Microsoft・Zoom・Appleの中国対応|データ三法を踏まえた「現地化」の事例

目次

世界的IT企業でも「中国仕様」が必要な背景

日本では、Google、Microsoft、Zoom、Appleといった企業のサービスのグローバル版を日常的に利用しています。しかし中国では、こうした世界的なIT企業であっても、サービスの提供方法やデータの取り扱いを中国向けに調整する必要があります。

背景には、中国データ三法をはじめとした各種法令があると考えられます。本記事では、Microsoft・Zoom・Appleの3社が実際にどのような対応を取ってきたかを整理し、中国で事業を行う日系企業の対応のヒントとなるような情報を提供できればと思います。

中国国内でデータ完結 =「現地化」が選ばれがちな理由

中国では、下記のいわゆる「データ三法」および関連法令で、データの取り扱いに関するさまざまな義務が定められています。

  • サイバーセキュリティ法(网络安全法)
  • データセキュリティ法(数据安全法)
  • 個人情報保護法(个人信息保护法)

データを中国国外に移転する場合の手続(安全評価・標準契約備案・認証)はその一つですが、それ以外にも、ネットワーク安全等級保護(等保・MLPS)への対応など、対応事項は複数にまたがります(以下の記事参照)。

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また、扱うユーザー数・データ量が大きい事業者ほど、対象になり得る規制・手続の数も増えていく傾向があります。

よって、大規模な事業者の場合、該当する規制の個別対応を重ねるよりも、そもそも中国国内でデータなどを完結させる体制を作ってしまう(現地化する)方が、対応の手間を抑えて事業を続けやすくなることが多く、結果的に現実的な選択になりやすいと考えられます。 

以下で紹介するMicrosoft・Zoom・Appleの対応も、個別の規制ごとに都度対応するのではなく、「現地化」という形を選んでいる点が共通しています。

事例① Microsoft ―― 中国専用サービス環境の構築

Microsoftは、中国向けにMicrosoft 365を提供するにあたり、「Microsoft 365 operated by 21Vianet」という中国専用の環境を用意しています。

そして、このサービスはMicrosoftが中国の独立系データセンター事業者の21Vianet Group(世纪互联)の子会社である上海蓝云网络科技有限公司にライセンスを提供し、上海蓝云网络科技有限公司が運営しています。

ポイントは、グローバル版と「同じサービスを中国からも使える」のではなく、運営主体・データの保管場所・機能の一部が異なる別環境として構築されていることです。

◆Microsoft Teams にある 「クロスクラウド会議」

なお、ビデオ会議システム Microsoft Teams については、Microsoftの公式ドキュメントによれば、「グローバル版」 と 「21Vianet版」の、双方の管理者が設定を有効にすれば、相互に会議へ参加できる「クロスクラウド会議」 の仕組みが用意されています。つまり、中国専用サービス版とグローバル版の会議連携ができるのです。

事例② Zoom ―― 直接販売の停止と現地パートナーへの移管

Zoomは、MicrosoftやAppleのように自社ブランドの中国専用環境を維持する方向ではなく、中国本土での直接販売をやめる方向に進んだ点が特徴的です。

報道によれば、Zoomは2020年8月、中国本土での販売を同月23日付で現地パートナー経由のみに切り替える旨を案内しました。これに先立つ約2か月前には、オンラインでの申し込みの受付も停止していたとされています。当時現地パートナーとして挙げられたのは、

  • 上海会畅通讯股份有限公司/BizConf Telecom Corporation Limited ※1
  • 随锐科技集团股份有限公司/Suirui Group Co., Ltd.
  • 尚阳科技股份有限公司/Systec Technology Inc.

の3社です。製品名はそれぞれ

  • 「会畅Bizconf」
  • 「随锐瞩目(Zhumu)」
  • 「尚阳Umeet」

となっており、各社はZoomの技術を自社製品に組み込んだサービスを提供しています。

※1: 現在の社名は、上海会畅科技股份有限公司/BizConf Technology Co., Ltd.

事例③ Apple ―― iCloudとApple Intelligenceの中国現地化

Appleは、中国本土向けのサービスについて、中国企業と組む形を取っています。クラウドサービスのiCloudは、中国の事業者が運営しており、生成AIのApple Intelligenceについても、中国企業のAIモデルが組み込まれる予定と報じられています。以下、iCloudとApple Intelligenceの順に見ていきます。 

◆iCloudの中国本土向けサービスは「云上艾珀(GCBD)」が提供

Appleは、iCloudの中国本土向けサービスについて、Apple公式サポートページで「中国本土のiCloudはGCBD(云上艾珀(贵州)技术有限公司/AIPO Cloud (Guizhou) Technology Co. Ltd.)によって運営されている」と明記しています。

◆中国のApple Intelligenceには中国企業のAIモデルが組み込まれる?

2026年7月15日、中国国家インターネット情報弁公室(CAC、国家互联网信息办公室)はAppleの生成AIサービス「Apple Intelligence」が中国国内iPhoneでの利用に向けて“登録された”※2と発表しました(ロイター通信報道)。

なお、匿名筋によるとApple IntelligenceにはBaidu(百度)およびAlibaba(アリババ)が開発したAIモデルの機能が組み込まれる予定だということで、Alibaba・Baiduの両社も関与を確認したと報じられています。

2026年10月時点で、筆者が確認した範囲では、中国国内での正式な提供開始は確認できていません。なお、7月の登録の時点では、提供開始日は示されていませんでした(同、ロイター通信報道)。

※2: 報道では“registered(登録された)”と書かれていましたが、報道上詳細は明らかにされていません 。

参考:「データ三法」施行以前のGoogleのケース

Googleは2006年に中国本土向け検索サービス「Google.cn(谷歌中国)」を開始しましたが、中国本土のインターネット政策とGoogleのサービス提供方針との間には次第に違いが生じ、2010年、Googleは中国本土で提供していた検索サービスを香港の「Google.com.hk」へ移行しました。

香港は中国本土とは異なる法制度を有しているため、「中国本土でサービスを提供すること」と「香港でサービスを提供すること」では、適用されるデータ関連法制も異なります。

3社に共通する対応:「現地化」×「データ三法等の遵守」

Microsoft・Zoom・Appleの対応は形こそ異なりますが(現地専用環境の構築、直接販売の停止、現地事業者への運営移管)、共通しているのは、グローバル版のサービスをそのまま中国に持ち込むのではなく、中国向けに運営体制やサービスの構成を調整しているという点です。

これは、データ越境移転の手続だけでなく、等級保護(MLPS)への対応や重要データの識別・管理など、データ三法のもとで生じ得る複数の義務に、規制ごとに個別対応を重ねるよりも、そもそも中国国内でデータを完結させる体制を構築する方が、事業の継続性・コンプライアンス対応の両面で合理的と各社が判断した可能性があります(各社は理由を公式には説明していません)。

日系企業に対するヒント

ここまでの事例は、いずれも世界中で非常に多くのユーザーを抱える巨大企業のものです。では、巨大企業ではない企業が中国で事業を行う場合も、同じように「現地化」を選ぶ必要があるのでしょうか?

データ三法のもとでは、事業者が対応を求められ得る義務(等級保護備案、重要データの識別・管理、データ越境移転の手続など)は、取り扱うデータの量・種類(重要データか、個人情報か、センシティブ個人情報かなど)に応じて、対象になるかどうか、また手続の重さが変わる制度設計になっています。そのため、巨大企業と同じように「現地化」まで必要とは限らず、対応は企業ごとに異なります。

「現地化」を選ぶかどうかを考える前に、まず重要なのは、自社が中国国内で取得しているシステムやデータの状況を棚卸しすることです。たとえば、次のような点が出発点になります。

  •   自社のシステムはどのシステム等級に該当しそうか
  •   どのくらいの量のどんなデータを扱うか
  •   重要データに該当し得るデータはあるか
  •   個人情報を取得しているか、センシティブ個人情報は含まれるか
  •   データを中国国外に移転しているか
  •   生成AIサービスを利用・提供しているか

これらを整理したうえで、自社がどの手続の対象になるか(あるいは原則不要か)を、個別に確認し、必要な対応を洗い出していくことをおすすめします。

情報源・参考資料

Microsoft Learn「Microsoft 365 operated by 21Vianet」
https://learn.microsoft.com/en-us/office365/servicedescriptions/office-365-platform-service-description/microsoft-365-operated-by-21vianet
Microsoft 365 operated by 21Vianet Trust Center
https://www.trustcenter.cn/en-us/cloudservices/microsoft-365.html
Microsoft Learn「Meet with people in other Microsoft 365 cloud environments」
https://learn.microsoft.com/en-us/microsoftteams/cross-cloud-meetings
Zoom将停止向中国客户直销产品,只通过第三方伙伴提供服务|界面新闻 · 快讯(2020年08月03日)
https://www.jiemian.com/article/4769244.html
上海会畅通讯股份有限公司关于变更公司名称、证券简称、经营范围及修订《公司章程》暨完成工商变更登记的公告
https://static.cninfo.com.cn/finalpage/2025-12-25/1224898978.PDF
尚阳科技股份有限公司(2024年年度報告)
https://static.cninfo.com.cn/finalpage/2025-04-16/1223108940.PDF
随锐科技集团股份有限公司 2020年半期報告(公告编号2020-053)
https://file.finance.sina.com.cn/211.154.219.97:9494/MRGG/SBGG/2020/2020-8/2020-08-28/6575189.PDF
iCloud in China mainland
https://support.apple.com/HT208352
Apple Intelligence AI service registered with Chinese cyberspace regulator | Reuters
https://www.reuters.com/technology/apple-intelligence-ai-service-registered-with-chinas-cyberspace-regulator-2026-07-15/
Official Google Blog: A new approach to China
https://googleblog.blogspot.com/2010/01/new-approach-to-china.html
Official Google Blog: A new approach to China: an update
https://googleblog.blogspot.com/2010/03/new-approach-to-china-update.html

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本記事では、中国のデータ法規制に対し、米国の大手IT企業はどのように対応しているかの傾向を整理しました。中国のデータ関連法規は改正が多く、最新の制度動向を踏まえた対応や判断が求められます。

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