シンガポールのインターネット通信事情

目次

1. 有線インターネットサービス

シンガポールのブロードバンド(BB)普及率は非常に高く、IDA(情報通信開発庁)の調べによれば、2016 年 7 月時点で有線 BB の世帯普及率は 98.1%となっている。

2010 年 9 月には、政府が主導する次世代全国 BB 網(The Next Gen National BroadbandNetwork、NGNBN)による光ファイバ BB サービスが全土で展開され、2016 年 7 月時点で BB 回線の 73%が光ファイバとなっている。ここ数年は、通信事業者間の競争によって光ファイバサービスの価格が下落したことで、xDSL やケーブル回線からの乗り換えが進んでおり、光ファイバサービスの加入者数は、2013 年に xDSL の加入者数を、2014年にはケーブルテレビの加入者数をそれぞれ上回っている。

大手通信事業者のサービス料金は、現時点で最も安価なプランである 300Mbps の回線・インターネットアクセスサービスが月額 29-49.9SGD(約 2,200~3,700 円)、メインとなる 1Gbps のプランが月額 39-59.9SGD(約 3,000~4,500 円)、2016 年 2 月からスタートした 10Gbps のプランが月額 189~218SGD(約 14,200~14,900 円)となっている。

なお業界 2 位の Starhub が 2017 年末をめどにケーブルテレビサービスの終了を検討しているとの報道もあり、今後ますます光ファイバへの移行が加速するものと見られる。

●主な事業者

シンガポールの光ファイバ BB のシェアは、1 位 Singtel、2 位 Starhub、3 位 M1、4 位が MyRepublic となっている。その他、ViewQwest、SuperInternet、Pacific Internetなどが BB サービスを行っている。

とりわけ NGNBN では、物理インフラストラクチャを提供する会社(NetCo)と論理ネットワークインフラストラクチャを提供する会社(OpCo)、サービスを提供する会社(RSP)の構造分離が図られており、複数の事業者が平等な条件で、なおかつ低い参入障壁で光ファイバ BB サービスを提供できる制度設計がなされている。各社とも付加価値サービスに力を入れており、有線 BB にテレビや VoIP サービスをバンドルしたトリプルプレイサービスや、無線 BB をバンドルしたパッケージなどがある。

その他のアクセス回線については、基本的に ADSL は SingTel が、CATV は StarHub がサービスを提供しており、両社の設備を用いてサービスを提供する事業者もある。

●速度

CDN 事業を展開する Akamai の調べによれば、2016 年第 2 四半期(4-6 月)のシンガポールにおけるインターネットの平均速度は前年比 27%増の 17.2Mbps で、対する日本は同 5.1%増の 17.1Mbps と、ほぼ同程度の速度となっている。また、ピーク時の速度は、シンガポールが世界 1 位で前年比 44%増の 157.3Mbps、日本は同 14%増の85.3Mbps となっている。シンガポールは人口が日本に比べて少ない分、ピーク時の性能が出やすいと考えられる(なお世界 2 位は香港で 114.3Mbps)。4Mbps 以上の速度が出ている接続の割合は、シンガポールが 93%であるのに対して日本が 92%と、こちらも同程度となっている。

またオンラインビデオストリーミング配信を行っている NetFlix の調べによれば、シンガポールの主要通信事業者によるストリーミング配信時の通信速度は 3.32~3.77Mbps で推移している。一方、日本の主要通信事業者による速度は 2.63~3.73Mbpsで、シンガポールの通信事業者よりもやや低い数値となっている(いずれも 2016 年 8 月度のデータ。光ファイバ、ADSL とケーブルテレビの数値が混在)。

なお、シンガポールの ISP は DPI による帯域制御やアクセス制限を行っているケースが一般的であり、利用するアプリケーションやアクセス先の Web サイトによって通信速度が大きく異なる現象が見られる。通信速度の検証が必要な場合、スピードテストのサイトの数値などはあくまで参考程度とし、実際の環境で継続して検証を行うことが望ましい。

2. モバイルブロードバンドサービス

シンガポールの人口あたりの携帯電話加入者数は 148.9%と非常に高い数値となっている。この背景には、1 人が複数の携帯電話を所有する、旅行者が同国の SIM カードを購入する、といった事情がある。

●主な事業者

現在は Singtel、Starhub、M1 の 3 社が 2G/3G/4G(LTE)のサービスを国内全域で提供している。また 4 社目の携帯電話事業者として、airYotta、MyRepublic、TPG Telecomの 3 社が名乗りを上げており、現在 IDA が審査を行っている。審査に通過した事業者は、新規参入事業者用の電波オークションに参加する資格を与えられ、早ければ 2017年 4 月に商用サービスを開始することができる。これを見越して、市場では今まで高止まりしていたデータ通信料金を引き下げる動きが出ている。

●エリアカバー率

モバイル BB 利用者の測定データを元に電波状況などのデータを調査・共有するOpenSignal の調べによれば、3G/4G を合わせたエリアカバー率は 94.42%で、日本の95.57%とほぼ同等水準となっている。特に 2005 年にサービスがスタートした 3G サービスは、ビルや電車のトンネル内を含め、国内のほぼ全域で安定的に利用できる。しかし 4G サービスは本格的なスタートが 2012 年ということもあり、一部の地域や建物内などでは 3G に比べて電波状況が良くない、あるいは圏外となるケースが見られる。

IDA は 2016 年 7 月、携帯電話事業者の 4G カバー率(受信シグナルレベルが-109dBm以上)について新たな規制を発表しており、屋外でのカバー率は 2016 年 7 月から 95%以上、さらに 2017 年 7 月からは 99%以上、トンネル内のカバー率は 2018 年 7 月から99%以上、ビル内のカバー率は 2019 年 1 月から 85%以上とすることを求めている。よって今後数年のうちに 4G の電波状況は大きく改善するものと思われる。

●通信速度

OpenSignal のまとめによると、3G/4G をあわせたダウンロード速度の平均はシンガポールが 31.19Mbps であるのに対し、日本では 21.25Mbps と、シンガポールの方が高速となっている。

各通信事業者の 3G/4G 別の通信速度は以下の通り。

IDA もモバイル BB 回線の品質を計測する「MyConnection SG」というアプリを開発し、OpenSignal と同様のアプローチで、利用者の協力によりダウンロード速度のデータを収集している。このアプリを使い、携帯電話利用者 4,000 人から 4,000 万件以上のデータを収集した結果は以下のようになっている(利用者の内訳は Singtel が 42%、Starhub が 34%、M1 が 24%)。

またシンガポール内の主要5地域 (中心部、東部、北部、北東部、西部)の地域別パフォーマンスは以下の通りで、他の地域と比較して東部がやや速いものの、全土に渡って一貫して安定した通信速度が確保されていることがわかる。

3. 主要通信事業者の概況

● SingTel (Singapore Telecommunications Limited)

シンガポール最大の電話会社で、1879 年に創業し 1992 年 3 月に民営化される。シンガポールだけでなく、アジア太平洋諸国を中心に世界中で事業展開をしており、事業利益の 70%以上が海外からとなっている。

特に携帯電話会社に積極的な出資をしており、100%子会社であるオーストラリアのOptus は同国第 2 位のマーケットシェアを獲得しているほか、インドの airtel(シェア 1位、出資率 33%)、インドネシアの TELKOMSEL(シェア 1 位、出資率 35%)、タイの AIS(シェア 1 位、出資率 23%)などを抱えている。

グループの業績は 2016 年度(3 月末締め)が 169.6 億 SGD、SingTel 単体では 76.6 億SGD。モバイル契約者数は世界 25 カ国に 600 万人以上、シンガポールのみで約 410 万人となっている。

● StarHub

シンガポールの通信産業の規制緩和に伴い設立された同国第 2 位の通信会社で、1998年創立。2004 年 10 月にはシンガポール証券取引所に上場している。

1999 年 1 月に SPH 傘下のインターネットサービスプロバイダであった CyberWay を買収し、同月に無料のインターネット接続サービスを開始すると、わずか 1 日半で 3.8万人の加入者を獲得した。さらに 2002 年にはケーブルテレビ会社である SingaporeCable Vision と合併し、CATV インフラを活用した BB サービスを始めている。

同社の業績は、2015 年度(12 月末締め)が 24.44 億 SGD で、モバイル契約者数は約218.8 万人となっている。

● M1

東南アジア諸国を中心に展開する通信事業者の Axiata グループの一員として、1994年 8 月に MobileOne として設立され、1997 年にサービスを開始した。2002 年 12 月にシンガポール証券取引所に上場しており、2010 年 4 月に社名を現在の M1 に変更した。

1998 年に CDMA サービスを開始し、2005 年 2 月には同国初の商用 3G サービスの提供をスタートしている。また 2006 年 12 月にはシンガポール全域で HSDPA による無線 BB サービスを始めており、2008 年には有線 BB サービスに参入した。2010 年 9 月には NGNBN でのサービスを開始し、2011 年 6 月には東南アジア初の LTE サービスの提供を始めている。

同社の業績は、2015 年度(12 月末締め)が 11.57 億 SGD で、モバイル契約者数は約193 万人となっている。

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