韓国4G市場の概況
「LTE (Long Term Evolution)」を代表とする4Gモバイル高速通信サービスは、韓国最大の通信事業者でNTTドコモが事業提携しているKT、紡績・エネルギー事業を展開するSKグループのSKテレコム、家電大手LGグループのLG Uplusの3社が提供している。韓国の4Gサービスは、2011年5月にSKテレコムとLG Uplus がLTEの試験基地局を開設したことをきっかけに商用化に向けた流れが加速し、SKテレコムとLG Uplusは同年7月から、KTは同年11月から4Gサービスの提供を開始している。
2012年末時点のモバイル通信の加入件数は約5378万件で、このうち4Gの契約はおよそ1600万件に上る。2013年1月時点の4G普及率は、全体の32.2%に達している。
今後も利用者は増加する見通しで、2015年の普及率は55~70%が見込まれている。
各キャリアの業績
2012年の各社の売上は、4G契約の増加により前年を上回る実績となったが、カバーエリアの拡充や宣伝広告費の増加でいずれも営業利益が大きく減少している。
SKテレコムの売上は前年同期比2.3%増の16兆3005億ウォン、営業利益は前年の2兆2956億ウォンから大きく減少して1兆7602億ウォン、当期純利益は同29.5%減の1兆1157億ウォンだった。KTはBCカード、KTスカイライフといった非通信部門の業績が好調だったことから、売上は同1.8%増の23兆7903億ウォンで過去最高を記録した。しかし営業利益は同30.6%減の1兆2138億ウォンで、当期純利益も同23.5%減の1兆1114億ウォンだった。LG Uplusの売上は同18.7%増の10兆9046億ウォンで創業以降初めて10兆ウォンを突破したものの、営業利益は前年の約半分となる1258億ウォン、当期純利益はマイナス625億ウォンで赤字となった。
各社の全体ARPU(1契約あたりの売上、音声通話とデータ通信を含む)は、4G契約の増加によって3万ウォン台にまで引き上げられており、SKテレコムは同3.6%増の3万3761ウォン、KTは同6.5%増の3万697ウォン、LG Uplusは同18.6%増の3万1085ウォンとなった。
一方で広告宣伝費も上昇しており、SKテレコムは同7.4%増の3兆4740億ウォンで、売上の28.2%を占めた。このほか、KTは広告宣伝費として前年をわずかに上回る2兆5666億ウォン、エリア拡充のためのインフラ投資として同10%増の3兆7100億ウォンを投じた。LG Uplusは広告宣伝費として同16%増の1兆7544億ウォン、インフラ投資では前年をわずかに下回る1兆6796億ウォンを支出している。
韓国の4G利用状況
LTEを代表とする4Gサービスの開始により、トラフィックにも大きな特徴が表れている。加入件数全体の48.6%を占める3Gが、トラフィック量で39.7%を占める一方、加入件数で32.2%に過ぎない4Gがトラフィック量の60.3%と過半数を占めており、LTEの利用者が3Gの利用者に比べ相対的に多くのトラフィックを使っていることがわかる。
しかしLTEのトラフィック量が多いからといってスマートフォンの利用時間が長いわけではない。最近行われた調査によると、1日の平均利用時間は、3Gのスマートフォンユーザーが97.31分、LTEのスマートフォン利用者が96.85分だった。
コンテンツのカテゴリー別利用時間の調査においても、LTEのスマートフォン利用者は動画やラジオといったストリーミングによるものや高画質の画像を用いたマンガのようなマルチメディア系サービスを多く利用していることが明らかになっている。逆にデータ容量の少ないテキストを中心としたユーモア系コンテンツは、3Gからの利用が4Gに比べ3倍近く多くなっている。
各社が採用する通信規格及び周波数
4Gサービスを提供する通信事業者3社のうち、LTE規格を利用しているのはSKテレコムとLG Uplusの2社で、KTはWiMAXをベースに韓国で開発された4G規格「WiBro」を採用している。
下り速度の実測値は周囲の環境にもよるが10~50Mbps程度で、英国ネットワークテスト会社のOpenSignalが最近行った調査結果によれば、韓国の4G下り速度は16.4Mbpsで、世界第6位だった。事業者別ではKTが18.4Mbps、SKテレコムが17Mbpsだった。
また韓国における通信事業者の周波数割り当て帯域は以下の通りとなっている。
LTEは従来データ通信にしか利用できなかったが、今では音声通話サービスVoLTEに対応した端末が各社より発売されている。VoLTEに対応していない端末の場合、SKテレコムとKTはデータ通信に4G、音声通話は3GのWCDMAネットワークを利用している。一方のLG Uplus は、3G導入時にCDMA(2G)を拡張した1.8GHzのCDMA2000を割り当てられたことから、他の2社のように音声通話にWCDMAが利用できない状況だ。そのため同社のLTE対応端末には、主流であるWCDMAの自動切替モデムではなく、2GのCDMAに対応した専用通話モデムが搭載されている。
またSKテレコムはLTEの後続規格でより高速なLTE-Advancedを2013年9月から商用化することを明らかにしており、利用者の少ない2Gサービスは今後2~3年以内に終了する見通しとなっている。
各社の4G料金体系
3社とも定額制の料金プランを用意しており、多くの利用者がこれを選択している。各社の代表的な料金プランは以下の通り。(100ウォン=8.7円、2013年4月15日時点)
各社のエリアカバー状況
3社の中で最も4Gのカバーエリアが広いのはLG Uplusとなっている。4Gの電波が届かない地域では、3Gに自動的に切り替えられる。
また韓国では、電車、高速バス、タクシーといった公共交通機関のほとんどがWiFiサービスを提供しているため、4Gのカバーエリア外であっても、利用者が速度の面で不便を感じることはあまりないのが実情だ。また、韓国全域において地上と地下での通信品質に大きな差は無い。
4G対応端末の販売状況
韓国の携帯電話市場は、日本と同様のキャリア販売が基本となっている。各キャリアが運営する店舗はもちろん、市街にある携帯電話ショップなどでは新品だけでなく中古端末を手に入れることもできる。また韓国のスマートフォンはSIMロックフリーで販売されており、同一機種が複数のキャリアで販売されることもある。そのためキャリアの直営店以外で端末を購入する場合には、自分が利用するキャリアを指定した上で対応する端末を選ぶ必要がある。
2012年末時点で、SKテレコムが10機種、KTが5機種、LG Uplusが6機種の4G対応スマートフォンまたはタブレットPCを展開している。また搭載するOSは、サムスン、LG、PANTECHの大手3社は全てAndroidを採用している。
韓国でiPhone5を扱うキャリアは、SKテレコムとKTの2社。以前はKTの単独販売だったが、iPhone5はキャリア2社が通信速度や料金プランで競争している。しかしAndroid端末に比べ画面サイズが小さいことや、「iTunes」の同期を面倒だと感じる人が多く、圧倒的にAndroid端末を選ぶ人が多い状況だ。
端末メーカー各社の主要製品が搭載するAndroidのバージョンは以下の通り(発売時点)。
今後の加入者数予測
4Gは3Gの登場時に比べて2~2.5倍のスピードで普及しており、2012年6月の4G契約数は、SKテレコムが約300万人、KTが約100万人、LG Uplusが約240万人だった。最新のデータは各社とも明らかにしていないが、2013年1月のKTの契約総数は約1600万件で、このうちWiBro(4G)契約は27%を占める約450万件だった。
すでに各社が公開している2013年の目標契約数は、SKテレコムが1400万人、KTが800万人、LG Uplusが800万人となっている。目標が達成されれば累計の契約数は3000万人を超え、韓国の携帯電話利用者の60%が4Gになる見通しで、業界では2016年に普及率90%との強気の見方も出ている。