が 2015 年 7 月に上場したのを機に医療 VR 領域への投資が盛んになった。この 3 年ほどの間に妙智科技が数百万元、医微訊が数千万元、衆絵科技が数千万元それぞれ資金調達に成功している。
● 映画
毎年開催されている VR 映画祭「青島国際 VR 影像週」には、中国人監督による VR 映画も多数出品されている。VR 映画といっても今のところは世界的にも 5~30 分程度の作品がほとんどだ。網易が 2016 年に制作したオリジナル映画「人工知能」では 76 分の通常版に加えて、10 分ほどの VR 版が制作された。
VR 映画はインターネット等からダウンロードして 1 人で視聴するスタイルが主流だが、広いスペースに数十人が VR ゴーグルをつけて座り、同時に映画を見る「VR 映画館」では、耳東 VR 影庁が知られている。VR 映画館は全国に 50 以上あるといわれる。
● コンサート・イベント
中国では 2016 年から王菲(フェイ・ウォン)、テレビ番組をきっかけに人気となった譚維維(タン・ウェイウェイ)、元 EXO メンバーの鹿晗(ルハン)等が、コンサートの映像を VR コンテンツとして配信した実績がある。2018 年夏には日本でも著名なテレサ・テンの過去のコンサートを VR 化した作品が公開されている。またバーチャルアイドルやアニメキャラクターのイベントも VR コンテンツとして配信されている。
● 党教育
共産党の党員に対する教育にも VR が採用されている。高級幹部の養成機関である中国共産党中央党校や党組織、党委員会向けの VR 教材で、具体的には党の歴史や知識、国家の政策・戦略、科学技術に関する学習や、党にゆかりのある景勝地のバーチャル参観等に用いられているという。
● 飲食・レストラン
GoogleMap の調べによると、飲食店を予約する際に店内の VR 映像を確認する人は84%に上るという。すでに多くのレストランが、アプリで店内や個室の様子がわかる VR映像を用意している。VR といっても、Google ストリートビューのインドアビュー(屋内版)のようなもので、スマートフォンや WEB で見ることができる。なかには微信(WeChat)のミニアプリなどを通じて VR 映像からメニュー検索や直接予約ができるサービスを採用している飲食店もある。
● 交通安全教育
ドライバーや子供向けに VR を使って交通安全教育をするもので、飛び出しや衝突事故のほか、酒酔い運転や疲労運転などの感覚が体験できるものもある。運転体験の場合は VR ゴーグルと簡易的なハンドルを用いた体験が一般的だが、運転席付きの躯体で本格的な体験ができる装置を用意している自動車学校もある。
● 学校教育
VR を使った体験型学習教材は、幼児教育から高等教育まで様々なものがある。小中学生向けでは、数学や理科の難しいポイントを立体的な画像で説明して理解を助ける目的の教材が多い。学校や学習塾向けに、スマート黒板、教師用 PC、生徒用 VRゴーグル、VR 教材一式をセットにした VR 教室ソリューションを提供する事業者も出てきている。
● 裁判
各地の地方裁判所では VR を使った証拠調べ手続きが導入されている。北京市第一中級人民法院では、事故の目撃者が VR ゴーグルをつけて、事故現場の映像の中で位置を指し示したり、状況を説明したりすることが認められている。VR ゴーグルの映像は裁判所の大画面モニターにも映し出され、裁判官らも一緒に確認することができる。裁判所では数年前からオンライン審理やオンラインでの証拠提出が認められており、VR を使った裁判の生配信やオンライン傍聴システムを導入する地方裁判所もある。
● 旅行
旅行分野では、実際に現地を訪れる代わりに VR で観光を楽めるよう多くの景勝地や観光施設が VR 用の動画を用意している。また旅行会社では、プランニング時に観光地やホテルを VRで事前に確認する、あるいは旅行先の季節ごとの映像を見て旅行する時期の参考にするといった使い方をしている。
また観光施設ではリピーター客を呼ぶために VR 体験施設を導入するケースが増えており、遊園地の上海歓楽谷(Happy Valley)には VR お化け屋敷が登場した。黄山風景区、海南三亜鹿回頭などの景勝地でも VR 体験館を新たに建設して、エリア内の歴史や言い伝えが楽しめる VR プログラムを提供している。