中国の電信業務分類目録 13 年ぶり改正

目次

1. 電信業務分類目録とは

電信業務分類目録は、日本の電気通信事業法にあたる「電信条例」に基づいて定められた電気通信役務の一覧で、様々な電信業務を「基礎電信業務」と「付加価値電信業務」に大別して分類している。電信条例の定めにより、同目録にある電信業務を行うには主管部門から電信業務経営許可証(いわゆる ICP ライセンス)を取得する必要がある。

つまり同目録を見れば、どのようなサービスを提供する場合に電信業務経営許可証が必要なのか、必要ならばどの経営許可範囲に含まれるのかといったことを把握することができる。もちろん当局も違法サービスの取締りや処分において、同目録をその根拠の一つとしている。

しかし現時点で有効な電信業務分類目録は 2003 年 4 月 1 日に改正されたもので、時代の変化に追いついていないのが現状だ。クラウドを用いたサービスや 4G 関連サービスなど、現行規定のいずれにも当てはまらない新しいサービスの取り扱いは、今もなお実務レベルで個々に対応される状況が続いている。

2. 現状にあわせた大幅な見直しへ

今回の改正にあたっては、2013 年 5 月 23 日に 2013 年版の意見募集稿が公表され、パブリックコメントの募集が行われていた。中国の法令改正では、意見募集稿がそのまますぐに正式な法令として公布されることが多いが、今回は 2 年半もの期間を要している。恐らく同時期に検討が進められていた自由貿易試験区の新設、あるいは外資参入規制の緩和に向けた外商投資産業指導目録の改定などと調整を要したことや、十三五(第13 次 5 カ年計画、2016-20 年)に重点事項として盛り込まれたクラウドコンピューティングの発展の方向性・重点とのバランスにも配慮したものと思われる。もちろん実質的な規制強化を懸念した国内外の事業者や外国政府からの意見もあっただろう。

ここで 2003 年版と 2013 年版(意見募集稿)、3 月から施行される 2015 年版の業務分類を確認してみよう。

● 2003 年版 (2003 年 4 月 1 日施行)

基礎電信業務

1. 第一類基礎電信業務

(1) 固定通信業務
(2) セルラーモバイル通信業務
(3) 第一類衛星通信業務
(4) 第一類データ通信業務

2. 第二類基礎電信業務

(1) グループ通信業務
(2) 無線呼出業務
(3) 第二類衛星通信業務
(4) 第二類データ通信業務
(5) ネットワーク接続業務
(6) 国内通信施設サービス業務
(7) ネットワークアウトソーシング業務

増値電信業務

1. 第一類増値電信業務

(1) オンラインデータ処理・取引処理業務 
(2) 国内マルチ通信サービス業務
(3) 国内インターネット仮想プライベートネット ワーク (IP-VPN) 業務
(4) インターネットデータセンター(IDC) 業務

2. 第二類増値電信業務

(1) データ保存・転送類業務
(2) コールセンター業務
(3) インターネット接続サービス業務
(4) 情報サービス業務

● 2013 年版(意見募集稿) (募集期間 2013 年 5 月 23 日~6 月 24 日)

基礎電信業務

A1 第一類基礎電信業務

A11 固定通信業務
A12 セルラーモバイル通信業務
A13 第一類衛星通信業務
A14 第一類データ通信業務

A2 第二類基礎電信業務

A21 グループ通信業務
A22 第二類衛星通信業務
A23 第二類データ通信業務
A24 ネットワーク接続施設サービス業務
A25 国内通信施設サービス業務
A26 ネットワークアウトソーシング業務
A27 借受けによる基礎電信業務

増値電信業務

B1 第一類増値電信業務

B11 インターネットデータセンター(IDC) 業務
B12 インターネットリソース協作サービス業務
B13 コンテンツ配布ネットワーク(CDN) 業務
B14 国内インターネット仮想プライベートネット ワーク (IP-VPN) 業務
A15 IP電話業務
B15 インターネット接続サービス業務

B2 第二類増値電信業務

B21 オンラインデータ処理・取引処理業務
B22 国内マルチ通信サービス業務
B23 データ保存・転送類業務
B24 コールセンター業務
B25 情報サービス業務
B26 DNSサービス業務

● 2015 年版 (2016 年 3 月 1 日施行)

基礎電信業務

A1 第一類基礎電信業務

A11 固定通信業務
A12 セルラーモバイル通信業務
A13 第一類衛星通信業務
A14 第一類データ通信業務
A15 IP電話業務

A2 第二類基礎電信業務

A21 グループ通信業務
A22 無線呼出業務
A23 第二類衛星通信業務
A24 第二類データ通信業務
A25 ネットワーク接続施設サービス業務
A26 国内通信施設サービス業務
A27 ネットワークアウトソーシング業務

増値電信業務

B1 第一類増値電信業務

B11 インターネットデータセンター(IDC) 業務
B12 コンテンツ配布ネットワーク(CDN) 業務
B13 国内インターネット仮想プライベートネット ワーク (IP-VPN) 業務
B14 インターネット接続サービス業務

B2 第二類増値電信業務

B21 オンラインデータ処理・取引処理業務
B22 国内マルチ通信サービス業務
B23 データ保存・転送類業務
B24 コールセンター業務
B25 情報サービス業務
B26 DNSサービス業務

まず 2003 年版と 2013 年版には以下のような大きな変更点がある。

<基礎電信業務>

  • 固定通信業務の一項目[1(1)]であった IP 電話業務が、【A15 IP 電話業務】として独立した。
  • 無線呼出業務[2.(2)]が削除された。→事業規模が小さいため以後新たに経営許可証を出さない旨の注記あり。
  • ネットワーク接続業務[2.(5)]が【A24 ネットワーク接続施設サービス業務】の範囲となった。
  • いわゆる MVNO が【A27 借受けによる基礎電信業務】として新たに追加された。

<増値電信業務>

  • オンラインデータ処理・取引処理業務[1.(1)]が、第二種増値電信業務になった【B21】。
  • 国内マルチ通信サービス[1.(2)]が、第二種増値電信業務になった【B22】。
  • 【B12 インターネットリソース協作サービス業務】が新たに追加された。
  • 【B13 コンテンツ配布ネットワーク業務】が新たに追加された。
  • インターネット接続サービス業務[2.(3)]が第一種増値電信業務になった【B15】。
  • 【B26 DNS サービス業務】が新たに追加された。

さらに 2015 年版では以下のような調整が行われた。

<基礎電信業務>

  • 一旦は削除された無線呼出業務[2003 年版 A22]が復活した【A22】。→同業務は増値電信業務と同様の管理を行う旨の注記あり。
  • [A27 借受けによる基礎電信業務]が削除された。→【A12 セルラーモバイル通信業務】の範囲となり、同業務は増値電信業務と同様の管理を行う旨の注記あり。

<増値電信業務>

  • [ B12 インターネットリソース協作サービス業務 ] が削除され、【B11 IDC 業務】の範囲となった。
  • 「B13 コンテンツ配布ネットワーク業務」に(CDN)という単語が追加された【B12】。

なお、電報業務、グループ通信業務、無線データ伝送業務については、事業規模が縮小していることから、2015 年版の施行以後は新たなライセンスを発行しないとし、既に上記業務を許可範囲とする経営許可証を有している企業は、引き続きサービスを提供することができるとしている。

そのほか単語レベルでの細かい表記の修正が行われており、例えば 2013 年版では「運営商」と表記していたものが 2015 年版では「運営者」に、「通信網絡」が「通信網」に、「本地電話網」が「本地網」に、「国際電話網」が「国際固定網」に、「国際互聯網」が「互聯網」へと変更されている。なかでも業務の提供条件などについて、「必須」と表記されていたものが「応」に変更されたことは興味深い。これは英語で言う must とshould の違いに似ており、実質的な要件の緩和といった印象を与える。

3. 増値電信業務の変更点と該当許可範囲について

増値電信業務の領域はゆるやかに外資への開放が進んでおり、外商投資産業指導目録(2015 年改定版)において、「電子ビジネスを除き外資比率が 50%を超えない範囲まで」と規制が緩和された。すなわち電子商取引を含む電子ビジネスについては、外国企業が独資でもサービスを提供できるようになった。

ここでは主な増値電信業務について変更の詳細を確認するとともに、該当する経営許可証(ICP ライセンス)について検討する。※2013 年版から変更となった部分を赤で示した。

●クラウド型サービスについて

2015 年版

クラウド型サービスを指す“互联网资源协作服务业务(インターネットリソース協作サービス業務)”は、2013 年版に初めて登場し、独立した分類となっていた。しかし 2015年版ではインターネットデータセンター(IDC) 業務の範囲に含まれ、「インターネットデータセンター(IDC)業務にはインターネットリソース協作サービス業務も含まれる」との一文と共に、文言もほぼそのまま追加されている。

中国の大手法律事務所 King & Wood Mallesons(金杜律師事務所)は、“インターネットリソース協作サービス業務”という表現について、リソースのフレキシブルな展開とシェアによるコラボレーションという意味で PaaS(Platform as a Service)型のクラウドサービスを指しているとし、さらに IaaS(Infrastructure as a Service)型サービスは通常、仮想マシンやストレージなどをインターネット経由で賃貸する形をとることから IDC 業務に含まれるとの見解を発表している。

したがって PaaS および IaaS を提供するクラウドサービス事業者は、IDC 業務を許可範囲とする経営許可証が必要になるものと思われる。

● コンテンツ配布ネットワーク業務(CDN) について

2015 年版

2015 年版では全体の内容に変更はないものの、(CDN)という文言が追加され、一般的な CDN サービスを指すものであることが明確に示された。

したがって、CDN サービスを提供する場合には内容分发网络业务を許可範囲とする経営許可証を取得すればよいと思われる。

● オンラインデータ処理・取引処理業務について

2015 年版

2013 年版で「公衆通信ネットワーク」と表記されていたものが「パブリック通信ネットワークあるいはインターネット」と修正されたほか、取引処理業務、ネットワーク/電子設備データ処理業務、電子データ交換業務(EDI)の定義が 2015 年版では削除された。これは電子ビジネスが多様化し、IoT をはじめとする新しい技術が続々と生まれていることから、あえて詳細な定義を削除することで今後登場する新しいサービスに対応する余地を残したものと推測される。

なお許可範囲を確認する際の参考として、2013 年版では取引処理業務について「インターネットを通じて一般大衆向けに提供される各種金融、証券、EC などの商品・サービスの取引処理プラットフォームサービス」と説明している。

● 情報サービス業務 について

2015 年版

2013 年版で「公衆通信ネットワーク」と表記されていたものが「公用通信ネットワークあるいはインターネット」と修正されたり、「クライアントユーザー」が単なる「ユーザー」に変更されたりしているが、内容に大きな変更はない。ただ 2013 年版で具体的に示されていたサービス例が 2015 年版では全て削除されているため、経営許可証の許可範囲を考えるにあたっては前項と同様に 2013 年版の記述が参考になる。本項では情報サービス業務を、信息发布平台和递送服务、信息搜索查询服务、信息社区平台服务、信息即时交互服务、信息保护和处理服务の 5 つに大別している。2013 年版の内容を元に対応するサービスを整理すると次のようになる。

  • 信息发布平台和递送服务…ニュースサイト、BBS、クライアントサービス、モバイル向けニュースサービス、アプリストア
  • 信息搜索查询服务…情報検索サービス
  • 信息社区平台服务…SNS、ブログ、ポッドキャスト、微博(Weibo)、オンラインコミュニティ、チャットルーム、オンラインゲームなどのプラットフォーム
  • 信息即时交互服务…インスタントメッセージ(テキスト・画像・動画・音声・ファイルなどの送受信)、IVR(自動音声応答)
  • 信息保护和处理服务…クライアント端末向けのウイルス対策サービス、端末のセキュリティサービス、加工処理、スパム対策、着信・通知拒否サービス

上記のサービスを提供する場合、該当する許可範囲の経営許可証を取得すればよいと考えられる。なお King & Wood Mallesons は、SaaS 型と呼ばれるクラウドサービスについて、サービス内容によってどの許可範囲にあたるかを判断する必要があるとしている。例えば Office Online のようなクラウド型のオフィスソフトは、ドキュメントの作成や保存、整理、検索といった機能を持つため信息搜索查询服务に該当する可能性が高く、オンライン版のアンチウイルスソフトは信息保护和处理服务と判断されるとしている。

4. 現在の経営許可証は期限まで有効

新目録の施行は 2016 年 3 月 1 日からだが、工業情報化部はそれまでに発行された経営許可証について当該許可範囲において期限まで有効としている。また必要に応じて申し出れば、更新のタイミングを待たずとも新しい経営許可証に変更できるとしている。

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この記事を書いた人

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