中国の観光・旅行市場とテーマパーク事情

目次

1. 急拡大する中国の旅行市場

国家旅游局のまとめによると 2017 年の国内の延べ旅行者数は前年比 12.8%増の50.01 億人で、国内旅行消費額は同 15.9%増の 4 兆 5,661 億元だった。海外への延べ出国者数は同 5.6%増の 1 億 4,273 万人で、うちおよそ 9 割を占める 1 億 2,900 万人が旅行目的での出国だった。2018 年の国内の延べ旅行者数は 55 億人に達する見通しで、旅行産業全体の市場規模は 6 兆元に迫ると期待される。

現在中国にはホテルがおよそ 1.9 万軒あると言われ、旅行会社は全国に 2.79 万社ある。政府が認定する観光地は 3 万カ所以上で、うちランクが最も高い 5A 級が 249 カ所、4A 級が 3,034 カ所ある。

さらに世界遺産が 52、旅行モデル地区に認定されたエリアが 506、党の革命史跡を訪ねるいわゆる“紅色旅游”向け観光地が 300 ほどある。他にも長期休暇やバカンスで滞在するための国家認定施設やモデル都市が複数指定されている。

中国の旅行市場の好調な成長を支える柱の一つが、1990 年代~2000 年代生まれの若者世代だ。中国の人口は 2030 年にピークを迎えると予想されており、旅行市場でも人口メリットを享受できる今後 20 年間が成長の黄金期との見方は強い。特に今後 10 年間は国内・海外を問わず、「家族旅行、近距離旅行、バカンス」の 3 つが重要なキーワードだという。

2. 中国のテーマパーク事情

家族旅行の行き先として人気のテーマパークだが、現在中国には大小 2,500 カ所もあるといわれる(うち総工費 5,000 万元以上は約 300 カ所)。国内の大手テーマパーク運営会社は、複数のテーマパークやレジャー施設を手掛けているのが一般的で、パーク周辺のホテル、ショッピングモール、マンション等の開発・運営をあわせて行っているケースも多い。

2014 年以降、政府はテーマパークの建設に対し積極的な支援を表明している。2015~2020 年に新規建設が計画されているテーマパークは 64 カ所で、総投資額は 238 億ドルを越えると見込まれている。

また 2017 年に発表した「外商投資産業指導目録(2017 年修正版)」で、それまで外資による投資を制限していた大型テーマパークの建設・運営において、その制限を撤廃。広く外資の導入を受け入れる方針へと転換している。

このように海外からの投資を歓迎する一方で、政府は地域の特色や歴史、中華文化の伝承を扱った国産テーマパークの発展にも積極的だ。テーマパークそのものの数を増やすことはもちろん、関連する旅行商品やグッズの企画開発等の周辺産業も重要だとして、総合的な発展を実現できるよう指導するとしている。

とりわけ政府はテーマパークに科学技術をより多く取り入れるよう求めており、2018 年 3月に国家発展改革委員会が発表した指導意見(「关于规范主题公园建设发展的指导意见」)では、デジタル技術、シミュレーション、インターネット等のハイテク技術の利用を支援し、漫画・アニメ・ゲームに VR を組み合わせたテーマパークの建設を後押しする方針を示している。

もっとも中国のテーマパークの歴史は 30 年ほどしかない。最初期に誕生したテーマパークの一つが 1989 年秋に深センに開業した「錦繍中華(ミニチャイナ)」で、中国国内の名所旧跡や風景をミニチュア化して集めた公園だ。近隣には少数民族の文化歴史を楽しめる「中国民俗文化村」、世界の有名観光地のミニチュアを集めた「世界之窓」もあり、これら初期にできた景観観光型のテーマパークは第一世代と呼ばれる。

2000 年代になると第二世代と呼ばれる、いわゆる遊園地タイプのテーマパークが全国に作られるようになる。代表的な遊園地「歓楽谷(ハッピーバレー)」は現在までに上海、北京、深セン、成都、武漢等にチェーン展開している。そして現在は “IP・コンテンツ体験”を売り物にした第三世代テーマパークの時代へと移り変わりつつある。

3. IP・コンテンツ体験型テーマパークとは

テーマパークが第三世代へと変化する背景には、前述したとおり旅行市場の成長を支える若者世代が来場者の中心になっていることが挙げられる。インターネット時代に生まれ、二次元文化に親しんできた彼らをリピート客として取り込むために、IP・コンテンツ体験型のテーマパークの開発が計画され、既存のテーマパークも次々と IP・コンテンツ体験型のアトラクションを導入しはじめている。

「IP」とは知的財産(主に著作権)を指し、一般的にはマンガやアニメ、映画等の人気タイトルやその登場キャラクター、著名なマスコットキャラクターを使うことを意味する。この数年、中国のエンターテインメント分野では“IP モノ”の人気が高く、日本や欧米の人気キャラクターを題材にしたオンラインゲームのリリースが相次いだり、様々なコラボ商品が販売されたりしている。

第三世代テーマパークの代表格であるディズニーランドは、2016 年 6 月のオープンから丸 1 年となる 2017 年 6 月に来場者数が 1,100 万人、2017 年 10 月に 2,700 万人を突破した。来場者の 65%が上海以外からの旅行客で、パークでの平均滞在時間は約 10 時間となっている。開業が待たれる北京のユニバーサル・スタジオは、オープン予定が前後しているものの、遅くとも 2021 年に開業するようだ。ほかにも浙江省安吉市には 2015 年にハロー・キティの「Hello Kitty 楽園」がオープンしている。

これに対し中国の IP を使ったパークとしては、中国の神話を題材にしたテーマパーク「方特東方神画」が安徽省蕪湖市、山東省済南市、浙江省寧波市等にあるほか、建設中のものでは、西遊記を題材にしたパークの計画が江蘇省淮安市と山東省済南市で進んでいる。

他にも既存のテーマパークに IP の新エリアやアトラクションを追加する形で刷新を図っているケースもある。遼寧省大連市にある海を題材にしたテーマパーク「聖亜海洋世界」では、児童文学『大白鯨』シリーズの世界観を表現したアトラクションや商業施設を導入。同じく海を題材として全国に 10 カ所以上のパークを展開する「海昌海洋公園」は、2016 年に中国で大ヒットした国産映画『美人魚』と 2015 年から繰り返し上映されている幼児向け国産アニメ映画『摩爾荘園大電影 3』にまつわるアトラクションを導入した。

自社 IP を活用するケースもあり、例えば「方特東方神画」、「方特歓楽世界」など全国に 20 カ所余りのテーマパークを運営する華強方特は、グループが権利を持つ動画 IP『熊出没』を活用し、ファミリー層のリピートを狙っている。

また映画会社の華誼兄弟は自社が抱える映画 IPを活用して全国に“映画村”を開設。『非诚勿扰』、『集结号』、『太极』等の映画をイメージして古代中国や海外の街並みを再現しており、まるで映画の世界に入ったような感覚が楽しめるという。映画ファンを取り込むだけでなく、オンラインゲームとも連動し、大人も子供も楽しめる新しい商業モデルの構築に注力しており、2018 年だけで浙江省蘇州市や南京市などに 4 カ所がオープンする予定で、2020年までに 30 カ所以上の建設を計画している。

そしてコンテンツ体験型として VR・AR の導入が盛んになっており、これに特化したテーマパークもすでに登場している。貴州省貴陽市の「東方双龍科幻」は、ジェットコースター等をはじめとする VR アトラクション、VR 映画館、ホログラム体験などが楽しめる。現在はまだ試験営業中のため 8 つのアトラクションしかないが、今後さらに7つが完成する予定だ。

他方、テーマパークと名前が付いているものの、ゲームセンターと言ってもいいようなごく小規模の VR 施設も街中に増加している。河南省鄭州市にある「頭号玩家 VR 主題公園」は、市内の繁華街にある商業ビルのワンフロアに様々なVR ゲームを揃えており、料金は 1 回券が 10 元、8 種類・回数無制限券が 58 元と手ごろだ。また「身臨其境」は加盟店を募集する形で全国に 30 店舗以上を展開しており、ビルのワンフロアを使った大きな直営店もあれば、大学周辺の空き店舗を改装した小さな店もある。VR ゴーグルとコントローラだけを使う VR ゲームであれば、加盟料 1 万元(約 16 万円)から開業できるという。

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