日系企業も注目、WeChat(微信)のビジネス活用とは?

目次

1. WeChat とは

WeChat(微信)は、中国の IT サービス大手 Tencent(騰訊)が運営する無料メッセージアプリで、文字や写真、動画、音声、グループチャット、決済等の機能を持つ。中国国内向けと海外向けのサービスがあり、国内向けは 2011 年 1 月に「微信(ウェイシン)」として、海外向けは同年 4 月に「WeChat」としてサービスが始まった。

国内版と海外版はそれぞれ独立しており、国内版のユーザーが海外版のアカウントを持つことはできない。どちらも基本的なメッセージ機能は同じだが、国内版にある“小程序”(ミニプログラム、WeChat 内で利用するアプリで個別のインストールは不要)や決済機能の一部が海外版にはなかったり、いわゆる“スタンプ”で使えないものがあったり、海外版は QQ(Tencent が運営するインスタントメッセージサービス)から友人を追加できなかったり、逆に海外版では Facebook から友人を追加できるが国内版ではできないといった違いがある。また国内版ユーザーは海外版の企業アカウントをフォローできないが、海外版ユーザーは国内版と海外版のいずれの企業アカウントもフォローすることができる。

同社の馬化騰 CEO(最高経営責任者)によれば、2018 年 3 月時点で全世界のユーザー数が 10 億人を突破したという。決算資料にもユーザー数が前年同期比 28%増と好調に推移していることが示されており、2020 年には 14 億人を越えるとの見方もある。市場調査会社の米 eMarketer によれば、海外版ユーザーは約 1 億人で、主に海外に住む華人やその親族に利用されているという。

また 1 日のメッセージ送信数は前年比 25%増となる 380 億回、音声メッセージの送信回数は同 26%増の 61 億回、ビデオ通話回数は同 106%増の 2.05 億回、グループ内での動画送信数は同 22%増の 6,800 万回に上る(いずれも 2017 年 9 月時点、「2017 微信データ報告」)。

なお企業利用を想定した「企業微信」も 2016 年 4 月にサービスインしている。これまでは社員個人の WeChat(微信)を利用して顧客とコミュニケーションをとるのが一般的だったが、これでは社内に顧客情報が集約できない上、休日でも直接連絡が入ったり、社員の退職と同時に顧客情報が失われたりする等のデメリットがあった。

企業微信は、メッセージアプリとして顧客との連絡に利用できるのはもちろん、勤怠管理、日報・各種申請管理、回覧機能、ビデオ会議機能、VOIP 機能、決済機能などを備えており、サードパーティのアプリも豊富だ。メッセージやデータを簡単に個人の WeChat(微信)に転送することもできる。

サービス開始から 2 年で利用企業は 150 万社を越えており、ユーザー数は 3,000 万人に上る。中国 500 強企業のおよそ 8 割が導入済みで、特に IT 業では全体の 19%、小売業では 14%、製造業では 11%の企業が利用している。

2. 企業が開設する「微信公衆号」とは

WeChat(微信)には個人用アカウントのほかに「微信公衆号」という、いわゆる“企業アカウント”がある。公衆号には「訂閲号(購読アカウント)」、「服務号(サービスアカウント)」、「企業号(企業アカウント)」の 3 つがあり、個人か企業かを問わず開設することができる。公衆号は 2017 年 9 月時点で 350 万件以上あり、これらのアカウントをフォローしているファンは延べ 7.97 億人を越える。

閲読号は情報発信を目的としたアカウントで、毎日 1 回の配信ができるためメディアがニュース速報を発信したり、企業や個人が宣伝をしたりするのに用いられることが多い。服務号は企業とユーザーの双方向コミュニケーションができるという特徴があり、企業や商品の広報宣伝ツールとしてだけでなく、カスタマーサービス窓口としても利用されている。投稿はチャットリスト内に表示されるためユーザーの目に留まる確率が高く、決済機能も導入できることから多くの企業はこのアカウントを開設している。一方の企業号は特定のメンバーのみが利用可能な企業内部向け情報ツールであるため社外PR 目的で使われることはない。前述した企業微信は様々な機能を備えた単体の IM 製品だが、企業号は WeChat(微信)アプリの中で情報を検索、表示する付加サービス的な位置付けとなっている。

なお公衆号には、アカウントが本物であることを示す認証制度がある。企業の場合、公衆号プラットフォームから申請し、営業許可証等の資料をアップロードすれば数日で審査結果が出る。審査費用は 300 元で、毎年更新が必要となる。認証公衆号になると、メニューのカスタマイズ、広告出稿、「微小店」等へのショップ開設、決済システム導入など、公衆号の機能を拡張することができる。

3. 微信公衆号の活用例

今や巨大市場となった中国では、中国企業はもちろん、まだ中国に進出していない海外ブランドまでもが WeChat(微信)を使った広告宣伝や販促、マーケティングを行っている。公衆号アカウントを使ったプロモーションでは、自社商品の紹介やキャンペーン活動、セールの告知を行うのが一般的だ。

特に力を入れている有名海外ブランドの場合、創業からの歴史、職人の仕事ぶり、商品コレクション等を含めたブランドストーリーを紹介するコンテンツを充実させていることが多い。他にもイベントのライブ配信を行ったり、位置情報を元に店舗の近くに来たフォロワーに通知で来店を促したり、自社 EC サイトあるいは後述する微商城へ誘導したり、アプリのダウンロードを促したり、さらには採用活動まで行ったりしている。

例えば無印良品は、「公衆号アカウント+ミニプログラム+会員+決済+ビッグデータ+実店舗」というオンラインとオフラインの両面からファンを固定化する戦略を取っている。公衆号アカウントでは、おすすめ商品の紹介やイベント案内を積極的に行っており、アカウントをフォローして同社の公式アプリ「MUJI passport」と紐づければ、ショッピングでたまるポイントがここに集約される。

さらに微信アプリ内のミニプログラム「MUJI 小程序」ではクーポン券がもらえる上、2018 年 1 月 18日からは全国にある約 230 の店舗すべてで微信のモバイル決済サービス「微信支付(WeChatPay)」が利用できるようになり、微信支付で支払えばポイントが倍になるといったメリットもある。今年 1 月に広東省深センにオープンした MUJI HOTEL は、公衆号アカウントから直接予約して、微信支付で支払うことも可能だ。

4. 企業が利用する WeChat 広告とは?

WeChat(微信)でより多くの消費者にリーチしたいのならば、WeChat 広告あるいはその他の Tencent サービスへの広告出稿も有効な中国向けプロモーション法の一つだ。

Tencent 独自のビッグデータ解析で、ユーザーの属性(年齢、性別、学歴、居住地等)、利用デバイス、検索履歴、興味関心などを元に正確にターゲティングできるため、高いリーチが望めるという。

WeChat 広告には、公衆号バナー広告(公衆号広告)とモーメンツ広告(朋友圏広告)がある。いずれも公衆号アカウントのフォロー促進、公式アプリのダウンロード促進、公式モバイルサイトや EC サイト等への誘導、クーポン配布といった用途に用いられる。

公衆号バナー広告は公衆号の記事下に広告を表示するもので、当該アカウントのフォロワーに効率よく PR することができる。2016 年の同社の資料によれば、広告は毎日のべ 20 億回も閲覧されており、平均クリック率は 1.9%となっている。一方のモーメンツ広告は、友人のメッセージ投稿と同じ位置に表示される ネイティブ広告 で 、Facebook のフィード広告のイメージに近い。「文字+画像」以外に「文字+動画」も可能で、通常のメッセージと同様に「いいね」やコメントをつけることができる。

また Tencent が運営するインスタントメッセージサービスの「QQ」、ニュースポータルの「騰訊新聞」、音楽配信サービスの「QQ 音楽」、SNS の「WW 空間」などへの広告出稿を選択することも可能だ。いずれのサービスも数億人規模のユーザーを抱えており、柔軟なターゲティング機能が備えられている。

5. 微信公衆号で様々なサービス提供も

「微商城(WeChat Mall)」というサードパーティのサービスを使えば、EC ショップをはじめとする様々なオンラインサービスを開設することができる。公衆号アカウントに紐づいたモバイルサービスであるため、公衆号アカウントや広告からの誘導が容易だという特徴があり、顧客満足度の向上にもつながるという。

同類サービスは数多いが、深セン微商城科技は業界やサービス別に 300 を越えるひな形を用意している。例えばネットショップを開設するためのひな形「微商城」は、一般的なモバイル EC プラットフォームと同様に、会員システム、支払い機能、商品管理、ショッピングカート、セール・キャンペーン機能等を備えている。ひな形には他にもホテルやレストラン、病院などで導入可能な予約システムの「微訂単」、デリバリー注文システムの「微外売」、共同購入クーポンを発行できる「微団購」等がある。機能数に応じて 3 タイプあり、サービス利用料金はそれぞれ年間 1,800 元、3,800 元、16,800 元となっている。

もちろん微商城のサービス運用だけを代行する企業も複数あり、海外企業も少ない負担で最大限にWeChat(微信)を活用できる環境が整っている。

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この記事を書いた人

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