1. 輸入抗がん剤の関税撤廃が決定
国務院常務会議はこのほど、輸入抗がん剤の関税撤廃を決定した。施行は 2018 年 5 月 1 日からとなっている。あわせて、海外のがん治療用新薬で国内でも需要が高いものについては政府が集中調達を行い、医療保険の対象となるよう速やかに手配するとした。さらに既存の越境 EC チャネルを活用した医薬品の輸入を検討し、流通段階での不合理な価格上乗せを解消するとした。
また国内の新薬に関する知的財産権について最高 6 年の保護期間を設けるとし、輸入医薬品については偽造品の製造販売を一掃するべく、海外にある生産現場での検査を強化するとしている。
このほか、「インターネット+健康医療」政策の一環として、2 級以上に該当する病院ではインターネットを通じた診療予約や検査結果の閲覧システムを速やかに整備する方針を発表。風邪のような日常的な病気や高血圧、糖尿病といった慢性疾患の再診についてはインターネットを通じた医療サービスを解禁するとし、東部地域の医療リソースを中西部地域で活用する遠隔医療サービスを実現するため、専用高速通信回線の敷設を支援する方針を明らかにした。
2. 総合的には大幅な値下げになると期待
中国は 2017 年 12 月 1 日から、輸入抗がん剤 26 種類について関税率を一律 2%に引き下げている。インターネット上には、元々2%だったものが撤廃されても大きな値下げにならない、といった意見も多いが、医療保険償還リストに収載されることで保険適用となったり、流通段階での価格上乗せを禁じたり、輸入時の増値税負担を軽減したりといった様々な価格抑制策が行われることで、最終的に大幅な値下げになるとの見方が大きい。
中国政府はかねてより輸入医薬品の価格について海外の製薬メーカーと話し合いを重ねている。人的資源社会保障部によると、2017 年に新たに医療保険償還リストに収載された 36 種類の輸入医薬品(うち抗がん剤は 18 種類)の価格は、前年に比べて平均44%、最高で 70%も値下がりしており、大部分は周辺諸国の国際市場価格よりも低く抑えられているという。
さらに政府は薬価を抑えるため、国内の創薬研究の支援も積極的に進めている。例えば、浙江貝達薬業有限公司のイコチニブ塩酸塩錠は、中国で初めて開発された小細胞肺がんに使用される抗がん剤だ。同種の輸入抗がん剤に比べて価格は 3 分の1で、発売初年度の売上は 2 億元を越えている。
3. 中国のがん患者数
国家がんセンターが 2018 年 2 月に発表した最新のがん統計(2014 年)によると、2014年に新たに診断されたがんは 380.4 万例で、男性が 211.4 万例、女性が 169 万例だった。おおよそ毎日平均して 1 万人ががんと診断されており、1 分あたりでは 7 人に上る。速報値であるが 2017 年は 429 万例で、毎日平均 1.2 万人ががんと診断され、7,700人ががんで亡くなっている状況となっている。
り患数を地域別にみると東部、中部、西部の順で多く、部位別では肺がんが最も多い約 78.1 万例で、つづいて胃がん、結腸がん、肝臓がん、乳がんの順となっている。一方、死亡数は肺がん、肝臓がん、胃がん、食道がん、結腸がんの順に多い。
り患数、死亡数ともに 1 位の肺がんについては、男性は喫煙率が高いこと、女性は喫煙率こそ低いものの受動喫煙の影響を受ける人の割合が 71.6%に上ることや暖房による室内空気汚染が大きな原因と分析している。胃がんは特に遼東半島、山東半島、長江三角州、太行山脈(北京の端から河南省にかけて南北に伸びる山脈)、甘粛省でり患率が顕著だという特徴がある。肝臓がんは、西部、中部、東部の順でり患率が高いが、これは西部ほど B 型肝炎や C 型肝炎のり患率が高いこと、発がん性のあるカビ毒アフラトキシン類を微量ながら慢性的に摂取している可能性が高いこと、脂肪肝や肥満といった肝臓がんを発症しやすい条件を備えていることなどを理由として指摘している。
また中国は食道がんのり患率と死亡率が世界で最も高い国の一つで、特に河南省、河北省、山西省といった太行山脈の地域でり患率が高い。
4. 年収を上回る高額な治療費が負担に
総合医学雑誌「ランセット(The Lancet)」に掲載された中国国家がんセンターの調査では、2012~2014 年の 3 年間に全国 13 の省にある 37 の大型総合病院でがん患者 1 万4,594 人が支出した治療費は平均 9,739 ドル(約 105 万円)だった。調査対象となった家庭の平均年収は 8,607 ドル(約 93 万円)で、全体の 77.6%が負担は重いと答えている。
とりわけ治療費の負担が重いのは大腸がんと食道がんで、それぞれ平均 10,918 ドル(約 119 万円)と平均 10,506 ドル(約 114 万円)に上っている。これは抗がん剤の多くを欧米諸国からの輸入に頼っているためで、保険償還の対象となる薬品は年々増えているものの、治療費の 70%以上が自己負担となっている。なお前がん病変と診断された患者1,532 人が支出した治療費は平均 3,221 ドル(約 34 万円)だった。
一方で、富裕層を中心により良い治療を求めて海外に渡るケースも増えている。欧米では中国でまだ承認されていない薬や治療法が選択できる上、中国に比べて病院の環境が良く、インフォームドコンセントがしっかりしているからだ。例えば胃がんの 5 年生存率は、中国では 27.4%(2015 年)にとどまるが、日本では 74.5%(2009 年)と大きな差がある(2015 年中国がん統計データより)。
実際にどのくらいの患者ががん治療のために渡航しているか詳細なデータはないが、江蘇省に拠点を置くメディアの現代快報は、江蘇省だけで毎年数十人、全国では少なくとも 1,000 人以上が仲介会社を通じてアメリカ、ドイツ、イギリス等の病院に治療を受けに行っており、このうち 80%が末期がんと診断された患者だと報じている。アメリカの場合、医療費とは別に 1 カ月の宿泊・生活費としておよそ 5 万元(約 85 万円)が必要となるが、江蘇省の患者のケースでは少なくとも 20 万元(約 340 万円)、最高で 400万元(約 6,860 万円)かかっている。ちなみに、がん治療や脳外科手術ならアメリカ、骨や心臓の病気ならイギリス、小児がんや脳腫瘍ならドイツがお勧めなのだという。
5. 新たな「がん対策 3 年計画」が出る可能性も
中国政府は 2015 年に「がんの予防・治療に関する 3 年行動計画(2015-2017 年)」を発表し、具体的な数値目標を挙げて早期発見・早期治療の推進や生存率の引き上げ、創薬支援などを進めてきた。がんの予防・治療に関する知識の普及目標は 60%となっているが、浙江省ではすでに 78.4%を達成したとの結果も出ており、近く 2017 年までの 3 年間の実施状況が報告されるものと思われる。
また保健医療分野は政府が主導する重点領域であることから、先日決定した輸入抗がん剤の関税撤廃や新薬の知的財産権保護などを盛り込んだ新たな 3 年計画が間もなく発表されるとの見方も出ている。