中国のバッテリーシェアリング事情

目次

1. 電動車が一般的

中国では 10 年以上前から電動自転車や電動バイクが普及している。日本では電気アシスト車が一般的だが、中国ではモーターの動力のみで走行するものが多く、見た目は自転車であってもペダルをこぐ必要はないし、最高時速 20km という制限はあるもののかなりスピードが出る。街中を走る宅配やフードデリバリーのスタッフはたいてい電動自転車や電動バイクを使っている。

他にもバッテリー駆動の電動車両(低速電動車)は広く利用されており、ゴルフカートのような電動車が観光地の足となっていたり、あるいはパトカーとして繁華街を周回していたりする。シェアバイクの車両移動に使われるのは三輪トラックの電動版であるし、郊外や農村ではこれがタクシーとして活躍している。軽自動車のようなデザインの電動シニアカーもある。

こういった電動車はバッテリーがなくなれば全く動かなくなる。そのため電動自転車やバイクに乗っていて出先でバッテリーが切れた場合は、目的地まで押して歩くか、とりあえず道端に停めておき用事が終わった後で取りに行くか、あるいはタクシーや三輪トラックに車両ごと乗せてもらったり、時間があれば近くの商店でいくらか払って充電させてもらったりするしかなかった。

ちなみに、国家自行車電動自行車質量監督検験中心が 2017年 3 月に発表した「中国電動自転車品質安全白書」によると、2016 年の中国の電動自転車・電動バイクの年間生産台数は前年同期比 4.4%増の 3,215 万台で、保有台数はおよそ 2 億台に上る。このうち 95%以上が自動車のバッテリーと同じ 鉛酸バッテリー(鉛蓄電池)を利用している。

2. バッテリーのシェアリングサービスが登場

そこで登場したのが電動自転車・電動バイク用のバッテリーを“シェア”するサービスだ。充電がなくなりそうになったら、各地にあるバッテリースタンドに立ち寄ってバッテリーを丸ごと交換するだけでよく、出先で突然バッテリーが切れる心配からも解放される。

またどのサービスも安価な鉛酸バッテリーではなく、リチウムイオンバッテリーを採用しているのも特徴だろう。リチウムイオンバッテリーは、鉛酸バッテリーに比べて小型軽量化が可能で寿命も長い半面、何倍も高価なことから、今まで電動車のバッテリーとしてはあまり利用されてこなかった経緯がある。

いくつかサービスを紹介しよう。成都市を拠点に展開する「易修行(exx)」は、電動バイク用リチウムイオンバッテリーのシェアサービスだ。利用には微信公衆と専用アプリへの登録が必要で、会員登録時に自分の電動バイクのバッテリーサイズを設定する。

保証金はバッテリーのサイズに応じて 800~1,000 元、基本料金は 1 年 500 元または半年 300 元で、さらにバッテリーを交換する度に充電料として 2~3 元を払う。

「易修行」はバッテリーメーカー2 社と契約しており、ほぼ全てのサイズのバッテリーに対応している。そのため利用者が電動バイクを対応車両に買い替えたり、バッテリーの収納部分を改造したりする必要はない。またバッテリースタンドとして市内にある電動バイクの修理店およそ 1,000 店と提携し、バッテリーの充電や受け渡しを委託している。

利用者はいつでもフル充電したバッテリーが手に入る上、故障してもアプリからすぐに最寄りの修理店を探すことができ、一方の店側は委託料の収入に加えてコンスタントに修理依頼が舞い込み、運営側もバッテリーの充電やメンテナンスに膨大な人的コストを割かなくて済むという、それぞれにメリットがある仕組みを整えた。今後は夜間でもバッテリー交換ができるよう自動販売機型のバッテリースタンドの設置を進めるほか、バッテリーの位置情報を管理し、停車後にバッテリーの位置に大きな変化があれば利用者の携帯電話に盗難の可能性を伝えるメッセージを自動送信するシステムを開発中だ。

「易修行」を創業した王向峰氏によれば、リチウムイオンバッテリー1 個の価格は約1,200 元で、1,000~1,500 回の充電ができるため、充電料が 2 元ならばバッテリー1 個につき 800~1,200 元の利益が得られる計算だという。現在成都市の電動バイク保有台数は約 300 万台で、フードデリバリーや宅配便の配達スタッフだけでも 10 万人あまりおり、彼らが従来の鉛酸バッテリーからリチウムイオンバッテリーへと乗り換えるだけで大きな市場になると期待している。

他方、「電気自動車メーカーの米テスラの技術者が開発したリチウムイオンバッテリー」だとアピールする裔聯科技の「嘀嘀充電(DiDi Charging)」は北京市でサービスを展開している。もともと電気自動車向け充電設備の生産販売を行っており、2017 年秋から電動車向けバッテリーシェアリング事業にも参入した。ちなみにライドシェアで有名な「滴滴(DiDi)」とは“滴”の字違いで関係は無い。

「嘀嘀充電」は電動バイクだけでなく、貨物が載る三輪トラックにも対応していると積極的にアピールしており、バッテリーのサイズは48V、64V、72V の 3 種類で、保証金はそれぞれ 800 元、1,000 元、1,200 元。月額基本料金はサイズによって 120~180 元、さらにバッテリーを交換する度に充電料として 5~7 元を払う。バッテリースタンドは実店舗型で、店頭でのバッテリー交換のほか、故障や充電不足で立ち往生した時には救援依頼も可能だ。

このほか自動販売機型のバッテリースタンドを採用するサービスでは、深セン市で展開する易馬達科技(IMMOTOR)の「e 換電」がある。

扱うバッテリーは 1 種類のみで、やはりアプリで付近のバッテリースタンドを検索し、セルフサービスでバッテリーを交換する。操作手順は簡単で、アプリでスタンドの QR コードをスキャンし、空になったバッテリーを空いているボックスに入れると、代わりにフル充電のバッテリーが別のボックスから取り出せるようになっている。バッテリーは 60V で走行可能距離は約 50km。フル充電にかかる時間は 2 時間ほどで、重さは 4.5kg と女性でも扱いやすい。

サービス料金は 1 カ月 99 元と 199 元の 2 種類で、99 元プランは月 30 回のバッテリー交換が可能(走行可能距離は約1,500km)、199 元プランは交換回数無制限で、いずれも交換時に充電料の支払いは不要だ。ただし、「e 換電」専用の電動バイクを購入するか、「e 換電」のバッテリーに対応するよう電動バイクを改造する必要がある。改造は提携する電動車販売店や修理店で行うことができ、費用はキャンペーン期間中なら 1 元、通常は 2 カ月分の 199 元プランがついて 399 元となっており、実質 1 元だ。

同社は 2018 年上半期に北京、深セン、天津、鄭州等の大都市でサービスを展開する計画で、住宅地、繁華街、オフィスエリアを中心に 1 ㎢につき 1~2 台のバッテリースタンドを設定する方針だとしている。

浙江省台州市の愛習新能源公司が運営するバッテリーシェアリングサービスも、同社が提供するバッテリーにあわせて電動バイクを改造する必要があるタイプだ。料金は月額制を採用しており、1 回のバッテリー交換にかかる費用は 3 元ほど。フル充電時の走行可能距離は 35km となっている。

ロッカー型のバッテリースタンドは、電力使用のピーク時を外して充電を行うよう設計されており、災害等の緊急時には通信設備や照明の電源として使えるよう、全てのボックスが開くのだという。2018 年中に台州市内にバッテリースタンドを800 カ所以上設置する計画で、フードデリバリー業者への普及を狙って専用の電動バイクを 500 台用意し、月額利用料だけで提供する。

また、水色のバッテリースタンドがかわいい広東猛獅新能源の「萌獅換電」は、広西チワン族自治区の南寧市と広東省汕頭市でサービスを展開中だ。こちらは専用アプリではなく、微信(WeChat)の中にあるミニアプリを利用する形式で、同じようにスタンドのディスプレイに表示された QR コードを読み取り、古いバッテリーを入れると新しいバッテリーが取り出せる仕組みとなっている。

他社のサービスは交換回数による料金体系だが、「萌獅換電」ではバッテリーをスタンドに戻したタイミングで利用した電力量を計算し、料金が決まる。バッテリーのサイズは 3 種類で、キャンペーンとして無料で電動バイクの改造を行っている。設置する場所にあわせてスタンドも 3 種類用意されており、両市の大型薬局チェーンや電動バイク修理店と提携して、おおむね 2~3km ごとに 100 カ所以上のスタンドを設置するという。また餓了幺、百度外売、美団外売の三大フードデリバリーサービスとも提携しバッテリーの提供を行っている。

このように地域を限定したサービスが多い中、安徽省に拠点を置く雲電科技の「小瓶你好(XPOWER)」は全国チェーンの実店舗型サービスだ。アプリでバッテリーのサイズに応じた保証金(316 元~)を預け、月額基本料 30 元を払えば、全国の加盟店ならどこでも 1 回 5 元でバッテリーの交換ができる。手数料を払えば自宅等へバッテリーを配達してもらうこともでき、途中でバッテリーがなくなったり、故障した場合は現場まで救援も依頼できる。

「小瓶你好(XPOWER)」の加盟店になるには、加盟料 1 万元と保証金 2 万元が必要で、2 万元分のバッテリー、店舗の看板、宣伝チラシ、スタッフのユニフォーム、会員に配布するノベルティ品等が支給される。店舗では日々バッテリーの充電を行うが、その電力料金は店舗が負担し、廃棄する古いバッテリーは本部が無料で回収する。獲得した会員 1 人につき 80~120 元のインセンティブが得られるほか、会員が店舗に直接支払うバッテリー交換代 1 回 5 元と救援依頼への対応料金、バッテリー配達の手数料、アプリ内マーケットプレイスでの売上が主な収入となる。

3. 専用バイクが必要なサービスも

バッテリーにあわせて電動バイクを改造しなければならないのなら、いっそ「車両は購入、バッテリーはシェア」しようというサービスも登場している。

2017 年夏、国産バイクメーカーの三鈴摩托(SANLG)の子会社、広州魔動新能源科技有限公司が、広州市で全国初の電動バイク用シェア電池システム「M orning」とこれに対応する電動アシスト自転車「摩鈴」、電動バイク「摩力」を発表した。利用者は専用車両を購入する必要があるが、アプリに登録すれば、自動販売機型のバッテリースタンドでいつでも無料でバッテリーを交換できる。

小型バッテリーは自転車用、大型バッテリーは電動バイク用で、フル充電の走行可能距離はそれぞれ 15km と 50km となっている。自転車のバッテリーは車体のフレーム部分に差し込む形だ。現在は広州市にあるアリババ(阿里巴巴)の菜鳥物流パークや広州大学のキャンパス周辺で試験運用を行っており、将来は全国展開も計画する。

また電動バイクメーカー、軽雅電動車が広西チワン族自治区の南寧市を拠点に展開する「易騎電力」の場合、電動バイクの車両本体価格が 1,999 元で、バッテリー込みの実勢価格は 2,500 元前後となっている。自動販売機型のバッテリースタンドは市内に 200 カ所ほど設けられる計画で、他のサービスと同様にアプリで最寄りのスタンドを検索し、ディスプレイに表示された QR コードをスキャンしてバッテリーを取り出す仕組みだ。

バッテリースタンドのほか、軽雅電動車の販売店や修理工場でもバッテリーの交換ができる。

ところで、せっかく専用の電動バイクを買ったのに、シェアバイクのごとくあっという間にそのサービスが終了してしまったらどうなるのか。専用バッテリーなのだから、サービスが無くなればバイク本体はもう使えなくなるのでは?との疑問もわくが、無論サービス運営側からそのようなケースについて回答はない。ただ、バッテリーのみをシェアするサービスでは、どのメーカーの電動バイクであれ座席下のバッテリー収納部分を改造して対応していることから、万が一の場合は、他のバッテリーシェアリングサービスに乗り換えるなり、市販のバッテリーが使えるよう修理店で改造してもらうなりすれば、引き続き普段の足として利用できるものと思われる。

4. 低速電動車はリチウムイオンバッテリーの使用義務化へ

地方都市や農村地域で自動車に代わる足として人気がある低速電動車だが、特に四輪の低速電動車については、国家標準「四輪低速電動車技術条件」の草案に「電池システムの重量エネルギー密度は 70Wh/kg を下回ってはならない」との規定があり、事実上リチウムイオンバッテリーの使用が義務化される見通しだ。

安価な鉛酸バッテリーが使えなくなれば、盗難や故障の心配がなく、毎回の支払いも少額で済むバッテリーシェアリングに関心が寄せられる可能性は高く、低速電動車をターゲットにしたサービスが農村部で成長することも考えらえれそうだ。

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この記事を書いた人

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