1. 中国のモバイル医療サービスとは
モバイル端末を利用した医療サービスは、中国でスマートフォンが本格的に普及し始めた 2013 年頃に登場し、現在は数多くの医療機関が参入する注目市場となっている。中国語では一般的に「移动医疗(移動医療)」と呼ばれ、スマートフォンやタブレットを通じて医療および健康に関する情報とサービスを提供するものを指す。
当初はインターネットを使った診察予約システムや単なるヘルスケア情報の提供が中心だったが、4G の普及に加えてモノのインターネット(IoT)、クラウドコンピューティング、ビッグデータといった技術の発展により、Web カメラを使ったオンライン診察、生活習慣病患者の遠隔見守り、電子カルテ共有、オンライン処方、医師同士のコミュニティ運営など様々なサービスが誕生している。
2. モバイルからの利用はこれから増加
中国のインターネット利用者数は 2014 年末時点で 6.49 億人に達し、このうちモバイルインターネットの利用者は全体の 85.8%を占める 5.57 億人となっている(CNNIC2014.12 調べ)。低価格スマートフォンの登場もあり、モバイルインターネットの利用者数は引き続き緩やかな増加を続けることが予想される。
モバイルインターネットの利用者増加が追い風となり、オンライン医療サービスをモバイル端末から利用する人も徐々に増加している。2014 年時点ではまだ PC からの利用比率が 74%を占めているが、3 年後の 2017 年にはモバイルからの利用が半数を超えると予想される。
3. 成長間違いないと融資も急増
モバイル医療サービス市場は、今年にも本格的な高速成長期に突入する見通しだ。2014 年時点の市場規模は 30 億元だったが、医療機関や IT サービス事業者が続々と参入を始めており、2016 年には 100 億元を突破、2017 年には 200 億元を超えるとの予測もある。同分野への融資件数も 2011 年以降ほぼ 2 倍のペースで増えており、融資金額は 2011 年から 3 年でおよそ 40 倍に膨れ上がっている状況だ。
投資分野別にみると、モバイル端末向けの医療アプリが全体の 6 割以上を占めており、続いて医療設備がおよそ 3 割となっている。医療設備の具体的な内容は不明だが、電子カルテやモバイル端末につないで血圧等のデータを取得する装置などが含まれるものとみられる。
最近では市場を取り巻くマクロ環境も追い風となっており、国家衛生計画生育委員会が 2014 年夏に発表した「医療機関のリモート医療サービス促進に関する意見(关于推进医疗机构远程医疗服务的意见)」をはじめ、老齢人口の増加と健康意識の高まり、豊かになった内陸部や農村地域の医療ニーズの増加、クラウド技術の発展、4G 通信料の値下げなどが市場の成長を後押している。
4. ユーザー動向
モバイル医療サービスが注目を集めている背景には、利用者の病院に対する不満が隠れている。病院での診察に対する不満として回答者の 86%が待ち時間の長さ、63.8%が予約の取りにくさを挙げている。日本でも「3 時間待って診察は 3 分」などと揶揄されるが、中国の病院では数日前から整理券配布の列に並び、ようやく予約を取ったものの診察までさらに待たされることもざらにある。社会保障制度が不十分で医療費が高額になりがちなことも回答者の半数以上が不満に思っているようだ。
診察予約の列(北京、新華網) 小児科の点滴室の様子(北京、新華網)
逆にオンライン医療サービス(モバイル向けサービスを含む)を選んだ理由について、効率が良い、ステップが簡単、情報が多い、費用が安いといった項目に回答が集まった。信頼できる大手企業や著名な病院が運営しているサービスが多いことから、品質の保証があるとの認識を持った人も多いようだ。
また、利用したいと思う機能は電子カルテが最も多く、続いて診察予約だった。中国のほとんどの病院では、日本のようにカルテやレントゲンを預かることはなく、患者が各自持ち帰って、次の診察の際にまた持ってくるという仕組みになっている。病院ごとにカルテをもらうため、診察の記録を一元管理したい、カルテを持ち運ぶ手間をなくしたいというニーズがみてとれる。このほか、ちょっとした健康相談や家庭向けの医療情報、ヘルスケア情報といった、病院に行くまでもないが知っておきたい情報へのニーズも高いことがわかる。
5. モバイル医療サービスの利用者像とは
実際にモバイル医療サービスを利用している人には、どのような傾向があるのだろうか。居住地別でみると、北京や上海といった大都市が全体の 13.2%、その他の省都が34.1%で、各省・自治区の中心都市に住む人がおよそ半数を占めている。スマートフォンの普及に応じて、今後地方都市や農村部に住む利用者がさらに拡大する可能性は高い。
年齢別でみると 24 歳以下が 44.5%、25-30 歳が 37.4%をそれぞれ占めており、スマートフォンを使いこなす若い層がモバイル医療サービスのメインユーザーであることがわかる。
一方、月収からみると 1,999 元以下がおよそ半数で、2,000-3,999 元を含めると全体の 8 割を占める。2014 年の各都市の平均月収は、北京市が 5,826 元、上海市が 5,380元、重慶市が 3,995 元であることから、利用者の年齢の若さが月収の低さとも関連していると推測される。
職業別でみても比較的収入が少ないと思われる学生が 27.9%、肉体労働・サービス業が 19.7%で、合わせて全体の半数を占めている。スマートフォンを使いこなす若い層がモバイル医療サービスのメインユーザーとなっていることがわかる。