コロナ禍でもチャンスが生まれるライブコマース

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中国人が「消費を煽られる日」

中国では1年間に何度か中国人の消費行動が突然はね上がる時期がある。伝統的には、中国の旧正月である春節、5月1日から始まる労働節の連休、中国の建国記念日である10月1日の国慶節、そして誕生日、冠婚葬祭のタイミングが挙げられる。若い人の間ではバレンタインデーとクリスマスもだろう。

しかしここ数年のデジタルの発展によって、6月18日と11月11日が新たに加わった。

6月18日は、「618」と呼ばれ、EC大手の京東(JD.com)が設立記念日(1998年6月18日設立)のイベントとして2010年6月18日にスタートした大規模なセールだ。今では他のECサイトも追随し、6月18日前後に中国のあらゆるECサイトがセールを行うため、6月18日はECショッピングの日という認識が広く定着した。

もう一方の11月11日は、「双十一(W11)」と呼ばれ、もともとは独身の日のセールイベントに過ぎなかった。こちらも今では中国のあらゆるECサイトがセールを行うようになった。日本でも毎年のように売上額がニュースになるから、耳にしたことのある人もいるだろう。

今これらの「消費を煽られる日」に活躍しているのが、「互聯営銷師」と呼ばれる人々だ。

新しい職業”互聯営銷師”

中国で2020年に生まれた新しい職業の一つが「互聯営銷師」だ。直訳すれば、インターネットマーケティング師となる。要するに、ライブ配信を通じて商品やサービスを販売する人のことだ。日本では、ライバーとか、コマースライバーと呼ばれている。

この「互聯営銷師」は、中国政府によって2020年に新しい職業として正式に認定されている。一般的には、KOL(Key Opinion Leader)とか網紅(ワンホン、ネット上の有名人の意味)と呼ばれているためか、互聯営銷師という言葉を知っている人はまだ筆者の身の回りにはいなかった。

しかし、「互聯営銷師」のライブ配信で商品を紹介して販売するという役割自体はすでに広く浸透しており、専門の養成会社があるほか、大学に専門学部が新設されたり、養成学校があちこちに開設されたりもしている。

中古ブランド商品に強いリサイクルショップ「コメ兵」が中国で行っているライブコマースの様子(筆者撮影)

例えば、天津にある众娯伝媒は、2015年に設立されたオンライン芸能プロダクションだ。事業の一環として、互聯営銷師の発掘、育成、マネジメントを行っており、現在所属する専業互聯営銷師は200人、兼業互聯営銷師は4000人を超える。同社では所属する互聯営銷師に、営業トークに関するトレーニングを行っており、有名になった互聯営銷師も多い。しかし有名になり人気が出ると他社から引き抜きにあったり、会社から独立して自分でライブ配信を始めたりと問題も多いのだという。

ちなみに中国で最も有名な互聯営銷師といえば、微娅と李佳琦である。薇娅(ウェイヤー)は中国ライブコマースの女王と呼ばれるほどの実績を持つ。一方の李佳琦(リージャーチー)は男性の美容ブロガーで、口紅王子という愛称でも知られている。

今あるリソースでライブコマースに挑戦

中国のライブコマース市場はこの数年で新しく生まれたものだ。新型コロナウイルスの感染拡大もあり、ライブコマースは一部の若者がやるもの・買うものという考えが薄れ、年配の人や地方に住む人も含め、今や誰もが利用する販売チャネルという認識に変化した。

中国でこれだけライブコマースが流行っているのだから、中国で日本企業や日本の商品を紹介するためにはどうするべきか。日本への視察ツアーなどを手掛けている北京卓越暇期国際旅行有限公司のチャレンジを紹介しよう。

同社は新型コロナウイルスの感染拡大で、2020年3月から全く仕事ができない状況になったのだという。夏頃には収まるのではという予想は早々に裏切られ、中国から日本への自由な渡航ができない状況は今も続いている。

そこで同社は2020年8月にEC事業に進出し、インターネットを通じて日本製品の販売を始めた。最初は地域住民へのサービスとして、スーパーよりも安く日本製品を販売していたが、旅行会社としての特性を生かし、徐々に日本各地の様々な商品へ、さらには中国各地の特産品へと取り扱い商品の幅を広げていった。

松亭氏が日本の商品や観光情報などをライブ配信で紹介する様子(筆者撮影)

そして2020年10月からは、過去に日本への視察ツアーに参加したことのある既存の中国人顧客向けに、日本製品を紹介するライブ配信をスタートした。今では扱う商品は600以上、フォロワーは3万人を超え、ライブ配信の視聴者は常に1,000人以上いるという。2021年からはライブ配信のコンテンツの一つとして、中国の観光地の紹介も始めている。

筆者の知人でもある同社の松亭氏は、既存顧客を繋ぎ止め、新しい顧客を開拓して、渡航が自由になったらすぐに元の視察ツアーの仕事が再開できるよう、不自由な環境下でも準備を続けていると話す。

中国のライブコマースブームは日系企業にもチャンス

ライブコマースでは、大手がビックマネーを使って大きく売上を伸ばす例も多いが、このように今あるリソースを活用し、できる範囲のことから始めて少しずつ規模を拡大していく、という方法もある。

中国のライブコマース市場では、クオリティの高い動画がある一方で、素人が作成した動画であっても大きな効果を生むことがある。日本企業にとってこの状況はビッグチャンスだろう。トライエンドエラーを繰り返し、ライブ配信の技術や市場の動きを学べば、ノウハウを蓄積していくことができる。中国で起こっているこの現象は、いずれ日本でも起こる可能性がある。玉石混淆の今の中国市場で色々試してみるのは必須なのではないだろうか。

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この記事を書いた人

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