1. 中国のコールセンター市場規模
「2015 中国呼叫中心産業白皮書」によれば、2014 年末時点の中国のコールセンター事業者数は約 1700 社で、席数は 120 万席、就業人数は 300 万人を超える。2015 年の投資総額は 1300 億元を突破する見込みだ。
全国にはコールセンターに特化した産業パーク(呼叫中心专业园区)が約60 カ所設けられており、特に長江デルタ(上海市、江蘇省南部、浙江省北部)、環渤海(天津市、煙台市、大連市など)、東北三省(遼寧省、吉林省、黒竜江省)、中部(山西省、河南省、安徽省、湖北省、湖南省、江西省)、珠江デルタ(広州、香港、マカオ)、川黔渝(四川省、貴州省、重慶市)の 6 つの地域に全体の 93%のコールセンターが集中する。
湖北省 襄陽市の「中部呼叫中心産業城」は敷地面積40 万平米中国最大級の 3 万席の規模を持つ
業種別ではインターネット、EC、通信、金融など 56 の業種がコールセンターを設けており、自社運営がおよそ 80%、アウトソーシング専業が約 19%となっている。サービス提供先は海外向けが 56%、国内向けが 42%で、全体の 72%がオペレーターによる対応だ。中でもインターネット分野のコールセンターは 17 万席を超えており、百度(Baidu)だけで 2 万席あるという(うち自社運営は数千席)。
このほか、蘇寧雲商の保険関連事業が 15 万席、平安保険が 2 万席、四大銀行+大型商業銀行 10 行が合計 7 万席、自動車関連が 3.5 万席と言われる。やや古い 2008 年の資料によれば、コールセンター業務の内訳は、カスタマーサービスが全体の 37%、技術サポートが 23%、テレビ通販などの購入受付が 22%、電話勧誘をはじめとするセールスが 18%となっている。
2. コールセンター産業の発展を振り返る
中国でコールセンターが事業として発展を始めたのは 1990 年代後半で、当初は通信会社や家電メーカーの問い合わせ対応電話、クレーム受付電話といった“インバウンド”が主だった。対応品質は決して良いとは言えず、オペレーター個人の能力や技量にていた。また企業側もコール数や対応内容を記録、分析しておらず、業務をアウトソーシングすることもなかった。
中国電信の大型コールセンター
第一世代と呼ばれる黎明期を経て、第二世代に入ると音声自動応答機能(IVR)の登場によって、通話料金の確認や退会手続きといった典型的な問い合わせには自動音声で対応できるようになった。続く第三世代では、コンピューターシステムと電話網とつないだCTI(computer telephony integration)の導入によって、オペレーターがパソコン上で電話対応できるようになり、電話セールスのようにコールセンターから顧客に電話をかける“アウトバウンド”のサービスも増加し始めた。その後、第四世代と呼ばれる IP ベースのコールセンターが普及すると、電話だけでなく Web を通じた顧客対応が可能となった。現在はマルチメディア技術とコールセンター業務が融合した第五世代と呼ばれる段階にあり、VoIP、Web、FAX、E メール、チャット、SMS、BBS、動画などあらゆる手段を通じた UC(Unified Communication System)が広がっている。
3. 主要コールセンター事業者
● 北京九五太維資訊有限公司 (95teleweb) http://www.95teleweb.com
1998 年にコールセンターのアウトソーシングサービスを開始。北京のほか、合肥、大連、密雲、香港、台北、マニラ、バンコク、東京、大分にもコールセンターを持ち、席数は 2000 席以上。普通語、広東語、日本語、英語、タガログ語、タイ語などの複数言語でサービスを提供している。インバウンドとアウトバウンドのいずれにも対応しており、オペレーターのみの派遣も可能。これまでにDell、ヒューレットパッカード、LG、PHILIPS、BMW、Audi、Sun、Microsoft、シャープ、中国郵政など 100 社以上の利用がある。
● 易才博普奥企業管理顧問有限公司 http://www.ctghr.com
総合 BPO(Business Process Outsourcing)サービス企業、易才集団傘下で 2007 年からコールセンター事業を行っている。北京、杭州、上海、西安、佛山、武漢、大連などに拠点を持ち、なかでも杭州センターは約 300 席の規模を持つ。
易才集団は国際アウトソーシング専門家協会(IAOP)がビジネス誌「FORTUNE」に毎年発表している「グローバルアウトソーシング100」に何度も選出されている中国を代表する BPO サービス企業で、中国の大手金融機関、通信会社のほか、資生堂、日立、ミズノ、パナソニック、花王、ユニクロなど国内外の著名企業を顧客に抱えている。
● 北京鴻聯九五信息産業有限公司 http://www.hl95.com/
通信付加価値サービスを提供する企業として 1995 年に設立され、2001 年に中信集団傘下に入った。コールセンター事業は2003 年にスタート。全国に 30 を超える支社とコールセンターを持ち、席数は 4000 席以上、6500 人のオペレーターを抱える。
全国ほとんどの中国移動(チャイナモバイル)、中国電信(チャイナテレコム)、中信銀行、光大銀行、平安銀行、平安保険、順豊速運などのコールセンター業務を担うほか、SMS、IVR(自動音声応答)、MMS(Multimedia Messaging Service)といったモバイル向けサービスを提供している。同社は管理マネジメントにも積極的で、2013 年には ISO27001(情報セキュリティマネジメント)、2014 年に ISO9001(品質マネジメント)の認証を取得している。
● 易宝通訊集団有限公司 http://www.eprotel.com.hk/
1990 年に創業、2008 年に太平洋商業網絡公司傘下の資産を買収・再編して、現在の形となった。香港創業ボードに上場。
香港でも規模の大きなコールセンター事業者で、席数は 850 以上、1000 人ほどのオペレーターを抱える。金融機関や保険会社のコールセンター業務を得意としている。日本語には対応していないが、英語と普通語のほか、広東語、福建語、上海語、客家語などの方言に対応可能。ISO27001 と ISO9001 を取得している。
● 飛翱集団 http://www.800teleservices.com/
1997 年に創業し、現在は上海、昆山、泉州、香港、台北にコールセンターを持つ。オペレーターは 1000 人以上。普通語、広東語、上海語のほか、日本語、英語、韓国語にも対応しており、世界のグローバル企業 20社以上にサービスを提供している。
特に EC 分野では販売サイトの構築から販売、カスタマーサービスをトータルで支援するソリューションを提供。淘宝網(Taobao)では認定パートナー企業としてトータルソリューションを提供している。
● 上海特思尔大宇宙商務咨詢有限公司 http://www.transcosmos-cn.com/
日本の BPO 大手、トランスコスモスの中国子会社として 2006 年に創業し(最初の進出は 1995 年)、現在は上海と北京に各 2 拠点、天津、合肥に 1 拠点ずつ計 6 カ所のコールセンターを運営する。座席数は合肥が400 席、天津が 160 席で合計 1800 席以上。
日本と同じ品質のサービスに定評があり、日本語、英語のほか、普通語、広東語等に対応。国内外の 60 社以上にサービスを提供している。※前瞻産業研究院が 2015 年 9 月に発表した「2015-2020 年中国呼叫中心产业市场前瞻与投资战略规划分析报告」では、2014 年中国十大アウトソーシング型コールセンターとして、上記の他に第一線集団、上海易方実業有限公司、潤迅通信集団有限公司、広州誠伯信息有限公司、北京九五一九零信息技術有限公司が選出されている(上海特思尔大宇宙商務咨詢有限公司は外資のため対象外)。
4. オペレーターの求人と給与水準
コールセンターのオペレーターは、分野・職種ごとに募集されていることが多く、金融や保険といった専門知識が必要となる分野の求人では四年制大学卒で当該分野を専攻、あるいは当該分野での職歴が求められることが多い。一方で、ショッピングセンターや宅配便の問い合わせ対応といった求人では中学あるいは中等専門学校卒業以上と条件が低い分、給与も抑えられている。方言話者の求人を除いて、正しい発音で普通語が話せることが条件となっており、航空会社や富裕層向けの金融サービスといった分野の場合、声の美しさが必須条件となっている場合もある。オフィスソフトの操作能力もおおむね必須だ。
給与水準は地方によって若干差があるものの、北京における一般オペレータークラスの月給は 3000-5000 元、英語などの外国語オペレーターの場合 5000-8000 元が相場とみられる。8000 元を超える求人はマネージャークラス以上となる。なお日本人を対象にした求人の場合、IT 技術サポートで月給 9000-12000 元(勤務地:大連)、旅行関連サポートで 9000-12000 元(勤務地:北京)、EC 決済トラブルサポートで 10000-13000 元(勤務地:大連)、医療関連サポートで 9000-11000 元(勤務地:上海)、セールスアポイントメントで 6200 元+歩合(大連)などとなっている。
5. 中国コールセンター産業の課題と将来
中国のコールセンター産業は誕生から間もなく 20 年を迎えるが、現在も大多数が小規模であること、管理や技術の専門人材が不足していること、データの蓄積・分析が不十分であること、ブランド管理・業務能力が低いこと、人材が常に不足しており、人材の流動性が高いことなどから、未だ発展の初期段階にあると言える。
今後は中国のコールセンターにおいても CRM の利用がさらに増える見通しで、ビッグデータの活用によって蓄積したデータが新たな価値を生むことも期待される。また IP技術を用いることでフレキシブルな人員配置が可能となり、コスト削減の観点から都市中心部から周辺部へ、沿海地域から内陸へとコールセンターのさらなる分散化が進みそうだ。多くの企業でコールセンターを“直接的な利益を生み出す重要な部門”と位置づける動きが見られることから、より専門的なサービスを求めてコールセンターのアウトソーシング化の波も訪れるだろう。
市場規模は 2020 年までに現在の倍近い 200 万席に拡大するとの予測もあり、地方都市に住む人や体に障害のある人の新たな就業場所となることが期待される。一方で欧米と同程度の比率でオペレーターを用意するには、少なくとも 1000 万席が必要になることから、人材不足は容易に解決しないものと思われる。
参考 《中国呼叫中心产业白皮书(2014 年)》《中国呼叫中心产业发展研究报告 2010》
CTI 论坛《第五代呼叫中心》Synroute 《2015-2020 年中国呼叫中心产业市场前瞻与投资战略规划分析报告》前瞻
http://www.ctiforum.com/news/2003news/08/news0869.htm