台湾EC市場の概況
2012年の台湾EC市場の規模は6605億台湾ドル(約2.6兆円)に達し、前年に比べ17.4%増加した。今後も台湾のネットユーザは増加が見込まれるため、EC市場は引き続き順調に成長し、2015年の市場規模は1兆台湾ドル(約4兆円)になると予測される。また全体の約6割を占めるB2C市場の規模は、前年比18%増の3825億台湾ドル(約1.5兆円)で、2013年は4871億台湾ドル(約1.9兆円)に達すると見込まれている。
台湾EC市場の特徴
台湾では自社でECサイトを立ち上げるという事例は少ない。日本で言えば楽天市場のようなMALL型のECプラットフォームを利用する場合が圧倒的に多く、現在ネットショップの95.3%がECプラットフォームを利用している。台湾ではネットショップを経営する企業の多くが中小企業であることから、サイト設計が容易でコストも安く、プロモーション等も簡単に行えるECプラットフォームの利用が増えたものと考えられる。
またネットショップを利用するユーザにとっても、保証という観点でECプラットフォームを利用するメリットは大きい。オンラインビジネスではショップや品質に対する信用が大切だが、ECプラットフォームへの出店には基準が設けられ、しっかりした審査も行われる。その上返品制度も整備されており、安心して買い物ができる環境が整っていることから、ユーザ側も積極的にECプラットフォームを利用しているようだ。
台湾最大のECプラットフォームと呼ばれる「PChome 商店街」は、台湾にあるネットショップの71.9%が出店するほどで、圧倒的な知名度と人気を誇る。次に出店比率が高いのは「Yahoo!奇摩 超級商城」で35.4%、さらに「楽天市場」が15.1%と続き、これらトップ3が台湾EC市場で大きなシェアを占める。なかでも「PChome 商店街」と「Yahoo!奇摩 超級商城」は、この2つだけで台湾ECトラフィックの7割を占めると言われるほ どだ。
主要なEC(B2C)プラットフォーム
台湾の主要なEC(B2C)プラットフォームである「PChome 商店街」、「Yahoo!奇摩 超級商城」、「楽天市場購物網」について下記に詳細を紹介する。
PChome 商店街
網路家庭國際資訊股份有限公司(PChome Online Inc.)が運営する台湾最大のECプラットフォームで、1万5000店以上の店舗と1000万件以上の出品商品数を有する。電化製品の取扱いが多いのが特徴で、特に男性ユーザの利用率が高い。サービス開始は2000年6月で、2005年にはネット業界で初めて台湾株式市場に上場。2006年には米オークションサイト大手のeBayとの提携も果たしている。2012年のグループ全体の営業収益は149億台湾ドル(約596億円)に上った。
併せて同社はAmazonのような直営型サイト「PChome 線上購物(PChome Online)」も運営している。独自の物流システムと設備によって、注文から24時間以内に商品を届ける速達サービスを他社に先駆けて始めたことで、競争力を高めている。
Yahoo!奇摩 超級商城
Yahoo! Taiwanが運営するMALL型のECプラットフォームで、店舗数は2678店 (2012年11月時点) 。ファッション関連など流行品の取扱いが多いため、若い女性の利用が目立つ。
同社は台湾インターネットユーザの7割以上が利用するポータルサイト「Yahoo! 奇摩(Yahoo!台湾)」を運営していることから、ポータルサイトを軸にした広告宣伝やプロモーションが得意で、まずはポータル側で集客し、「超級商城」や直営型の「Yahoo!奇摩 購物中心」に誘導する手法をとっている。逆にネットショップからポータル内の中古車販売サイトや旅行サイト、不動産サイト、生活サイトなどへもリンクしており、多種多様なユーザのニーズを満たす情報力を強みに差別化をはかっている。
楽天市場購物網
日本の楽天が2008年に台湾最大手の流通企業である統一グループと提携し、海外で初めて展開したECプラットフォーム。女性向けファッション商材を中心に拡大し、現在の店舗数は約2000店で、台湾B2Cプラットフォームで第3位の規模となっている。
台湾は親日派が多く、日本の商品への関心も高いことから日系アパレル商品の取扱いが特に多い。サイト内の「日系商品市場」という特設ページには、OZOCやEDWINといったアパレルブランドのほか、無印良品やダスキンなど数多くの日系企業が旗艦店を出店している。
決済手段
ネットショッピングの支払い方法には、日本と同じようにクレジットカード、銀行振り込み、代引き、コンビニ支払いなどがあり、クレジットカードの利用が全体の62%を占めている。台湾の平均クレジットカード所有枚数は1人あたり2.7枚で、ほとんどのネットショップがVISA/MASTER/JCB/AMEX等の主要なカードに対応している。
また台湾特有のコンビニ決済やコンビニ代引きサービスも全体の18%が利用している。日本ではコンビニ代理収納といえば、専用バーコードのある払込票をレジに渡して支払いを行うが、台湾では全家便利商店(台湾FamilyMart)のFamiPortや台湾セブンイレブンのi-bonといった店頭端末を使って簡単に支払いを行うことができる。
また代金の支払いと引き換えに、そのままコンビニで荷物を受け取ることができるコンビニ代引きサービスも好評だ。台湾は人口約2000万人に対してコンビニ店舗数が約1万店(日本は約4万7000店)と多く、帰宅途中に自宅近くの店で商品を受け取ることができるため、クレジットカードを持っていない若者や使いたくないというユーザを中心に利用されている。なお以前はコンビニ決済が一般的だったが、クレジットカードの普及によって利用者は減少している。
物流事情
現在は台湾でも日本と同様に、代引き、荷物追跡、日付指定などのサービスが一般的に行われている。ネットショップが利用する宅配業者の中では台湾政府が100%出資する中華郵政の利用率が64%と最も高く、日本の宅配会社からノウハウを学んだ黒猫宅急便が43.2%、ペリカン便が34.2%と続いている。
コンビニ宅配(店到店)は台湾FamilyMartやezShipが運営するコンビニ間の配送を行うサービスで、利用率は35.0%に上る。台湾セブンイレブンが運営する 7-11交貨も同様のサービスで、いずれもネットショップの担当者が最寄りのコンビニから発送すると購入者の自宅ではなく指定のコンビニに到着する仕組みになっている。重さや大きさに制限があるものの24時間365日いつでも発送と受取りができる上、送料も安いため特にC2Cでよく利用されている。また最近では一部のECプラットフォームで、ユーザが注文したその日のうちに商品が届く当日配送サービスも始まっている。
なお台湾の小口物流は1990年代まで国が運営する中華郵政が市場を独占していたが、2000年以降、台湾のローカル企業が日本から宅配ビジネスを学び、ブランドやシステムの提供を受けたことから一気にサービスが向上した。台湾でも有名な黒猫宅急便やペリカン便は日本と同じブランド名で展開しているが、日本の法人とは異なる。
海外展開
台湾のネットショップのうち、海外向けサービスを行っているのは全体の約3割にすぎないが、このうち中国大陸向けのサービスを行っているのは78.4%に上る。中国大陸のインターネットユーザはすでに6億人を超えており、台湾に比べて市場規模が格段に大きい上、中国側の通信環境、物流、決済の仕組みが整いつつあることから、これから海外向けサービスを検討するというネットショップの多くが、中国市場を視野に入れている状況だ。
ECプラットフォーム側もグローバル展開を積極的に進めており、「PChome商店街」を運営するPChome Onlineは中国大陸向けの簡体字サイトや英語圏向けのサイトを開設しているほか、2011年にはアメリカに進出し、PChome US Incを設立。北米在住の華人をターゲットに台湾直送をアピールする繁体字サイト「PChome US」の運営を行っている。いずれのサイトでも国際配送の地区内一律送料をうたっており、商品重量5kg以下の場合、中国大陸は40元、その他アジア地区やアメリカは10ドル、ヨーロッパは20ドルとなっている。利用者の多くが華人であることから、決済に関しても中国でなじみのあるAlipayや海外で一般的なPaypalを導入している。
日本企業が中国やASEANを含む中華圏向けのネットショッピングを検討する場合、まずは海外向けにサービスを行う台湾のECプラットフォームに出店するのが良いだろう。一見遠回りに見えるが、台湾は日本と同レベルのビジネス環境が整っている上、中国大陸でECサイト開設の際に必要な許可証(ライセンス)も不要なことから参入のハードルは低い。一方で台湾は大陸と地理的、言語的、文化的にも近く、中華圏の消費者を念頭に置いたテストマーケティングの場としても最適だ。通信についても台湾-中国間のアクセスは日本-中国間に比べてスムーズなことから、まずは台湾を拠点に中国市場にトライすればリスクを大きく減らすことができるだろう。ただしEC市場においては、プラットフォームの存在が大きいという台湾ならではの事情もあるため、台湾ネットユーザの嗜好や行動を捉えた上で参入するのが望ましい。